第51話
「みんな、お疲れ様ー。各々有意義に合宿を過ごしてくれたみたいで嬉しいよ、うん本当に嬉しいからね? だから、嘘くさいなって表情しないで! もう大丈夫だから!」
真由美は会議室に集まったチーム全員に労いの言葉をかける。
2日間に渡る最終確認も終わり、明日に控えた合宿最後にして最大のイベント、チーム対抗の模擬戦の作戦会議が行っている。
昨日の健輔の戦いからアップダウンを繰り返していた真由美のテンションもようやく元に戻ってきていた。
その間に見せた醜態によって今だにからかわれているが、これもチームリーダーとしての真由美の人徳だろう。
明るい雰囲気で始まった作戦会議。
少し浮ついた感もあるが長かった合宿の最後を締めるものだと思えばそれも仕方ないことだろう。
「はい! 注目! いい? 集中できたよね! では、さなえんよろしく!」
「無理矢理だな」
「いいから、先に進めて!」
「わかった、わかった。まずは全員楽にしてくれていいぞ、合宿お疲れ様だった。まだ1日残っているとはいえ最後は今日までの成果をぶつける日だ、事実上の合宿は今日で終わりとも言える」
全員の顔つきを見渡すためか、そこで一旦言葉を区切る。
「全員ここに来る前より各々の課題も見えてきただろう。今年が最後の我々3年も、去年の鬱憤を晴らす2年も、そして初めて挑む1年も中身は違えど思うところはいろいろあるはずだ。是非、大会にぶつけてくれ、これはその前哨戦だ」
「はーい、じゃあ、明日のルールについて説明するね。明日の試合形式は『陣地戦』です!」
陣地戦、読んで字の如く陣地の争奪で勝敗を決するルールだ。
双方に3つの拠点が設定されてそれの争奪を行う。
本陣1つにサブが2つの合計3つの陣地だが本陣が陥落した場合、その場で即敗退になる。
制圧の条件は陣地に立ててあるフラッグを3分間保持すること。
もしくは、フラッグを保持していなくても陣地内に敵が存在しない状態で3分間経つことのどちらかだ。
以上の条件を満たした上で本陣を落とすか、試合時間が終了した段階で保持する拠点数が多い方の勝利となる。
拠点の奪還は可能だが、あまり現実的ではない場合が多い。
奪還方法は本陣に転送されたフラッグを奪った上で5分間元の陣地を占拠することだ。
これを狙うぐらいなら本陣落としに戦力を集中させた方がいい。
ここまでなら皆が本陣狙いになるのだが、サブ陣地を落とした場合には陣地獲得ボーナスが発生する。
1つ落とした場合は、常時全体に回復状態が付与される。
大体1分で20%回復するペースでこれがかなり強力なのだ。
2つ落とすと上記のボーナスプラス、戦闘不能からの復帰時間を半減させることができる。
そのため、陣地陥落が局面を動かすことになりやすい。
「数ある競技の中でも最大人数で行われるものだ。参加人数は最大15名、最小12名となる。特徴としては交代が存在しないこと、人数が足りない場合は残機という形ですぐさま復活できるようになる」
「このルールではいつもみたいに撃墜って判定はないから気をつけてねー。本陣が無事なら自動的に本陣に転送後、バックスによって回復してもらって戦場にいけるよん」
バックスによるライフ回復に掛る時間は平均で4分。
残機による回復はすぐさまできるのが利点だが、最大人数で常に劣ることになるのは明確なデメリットとなっている。
その代わりエースクラスに多少無理をさせる形で本陣狙いなどもできるし、復活のタイミングは任意であるのも忘れてはならないメリットだ。
「勿論、通常の回復も本陣で行えるから忘れないように。ただあまりポンポン落ちられるのも問題だから過度な期待はするな」
「私たちは人数の問題で残機2の状態から始めるけど、ハンナたちがどう出るかはわからないんでそこもよろしくね、動き方がちょくちょくその辺りは変わるからね」
「つまり、今回は全員で出るってことでいいのね? 1人欠場させるのも戦略としてはありよね?」
妃里が2人に問う。
全員で出れるが出なくてもいいというのも作戦である。
今回の場合はあまりメリットがないが選択肢としては間違いではない。
「いや、流石に1人だけハブとか悲しすぎるでしょう、やらないよ。妃里、ドS過ぎると将来苦労するよ?」
「ち、違うわよ! 一応聞いてみただけでしょう!? 何より、私はSじゃないわ!」
「そこの2人は遊ぶんだったら終わってからにしてくれないか……」
じゃれあう2人を尻目に早奈恵は話を進める。
「細かい確認は個別に質問を行ってくれ、後で時間を作る。今回の本題はどういう作戦でいくかだ。本陣を重視するのか、それとも時間いっぱいまで粘るのか、だが」
