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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第3章 秋 ~戦いの季節~
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第76話

「綺麗な型、努力の後が見えるわね」

『立夏さんよりも正統派ですね』

「私は割と邪道だからね」


 立夏と優香。

 同じ系統を持つ2人は決定的な部分での違いを除いて似たような戦い方をしている。

 どちらも長く相手と組み合う戦い方はしない。

 立夏の基本は極めた創造系を主体としているが、剣群を用いた中距離スタイルがメインだ。

 それに対して、優香は機動力を活かした1撃離脱戦法がメインとなっている。

 正統派なのは優香だが、些か型に捉われすぎだった。


「機動力を上げたいなら創造系じゃなくて、身体系をメインにすべきだったわ」

『いいとこ取りを狙ったんでしょう。番外能力も考慮するれば悪くない選択肢です』

「でも、その番外能力の真価が発揮できていないから片手落ちになっている、と?」

『才能があるだけに悲しいですね。本領ならばこんなものではないと思います』


 必死に剣を避ける優香を立夏は憂いた瞳で見る。

 制限時間がある『オーバーリミット』をこんな序盤では使えない。

 地力で打破する必要があるが、少なくとも()の優香には困難だった。

 そもそも、立夏に近づけてすらいないのだ。

 軽く動いて剣を飛ばす。やっていることはそれだけだ。

 立夏の全力を出すまでもなく優香は追い詰められている。


「このままだと、あっちの男の子に期待することになりそうかな」

『侮らない方がいいです。あの子、うまいですよ』

「莉理子がそういうなら確実ね」


 先程からチマチマと飛んでくる砲撃、その射手について考える。

 優香が気負っているのかはわからないが何かしらの事情で実力を発揮できないのなら、外的要因に期待するしかない。


「閉じこもる御姫様を連れだせる王子様になれるのかな? 早くしないと私が倒しちゃうんだけどね」

『あまり王子様というタイプではないようですが……。準備だけはしておきますね』

「ええ、この試合は本気を出すことになるわ。――必ず、ね」

 試合中にも関わらずどこか相手を見ていないような不思議な雰囲気を醸し出して立夏は1年生ペアを待つ。

 このまま終わる様なことはないと確信した笑みを浮かべて。




「おい、おい、優香! 返事しろ! ……たくっ、念話切ってやがるな」


 動きが荒い優香と連絡を取ろうとするが念話が繋がらない。

 余程追い詰められているらしく念話に出る余裕もないのだ。

 戦況と心理的な負荷――立夏本人ではなくおそらく姉関係――もあり、普段よりも格段に動き悪い。

 普段通りやっても勝てる相手なのかわからないのに最悪なコンディションでの交戦となっていた。

 なんだかんだで子どもっぽいところがある優香だが、それが最悪のタイミングで出ていた。

 あんな大きくで美人な駄々っ子なんて聞いたこともない。


「まあ、放っておくわけにもいかんし……。でも、どうするかな」


 砲撃は有効打にならない。

 真由美程の火力があれば物質化してようが問題なく砕けるがあくまでもモドキにすぎない健輔のものにそこまでの力はない。

