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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第3章 秋 ~戦いの季節~
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第60話

 無事に試合を勝利で飾った翌日。

 1日の授業を終えた健輔たちは部室で作戦会議を行っていた。

 ついに残すところ後2戦となった『天空の焔』との戦いについてである。

 来週の末、つまり9月最後の試合が『天空の焔』との戦いになっている。

 油断できる相手でないことは集めた情報からも確かなのだ。

 警戒に警戒を重ねても何も不思議ではない。

 

「さてと……昨日はみんなお疲れ様。相手の得意な形式での試合だったけどベストな形で終えられたよ。健ちゃんも無茶ぶりによく応えてくれたね。ありがとう」

「いえ、こちらもちょっと浮かれてたみたいです。すいませんでした」

「ううん、気にしないでいいよ。相手に付け込まれる前に自分で気付けたんだしね」


 真由美は柔らかい笑顔で健輔を労う。

 順調に勝ち進んいるところで本気を制限されたのだ。

 健輔が真由美に反発心を抱いても誰も不思議に思わないだろう。

 しかし、彼は感謝の言葉を述べた。

 ついこの間まで中学生だったとは思えない程謙虚である。

 この年代の男子学生は多かれ少なかれ自分にプライドがあるものだが健輔はそこが薄い。

 勝ち負けには拘るが執着は薄いと言うよくわからない感じになっていた。

 真由美としてはその辺りは健輔の長所だと思っているのだが随分珍妙なプライドだとも思っていた。


「みんなもわかってると思うけど、来週には『天空の焔』、続けて『明星の欠片』そこから2戦ほどしたら『ツクヨミ』と強敵との連戦が続くようになってるんだ」

「既に知っていると思うが、試合形式は同ポイントの場合は基本か総当たり式に。それ以外の場合はポイント数が少ない方が形式を決めるようになる。つまり、勝ち続けるほど苦手な形式での試合が増えていくことになる」


 真由美と早奈恵の声に全員が静かに耳を傾ける。

 後半になればなるほど勝ち続けることが難しくなる。

 序盤の山場程度で挫けるわけにはいかないのだ。


「お前たちもわかっているだろうが序盤で注意すべきは『天空の焔』だ。『ツクヨミ』も『明星の欠片』も警戒すべきチームだが流れに乗れば勝てない相手ではない」

「それに対して『天空の焔』は流れに乗っているチームだよ。私たちと同じように、ね」

「よって焦点は最初の戦いに絞っていく。無論、後ろの2チームも気を抜いてよいチームではないがな」


 早奈恵は言葉を区切り、あらかじめ用意していたマップを空中に投影する。

 映し出されたのは試合会場となる戦闘フィールドである。

 オーソドックスな海上フィールドであり、遮蔽物のない砲撃戦に有利な地形になっている。

 運良くと言うべきか、こちらにとっても最善に近いフィールドが選択されていた。


「見ればわかると思うが小細工は通らないフィールドだ。当然、真由美を中心に陣形を組むことになる」

「当日のメンバーは初めから全力でいくよ。後衛からは私、真希ちゃん、和哉君」

「前衛は九条、葵、そして健輔だ」

「え……、俺、ですか? 妃里先輩でなく?」


 全力と言うならばそこに妃里が入ると思っていた健輔だったが違うらしい。

 外された妃里本人も当然だ、という顔をしている。


「相手の部長、赤木香奈子の実力が未知数なんだ。他にも隠れたダークホースがいることを考えると、どんな相手にでもある程度戦える健ちゃんの力が必ず必要になる」

「最悪真由美が撃ち合いで負ける可能性もある。あの黒い砲撃の謎はまだわかっていないからな」


 相手の防御を紙のように粉砕した収束率の荒い未熟な砲撃。

 その威力と傍から見てとれる熟練度不足がアンバランスさを醸し出し、こちらの目を晦ましてくる。


「相手の能力がわからない以上、あらゆる状況を想定しておく必要があるからね」

「よって、仮に真由美が落ちた場合戦闘チームの指揮は葵、お前が取れ」

「……へ? え、私!?」

「お前以外の誰がいるんだ。次にこのチームのリーダーとして背中にエンブレムを背負うのはお前なんだぞ。いつまでも1兵卒気分では困るな」

「っ……わかりました」

 

