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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第2章 夏 ~飛躍の季節~
54/341

第53話

 合宿最終日の夜。

 模擬戦終了後、そのまま大反省会に突入し互いに忌憚のない意見を言い合った両チームのメンバー。

 最後に夕食会のバーベキューを持ってそのプログラムは全行程が終了する。

 

「それじゃあ、みんな!」

「ご一緒に!」

『お疲れ様でした!』

 

 いくつかの場所で好き勝手に食べたいものを焼いて回る。

 わいわいと賑やかな空気の中、健輔は合宿の苦楽を共にした面々に歓談していた。


 「お疲れ様ー」


 真希が音頭を取って乾杯を行う。

 

「いやー今回は疲れたね! 2回目だけどレベル高かったと思うよ。合同でやってよかった!」

「まあ! 真希お姉さまもそう思ってくださいますか! 私もかなり魔導が上達したと思います。これも真希お姉さまたちのご指導の賜物ですわ」

「私もですわ。誠に素晴らしい指導だったと感服しております」

「ヴィエラん、ヴィオラん、ありがとうー。教えるなんてやったことないから新鮮だったけど役に立ってるか、不安だったんだよね。お役に立ったなら何よりかな」


 2年生たちは手慣れた感じで健輔たちの指導を行ってくれていたが、あれが初めてのことだったのだ。

 真希や和哉には本当にお世話になったと健輔も深く感謝している。

 指導者としては、あれだったが葵にも感謝はしているのだった。

 あの腹パンの痛みは忘れられないが。

 

「健輔もお疲れ様、もう1対1では勝てないかなー」


 お酒を飲んでいるわけでもないのに、真希は酔ったような雰囲気を醸し出す。

 意図的なのか、それとも真希も気が抜けて素の部分が出てきているのか、妙に艶かしい感じの笑みを向けてくる。

 普段は割と人を食ったような感じの笑みなのに今日に限ってはとても優しい感じであった。

 親友の葵曰く、意外に乙女という評価を聞いたことがある健輔だが、この合宿中も男性陣との距離が近かった真希がの女らしいところをあんまり感じたことはなかった。

 それをこんな部分で見ることになるとは思っていなかった。

 

「あ、え、えーと。ご指導ありがとうございました?」

「どうして疑問形なのさ? ま、今日は機嫌がいいから許してあげよう」


 パンパンと肩を叩かれる。

 どうやら相当に機嫌が良いのは本当のようだ。

 合宿中は意識していなかったがこうまで距離が近いと辛いと心の中で健輔はお経を唱えて煩悩を滅却する。


「へーい、健輔食べてるかい!」

「そうよー食べてる!」


 悶々としていたらこんな時に1番来て欲しくない人が来る。

 悪い時に悪いことが重なるというのは多くのものが思うことではないだろうか。

 どこから見ても酒を飲んでるようにしか見えないスーパーテンションの葵とハンナはいろんなメンツに襲いかかっているようだった。

 そして、今は健輔たちの番ということだ。


「どうしたのよ! もしかして、疲れちゃったの?」

「ちょ、ま」


 ぐにゅと言った擬音が聞こえるような感じで抱きつかれる。

 ヘッドロックを仕掛けるかのように葵は健輔の頭を抱きかかえると上機嫌に笑いだす。

 どう見ても、酔っ払いの絡み方だが彼女は酒を飲んでいない。

 雰囲気に酔っただけでこんな風になっているのだ。

 原因はなんであれ抱きつかれている健輔の方は堪らない、様々な意味で。

 魔導の力を使えば肌を焼かないことなど簡単にも関わらず、あえてその小麦色の肌を作った彼女はいろいろな部分が女性らしいのだ。

 普段は男女など関係なく強烈な拳をプレゼントする女傑だが、同時にガキ大将的なカリスマも持っている。

 もうすぐ17歳になろうとしているのに未だに小学生のメンタルで仲間に接するのである。

 そのわがままに育った身体でやられる方は堪ったものではない。

 同年代は流石に恥ずかしいのかあまり被害に合わないようだが、弟認定でもされているのかお気に入りの健輔に最近被害が集中していた。

 それを見た剛志は「役得だな」と呟いていたが変われるなら変わって欲しいと健輔は思っていた。

 健全な男子高校には本当にきついのだ。

 迂闊に反応する訳にもいかず、ある意味でパワハラされているようなものだった。

 ちなみに圭吾も似たような感じで真希に扱われているため2人で愚痴を語りあった仲である。


「あら、葵、ずるいじゃない! 私にも頂戴!」

「ダメよ! ハンナには真希を貸してあげるからそっちで満足しなさい!」

「それよりも健輔を解放してあげなって、それ首決まってるから」

『あ』

 

