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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第3章 秋 ~戦いの季節~
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第69話

 試合が終わり観客たちも自然とその場を後にする。

 自身が感じた興奮を誰かと共有するためだろうか、会場近くの喫茶店では先程の試合を観覧していたであろう人たちが輝いた表情で熱く語り合う。

 そんな中2人の美女が他の者たちとは違う表情で先程の試合について語り合っていた。


「今回の試合はあなたから見てどうだった?」

「そうね。まず、順番に片づけるなら香奈子さんは外せないと思うわ」

「ええ……。正直なところ単純なスペックならあなたに比すると思うわ。経験不足故に負けた面もあったけどね」


 スペックならば香奈子は真由美の上位互換だった。

 最終的な覚醒が遅かったとはいえ、初手でチームの核たる真由美を撃墜するだけの能力を持っていたのだ。

 弱いはずがない。

 経験不足故の判断ミスも見られたがそれを補って余りあるステータスであった。


「『アマテラス』で明確に対抗できるのは桜香だけでしょうね」

「自惚れみたいでちょっとあれだけどそうだと思うわ。間違いなく2つ名クラスでそれも上位10名に入るわ」


 飛び抜けた強さを持つ香奈子、何より1番恐ろしいのが大会が進むほどにより強くなるというだろう。

 初戦の出場分のデータでは破壊系であると確信できなかったが既に多くのチームが彼女の能力に確信を持っている。

 今後は温存して出てこないということもないはずだった。


「試合経験数が増えるから下手に決定戦とかがあると逆転出場もあり得るわね」

「そうね……。私たちがあそこと当たるのはかなりの後半戦だから気を引き締めないとまずいと思うわ」

「ええ、会長に進言しておくわ。……じゃあ、次は?」

「クラウディア・ブルームね。あの子も『天空の焔』のキーマンだわ。エースという意味ではあの子の方が実績もあるしね」


 変換系資質『雷』で猛威を振るったクラウディア。

 切り札たる『ライトニングモード』も合わせて並の前衛ではなかった。

 詳細は桜香にもわからないが変換系にはまだ何か秘密がありそうな大幅な基礎能力の向上を見せていた。


「攻走守、全てが高いレベルで纏まっていてなおかつ見えない部分の技術もレベルが高かったわ」

「相手が悪かったわね。初戦のころとは見違えるほどに状況操作がうまくなってたわ」

「ええ、優香も私が考えるよりもずっと強くなっていた。クラウディアさんの誤算はそこでしょうね。事前データから考えた予想値が先入観を生んだんだわ」


 クラウディアがどれほど慢心を諌めていても小さな驕りを持ってしまったことは仕方ないだろう。

 ついこの間まで中学生だった人物にそこまでの自制は難しい。

 大の大人ですらきちんとできている人物は多くないのだ。


「冷静さを身につけたらもっと伸びそうだったわね」

「そうね。技能的な面はほとんど完成してるから今後はそっちを伸ばした方がいいかもしれないわ」


 クラウディアは実力は現段階でも相当の上位である。

 直線的すぎる戦い方さえなんとかすれば香奈子と同じように上位10名の2つ名も狙えるレベルには存在していた。

 しかし、それは将来の話である。

 変換系の対応方法が限られているからこそ実力以上の力を今は見せているが早晩対策されてしまう。

 健輔のように射線を限定する方法で対応するなどは氷山の一角に過ぎないのだ。


「あなた的には今後に期待、と言ったところかしら?」

「ふふ、強い子が後から来るのは嫌いじゃないわよ」

「あら、なんだかんだとあなたも魔導師ね」

「当たり前じゃない。そうじゃないとここにいないわ」

「違いないわね」


 手元にあるコーヒーで喉を潤し亜希は本題について問うてみた。


「『天空の焔』の中核は先の2人で打ち止め。坪内ほのかも重要ではあるけども彼女は失礼だけど私と同じ普通(・・)の魔導師よ」

「……そうね。だから、後は勝者たる真由美さんたちについて聞きたいと?」

「あなたの意見はチームにおいても比重の大きいものだもの。何より『クォークオブフェイト』とは後1ヶ月もしないで戦闘よ」

「そうね。1つ、私たちにとって幸運なことがあるわ」

「あら、何かしら?」

「1年生たちの戦闘経験が浅い内に戦えるってこと」


 対アマテラスは10月の中旬を少し超えたあたり、そこまでの『天空の焔』以外で健輔たちが当たる強豪チームは『明星のかけら』と『ツクヨミ』。

 そして、直前に魔導戦隊の合計3チームだった。


「気休め程度のプラス要因だけど、ないよりはマシでしょ?」

「ふふ、あなたがそんな事をいうのだから勝ち目は五分ということかしら?」

「ええ、はっきり言ってわからないもの。私と葵さんは相性が悪いから、どちらに転んでもおかしくないわ」

「そうね。あの人は対人特化の魔導師。あなたとの相性は悪くないわ。むしろ、今日の赤木香奈子の方がやりづらかったでしょうね。あの人の固有能力がほとんど無意味な相手ですもの」


