第5話
「大体伝えたい事は伝えれたかな」
「あれ? 連携についての細かいことはいいんですか?」
「そっちは俺じゃなくて真由美がやることだ。俺は下準備、だよ。ちゃんと言っただろう?」
「あっ、なるほど」
連携は言うならば戦闘においては基本技能だが、魔導においては応用に入るスキルである。
相手の系統だけ把握していても不完全なのだ。
その系統の本質を把握した上で相手が何を出来るのか、そこまで考えた上で技を合わせないと意味がない。
何よりもこれは実際の戦闘においてはより重要な意味が含まれていた。
敵の情報をデータそのままに捉えると痛い目を見るということでもあるのだ。
他にも何かありそうだが、健輔の頭でわかるのはそこまでだった。
自分で考えて、実践しろということなのだろう。
自主性と自立性はこの学園の基本方針でもある。
チームの現在の目標、基礎を育てるとはこういった部分も含める考えれば隆志の説明はこれ以上ないほどに真由美の意思に沿っていることがよくわかった。
「……隆志さんってなんだかんだで真由美さん好きですよね?」
「……さっきまでの説明を聞いて、どうしてその結論になったかは問わん。しかし、理由は説明してもらいたいな。人をシスコンみたいに言うのはやめてくれ」
「いや、真由美さんのために俺たちに説明してくれたんだな、と」
健輔がそういうと表情を隆志は大きく歪めた。
図星、というのが近いのだろうが、それだけでもなさそうである。
強いて言うならば、なんでわかった、だろうか。
「……お前は要らん時に聡いな」
「どういう意味ですか。いつもこんなものですよ」
優香は健輔と隆志のやり取りを不思議そうな顔で見つめている。
「どういう意味、なんですか? 近藤先輩の説明はとてもわかりやすかったですけど……」
「何、お前さんはそれでいいよ。今は余計な事に気を回す余裕はないだろうからな」
「はぁ」
「これだけではスッキリしないか。では、忘れろ。嫌でもその内、自覚が来る」
「先輩がそうおっしゃるならば……」
隆志の言葉に優香はそれ以上の追及を行わなかった。
天祥学園では生徒の自主性を育てるために意図的に生徒の権限を大きくしている面が多々存在している。
無論、見えないところは教師陣がしっかりと支えているのだが、チーム内での方針などは完全に3年生に丸投げであった。
真由美などはフレンドリーに接してくれているが本来はもう少し硬い関係でもおかしくない間柄である。
最上級生として、彼らは常に自信に満ちた姿と言動で健輔たちに接していた。
いくら優香が天才と呼ばれても1年であるため、そこまで強く出られないのである。
「……ふむ、不服そうだな」
「いえ、そんなことは」
「では、口止め料代わりに少しだけ口を滑らそう」
「え?」
優香は本当に不服と思っていないのだろう。
珍しく、というかほとんど見たことがない表情で驚いている。
隆志はそんな優香を無視して、用件だけを告げた。
恐らくだが、最初から優香にこれを伝えるつもりであったのだろう。
もしかしたら、これまでの話もそのためではないかと思える程にタイミングがよかった。
「九条、ここまでいろいろ言ったがお前に注意しておくことがある」
「注意、ですか? それは、一体」
「今後、そこにいる佐藤たちが一気に伸び始める」
「……良いことだと思いますが」
優香が怪訝な表情で隆志を見る。
何を言いたいのかわからないのだろう。
健輔もその光景を見ながら、隆志の言いたいことについて考える。
「回りくどいのは嫌いか? では、ハッキリと行こう。今後の学友の成長に焦るなよ」
「焦る、それは……」
「お前は能力は完成されている。勿論、今後の術式構築などで大きく伸びる余地はあるが、それは佐藤たちよりも大きくはない」
隆志の言葉を聞いて優香の表情が硬くなっていく。
誰だってお前には成長の余地が少ない、などと宣告されれば不快感の1つは覚える。
温厚に見えて苛烈な意思を持つ優香は隆志に食って掛かった。
「先輩方は私の戦闘スタイルの完成形について想像がついている。そういう事でしょうか? その上で私には、成長の余地はあまりないと判断したと?」