 慌てて葵が頭部を開放する。


「はあ、はあ、危なかった。真希さんありがとうございます」

「いんやー、最後の祝賀会で後輩落とすなんてないっしょ。確実に早奈恵さんの雷が直撃するよ、全員に」

「ごめんねー健輔」

「あ、いえ、大丈夫です。葵さんとハンナさんお疲れ様でした」

「ええ、お疲れ様」

 

 合宿中はそこまで仲が深そうではなかったが2人が妙に仲良くなっている。

 人種は違えど性格がそっくりな両名。

 金髪に、青い瞳、メリハリの利いたボディ持つ外国人美女のハンナ。

 真由美と同年代だが明らかに年上に見えると初日に出会った際に思ったが、同時に思ったことがあった。

 何処か葵に似ている、っと。

 茶髪のショートカット、小麦色の肌そして強い意志を感じさせる瞳。

 外観的な特徴ではなく快活なそのあり方が似ている。

 

「むふふ、私たちは次のところへ行ってくるさー」

「そうね、全員と話をしないとね」


 一応、目的らしいものはあるらしく連れ立ってテーブルを離れていく。

 本当に嵐のような2人だった。


「ふふ、健輔様は災難でしたね」

「いや、まあ、葵さんはスキンシップの多い人だから慣れてるよ」

「あそこまでバンバンやるのは健輔だから、だけどね。あなた、葵の弟に雰囲気似てるもん」

「そうですか、弟さん、って弟!?」

「知らなかった? 3つ離れてたから今中2だったかな。普通の学校に行ってるよん」


 自分と似たような、いや実弟ならばもっと凄い目にあっているだろう会った事もない葵の弟に物凄いシンパシーを感じた。

 弟さんとは仲良くなれそうな気がする。

 1人っ子のため兄弟などはいなかったため、昔はちょっと欲しかったのだ。

 実姉に葵。

 そこまで想像して健輔は現実とは夢を砕くものだということを改めて認識した。


「そっか、弟さんが。……大変だったんだろうな」

「そりゃねー、わかると思うけど葵は面度見がいいからね」

 

 物凄くオブラートに包んだ言い方だが間違っていない。


「健輔様は葵様のことがお嫌いなのですか?」

「そうなの? 葵お姉さまは強くて素敵な人だと私は思いますよ。ヴィオラもそうよね?」

「それは勿論、お強い方だと思います」

 

 ラッセル姉妹の感想に合っているような間違っているような複雑な気分で作られた笑みを向ける。

 日本人的な曖昧な笑顔というやつである。

 民族的に鍛え上げられた必殺技だろう。

 2人はよくわかっていないのか満面の笑みを向けてくれる。

 健輔の良心が微妙に軋むがここで感想を言うことは避けたかった。

 

「ぷぷ、そこまでにしておいてあげてラッセルちゃんたち。男の子には言いづらいこともあるんだよ。私たちと違ってね」

「はあ……? わかりました真希お姉さま。そっとしておきましょうヴィオラ」

「そうですね、お姉さま。そっとしておきましょう」


 見事な金の髪をツインテールに纏めた美少女たちは気品溢れる所作でお辞儀をする。

 常々思っていたことだが、この2人はやはりいいところのお嬢さんなのだろうか。

 私服からしてドレスと日本人の感性を突き抜けた服装をしているが、そこは別に構わない。

 コスプレだとでも思えば気にならないし、日本と違い外国ならドレスを着るのもそこまで不自然ではないだろう。

 彼女たちを健輔のような1般人違うと感じさせるのはたった1つ。

 動作の美しさである。

 今だってバーベーキューのはずなのに彼女たちの綺麗な食事を見ていると会食、と称されても納得できそうだ。

 健輔の貧弱すぎるボキャブラリーではうまく表現できない気品(・・)というものがある姉妹だ。

 15年程の人生だが初めて会うタイプの人間であった。


「あら、あれはアリス様ですわ」

「本当ですわね、お姉さま。真由美様と一緒にこちらに参られます」

 

 2人の言葉に従い、視線を向ける。

 こちらを射殺すような視線をした美少女がそこには居た。

 真由美は傍で苦笑を浮かべている。

 アリスが何故こちらに来たのか、もう理由はわかった。

 