 藤田葵――チームの大黒柱が真由美ならばエースは彼女だ。

 必ず相手を落としてくれる、その信頼が群を抜いて高い。

 1対1ならば桜香も勝ちを拾えるのか怪しい相手だった。


「真由美さんは言わずもがな。他には妹さんもいるものね」

「……ええ、優香の動きから見て、間違いなく私を想定してるわ。だったら、必ずあの子とは当たることになる」

「今後は『クォークオブフェイト』の対策をメインにした方が良い?」

「そうすべきだと思う。私たちと似たタイプの『明星のかけら』との戦いをみれば良い参考になると思うの」

「そうね。逆に私たちも立夏さんたちから採点されてるとは思うけど」

「でしょうね。あの人たちは打倒『アマテラス』が主目的だろうから、その前に真由美さんたちはいい練習になる、とでも思ってそうね」

「怖いわね。……うん、いろいろとやることができたわね。そろそろ戻りましょう」

「はいはい、あなたは勤勉ね」


 友人をからかいながら亜希は席を立つ。

 盤石に見える国内最強も内情は言うほどよろしくない。

 去年の大量離脱により、往年の半分の人員しかいないのだ。

 それでも50人弱存在しているのは流石のブランド力とでも言うべきだろうか。

 次々にそのヴェールが明かされていく強敵相手にやれるだけの準備を進めていく。

 大人びて見えようとも高校2年生の彼女たちにやれることは限られているのだから。





「勝ってくれてよかったって言うべきなのかしら、この場合って」

「お前の好きにしろよ。真由美のやつとはやりたかったんだろ? だったら、何の問題もなくベーシックか陣地戦でやれるんだからいいじゃないか」

「ほっときなさいよ、立夏はカッコつけたことを言いたいだけで内心はホッとしてるんだから。あれよ『別に勝ってくれて嬉しいんわけじゃ、ないんだからね!』ってやつよ」

「貴様は気持ちの悪い声を出すな。耳が汚れるだろうが」

「うるさいわね。あんたみたいなのが好きな声を出してあげたんだから喜びなさいよ」

「ちょっと、勝手に私の心境を捏造しないでよ!!」

「貴様の声真似など気持ち悪いだけだ。公衆の迷惑になる。ずっと黙っていた方が良い」

「殴るわよ」

「殴ってから言うセリフではない」


 夜にも関わらず喧々諤々(けんけんがくがく)とする部室。

 男2人、女2人の合計4人が好き勝手に話している。

 気安い空気から察するにチームメイトであることは分かるがあまり仲が良いようには見えない集団だった。

 4人の中では中心人物に当たるだろう、茶髪でショートヘアの活発そうな女性が大きな瞳に涙を溜めながら怒鳴り声を上げる。


「もう! うるさいわよ! とにかく! 私の話を聞きなさい!!」


 シーンとする部室、先程まで好き勝手に話していた面々が全員真顔で女性を見詰めていた。

 急に集まる視線に幾分怯みながらも、意を決して女性は口を開く。


「ちょ……ど、どうして急に真顔なのよ!」

「お前が話を聞けと言ったんだろうが。自分で言ったことも忘れるとは嘆かわしい」


 やたらと茶髪の女性に辛辣な意見が多い細身で長身の男性はこれ見よがしに溜息を吐く。

 茶髪は女性は額に青筋を浮かべるも話を進行させるためになんとか怒りを抑え込んだ。

 ここで脱線したら元の木阿弥だとわかっているからである。


「ぐっ……。と、ともかく、もうすぐ真由美のところと対戦なんだからちょっとは真面目に考えなさいよ! お願いだから……」

「ほらほら、そんな簡単に泣いたらダメよ? ハンカチ使う?」

「な、泣いてないわよ!」

「鼻声で言っても説得力がない」

「ここはツっこみを入れる場面じゃないでしょ! って、もう! また脱線してる……」

「お前がツっこみを入れなきゃいいと思うのは俺だけか?」

「そこ、うるさい!」


 3人で次々と茶髪の女性を弄る集団だったが流石にやり過ぎたと反省でもしたのか、少し真面目な様子で話を始める。

 彼らこそが健輔たちが次に当たる強豪チーム『明星のかけら』の首脳部である。


「ぐす……。と、とりあえず、1人ずつ意見を言っていきなさいよ……」


 半泣きのみんなから弄られていた茶髪で活発そうな女性。

 彼女がチームリーダーで3年生の(たちばな)立夏(りっか)である。

 彼女を含めた4人は真由美が去年、『アマテラス』を離脱する際に起こった大分裂で同時期に離脱して新チームを作ったものたちの1つだ。

 チームに所属する3年が旧アマテラスということで強豪に名を連ねている。

 そんな新星の輝けるリーダーが彼女だった。

 この弄られ具合からは想像することもできないが、努力の果てに創造系を極めた強大な魔導師である。

 何せ桜香が居なければ『太陽』の2つ名は彼女が継ぐことになっていたのだから、実力は保証書付きであろう。


「泣くなよ。それでも我らが誇る『曙光の剣』か? 太陽に負けずに輝こうって意味も込めて作ったチームだろうが。その中心がこんなんで泣いてどうするよ」


 立夏に辛辣な言葉を掛けていた男が微妙にうろたえながら慰めに掛る。

 彼はチームのサブリーダーにして知恵袋――平良元信(たいらもとのぶ)

