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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第3章 秋 ~戦いの季節~
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第56話

「まあ、今からあんまり深く考えすぎても仕方ないし、とりあえず頭の片隅に置いておくぐらいでいいからね」


 沈黙が支配する室内で真由美の声が明るく響き渡る。

 得体の知れない敵。

 詳細なデータがない相手との戦いは初めてことであるため健輔たちは少し緊張していた。

 その様子を見抜いて彼女は話題を変える。

 今日の本題はどちらかとそちらの方だったのだ。


「さてと、みんなに今日来てもらったのは他でもないよ。文化祭について話しておかないといけないと思ってね」

「文化祭? え、あるんですか。このスケジュールで?」

「うん、普通にあるよ。もっとも、私たちはどちらかと言うと試合優先だからそこまで深く携われる訳じゃないけどね。クラスで出し物をやったりすると思うよ」

「中・高・大の合同文化祭だからな。メインは他のところだよ」


 健輔は文化祭などの秋の行事は魔導大会と互換していると思っていたが違うらしい。

 確かによく考えてみれば大学部と中等部はそのまま大量の人間が残ってるのだから文化祭はやりたいだろう。

 高等部は都合が付く生徒だけ参加しているとのことだった。


「文化祭について話すってことは俺たち何かやるんですか?」

「私たちが、って言うより学校がやるって言うのが正しいかな」

「文化祭は3日間に渡って行われるがその間試合は休止だ。代わりに体育祭がある」

「え……マジですか?」


 健輔の反応に先輩たちが笑う。

 かつて自分たちも似たような反応を見せたことがある。

 誰だってそんな無茶なスケジュールに思うところはあるのだ、1部の例外を除いて。


「体育祭って言っても健ちゃんが想像してるのとは違うと思うよ」

「実質見せものに近い、文化祭に来てくれた相手に魔導を見て貰うイベントだな。今年がどんな形式かはまだわからん。去年は戦闘ありのチームを混ぜて3つに分けた大鬼ごっこだった」