厳しいの声色で優香は詰問する。
予想通りだったのか、隆志は焦る様子も見せずに、
「勘違いするなよ、佐藤たちと比較してということだ。お前には十分に伸び代がある」
「ならば!」
「しかし、だ。周りは今まで以上の勢いで伸びる。その中で取り残されたように感じるなってことだ。誰かを追うということには慣れていても、追われるというのはまた違うことだからな」
「だから、焦るなということですか……。確かに、皆さんより私は先に進んでるだけですから……」
健輔たちは0点から始まった。
それが70点、80点を目指すのと既に90点を取れる優香が120点を目指すのは意味が違う。
優香は他の3人とは段階が違うから並べて考えるなと隆志は言っているのだ。
別に優香の実力に見切りをつけたわけではない。
正しく意図を理解したのだろう。
納得したかのように頷くと優香は綺麗な角度で頭を捧げる。
「ご忠告ありがとうございます」
優香が自分たちが原因で焦る様など健輔には想像もつかなかったがわざわざ隆志が言いだしたからには意味があるのだろう。
焦るな、健輔もその言葉を決して忘れないように心に刻みつける。
「どういたしまして。まあ、説教臭いのはすまんな」
「いえ、己の未熟を恥じるばかりです。これからもご指導よろしくお願いします」
「お前は真面目だな」
話が一段落したためか部室に柔らかい空気が流れ始めた。
それを見た健輔がこの後の時間をどうするか考えていると、コンコンっとドアがノックされ扉が開く。
「あれ? 優香ちゃんと佐藤君に、お兄ちゃん? 珍しい組み合わせだね」
「副部長はともかく、確かに佐藤と九条は珍しいな」
男女のペアが何かを抱えて入ってきた。
1人はチームリーダー近藤真由美。
もう1人は、
「剛志か。それはあれか?」
「はい。正規のスーツですね」
「ふむ、ということは準備出来たのか」
佐竹剛志、190cm近い身長と鍛え上げられた肉体を持つ巨漢の男性である。
チーム内で1番背が高く迫力もある男性だが、見掛けに反して面倒見のいい先輩であり、健輔たちも入学したばかりの頃はとてもお世話になった人物だった。
高校生にしてはかなり渋い声の持ち主であり、制服を着ておらず街中で出会ったら30代と言われても信じられそうな雰囲気の持ち主でもある。
「なんの話してたのかな? お兄ちゃんが先走って余計なことを言っていないかが気になりますな~」
「もう少しお兄様に対して敬意と信頼を寄せろ」
「信頼してるからこそ聞いてるんじゃない」
仲が良いのか、それとも悪いのか、いまいち掴み切れない近藤兄妹である。
いつものことと見做しているのか我関せずとばかりに剛志は持ってきた荷物を机に広げ始めた。
「剛志さん、なんすかそれ?」
「説明してやりたいのだが……。まあ、待て。部長に聞かねばならん」
「はぁ……」
簡潔に結論を述べる剛志にしては珍しく言葉を濁す。
健輔は煮え切れない先輩の様子に何かを感じるが、言葉通り真由美を待つことにした。
真由美は隆志からこれまでの経緯を聞いているのだろう。
ニコニコと笑顔を浮かべながら続きを促している。
優香は我関せずとばかりに目を閉じて直立不動の態勢に入っていた。
無口な2名は何も話すつもりもないようであり、健輔はがっくりを肩を落とす。
真由美が全て聞き終わるまで、そこまで時間はかからないだろうが待つしかないのであった。
「……ふむふむ」
「知識は十分だ。後は実践した方が早いな」
「そうだねー。佐藤君、いいかなー!」
「はい?」
「お兄ちゃんからいろいろ聞かせていただきました。うん、ちょうどいいからそろそろ始めるね!」
「へ? 部長、始めるって何を……」
「まずは、きちっとした状態にしないとね!」
人の話を聞かずに強行的に押し流していく真由美に逆らえず、何かを手渡された健輔はそのまま剛志と一緒に外へと追い出される。
「ちょ、部長!」
「剛志君、後はよろしくー。さっきお話した通りでいいからねー。佐藤君は剛志君の指示に従って着替えてきてくださいなー」
「わかりました。いくぞ、佐藤」
「へ、いや、あの説明を……」
「とりあえず付いて来い」