「ん? 私の意見? またまた、言わなくてもさなえんならわかってるでしょ」
「……私たちのチームは本陣狙いで行くことになった。まあ、初めから防衛勝利を狙うのも消極的であれだしな」
両チームの特性から考えてどちらもガンガン殴りあうのが明白なのだ。
初めから防衛を主眼にする意味合いは小さいと言える。
そんな中、珍しく葵が作戦会議で意見を発表しようと手を上げる。
「葵か、何か意見があるのか?」
「攻撃に出るメンツは後で考えるんですか?」
「攻撃陣は機動と火力を考えて出す予定だ、お前は攻撃側だよ」
「……今回は防衛に回っていいですか?」
『え?』
チーム全員が思わず声を上げる。
1人の例外もなく葵を見つめる。
発言した当人は変わらない様子で早奈恵を見ていた。
「ふむ、理由は?」
「迎撃要員です。はっきり言って次の模擬戦は殴り負けると思いますから、実質的に『女帝』を2人に相手して挑むようなものでしょう?」
「なるほどな。真由美だけでは手が足りなくなる、と」
葵と早奈恵は本人たちだけがわかる内容で会話を行っている。
健輔など1部の事情を知らない面々は眉をひそめて会話に集中する。
(あの子って、誰だ? ヴィオラとヴィエラか、でもそれならあの子たちってなるはずだ)
健輔が知らない誰かがキーマンになっている。
健輔も相手のチーム全員を知ってるわけではない。
多少男性陣とは話したが、その中に該当する人物は思い当たらなかった。
何よりあの子という言い方から考えると、年下のはずだ。
つまり、健輔と同年代になる。
「こらこら、全員に向かって話さないとダメじゃない。健ちゃんなんか顔に疑問符が張り付いてるよ」
「ん……ああ、すまんな」
「健ちゃんとかはタイミング的に会わなかったみたいだけど、ヴィエラちゃんたち以外にもいるのよ。向こうのルーキーさん」
「あの2人が次代の『鉄壁』ならばもう1人は次代の『女帝』だ。名前はアリス・キャンベル、ハンナの妹だ」
練習中にヴィオラからちらっと聞いたことのあった名前だった。
健輔は合宿はほとんど前衛として訓練を行っていたため、絡むことがなかったが現段階でハンナに劣らない程には戦えるらしい。
向こうのチームにおける優香のような存在だ、とヴィオラは言っていた。
「あの子もいると流石に遠距離戦は少し厳しい、か。まあ、合宿中私がボコボコにしてたからね。実力も大体わかるわ」
「葵の提案はどうする?」
「うん、その感じで行きましょう。ちょっと試したいことがあるから、それをやってみたいの」
ニヤリと笑った真由美はその視線をある少年へと送る。
その少年の名は、
「健ちゃんには1人で拠点を守ってもらいましょう。もう1か所はお兄ちゃんと真希ちゃん。本陣は私と和哉君、そしてあおちゃん。残りは全員攻撃よ!」
「ふぁ!?」
「いい案だな、それでいこう」
乗り気な参謀とリーダーにより悲しいことに平部員の意見は無視されて、作戦は立てられていく。
作戦名『ワンマンソルジャー』と名付けられたその作戦は次の日の戦いでその猛威を振るう事になるのだった。
翌日――。
快晴の中、両チームは朝の清々しい空気の中で対峙する。
その構図は3週間前に戦った時と寸分の違いもない。
違いがあるとすれば顔つきだろうか、夏の間に得たものがお互いをさらなる高みに導いたという自信があるのだ。
雪辱に燃えるハンナ率いるチーム『シューティングスターズ』
再度の勝利を狙う真由美率いるチーム『クォークオブフェイト』
夏の成果を確認するためにも双方が全力でぶつかる。
『は~い、皆様~本日はお呼びいただきありがとうございました~。私放送部1年の斎藤萌技と~』
『紫藤菜月で本日の実況を担当させていただきます。両チームの皆様は試合準備の方をお願いいたします』
「賑やかな子たちね、よかったわ。あなたもそう思わない? 真由美」
「そうだね、私たちの試合にはちょうどいいんじゃないかな。今度放送部の部長にはお礼を言っておくよ。……多分ノリで決めたんだろうけど」
ハンナと真由美が穏やかな雰囲気で語り合う。
一見友好的なの様子なのに、周囲には爆発しそうな火山と爆弾がにこやかに握手しているようにしか見えなかった。
ハンナの笑顔はいつもの陽気なものではなく腹を空かせた肉食獣のようなものだったし、真由美も表情がまった変わらない張り付けたような笑顔が逆に怖い。
傍らにいる互いの参謀たるサラと早奈恵はいつも通りなのに、この違いは一体なんなのだろうか。
「合宿初日の雪辱果たさして貰うわね。そして、大会への弾みに使ってあげる」
「こっちも踏み台にしてあげるよ。もう1度、ね」
わざわざもう1度を強調する辺り真由美も性格が悪い。