 いつかは来ると心構えはあったのだろうが、いきなり来るとは思っていなかったのだろう。

 何より真由美が自分の撃墜を作戦に含んだのはこれが始めてであった。

 今まで健輔が見た試合だけでも真由美は最後まで戦場に立っていたのだ。

 そんな頼れるリーダーがあっさりと落とされる姿など葵でなくても想像できない。


「念のためってレベルだから気にしないで。ただ何の用意もないのもまずいからね」

「来年の予行演習になる。それぐらいで構わんぞ」

「ど、努力します」


 葵には珍しく歯切れの悪い返答だった。

 頭は悪くないが頭脳労働は苦手だと健輔は聞いたことがあった。

 真由美からの封印令を聞いた時の健輔のように評価されて嬉しい半面、好き勝手やれなくなることの寂しさみたいなものがあるのだろう。


「前置きが長くなったね。『天空の焔』相手の陣形だけど、基本はいつも通り私を中心とした形で――」


 そこからは疑問を挟むこともなく真由美の声が会議室に朗々と響き渡るだけだった。

 目前に迫った強敵に備えれるだけ備えた健輔たち『クォークオブフェイト』。

 彼らが話し合っていた時間に同じように敵手たる『天空の焔』も作戦を詰めていたことをまだ彼らは知らなかった。




「ん、みんな、お疲れ様」

『お疲れ様です!』


 『天空の焔』はそこそこ歴史のあるチームだ。

 魔導大会が現在の形とほぼ同じように整備されたのは10年程前になる。

 結成5年目になる『天空の焔』はそういう意味では中堅チームに当たる。

 最盛期たる結成時はアマテラスにも伍する強豪チームだったのだが、結成メンバーの卒業により大幅に弱体化、以後は現在に至るまで12位前後をうろうろしていた。

 今期のメンバーはそこから考えれば結成時に匹敵する実力を持っている言えるだろう。

 『天空の焔』のように結成時のメンバーが卒業した後に弱体化、そして消滅というパターンは珍しくない。

 今期で言うならば47チーム中、大体3分の1に当たる15チームが新規チームである。

 強豪チームとは伝統の継承に成功したチームとも言い換えることができるのだ。


「ん……。みんな、データは見て貰ったけど今度戦う、『クォークオブフェイト』こことの戦いが正念場になる」

「わかってると思うけど、相手は『終わりなき凶星』――近藤真由美。元々はアマテラスのエースアタッカーよ。実力は推して知るべし、ね」


 真由美の勇名は学園に轟いている。

 桜香さえいなければ間違いなく学園最強の魔導師だったのだ。

 桜香のように才能に依った能力でないことも大きい。

 真由美は魔導師として正しく努力を行い、その頂に昇った相手なのだ。

 隙がない。


「ん。『凶星』を如何に崩すかが課題」

「今日はみんなでそこを詰めていきましょう! 結成以来の悲願、初優勝目指してね」

『はい!』


 お互いに英知を尽くす。

 それでも届かない時は届かないのが勝負というものである。

 彼らが決戦を控えているように既に各チームの明暗は分かれ始めていた。


 健輔たちの試合の後に行われた本日の最終試合。

 アマテラス対暗黒の盟約。

 初めての強豪チーム同士の対決はアマテラスの勝利に終わった。

 そこで見せつけられた最強チームのエース『不滅の太陽』九条桜香の実力。

 去年よりも更に成長していた彼女の力を誰もが見誤っていたのだった。




 いつ来ても騒がしい一角。

 大会が始まったことで忙しさが倍増した放送部ではその日の試合結果が纏められていた。