有無を言わさない先輩の圧力に屈した健輔は大人しく後ろについていく。
手渡された謎の物体もそうだが、これから何をするのか。
更衣室に辿りつくまでの間、健輔はいやな予感を感じて額に汗をかくのだった。
「……1つ聞いてもいいですか」
「なんですか? このやたら体にフィットした奴……」
「魔導スーツだが、どうかしたか?」
「……これって男女兼用ですか? もしかして……」
「さてな」
更衣室から出た健輔の姿は黒いダイバースーツを纏ったような姿になっていた。
競泳水着のようにぴったりと体に張り付くそれにげんなりとした表情を見せる。
更衣室で詳しい説明は受けた。
今健輔が着込んでいるスーツは素材は魔力を伝導し易いもので出来ており、他にも身体保護の術式を刻んであるとのことである。
魔導競技の公式用衣装らしいのだが、こんなぴっちりしたものを着込んで戦っているところを見たことはない。
普段の練習は魔導で構成したユニフォームを使っているのだが、あれは一体なんだったのだろうか。
健輔は自問自答を心の中で続けていた。
「悩むのはわかるが、早く行くぞ。女性を待たせるわけにもいかないだろう?」
「それは……そうですけど……」
「とにかく行くぞ」
「……うっす」
気乗りしない健輔を連れて2人はフィールドへと向かう。
そこには既に真由美が優香が待っているのだが、
「先輩、あれはダメじゃないですか?」
「気にするな、と言っても気になるか。まあ、眼福だと思って己の幸運に感謝しておけ」
近づく程に状況がわかってくる。
健輔が着込んでいたことから大体わかっていたが2人も似たような服を着ている。
それはまだよかった、問題は別にある。
真由美と優香、双方共にかなりハイレベルな美少女だ。
その2人が身体のラインがもろにわかるレオタードのような服を着ていた。
普段の制服の上からではわかりづらかったが以外に2人とも胸がある。
真由美はでかいというレベルではないが十分な程度にはあるのがわかる。
一方の優香はどこに隠していたんだと言うレベルでそこは存在感を主張していた。
着痩せする性質なのか、スレンダーな美人が素早くグラマーな美人へと早変わりである。
「お待たせしました」
「うん、ご苦労様。あー、佐藤くんがエロい顔つきになってる! 剛志くん、やっぱり説明しなかったね。ま、これは男子側の伝統みたいなものだから仕方ないのかな?」
「去年は自分だったので」
先輩が和やかに会話する傍らで健輔と優香はお互いを視界に入れないように別の方向を向き合っていた。
そんな面白い光景を見逃してくれる真由美ではなく。
「はい、ちゃんとこっち向こうね!」
「痛っ、ちょ、勘弁してください!」
抗議のために視線を向ければ、そこには体がラインがはっきりとわかる真由美と優香がいる。
特に優香の方は恥ずかしげに身体を隠そうとして結果的により扇情的になってしまっていた。
健輔は鼻血が出そうなのを必死に耐える。
後輩の何かに耐えるような姿勢がツボに嵌ったのか真由美は噴き出してしまう。
「ぷ、ぷははははは。佐藤くん、そんなに意識するから大変なんだよ? 慣れてもらうために今回は展開しないで来たんだけど、意識しすぎ」
「す、すいません」
恐ろしく硬い表情の健輔に真由美は困ったような笑みを浮かべ、
「変に意識するから大変なんだよ? 水着だと思えばそこまで気にならないと思うんだけど……。もう、仕方ないなー。佐藤くんが鼻血を吹きだす前に次に進もうか」
「面目ないっす」
「安心しろ。2年の男子も同じような攻撃を受けた。この恰好で騒ぎ合うのは伝統みたいなものだ」
「剛志くんもあっさりと言うねー。去年は赤い顔で目を逸らしてたのにー」
「人は成長しますので。それよりも部長、そろそろ」
「はいはい。優香ちゃんと佐藤くんはちゃんと見ててねー。公式の試合ではこのスーツを使うことになるから、使い方はきちんとマスターすること!」
真由美はそう言って、スーツとセットになっていた魔導式が刻まれた腕輪をみせる。
「術式展開、『戦闘保護』」
音声認識式なのか、真由美が何事かを呟くと腕輪が輝きだす。