言いたいことは終わったのか、ハンナは踵を返してチームを引き連れていく。
真由美も同じようにチームを引き連れて自陣へと向かう。
「健輔」
「ああ、あのハンナさんの傍にいた髪を短くして小さくしたらハンナさんのみたいになる子」
「だろうね、ちょっと以外だったよ」
圭吾の呼び掛けに応える。
日本人が持つ外国人美女というイメージを体現したかのような姉に対して、小柄な体格と幼い容貌とその筋の方には人気になりそうな人物が傍に居た。
あれがアリス・キャンベルなのだろう。
偶然にも名前にぴったりな少女のような外見を持っていた。
「でも、目が凄かったね」
「ああ、あれは確実に部長に逆襲するつもりだぞ。……気持ちはわかる」
「ああ、うん。ふふ、頑張ってよ。ワンマンソルジャー」
「……あれ、マジでやるのかな? 俺、凄い嫌なんだけど」
「部長にお願いすればいいんじゃない?」
幼馴染のどうしようもない意見に肩を落とす。
作戦の要は君だ、とか言われても出来ないことは出来ないのだ。
必死に考えた作戦が通用することだけを祈る健輔だった。
「さて、作戦は昨日説明した通りだよ。健ちゃんには負担が掛るけど拠点を1人で防衛してもらいます。フラッグは無視していいよ。相手は健ちゃんを倒さないと結局陣地を押さえられないからね。なるべく多くを引きずりだしてくれるのがベストかな」
「はい……」
「第2拠点はお兄ちゃんと真希ちゃん。ただ、真希ちゃんわかってるとは思うけど」
「はーい、隆志さんよりも前線支援を優先します」
「その通り、お兄ちゃんはいつも通りよろしくね」
「誰に言っている、俺はお前の兄だぞ」
前日のうちに決められた通りに役割が振り分けられていく。
相手の対応をどうのこうのと考えるよりも自分たちが力を発揮する前提の方が対処しやすいという考えからだ。
高度な柔軟性をなどと言っていたが早い話行き当たりばったりである。
完璧な作戦など元から不可能なので別に問題らしい問題でもなかったが。
「本陣は私、和哉君、あおちゃんで守ります。和哉君も攻撃前提でお願い」
「はい、任せてください」
「バックスはいつも通りお願いね。ただ、さなえん?」
「ああ、このルールは大規模転送があり得るからな常に警戒しておく」
「よろしく! 質問はもうないよね? じゃあ、いこうか!!」
『おーー!!!!』
健輔は第2陣地に1人で向かう。
バックスの支援は最低限、援護も最小というかつてない程最悪な状況での戦闘だが、いざ始まるとなると単純なもので少し興奮してきていた。
昨日の真由美の言葉が蘇る。
『私と引き分けた、ううん勝った健ちゃんだからこそお願いするんだ。そこを1人で守れるだけで大分状況に融通を利かせれるようになるんだ。だから、お願い』
そうまで頼まれてしまったら引き受けざる負えない。
誰がやってくるかはわからないし、どうなるかもわからないが全力でやるしかない。
「うっし、そろそろ切り替えていこう」
頬を叩いて気合を入れる。
さあ、試合の始まりだ。
『両チーム準備はよろしいでしょうか~』
のんびりとした声が実況席からフィールド全域に流れる。
健輔は彼らの担任大山里奈とはまた違うおっとりした話し方に微妙に戦意を削がれながら、アナウンスに耳を傾ける。
『両チームの準備が整ったことを確認しました。チーム『シューティングスターズ』は登録人数15対してチーム『クォークオブフェイト』は登録人数13人となりました。クォークオブフェイトのリーダーには復活権が2回与えられますので使用の際には念話をお願いします』
『フィールド構成について説明しますね~。選択フィールドは海と陸地の混合タイプです~。本陣は砂浜の上でシューティングスターズの皆様は左翼が海上陣地、右翼が陸上陣地になります。クォークオブフェイトの皆様はその逆です~』
『最後に戦闘時間は1時間になりますので、お忘れなきようお願いします! タイムアップ時、保有陣地が多い方、もしくは本陣を落とした方が勝利となります。以上が今回の設定になります!』
『では、皆様最終確認をお願いしますね~』
『……確認終わりました、ではカウントダウン開始します!』
『3』
緊張感は公式戦と何も変わらない。
『2~』
どこまで成長できたのか、その場にいるもの1人も違わずにその思いを胸に秘める。
『1』
夏は終わり、秋が始まる。
『0~』
『試合開始です!!』
開戦の号砲は3週間前と変わらない始まり方だった。
『終わりなき凶星』と『女帝』の全力砲撃。
どちらも変わらない威力を持つ流星群がこの試合を祝福する。
勝利の女神が微笑むのがどちらの星なのか、それはまだ誰も知らない。