 チーム内のシルエットで言うなら『和哉』か『圭吾』が役に立ちそうだが、あまり得意ではないものだ。

 他の近接系では物量を捌くのに向いていない。


「あの剣をなんとかしないといけない」


 立夏の戦法はシンプルだ。

 物質化した剣を生み出し投げつける、もしくは投げつけた状態で創造する。

 こちらは防ぐために回避、もしくは障壁を展開しようとするだろう。

 そこまで誘導した時点で彼女の戦法に嵌っているのだ。

 彼女は防御のために障壁を展開したならば展開されていない方向から剣を飛ばして突き刺す。

 回避をするなら、逃げ道が消えるまで同じことを繰り返せばいい。

 この戦い方の厭らしいところはわかってもいても対処する方法がないことだ。

 真由美レベルの大火力で薙ぎ払うか、立夏を圧倒するほどの攻撃が必要になる。

 火力が不足する点も障壁が1方向、複数方向に展開する場合は薄くなるという弱点を突いて直撃させることで補っている。


「……うまいこと出来てるな。かと言って、接近戦も弱いわけじゃないだろう」


 健輔の強者レーダーがビンビンに反応しているため、迂闊に近接戦を挑むと沈むことになるのは間違いない。

 彼はこの手の勘を外したことはなかった。


「安牌なのはこのままいくのなんだけど……。それは別名ジリ貧だからな」


 どうせ悪くなるのなら気持ち良く悪くなった方が良い。

 軽いノリで決断した健輔は親友の系統を呼び出すことにした。


「『陽炎』シルエットモード『K2』、いくぞ」

『了解』


 正直、目は少ないがこのまま闇雲に優香が消耗するよりも100倍マシである。

 立夏のような汎用タイプには特定環境で恐ろしく強いものが有効な可能性が高い。


「うし、見えた」


 砲撃のため多少後ろに取っていた距離を詰める。

 無防備に見える立夏の姿を確認した健輔は糸を生み出して、取り囲む。


「これは?」


 立夏の驚く声を無視して、健輔は攻撃を敢行する。

 全方位から襲いかかる糸を揺るがぬ笑みで立夏は迎え撃つ。

 突然現れた剣の群れは、魔力で作られた糸を切り裂き、道を生み出した。

 物質化しているそれは並の障壁よりもある意味めんどくさい代物であり、イメージ的にも糸は刃物に弱い。


「どうも、2度目まして!!」

「ええ、あの時はごめんなさいね!」


 声が届く距離で立夏が健輔の軽口に応じる。

 指揮者の如く手を動かすとどこからともなく剣がやってきて障壁に突き刺さっているのだ。

 理不尽としか言いようのない攻撃である。

 

「っっ!! 手品かよ!」

「ふふ、お気に召してくれた?」

「どうかな!!」

「はああああ!!」


 軽くぶつかり合う2人の間を裂くように優香が烈火の気迫を持って斬りかかる。

 優しげな表情は一瞬で冷徹な戦士へと切り替わり、


「甘い!」

 

 と優香の渾身を軽くあしらい、『雪枷』を2本の魔導機で挟むように受け止めると背後に無数の剣を創造する。

 ある意味で健輔に無防備な姿を晒しているのだが、彼の勘は最大の警告を発している。

 あれはそういう姿を見せているだけだ。

 己が判断を信じて、優香を援護するための攻撃は行う。

 糸を束ねてダメージ量を上げる、かつて健輔がやられた技である。


「おら!!」

「ふふ、引っ掛からないか。いい判断だよ」

「早く出ろ!!」

「っ、離脱します!」

 