ハッキリとわからなかったがスーツにはラインようなものが走っており、その部分が真由美の魔力光である真紅に染まる。
同時に身体全体を覆うように魔導式が展開され、周囲を明るく照らし始めた。
「これは……」
「眩しっ!」
強烈な閃光に健輔と優香は視界を塗り潰されるが、
「ん、終わったよー。もう目を開けてくれて大丈夫だよ」
一通りのプロセスが終わったのか、真由美の声に従って目を開けるとそこには身に覚えのあるユニフォームに身を包んだ彼女がいた。
白いユニフォームのところどころにラインが入っていて肩にはエンブレムがある。
「服装自体は見たことあるよね? 我がチームのユニフォームですよー」
「へ? これで終わりですか?」
「そうだよー? 何々? 他に何かあると思ったの?」
「いや、どうしてさっきのスーツでここに来たのかなって思って。展開してからくればよかったんじゃ」
「それだと詰まらないじゃない! それに魔法少女の変身シーン見たいでかっこよくなかった?」
わざわざそれだけのためにこんな恥ずかしい思いをしたのかと健輔はガックリと肩を落とす。
「俺が無意味に恥を掻いただけじゃないですか……」
「あ、そういうこと言っちゃうんだー。私と優香ちゃんの身体を見れて嬉しくなかったの?」
「げ……いや、そんなことは決して……」
「一応この魔導スーツが開発されてからの伝統みたいなものなんだよ、このシチュエーション。男の先輩たちが代々後輩に恥ずかしい思いをさせるために頑張ってきたんだから」
「努力の方向性を間違えてるでしょ!」
サプライズだったのは結局先輩たちの悪乗りが理由ということだった。
健輔はさらに力が抜けていくのを感じるが、疑問を解消すべく質問を行う。
まだこのスーツの存在理由を聞いていないからだ。
「それで結局このスーツはなんなんですか?」
「剛志君から軽く聞いたかな? この服さ、昔はなかったんだよね」
「なんでですか?」
「昔は全裸だったんだよ、そこに魔力でユニフォームを作ってたの」
「お前も知っているだろう、肉体以外に魔力を流すのは大変だとな」
健輔もそれは知っていたがこのスーツの存在理由は思い当たらなかった。
首を傾げる後輩を見て、真由美はより詳しい説明を行う。
「魔力効率だけで考えた場合このスーツって正直なところ要らないんだよね。ぶっちゃけると全裸に服を展開する方がいいの」
「なるほど、それはそうですよね? あれ? じゃあ、俺たちなんでこのエロスーツを着てんですか?」
「エロスーツ……私、それを着てるんですね……」
流れ弾が優香にダメージを与える。
健輔は慌てて言葉を取り繕うが既に遅かった。
「えっ? いや、似合ってるよ! うん、とても、可愛い? と思うよ」
「フォローになってないよー。それにエロスーツとか、率直な名前だね! ま、私ももうちょっとなんとかならなかったのかっていうのは同感だけどね」
「エロ……」
このまま真由美に場を荒らされることを避けるために健輔は必死で話題を逸らした。
「そ、それよりも結局なんでこんなん着るんですか? もっと良い方法があるんですよね?」
「最初は魔力切れ対策だよー、今は他にもいろいろあるけどね」
「魔力切れ、ですか? あれ、魔力切れってないんじゃないんですか? そう習ったんですけどあれって嘘なんですか」
「嘘じゃないよー。でもさ、戦闘行為で魔力回路に負担をかけ過ぎると、魔力を循環できなくなることはあるよね?」
「あっ」
魔力切れ、事実上魔素がある限りエネルギー切れは存在しない魔導師だが、それはあくまでも理論上に過ぎない。
人間の身体は走り続ければ疲労するし、それは魔力の生成でも変わらなかった。
そのため、便宜上魔力切れという状態は想定されている。
真由美からそのように説明を受けて、健輔もようやくこの妙に色っぽいスーツの存在意義を理解した。
「想像が着いたって、顔だね? その通りだよー、服が解けちゃったのですよ。試合終了間際に。そして全裸開帳ってなっちゃってねー」
「その時は運よく、いや、不幸中の幸いで男性だったのだが女性側のことを考えて採用になった」
「背景はわかったかなー? 他にも一応利点はあるんだよ。式を直接服に刻めるとか。裸と比較しても、ロスは5%に収まるとかね」