 もっとも開催の準備に対して作業量こそ増えたが単純作業ばかりだったのでどちらかというと忙しい故の喧騒ではなく、姦しい故の騒がしさと言えた。


「しかし、『暗黒の盟約』がこうまであっさり負けるとはねー。いや、怖いわ。我らが誇る最強の『アマテラス』さんわ」

「部長ー、何やら納得してないで仕事してくださいよー」


 半分泣いているような声で紫藤菜月は放送部部長に救援を要請する。

 1年生の泣きごとに苦笑しながら、部長は片手を振ると集められたデータの整理を一気に進める。


「え、す、凄い……」

「なっちゃんもこれくらいできるようにならないとダメだよー。バックスの人に教えて貰えば多重思考なんて簡単に身に付くんだからね」

「う……は、はい」

「素直でよろしい。萌えちゃん、ちょっと勝敗を纏めた資料貰えるかな?」

「は~い。どうぞ~」


 放送部調べの校内美少女ランキング第6位の斎藤萌技を顎で使う放送部部長。

 ファンが見たら怒ること間違いなしの光景だが、この部屋の最高権力者である彼女にツッコミを入れるやつなどこの場にはいなかった。


「さて、なっちゃん。今日の試合についてどう思った?」

「へ? えーと。あ、アマテラスが強かったです?」

「正解! ま、別に間違えてもいいんだけどね」


 部長はそう言って傍で浮かせておいたコーヒーに手を伸ばす。

 菜月は質問の意図がわからず、疑問符を顔に張り付けている。


「部長~、持ってきましたよ~」

「ありがとう。さて、萌えちゃん。今日の試合を見てどう思った?」

「桜香さんが綺麗でした~。今度一緒に写真を撮ってもらいたいです~」

「うんうん、萌ちゃんは素直で可愛いね。では、なっちゃん答えを教えよう。今回の試合で間違いなく最強の魔導師は九条桜香だと言うことがわかったっていうのが今日の最大の成果かな」

「最強?」

「うん、最強」


 部長は萌技に持ってこさせた資料を菜月に渡して解説を始める。


「知ってると思うけど、我々放送部は各チームのデータを把握していて、それを元にランクを付けたりしているわけですが」

「はい」

「そんな私たちが強豪と判断したチームにはそれなりの理由があります」

 

 空中に3という数字を描いた部長は菜月に不敵な笑いを向けながら質問を放り投げる。


「その理由は大体3つに分けれるのですが、さてなっちゃん、萌えちゃん。それは何故でしょうか?」

「え、えーと」

「1つ目は総合力ですよね~? チーム全体の平均値をとってそこから判断します~」

「正解! 萌えちゃんはぽやぽやしてるように見えてその辺りはしっかりしてるよね」


 ここで言う総合力とは『どんな試合形式にも対応できるか』という意味での総合力である。

 全体を見回せば、レース形式ならばアマテラスからも勝利をもぎ取れそうなチームが居たりする。

 1点特化は悪いわけではないが、普遍的な強さを基準にしなければいけない以上その辺りは辛口になってしまっていた。


「えーと、2つ目はスター選手ですよね? 2つ名持ちだけでなく隠れた有力者も評価してますけど、基本はエースとかその辺りの信頼性です」

「うんうん、そして最後は過去の実績だね。ま、これはここではあんまり関係ないけどね」


 実力は1つ目で残りは話題性という部分で評価している。

 放送部的には強いだけでは不十分だからだ。

 スター選手、つまりは相応の花も評価基準となる。

 