「すごく盛り上がりましたよねー。いやーワンパンで沈むから爽快だったよ」


 早奈恵のわかりやすい説明にようやく意味が理解できた。

 息抜きも含めたレクリエーションなのだ。

 学園側としては普段あまり交流を図れない他チーム同士での交流を促進する狙いもあるが本題は客寄せであり、見せ物だった。


「連絡事項はこれで終わりかな。クラスの出し物とかに協力をお願いされたら試合に影響がでない範囲で好きにしてくれていいからね」

「私と真由美もクラスのやつに協力しているからな。なんでも喫茶店をやるとのことだ。良ければ来てくれ」


 あまりこういった行事に興味のない健輔だったが、魔導が関われば話は別である。

 良い気分で文化祭を楽しめるようにも負けられない。

 天空の焔、ツクヨミそしてアマテラス。

 強敵は多いがそれを乗り越えて文化祭を満喫しよう。

 健輔は気合を入れ直して試合に臨むのだった。




「うん、大分術式は安定して来てるね。ほいほい切り替えてるから構成も大変でしょ?」

「そうなんだよな……。割と既に手いっぱいというか」


 真由美たちの話が終わったため本日の部活は終了した。

 今日は身体を休める日でもあるため練習は行わない。

 しかし、実際に身体を動かさなくてもやれることはある。

 術式の構成を見直すのもその1つだ。

 専門家である美咲の手を借りて健輔は少しでもより良い術式を求めて日夜研究を重ねていた。

 その可愛らしい容貌とは裏腹にかなり頭が良く魔導式においてはいづれ早奈恵を超えると言われているのが美咲である。

 美咲にとっても健輔の術式を弄ることは楽しいらしく2人は夏の終わりからかなり親密になっていた。


「私もなるべく見れるように時間を作っておくけど、基本的には自分でやって貰わないとダメだもんね」

「そっちは研究が本職だからなー。むしろ。普段の方が忙しくて今の方がマシなくらいだろ?」

「まあね、でも味方の相談も同じくらい重要だからそこまで気にしないでいいよ? むしろ相談されないで試合で何かある方が嫌だもん」


 健輔たちのチームはバックスが必要最低数である3人になっている。

 葵たち2年は香奈に、3年は早奈恵にと言った具合で相談しているらしくその流れで1年は美咲に相談するようになった。

 勿論美咲自身も先輩からアドバイスを貰っているため完全に縦の繋がりが断たれている訳ではない。


「だから遠慮しないで相談してね? 私たちは試合に直接参加できる訳じゃないから、準備不足で負けるようなことだけは嫌なの」

「わかってるよ。そんなカッコ悪いことはしない」

「本当にお願いだよ? 優香と健輔と戦って負けた時のことまだつらいんだからね」

「俺だってあれは圭吾にリベンジしたいんだぜ。ま、言いたいことはわかってるから安心してくださいな」

「健輔はこういう軽い時いまいち信用に欠けるんだよねー……」


 頼んでいたパフェを突きながら美咲が不安を漏らす。

 そんなことをしてる間も脇では術式の精査が進んでいた。

 健輔たちフォワードの魔導機は大型のため持ち歩きできないが美咲たちバックスはタブレット型の物が多いため持ち歩くことが可能である。

 シルエットモード用の術式をいくつか検査して貰っているのだ。


「そう言えば健輔、変換系の試合見に行ったんだよね?」

「ん? ああ、圭吾と見に行ったけど何かあるのか?」

「私もちょっと前に優香と見に行ったんだけど少し気になることがあったんだ」

「気になること?」


 健輔が問い返すと身を乗り出して美咲が頷いた。


「そ、変換系ってもしかしたら創造系の亜種かもしれないよ」

「うん? ……ああ、なるほどな。確かにそれならやれるかもしれないな」

「実際はいろいろ研究を進めて今の形になったのだと思うんだけど、これって示唆に富んでることだと思わない?」

「その心は?」

「普通の人なら研究が必要だろうけど、健輔なら地力で作れるんじゃない? もしかしたらってレベルで可能性はあるって程度の話だけどね」

「は……え、ちょ……ああ、うん、できるかもな」


 明日真由美と共に変換系を使えるがテストしようとしていたがその部分は確かに盲点だった。

 系統とは得意な魔力の使い方である。

 もはや何度言われたのかも、思い出したかもわからない言葉だがここが基本なのだ。

 元々、基礎の系統身体系から派生する形で系統は生まれてきた。

 そして全ての系統が他の何らかの系統と補完関係にある。

 例えば、固定と流動などはもっともわかりやすいだろう。

 全て止めるか、1部止めるのかとも表現できる。


「流動系が固定系から派生したみたいに変換系は創造系の派生だと想定すると他の系統にも確かに何かありそうだな」

「でしょ! あなたの万能系ならきっとできると思うのよ。まだ仮説もできてないレベルだけど万能系にはすごい可能性があると思うの!」

「お、おう」


 美咲が凄くテンションを上げて万能系の可能性について熱く語る。

 健輔が引くほどの勢いで捲し立てる美咲の眼は爛々と輝いていて少し恐怖を感じさせる。

 ここまで買ってくれていることは素直に嬉しいがもう少し普通の反応の方がよかった。


「そ、それで万能系の可能性って? 変換系の予想についても話して欲しいんだけど」

「あ、そうだね。1から説明するね」


 美咲の話は健輔にもわかりやすく簡潔に纏められていた。

 万能系を除いた全ての系統が基本的に誰でも扱えるのに対して万能系のみが完全に資質依存となっている。

 その原因と見られているのが魔力回路の質の違いらしい。

 『魔力を操る』と称されているようにフィルターの様なものを通して他の魔力が持つ性質に変換しているのではないと今は考えられているとのことだった。


「それでね、ここからが大事なんだけどそのフィルターを付け変えれるのが万能系なんだ。私の仮説はここからなんだけど、じゃあどうやってフィルターを作るのかってところに焦点を置いたの」