「それらのメリットがなくとも全裸を開帳する危険性に比べればマシだと考える者が多くいたという事だ」
ルールの整備と技術の成長に伴って、魔導スーツもただの全裸開帳を防ぐものから用途が多様化し、今では身体保護を含めた戦闘行動時の生命保護全般を担当している。
この技術の発展のおかげで安全に魔導競技を収めることが出来るようになったのだが、始まりは全裸防衛のためであった。
「これ以上は2人も詰まらないと思いますし、簡潔にいきましょう」
「そうだね。それじゃあ、説明終わり! 2人とも展開よろしくねー!」
「はい」
「了解です」
経緯を説明されて存在意義まできちんと理解出来れば、真由美が言っていたように変身シーンを行えるこのスーツは中々に男心を擽るものだった。
優香が傍にいるため、叫ぶような事はなかったが心の中でひっそりと呟いた後に魔力を流し込む。
真由美と同じように2人の魔力光と同じ色にスーツは包まれ、発光が収まった後には戦闘準備を終えた状態となっていた。
「九条の髪までセットされてる……」
「すごいでしょ? エロいだけではないのですよ。説明書は後で渡すから読んでおいてね。割と命に直結する装備なので後日ちゃんと読んだか確認するよ」
「スーツは各人専用になっている。系統ごとの調節などがあるため中々高価だ。失くさないようにな」
真由美と剛志が簡単な諸注意を行う。
完全オーダーメイドの品であるため実はこの魔導スーツ結構お高い。
生徒たちに値段を言うようなことはないが噂で流れている額は高校生からするとかなりの大金である。
剛志の失くすな、という言葉には強い思いが籠っていた。
「ではではー、訓練始めますよ。準備の方はお兄ちゃんにお願いしといたから、もう始めれるよん」
姿が見えなかった隆志はそちらの準備を行っていたようだ。
健輔は妹に良いように使われている兄に少しだけ同情した。
「まず、伝えておくこととして、今後は優香ちゃんと佐藤くんはペアを組んでもらいます」
「ペア、ですか? 理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「そんなに複雑な理由はないよ。ほら、バトルにエントリーして戦場にいれるのは結局6人が基本だからさ」
「だから、ペアが最小単位となる。そういう認識で?」
「OKだよ! よかったら、後でいいから、隣でわかんないわーって顔してる佐藤くんにも教えてあげてね」
「はい、大丈夫です」
微妙にバカにされていることはわかるのだが、事実であるため健輔は何も言えない
優香の任せてくださいと言いたげな自信に満ちた様子にやる気が減退するもなんとか姿勢を維持して続きを待つ。
真由美は咳払いをすると、少し偉そうな感じで健輔に言い渡す。
「佐藤君は、今後重要なポジションになります。心して聞いてね!」
「は、はい! 重要なポジションですか?」
「うん、発表すると遊撃かな! つまり、なんでもやってもらうポジションって感じで。基本は優香ちゃんと組む形だけどね」
「遊撃……」
何をするのかよくわからないが、響きはカッコ良かった。
先ほどのやり取りで下がったテンションがモリモリと回復してくる。
変化が外から丸わかりとは気付かない健輔は顔を上げて真由美を見返した。
わかりやすい後輩に苦笑するもやる気がある事自体は問題ないため、真由美はスルーして話を進めて行く。
「細かいこと練習しながら適宜説明するから今は後回しでいいかな? やってみないとわからないことって多ししね」
「了解っす!」
「わかりました」
「いい返事です! 時間が勿体ないし、素早く始めようか。戦闘フィールドの予約はお兄ちゃんがやってくれてるので少人数用の方に移動しようか!」
真由美の言葉に健輔は唾を飲み込む。
今まで健輔がやってきた練習は基本的に1対1のものばかりだ。
それが一気に次の段階へと進む。
1対1ではない本格的な魔導戦闘を前にして健輔の鼓動が高鳴る。
ついに魔導師としてかつて憧れた領域へ足を踏み出す時が来たのだと、果てしなくテンションを上げて練習に挑むのであった。