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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第2章 夏 ~飛躍の季節~
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第47話

 「おし、いいぞ高島!」


 和哉によって生み出された光弾の嵐による攻勢を魔力で編まれた糸の結界が阻む。

 ある意味似たタイプの戦い方をする2人。

 彼らの戦闘には共通する特徴があった、それは物量で相手を押し潰すという点だ。

 無数の光弾は主たるもの意志に従い、自在に相手に向かって放たれる。

 操作を行える系統ではないため細かい動きはない直線運動のみの射撃だが、そこそこの威力を持った光弾がかなりの速度で、しかも千を超えて打ち出される。

 単純故の強さがそこにあった。

 

 「お前は俺と似たタイプだ。攻撃方法こそ、接近と遠距離って言う違いはあるがな」

 「くっっ!!」

 「糸の1つずつを確実に操れるようにしろ、後は力押しを流す器用さがあれば、お前は前衛でもやれるよ」

 「はい! ありがとうございます!」


 糸の結界は接触する光弾の魔力を吸収する。

 相手の魔力に干渉することもできる操作系のみが成せる技だ。

 抵抗力の高い相手には効き難いが、意識の外からならば効果的な攻撃になる。

 健輔とはタイプが違うが戦闘スタイルは全距離に主眼を置いた万能型それが高島圭吾である。

 健輔が手札の多さからの万能なら彼は器用さからの万能とタイプにこそ違いはあるが似た感じになったのは幼馴染という間柄故だろうか。

 

 「おし、もう1回行くぞ! 次は数を増やすからなー」

 「お願いします!」


 葵命名訓練名『ノック』和哉の投げる夥しい数の光弾を受け止める、撃ち返す、もしくは消滅させる。

 どれでいいでもいいが『全ての弾』に対応しなければならないのが大変なところである。

 訓練の主目的としては攻撃の捌き方、並びに動き方などをマスターすることになる。

 他にもいろいろと狙っている部分はあるが、この練習と1番相性がいいのが圭吾であった。


 「いくぞー!」

 「はい」


 放たれた群れを前に圭吾は10の指から伸びた糸を自在に操り、攻撃をいなすのだった。


 「ほい、お疲れー」

 「ありがとうございます」


 とりあえず1セットをやり終えた彼らは休憩しながら周囲の様子を窺う。

 ヴィオラとヴィエラの双子が見事なチームワークでゴーレムを操って、葵を相手にしている。

 超火力を持っている葵が苦手なタイプは大凡2タイプに分けられる。

 まずは優香や隆志のような高機動型、これは単純に当たらない火力に意味はないとい点からだ。

 そして、もう1つは単純に耐久が高い相手、耐久型だ。

 超火力を持つ葵が何故耐久型相手に不利なのか、正確には耐久型に不利なのではなく、ぶっ壊しても再生するタイプに不利なのだ。

 葵は基本攻撃方法が素手でしかない、真由美のような大規模火力ではなく対人に的を絞った超火力なのだ。

 そのため姉妹のようなゴーレム操者はかなり苦手な部類に入る。

 砕いても直ぐに復活してしまうからだ。


 「おうおう、やってますな」

 「葵先輩大分落ち着いて対処するようになりましたね」

 「後輩に完封負けしたからな。勝利は人を成長させないが敗北は成長させるものさ。いい加減あれくらいの弱点は飲み込んで貰わないと俺たちとしても困る。元々、試合ではそこまで怒ることもなかったんだ、ちょっと意識すれば直ぐに改善されるさ」


 人間ならば腹に当たる部分に葵の拳が突き刺さり、ゴーレムの上半身が消し飛ぶ。

 圭吾はスーツの術式がなければ健輔はミンチになっていたのだろうと、その恐るべき威力に戦慄する。

 腹パンが既に致命傷とは恐ろしい相手である。


 「うげ、相変わらずアホらしい火力だな」

 「あれ、どうやって対処すればいいんですかね? 僕の系統だとどうしようもないような気がしますよ」

 「お前、というか相手に干渉するタイプの浸透系は(すこぶ)る収束系と相性が悪いからな。運命を呪って流れに身を任せるくらいしかないな」


 合宿中によく練習をしていたこの2人はかなり親しくなっていた。

 似たような戦い方をするというのも共通項となってそれを促進したためだ。

 健輔が葵に可愛がられるのと似た感じで圭吾は和哉に合宿中いろいろと世話になったのだった。


 「さて、あんまり駄弁るだけなのもあれだ。再開するか!」

 「はい!」


 圭吾には健輔のような都合のよい手札をその場に合わせて用意することはできない。

 だからこそ彼は王道たるルートで自身を高めるしかないのだ。

 地力と機転であらゆる局面を凌がないといけない圭吾はチームの内の1年生の中ではもっとも成長のハードルが高いかもしれない。

 本人はそんな悲壮感などまったく感じさせないが、必ず思うところはあるのだろう。

 それが練習へとの態度となって表れていた。

 先行する2人に離されないためにも、凡人は只管に研鑽に努める。

 かつて、同じように積み上げた先人から大切な何かを託されていることも知らないままで。

 


 

 2つのボールを同じ高さで維持した状態で歩き回る。

 後ろからは金魚の糞のようにひょこひょこと美咲が置いていった術式が付いてきている。

 1時間程でコツを掴んだ健輔は今は維持しながら歩く、そして会話をするという段階に移行していた。

 会話相手を探して歩いていた健輔にとっては幸運なことにある人物が買って出てくれたため、順調に練習は推移していた。

 