 1年生の頃から立夏の相棒をやって来た彼は後衛魔導師にして補助魔導師という珍しい戦い方をする。

 真由美曰く『うっとしい』と言わしめるその戦い方は単純な火力型とは違うめんどくささがあった。

 

「あらら、立夏はいつまで経っても可愛いわねー。いやーこのチームについてきた甲斐があったわ。桜香ちゃんも可愛いけどあの子はどちらかと言うと泣かせてやりたい系だし」


 ちょくちょくドSな発言が混ざる女性、黒の長髪は艶やかであり清楚さを感じさせるが高校生とは思えない色気があった。

 制服を着崩しているためか、その豊満な胸が若干見えそうになっている。

 ニコニコと笑顔を浮かべているが何を考えているかわからず、立夏たちも微妙に反応に困っていた。

 藤原(ふじわら)慶子(けいこ)――遠距離・収束系の使い手であり、『明星のかけら』の主力砲台である。

 とは言っても彼女はあくまでも妃里や隆志レベルの魔導師であり、立夏たちのような2つ名持ちではない。

 しかし、私生活からも垣間見える得体の知れなさは試合でも猛威を振るってきていた。


「臭い発言はやめろ。何よりこの鼻につく匂いをなんとかしてくれ」


 そして最後に慶子に厳しい意見が目立つ禿げ頭の巨漢の男性――源田(げんだ)貴之(たかゆき)が発言する。

 嫌悪しているというか、生理的に合わないらしく彼は顔を顰めて慶子に文句を言っていた。

 筋肉質な巨漢の男性の迫力ある声に普通の女性なら少しは怯むのだろうが慶子は変わらない笑みを浮かべてスルーする。

 スルーされた当人も必要以上に絡むつもりはないのか、それ以上の発言はなく静かに腕を組んで佇んでいる。

 以上のどこから見てもバラバラにしか見えない4名が『明星のかけら』のキーマンたちだった。


「け、建設的な意見が元信しかない……。勘弁してよ……」

「おい、何か不満でもあんのかよ」

「とは言ってもね~。真由美のところは大体よく知ってるし、向こうもこっちを良く知ってるからぶっちゃけどうにもできないというか」

「……立夏殿には申し訳ないし、こいつと同じ意見なのは癪だが俺もそう思う」

「うう……でも、知らない子も増えてるんだし、そこは真面目に考えようよ……」


 力無く発言するリーダーに全員が苦笑する。

 なんだかんでこのチームが纏まるには立夏がいないといけないのはこれが理由だった。

 良くも悪くも癖が強いメンツ故に常識人である彼女がいないとうまく回らないのである。


「立夏の言うことにも1利あるわ……。そうね、1年の子対策はちゃんとしますか」

「とはいえ、あまりできることはない。今日の試合結果から考えると俺たちは陣地戦の総力でぶつかる形になるからな」

「人数が同じ以上条件に差はない。本懐だな、正面から粉砕しよう」

「そ、それでももうちょいちゃんと考えてくれないかな……」


 ふざけているように見えるが彼らは真剣だった。


「貴之じゃないが実際、まともにぶつかる以外の選択肢がないからな」

「小細工効く様なやつらだった? あなたは真由美や早奈恵と仲が良いんだから1番よくわかってるでしょ?」

「立夏殿は戦場では雄々しいが普段は割と優柔不断だからな」


 好き勝手言われているがそこには信頼があった。

 橘立夏は2つ名持ちだが上位10名の中に入っていない。

 1年生のころに交代要員としてアマテラスに所属、世界戦にも出場したがレギュラーではなかった。

 2年に入るころに実力は花開き、藤島紗希の後を継ぐ『太陽』は彼女しかいないと言われるほどの前衛となっていたのだ。

 そう、彼女――九条桜香さえいなければ。


「いろいろ思うところはあるんでしょうけど。ここは普段通りに行きましょうよ。あなたは珍しくも気負ってるみたいだけど、似合わないわよ」

「……ふん、わかってるわよ。……みんなの意見はわかった。今日はとりあえず解散して後日、もう1度意見を聞くわ」

「それがいいだろうよ。いつものメンツに対する対応法はわかってるんだ。新しいやつらに関することは今すぐには結論を出せん」

「では、今日は解散ですか? 少し、所用があるのですが」

「あ、うん、今日は解散で。ごめんね、急に集めちゃって」

「いえ、では自分はこれで」


 次の敵は真由美の級友たち。

 未だその脅威を知らない健輔たちは今日の疲れを癒すため床につく。

 『明星のかけら』――『天空の焔』と同じく、ある意味ではそれ以上にやりづらい相手との戦いが待っている。

 戦士たちの本当の意味での休息はまだまだ先の話であった。




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