「やっほー、健ちゃん。しっかりと楽しんでるかな?」

「ヴィエラ、ヴィオラ、お疲れ様。……改めてご挨拶させていただきます。ハンナ・キャンベルの妹でアリス・キャンベルと申します。以後お見知りおきを」


 丁寧な言葉と挨拶だったが、明らかに目が切れていた。

 真由美に目を向けると、苦笑しながら頭を下げられる。

 アリスは合宿では真由美の監督下で厳しい練習を乗り越えてきたのだ。

 姉とまったく同じ系統を選び、姉のチームに入る。

 普通なら反発の1つもあるものだが、幸いというか彼女は姉を尊敬していたのだろう。

 『女帝』の後継として、この合宿では自信を深めたに違いない。

 初戦は殴り負けしたが今度は自分がいるから大丈夫だ、と必勝を期してあの戦場に立ったのだ。

 それが訳のわからない男の腹パンで終わったのだから怒りの1つぐらいは抱くだろう。

 不甲斐ない自分と、ころころ系統を変えた健輔、ざっと思いつくだけでも2つぐらいの原因を思いつく。


「ああ、初めまして同じ真由美さんの教え子なんだ、仲良くしよう」

「え、あ、あなた前衛だったじゃない! それがなんで!」

「アリスちゃん、地が出てるよ」

「あ……、し、失礼しました。……ぜ、前衛の方だと思っていましたが違うのですか?」


 この子以外と面白いぞ、とまるで真由美や葵のような感想を抱く。

 順調に染まっている自分に気付かないまま、健輔は経緯をアリスについて話した。

 必死に冷静な淑女としての顔を保とうとしているが、こちらの話題に反応して仮面が剥げていく。


「っと、まあ、この合宿で前衛に転向したんだ。一応、それまでは後衛としての役割が多かったからね」

「そ、そうですか! す、素晴らしい、せ、成果だとおも、おも、ってふざけるなー! そんなぽっと出前衛に手も足も出なかったっていうの私!」

「あー、ここまでかー」

「いつも通りのアリス様になりましたね、ヴィオラ」

「そうですわね、お姉さま」


 口元をピクピクさせながら涙目で耐える様子はなかなか可愛らしかったが、やはりというか耐えきれなかった。

 健輔から言わせると前から前衛の真似事もしていたため、完璧にぽっと出と言うわけでもないがここでそれを口に出しても火に油を注ぐだけになるため黙ることにした。

 女性の怒りはそれが理不尽なものだろうが男にどうこうできるものではないことを齢15歳にして悟っていたからだ。


「こ、今度は負けないんだから! 世界戦では首を洗って待ってなさいよ! それまで負けたりしたら許さないんだからね!」

「あ、アリスちゃん、待って! ごめんねー健ちゃん、悪い子じゃないから嫌わないであげてねー」

「大丈夫ですよ、早く追いかけてあげて下さい」


 見事な捨て台詞と共にアリスは去っていく。

 合宿期間中、ほとんど接触したことはなかったが強烈な印象を健輔に残していった。

 次に戦う時はかなり苦戦するだろうな、と忘れないように対策を考えることをメモしておく。

 幸いにも同じ系統との戦いには慣れている。

 本当に苦しくなるのは彼女が姉のコピーではなく自分のスタイルを確立したときだろう。

 その時には自分の必殺技もあれば良いのだが。

 新しいライバルの登場に少しだけ嬉しいものを感じつつ、未来へと思いを馳せる。

 彼女は自分を追いかけてくれるのだろう、ならばそれに相応しくなければと本戦への意気込みを新たにするのだった。




 夕食会も終わりへと近付き、楽しかった時間は終わりを告げる。

 あの後、食べるだけ食べた健輔もいろんなテーブルに挨拶に回った。

 ゴーレムによるフライングボディプレスで沈めたアレックスからは大和撫子写真集なるものを探して贈呈する約束をさせられたが期限を決めていないので永遠に未定と言う事で問題ないだろう。