「ま、そんなこんなでランク付けたりしているわけだけどこれって割とよく当たるわけですよ。自画自賛ぽい感じになるけどねー」


 実際に放送部の評価はよく当たっていた。

 強豪と断ずるだけのものを持っているチームをよく選抜していた。

 何せ試合数が多い、良い試合を見たいと思うニーズに応えるために必要なものだった。

 そんな、いろいろなドラマを作りながら生み出された位付け。

 クォークオブフェイトもしっかりと優勝候補に入っていたりと新興チームだろうがなんだろうが関係なく客観的に判断している。

 そんな放送部の評価において強豪同士がぶつかったのだ。


「チーム『暗黒の盟約』。やたらと尊大な態度とよくわからない単語が飛び交うふざけた連中。早い話、厨2病軍団なんだけど、そんなことをするだけあって実力はあるのよね」


 放送部が優勝候補に上げたチームを並べるとこうなる。

 アマテラス、ツクヨミ、スサノオの3貴子は当然のことながら他にも『明星の欠片』、『天空の焔』、『暗黒の盟約』『賢者連合』。

 そして『クォークオブフェイト』と『魔導戦隊』と大体この9チームが上位に食い込んでくると予想されている。

 そこに上げられているチーム同士が初めてぶつかった。


「なっちゃんも見たでしょう? 暗黒の盟約は弱くなかったよ。『滅殺者(スレイヤー)』も抱えてるし、全体的な錬度もかなりのものだしね」

「そう、ですね」

「でも~、桜香さんに負けてましたよね~?」

「そ、つまり今回はアマテラスが1つ頭を飛び抜けている形になっているんだよね。他のチームも焦ると思うよ」


 今まで上げたのはチームの『ランク』だが、当然魔導師個人のランクも存在する。

 こちらは国内評価だったチームとは違い、世界基準となっている。

 評価内容はチームと似たようなものもあるが、いくつか別個の要素も入って策定されている。

 こちらが世界基準なのは大会後に各姉妹校での話し合い(時に物理)で決まるからだ。

 国内のものもあるがあまり日の目を見ない。

 よって『2つ名』のランキングと言えば、世界のものとなる。

 

「あれだけ強くても2番目だしね。ま、去年のデータだから今年は変動するかもしれないけどさ。いやー楽しくなってきましたな」

「機嫌いいですね、部長」

「そりゃね。日本が世界に追い付いてきたってことだしね。やっぱりランキング上位に食い込んでくれるのが少しでも増えた方が嬉しいじゃない」


 1位の皇帝の牙城を崩せるのか、部長の興味は尽きない。

 負けた暗黒の盟約も再起を掛けて奮起しているころだろう。

 そもそも負けたから諦めますなどと言う潔いチームでは上位に食い込めない。

 特にあそこはプライドが高いのだ。

 遊びだからこそ全力でやるといった類いのチームである。

 去年のデータで格付けされたランキングを見ながら今年はどうなるのか、部長は楽しそうに眼を細める。


 1位 皇帝 アメリカ 全域

 2位 不滅の太陽 九条桜香 前衛

 3位 女神 欧州 前衛

 4位 女帝 ハンナ・キャンベル 後衛

 5位 終わりなき凶星 近藤真由美 後衛

 6位 星光の魔女 欧州 前衛

 7位 司令 魔導戦隊 前衛

 8位 騎士 欧州 前衛

 9位 ガンナー アメリカ 後衛

 10位 裁きの天秤 アメリカ 前衛


「どうなるかな、本当に」


 最大の魔導師数を抱えた魔導発祥国にして総合的に強いアメリカ。

 系統開発の最先端にして、学内の競争の激しさが他の比でなく特殊能力持ちの多い欧州。

 個々の魔導師の質を正統派に積み上げて、自主性を育て上げた日本。

 国内での激突が激しくなればはそのまま世界でも通じる人材を育て上げることになるだろう。

 部長は今後の激闘を思い、頬を緩める。


「1番近いところで見れるからこのポジションっていいのよねー」

「部長って、あれですよね。魔導大好きですよ」

「そりゃねー。こんな限りなく戦争に近いスポーツ他にないじゃない? 実際の戦争とか痛みしかないけど魔導にはそれがないからね。裏方も楽しいし」

「戦うのは嫌いだけど見るのは好きってやつですか?」

「そうそう! ま、誇りを掛けて戦うってやつ。人間は大好きでしょ?」

「同意を求めないで下さいよ……」


 困る様子を見せる後輩に朗らかに笑みを返して仕事を続ける。

 彼女はこのお祭りを特等席見るために放送部に入ったのだ。

 楽しみにしていた瞬間が近づいてる。

 そんな期待感に胸を躍らせながら、試合の下準備を進めるのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

いろいろ単語や登場人物も増えてきましたのでステータスなどを纏めてそろそろ公開しようかなと思っています。

需要とかあるのだろうか、とも思いますのでとりあえずは本編優先で行きますがなんか声がありましたら優先して作業させていただきます。

今週分は更新しましたが、もうちょい今週は更新出来る予定ですのでお楽しみ下さい。


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