 糸の攻撃を障壁で受け止めると頭上から今まで最大数の剣を生み出す。

 ざっと数えて100はある。

 背後の剣群と合わせて200に達しようする刃は2人に向かって放たれた。


「障壁展開!」

「っ、優香!」


 健輔には牽制程度だが、中心にいる優香には雨あられと剣が降り注ぐのだ。

 剣が障壁にぶつかる硬質的な音が周囲に響く。

 そして――


「っ……!? しまっ――」


 ――パリン、という音と共に障壁が砕け、剣の獣たちは獲物へと群がるように攻撃を加える。


『九条選手、ライフ60%。歴戦の『曙光の剣』、流石の年季を見せつけてくれます!』


「っ、引きます!!」


 なんとか離脱自体には成功したが自体は何も好転していなかった。

 1人、場に残る健輔はこちらに手を振っている立夏に手を振り返して優香の元に向かう。

 このままでは勝てないのだ。

 何を考えているのかわからないが早急に優香を元に戻す必要がある。


「世話のやける奴だな」


 優香を正気に戻して、相手のリソースを削る。

 2つもやるのは大変だがやりがいはあった。




「はあ、はあ、はあ」


 僅かに距離を取ったところで優香が休息を取っている。

 収束系でもない優香が無理矢理魔力を放出したのだ。

 体力を著しく消耗するのは簡単に想像できる。


「おい、ド阿呆」

「け、健輔さん? すいません、先程はうまく――」


 追いついた優香に健輔が声を掛けるがほぼ同じタイミングでまるで優香の言葉を遮るように剣が間を通り抜ける。

 立夏が追撃をかけてきたのだ。

 弱ってる相手を見逃す道理など向こうにはない。

 合理的な判断であるし、健輔もこうなることを予想していた。

 だからこそ、これはブラフである。

 混乱する優香を健輔が叩き直しに行った。

 誰でもこの状況ならそう見えるだろう、事実優香もそう思ったからこそ謝ったのだ。

 しかし、健輔はそんなことを考えていない。

 普通に声をかけて収まるぐらいなら混乱とは言わないのだ。


「あ、あの?」


 優香が声を掛けようとするのを無視して健輔は立夏に突撃を敢行する。

 混乱する人物を正気に戻す方法、その中でもとっておきのものがあった。

 ――より大きな混乱を見せつければ良いのだ


「っ! け、健輔さん!」


 わざわざ回復を待ってやるほど優しくはない立夏だったが、健輔の謎の行動には一瞬固まった。

 合流を図った直後に何故か片方が単騎特攻を仕掛けてきたのだ。

 誰でも意味はわからなくなる。


「なんなの?」


 無難に剣を投げて対処しようとするが、様子がおかしいことに気付く。

 まるで1撃、その顔面に決めてやると言わんばかりの葵のような気配が漂っているのだ。


「えっ……。ま、まさか!?」


 距離が近い状態で迎撃を選んでしまったのが敗因だったのだろうか。

 剣群で迎撃することということ巻き込まれを避けるために移動を最小限にするということだ。

 棒立ちになっている立夏の元に無心で迫る人間砲弾。

 ここ最近のお行儀の良い戦いでさっぱりと忘れられていたが、本来健輔は有効ならばあらゆる手段を辞さない男である。


「ちょ……嘘!?」

「一緒に消し飛べ!!」


 障壁を剛志の拳で叩き割ってライフを全て攻撃に変換する。

 俗にこれを以下の様に称する――すなわち『自爆』と。


『さ、佐藤選手ライフ0%。事前申請の回復権で即時復活。同じく橘選手も復活です』

『今回の陣地戦では足りない人数分は即時回復権で補っております~』

『回復権なしで撃墜された場合は3名までは本陣で待機回復となります』

『同時に3名以上の場合はそのまま撃墜判定となりますのでご注意ください~』

『改めて、会場の皆様にご連絡申し上げます。本日は陣地戦、第2ルールを用いて――』




「無茶苦茶よ!」

「知るか! 元々、俺はこういうタイプだ!」

『読み違えました……。この子、葵と同じタイプです!』


 復活した両者はそのまま近接戦に雪崩れ込む。

 先程までの攻防と違うのは立夏が回避を優先するようになったことだ。

 ここで復活権を使う予定などまったくなかった。

 自爆されることを知っているのなら受けはしなかったのだ。


「狙っていたわね!! だから、あえて私が受けに回るような立ち振る舞いをしてた!」

『なんという小細工……。勝つためならなんでもする葵だなんて……。それは悪魔というのですよ!』

「葵さんは一体どんな存在だ! ていうか、失礼だろ!!」


 立夏の行動から余裕が消えた。

 健輔を明確な脅威と認定したためだ。

 よって、優香に対するような甘い攻撃はなくなる。

 立夏が剣を持って健輔と斬り結ぶ、1度交差する度に健輔の360度全てから剣から襲いかかる。

 だが、健輔も衝動のみで自爆したわけではない。


「見慣れてんだよ!!」


 白色の魔力が身体から溢れる。

 創造された剣の牢獄はそれだけで動きを止めてしまう。

 立夏の攻撃で勘違いしていたが彼女は創造・身体系。

 つまりは物質化した剣を投げ飛ばした後に操作することなどはできない。


「シルエットモード『妃里』!」

『了解』

「っ、良く見てるわね。もうっ!」


 攻め続けることで優勢を保つ彼女が攻勢を維持できなくなった。

 そう、この隙を健輔は待っていたのだ。


「YからAへ!」

『了解』

「これは……!?」


 幾度目かの斬り合いで懐に入りこんだ健輔はニヤリと笑って拳を作る。

 YからAへ、系統を変換したそれが何なのか。

 笑みと暴力的な拳が教えてくれる。

 立夏の自動的に展開された3重障壁を下から腹に向かって勢いよく拳を叩きつけた。


「ぐはっ!? これは、葵ちゃんの」

「もう1発!」

 