 和哉や隆志、剛志と言った男性陣にもお礼を言って回ったのだが、試合が終わってから1度も話していない相手が3人程残っていた。

 とりあえず、相棒から探すかと心当たりのある場所を思い浮かべる。

 会場内には見当たらないため、少し離れた場所に行ってみると何故か目的の人物が全員そこにいたのだった。


「あら、健輔さん。どうしてこんなところへ?」


 落ち着いた美人――サラ・ジョーンズは柔らかな笑みを浮かべながら近づいてきた健輔に声をかける。

 ハンナが太陽のように明るい女性なら、彼女は月のように微笑む女性だった。

 夜がよく似合う、というのは褒め言葉としてどうなのかわからないが、そんなイメージのある女性だった。

 その所作には合わないことに、いや合っているのだろうか。

 心に強い芯を持つ女性である彼女のスタイルは耐えることだった。

 その防御は堅牢にして不落。

 役割を果たすということの重要さを合宿で教えてくれた存在だ。

 健輔がチームシューティングスターズで1番お世話になった人物だろう。


「そろそろ終わりそうだから最後に挨拶でもしようかなと。まずは優香からと思って探していたんですけど」

「そうしたら全員が揃っていた、と? ふふ、得心しました。よろしかったらこちらへどうぞ」

「お邪魔なら後で問題ないですよ」

「お気になさらずに、そろそろ戻ろうと思っていましたから。ね? 優香、美咲」

「はい、健輔さん。遠慮しなくても大丈夫ですよ」

「気にしないでー」


 何やら楽しそうな雰囲気だが何があったのだろうか、そもそもこの3人って仲良かったのか、と意外とみんな交遊していたんだなと微妙に自分の行いを反省する。

 もうちょっといろいろ話しかけたらよかった、後の祭りだがそう思うのだった。

 3人から少しだけ離れた場所に腰を落ち着ける。

 食事会の会場から少しだけ離れた砂浜で海を見ながら3人は座っていた。

 波の音が静かに響き、月と夜戦用に設置されているライトの明かりで彩られた海は綺麗だった。

 

「それで健輔さんは優香に何の用事が?」

「ああ、制御できるようになったみたいだったので、おめでとうって言っておこうかと思って」

「ありがとうございます、皆さんのおかげでようやく踏ん切りが付きました」

「いや、凄かったからな。俺もこの合宿でかなり伸びたつもりだったがお前には勝てないよ」

「……そんなことはありませんよ。健輔さんの実力は今日の試合でもちゃんと出てたじゃないですか。私は結局戦局にほとんど帰依していませんから」

「まだ制限時間が短いから、だろ? 伸びた分だけお前はぐんぐん強くなるんだ。素直に受け取ってくれていいんだぜ?」


 優香は優香で思うところがあるのだろう、しかし健輔としては今回の合宿でその実力を1番伸ばしたのは優香だと思っていた。

 反省会で確認したが頭1つ完全に飛び抜けている。

 攻撃力、防御力、そして速度。

 走攻守の全てが高い次元で纏まった本当の意味(・・・・・)での万能型、あれこそが優香の目指していたスタイルなのだろう。

 その力ははっきり言って今の健輔ではまったく勝利へのイメージが描けないほどの物だった。

 万能系の最大の弱点は言うまでもなく力押しだ。

 あの状態の優香は労せずそれが可能な存在だ。

 天敵、まさしくそう評すべき相手だった。


「健輔さんは……いえ、ありがとうございます」

「ん? 何かあるんだったら言ってくれて構わないぞ」

「いいえ、なんでもありませんよ」


 いつもと変わらない丁寧な言葉に静かな笑顔、だがこれ以上踏み込むことを拒否する意思が籠っている。

 何が彼女の琴線にヒットしたかはわからないが、健輔はそれ以上踏み込むことはしなかった。


「そっか、それならいいよ」


 本当は帰ったらあの状態で戦って欲しいと言うつもりだったが、流石にそんな空気じゃないことくらいは読み取れた。


「優香もいろいろとお年頃ですので、すいませんね」

「いえ、気にしないで下さい」

「健輔はなんというか、大物だね」

 

 かつて圭吾から言われたことを再びここで言われるとは思わなかった。

 自身の評価に納得いかないものはあるが、口に出さない程度には成長していた。


「不満そうだね、顔に出てるよ。結局その癖? 直らないとか筋金入ってるね」

「エスパーかよ!? これでも結構努力したんだぞ!」

「健輔さんは少し顔に出やすいようですから、別の方面を伸ばした方がいいんじゃないかしら?」


 サラが言っていることがさりげなく1番酷かった。

 健輔は心の中に剛速球を投げ込まれてダメージを負う。

 これ以上いるとボコボコにされそうだと判断した彼は来訪の目的を果たしたので離脱することを選んだ。

 戦略的撤退というやつである。


「えーと、とりあえずサラさん、いろいろアドバイスありがとうございました。とても役に立ちました」

「いえ、健輔さんの努力あってのことです。でもお言葉はありがたくいただいておきます」

「美咲も多重思考の事とかで世話になったよ。お前のおかげで次のステップに行けた本当にありがとう」

「気にしないで、私も友達の役に立ったのなら嬉しいかな」


 この2人は新しい戦闘スタイル確立大きな力を貸して貰った。

 感謝していることは事実だし、これからも頼りにするだろう。

 特に美咲にはバックスとしての系統の使い方をこれからバンバン相談する予定だった。

 サラとは下手したらもう話すことはないかもしれない。だからこそ直接感謝を伝えたかったのだ。

 目的を果たした健輔は離脱を開始する。

 