「そうか、普通に使えてたんで気にしてなかったけど俺はどうして変換系以外は普通に使えるんだ。そこがわかってない」

「私の予想だけど条件は実際にその魔力を体感することだと思うの」


 健輔が今のところ扱えるのは収束・遠距離・創造・身体・浸透・固定・破壊の合計6つの系統である。

 流動に関しては使うことはできるがまだ戦闘レベルでの熟練度に達していない。

 事実上変換系以外は全て使用できるわけだが使えるようになった順番から考えていくと答えが見えてくる。


「初めに収束・遠距離で次は創造だったっけ。そうか、俺が接した順番に習得してるのか」

「変換系を今は使えないのはチーム内に使える人が居ないからだと思うんだ。誰かが使ってる魔力を吸収することで使えるようにしてるんだと思うの」

「なるほど。割と良い線いってるんじゃないか、ここまで言ったんだから当然変換系を扱う方法も考えてるんだろ?」

「うん、自分で作って慣れればいいんだよ。創造系の亜種だと考えれば多分いけるでしょう?」


 変換系は既存の現象を魔力をで再現しているらしい。

 つまりそう言う事に特化した創造系だと考えれば話は簡単である。

 美咲の指摘はそうやって魔力のフィルターを増やせば健輔だけの系統を生み出せるかもしれないと言っているのだ。

 そして、仮に実現できるならばそれはとてつもない力になるだろう。


「これはやる気が出てくるな」

「そう? それだったら話した甲斐があるかな。ただ検証した訳じゃなくてあくまでの想像上の考えだからそこは履き違えないでね」

「わかってるよ。差し当たって明日の部長との練習で試してみる」

「危ないと思ったらやめてね? 安全性とかも何も考えてないから、どうなるかぶっちゃけわからないの。違和感とかがあったら直ぐに誰でもいいから相談してね」


 やる気に満ち溢れる健輔に美咲は一応釘を刺しておく。

 調子に乗り易いと言う自覚がある健輔も同輩の忠告をありがたく受け止める。

 確かに仮説程度でしかないが何も無いよりは良い。

 真由美からの課題、自分だけの必殺技にも使える可能性はあるのだ。

 自分だけの系統、その素敵な響きに笑みを浮かべながら健輔は美咲へと礼を言いその場を後にするのだった。




 検査用の大型機器が複数置いてある研究所に似つかわしくない神秘的な光景がその場に顕現する。

 美しい絹のような長い黒髪は澄んだ水の色となり幻想的な雰囲気を生じさせていた。

 身体からオーラのように漏れだす魔力光は空が彼女に与えた加護ようにも見える。


「彩夏さん、数値安定してます」

「ありがとう。測定開始からどれぐらいですか」

「5分です。凄いですよ、ついこの間までは1分いかなかったのに今は5倍ですからね」

「そうですね。やはりこの年代はよく伸びます」


 同僚から渡されたデータに目を通しながら彩夏の頭の中では優香の新しい剣のイメージが固まってきていた。

 この圧倒的な魔力適合率は彼女自身の身すらも傷つけかねない諸刃の刃でもある。

 それを受け止められる新しい剣が必要なのだ。

 

「次は少し休憩を挟んで戦闘用の出力を試してみましょう」

「了解です。九条さんにも連絡してきますね」

「お願いします。やはりデータだけではわからないこともありますから」

「私も仕事ですから。それに1流魔導師は見てるだけでも楽しいですからね」


 後輩が優香に連絡しにいく姿を見送り彼女はもう1度優香に視線を送る。

 彩夏や里奈の専門は魔導工学、魔導を工業的に研究する部門である。

 教職として魔導の身体的影響は熟知しているが髪の毛が全て変色するほどの適合率は流石に見たことがない。

 今はまだ公式戦でも使用していないため大きな影響はないだろうが強豪チームとの戦いでは使わないとどうにもならない戦いもあるだろう。


「そちらにも気を回しておく必要がありそうですね」


 計測器の中で眠る乙女を見守る教師は影で準備を進める決意をするのだった。




「お疲れ様です、九条さん」

「いえ、ありがとうございます。笹山先生」


 一通りのチェックが終わった優香を彩夏が出迎える。

 健輔の方は里奈が対応しているため今日は個別での検査になったのだ。

 優香の『雪風』は健輔の『陽炎』ほど大幅な改修を必要としないこともありデータさえ揃えば9月中には完成する。

 8月の終わりに預けられていた専用機たちの調整が終わり始めて手隙になってきたためようやく本格的に動き始めていた。


「今日初めてオーバーリミットを使うところ見せて貰いましたがかなりの適合率ですね。おそらく現役でこれを超えるのはお姉さんだけでしょうね」

「やはり姉にも?」

「ええ、ただあなたと違って向こうは『最適化』と呼ばれてますけどね」


 姉妹なだけはあり似たような番外能力(エクストラアビリティ)を持っている。

 もっとも桜香は優香とは違い限界を超えるのではなく、最も魔力に適した状態へと己を変化させる能力である。


「どちらにせよ肉体に対する影響が大きい能力です。使用には最大限の注意を払ってください」

「……はい、わかりました」

「明後日の試合まではゆっくり身体を休めてくださいね」

「ありがとうございました。今日はこれで失礼します」

「はい、お疲れ様でした」


 退出していく優香をロビーまで見送った後彩夏は溜息を吐く。

 余裕がないというか抱え込みすぎている様子が見え隠れしている。


「真由美ちゃんも大変ですね。……さてと、やはり連絡だけは取っておいた方がいいでしょう」


 忙しいが手を抜く訳にはいかない。

 何よりいやな忙しさでは無いのだ。

 やりがいはある。

 彩夏は薄い笑みを浮かべながら研究室に戻る。

 彼女だけでなく多くの大人たちが影で未熟な魔導師たちを支えている。

 今日も不夜城となることが確定しているラボは祭りの前のような熱気に満ちていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

次の更新は多分明日になると思います。


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