 今度は左からの1撃、立夏もそのまま立ち尽くすような魔導師ではない。

 ナイフ程度のサイズのものを健輔の顔に向かって創造する。

 如何に攻撃を防げるとわかっていても目前に行き成り刃物が現れれば躊躇する。

 それを狙ったのだが、目の前の男はそんなに可愛らしいものではなかった。


「ぐ……!」

「しゃあ!」

 

 脇に突き刺さった拳を振り抜き立夏をそのまま殴り飛ばす。

 獲物を喰らう直前の獣がそれ以外のものに気を取られるなどあるはずがない。


『橘選手、ライフ80%です。自爆からの激しい攻防を制したのは1年の佐藤選手です!』

『頑張れ同級生~!』


「はあ、はあ、やばかった」


 自爆の流れからなんとか押し切ったが紙一重以外の何物でもない。

 1度限りのチャンスをなんとか物にできた。


「優香」

「……はい」

「頭は冷えたか?」

「ご、いえ……。大丈夫です」


 何の言葉を飲み込んだのかはわかる。

 わざわざ指摘するという無粋な真似はせずに健輔は今後の作戦を伝える。


「お前が要だ。俺では勝てん」

「はい」

「何があったのかは知らないがいい加減、自分の力ぐらいは認めてやれよ。――じゃないと負けたやつらがバカみたいだろ」

「――はい、試合が終わったらお話があります」

「おう、勝ったらいくらでも付き合ってやるよ」


 海中から静かに上がってくる立夏を横目に健輔は僅かに後ろに下がる。

 主役は優香と立夏であり、健輔ではないからだ。


「第2戦だ。今度はさっきみたいのはなしで頼む」

「後ろはお任せします」


 淡く魔力が漏れだす、いつものような激しい噴出ではなく静かに身体に染み透る様な変化、優香がついに『オーバーリミット』の第2段階へと移行する。

 そしてそれに呼応するかのように立夏もオレンジの光を纏う。

 妃里のものより明るいそれは彼女の気性をよく表していた。

 お互いが自身の切り札を展開する。

 脇から眺める健輔は初めて披露される相棒の全力に興奮しながら時を待つ。


「『雪風』!」

『『オーバーリミット』セカンドステージへ移行します、魔力回路の変質を確認。第2形態を発動します』

「解放」

『了解しました』


「莉理子、こっちもお願い」

『了解、魔導陣融合開始。全術式管制を私が代行します。魔導機の発動を承認してください』

「『曙』、認証」

『了承』


 優香側はいつもの激しい変質はなく静かに姿が変わる。

 普段は髪と魔力光の放出だけだったのが、瞳も僅かに色を変える。

 全体的な印象は今までの『オーバーリミット』と変わらない。


「昨日聞いた感じだと、あれが本来の状態らしいんだよな」


 佇む優香は神秘的な雰囲気を纏い神々しいまでの美しさになっている。

 魔力の光がまるで粉雪のように輝き彼女を彩っていた。

 『オーバーリミット』のセカンドフェーズ。

 一言で言うならば『オーバーリミット』状態で身体を固定するものだ。

 魔力の質、量などの劇的な改善を行い優香の火力不足を補う。

 これだけならメリットとしか言いようがないのだがクラウディアの『ライトニングモード』よりもさらに肉体を変質させているのだからデメリットもある。

 制御できているならば問題ないが、1度暴走すると本人はもちろん、周囲へも大きな被害を与えるのだ。

 健輔は桜香の能力から推測してそのデメリットに思い当たっていたがこの光景を見るに当たっているようだった。


「いけるな?」

「はい」


 言葉少なく頷く、立夏側も準備を終えている。

 向こうには優香のような激しい変化はなく魔力光が2色見えるようになっているぐらいだった。


「お待たせしました」

「いいよ。私もそのあなたに勝ちたかったから……。うん、よく似てるよ。桜香ちゃんそっくりだ」

「よく言われます」

「うんじゃあ、やりましょう」

『あなたにはあまり介入して欲しくないので私が最大限妨害しますよ』

「どうぞ」


 ついに本気を見せた優香と全力の立夏がぶつかる。

 そして、動きはここだけに留まらない。

 異変は左翼から起き始める。

 健輔の自爆はこの右翼の戦場だけでなく、全体へと影響を与えていたのだった。

 


最後まで読んでいただきありがとうございました。

今回の更新からあとがきは活動報告の方にいきますね。

興味がある方はそちらを読んでいただけると嬉しいです。

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