「じゃ、じゃあ会場に戻るわ。そっちも早めに戻れよー」


 時間を確認すると20時を回っている。

 18時30分から始めた食事会はもう撤収の準備を始めているだろう。

 脱兎の如く逃げ出した健輔を見て、女性陣は笑みを漏らした。

 その様子に機嫌を持ちなおした優香が、


「私たちも帰りましょう、サラさんに美咲、ありがとうございました」


 と言って立ち上がり、同意した2人も後に続くのだった。

 そのまま夜は更けていき、朝を迎える。




 夏休み最後の1週間、その最初の月曜日。

 別れの日がやってきたのだ。


「それじゃあ、お疲れ様でした。今回は誘ってくれてありがとうね。大変実りの多い合宿になったよ」

「それはこっちのセリフだわ。敗北という得がたい経験を2度も刻んでくれてありがとう。そのお礼は決勝リーグで果たさしてもらうわ。その時はあなたたちに銀メダルをプレゼントしてあげる」

「ふふ、楽しみにしてるわ。――じゃ、決勝で」

「ええ、――決勝で会いましょう」


 再戦を近い彼らは別れる。

 優雅に手を振ってくれる双子に手を振り返しながら、健輔はこの光景をその胸に刻む。

 涙顔でこちらを睨む小さな少女とその傍でにこやかにこちらを見送ってくれるサラに同じように笑顔を返して彼はこの合宿を改めて振り返るのだった。

 実り多い合宿だった、自分がどこまで通用するのかはわからない。

 だが、認めてくれたこの人たちに恥ずかしくないように戦おう。

 それだけはしっかりと誓い、ゲートの方へと向かっていく。

 異国の友人たちの姿をその目に焼き付けて。


「またね!」

「ふふ、元気で!」


 ゲートの方へと向かっていった日本の友人たちに彼女たちはその姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

「行っちゃったわね、ヴィオラ。寂しくなるわ」

「そうですわね、お姉さま。でも、また会えますもの。ちゃんとそこに行けるように頑張りましょう」

「ええ、練習は嫌いだったけど、もう嫌がりませんわ。今度こそ健輔様に私たちの強さを覚えてもらいましょう」

「そうですわね、お姉さま」


 決意を固める双子の傍で堪え切れなかった涙が零れてしまった次代のエースがいた。

 友人の妹の涙を優しく拭いながら、サラは語りかける。


「アリス、最後までよく耐えましたね」

「お、お世話になったから、き、きちんと、さ、最後まで」

「偉いですよ、あなたはハンナではありません。今回の合宿はあなたに姉以外の目標を与えてくれたました。そして、ライバルも見つかりましたね。今度、戦う時に成長したあなたを見せてあげなさい」

「は、はい」


 周囲は優しくその様子を見守る。

 どちらのチームも再会を信じて駆け抜ける。

 お互いの勝利を信じながら。


「さあ、私たちも帰るわよ! アリスもしっかりしなさいよ。まずは、国内制覇! 打倒ナルシストよ!」

「ちゃんと皇帝って言いなさい」

「あんなのナルシストでいいのよ。さあ、英気を養いましょうね! 夏は戦い通しだったから流石に疲れたわ」

 

 彼女らも別のゲートに向かって歩き出す。

 夏は終わり、秋を迎える。

 運動の秋、戦いの秋、勉強の秋。

 魔導においてそれは全て1つのものに集約される。

 世界魔導大会、それの本格始動と言う意味に。

 戦いの幕がついに幕を開ける。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

これにて第2章終了です。

次回から第3章になります。

ようやく本番という偉く長い前置きでしたがお付き合いいただいた皆様に感謝を。

主人公もようやく活躍し始めるのでその辺りもご期待下さい。


次回の更新ですが1週間はお休みをいただくかもしれません。

プロットの整理などがあるためはっきりとは断言できませんが余裕があれば1話更新したいと思っています。

皆様のご理解ご協力の程をよろしくお願いします。


長々となりましたが読んでくださっている皆様のおかげでここまでこれました。

これからもお付き合いの程よろしくお願いします。

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