 「すいません、剛志さんも練習があるのに」

 「気にするな。俺は運用する状況が限られている。話相手くらいにはなるさ」


 佐竹剛志、チームの2年でごつい外見に反して面倒見の良い先輩である。

 合宿が始まってから健輔は会話すらほとんどしていないが、それには理由があった。

 剛志の系統の組み合わせ――メインが破壊系、サブは身体系――が理由である。

 組んで訓練をする相手が居ないのだ、何故ならば彼の系統、破壊系は極めて用途が限定的な系統だからである。

 魔力キラーとも言われる破壊系、通常とは性質が異なるこの系統の魔力は他の魔力の効果を打ち消してしまう。

 身体の内部にあるならともかく外気に接した魔力など簡単に破壊してしまう。

 サラのような障壁タイプにとってはもっとも厄介な相手である。

 その強力な効果は自身の生成する魔力にすら影響が及んでしまうため、必然的に身体系以外とは組み合わせれなくなった不遇の系統でもあった。


 「ふむ、微妙そうな顔するな俺は自分でこの系統を選んだのだ。同情なんぞいらんぞ」

 「そんな顔してましたか?」

 「ああ、どうして破壊なんてって顔だった。そうだな、話のタネにはちょうどいいか。集中を切らすなよ、少し話してやろう」

 

 それは割と大事な話ではないか、と聞こうとしてやめる。

 そんなことは本人が1番よくわかっていることだろう、それを後輩の練習のために開陳してくれるのだ。

 意図を問うよりしっかりとこなす方が大切だ。

 制御を乱さないように集中して、先を歩いている剛志の後ろに付いていく。

 あまり口数の多くない先輩はゆっくりと話し始めるのだった。


 「勿体ぶった感じで始めたが、実はそこまで大層な理由ではないんだ。去年、入学したばかりの俺はそれこそアニメのような技に憧れて天祥学園に入学した。ん、なんだ意外か?」

 「え、あ、はい。先輩、明らかに体育会って感じだったんでアニメとかに憧れてここに来たとは思ってなくて」

 「入学理由のアンケート第1位だぞ? 俺はお前が思っている程硬派ではないさ」


 思わぬ言葉に制御が乱れそうになる。

 慌てて振り返るが幸いにも、制御のブレなどは見られなかった。

 

 「こんな言葉で集中を乱すなよ? 戦闘はもっと大変だぞ。続きだ、初めから俺は自身の肉体をメインで戦うことは決めていた。つまり身体系は最初から選択肢に入っていたんだ」

 「な、なるほど」

 「しかし、チームに入って1ヶ月した辺りだったか、ああ、ちょうど系統チェックをしたころだな。ある結果が出たのさ、身体系適性0、とな」

 「っ……それは」

 「適性がなくても案外なんとかなるが、まあ高い方がいいのは当たり前だ。とはいえ、一生懸命やれば時間は掛るが肉体には定着するからな。それよりももう1つ問題があったのさ。収束系の適性も低いというな」


 ここまで言われれば健輔にもわかった。

 剛志が元々やってみたかったスタイルは、それは、


 「今は藤島のやつがそうだな。あのように戦いたかったのさ。これで適性だけならまだ俺も粘ったのだが残念なことに魔力回路に問題が見つかった」

 「先輩……」

 「上限値が低い、というかな大魔力を流すと身体にかなりの負荷が掛るらしくてな。ドクターストップが入ったのさ。収束はダメだ、とな」


 それでも諦めきれなかった剛志は先生たちにかなり相談したらしい。

 その時の副産物で今はいろんな系統に詳しくなったとのことだった。

 

 「まあ、後は俺なりに役に立ちそうな系統を選んだのさ」

 「それが破壊系だった?」

 「ああ、不人気、ドマイナーな破壊系をな。創造系の対になる系統だがそんなところまで逆にならなくていいだろうにな」


 剛志は冗談めかして笑いながら話しているが、その選択はとても辛いものだったはずだ。

 もし健輔に同じ事が起きたならば己の運を嘆きたくなる。

 

 「破壊系は確かにマイナーでやれることも少ない。だが、特定の相手には恐ろしい程よく刺さる。特に最近増えている砲撃型などにな」


 破壊系は魔力が発動できる状態を破壊するものだ。

 そのため、身体系以外の系統とは互いに特性が食いあって能力が発動できなくなる。

 身体系は己の体内で完結している系統のため、破壊系によって生み出された魔力の影響を受けないのだ。

 接触しなければ破壊系の特性も無意味となるからである。

 しかし、外に出る魔力は必ず影響を受けてしまう、それこそ障壁だろうがなんであろうともだ。

 だからこそ、純魔力型の攻撃は破壊系に恐ろしく弱い。

 普通に纏ってるレベルの魔力で相手の攻撃を『破壊』してしまうのだ、真由美でもその特性上遠距離で剛志を仕留めることは難しい。


 「まあ、選択肢が絞られて選んだ系統だったが思ったよりもずっと俺と相性がよかった。後悔だけはしていないよ、いろいろと未練はあるがな」

 「破壊系はいろいろとデメリットも多いですからね。俺も使うんでちょっとはわかります」

 

 健輔は万能系だ、当然破壊系も用いることができるがかなり扱いづらかった。

 スーツなども専用のものを用意しないといけないのだ、そのめんどくささがよくわかる。


 「あまり嫌わないでやってくれよ? こいつはこいつでいいところもある」

 「ちゃんとわかってますよ。長いお付き合いの先輩から見て、そいつのいいところはどこですか?」

 「魔力攻撃を恐れなくていいところだな。拳を突きだせば真由美さんの砲撃も勝手に消滅する。まあ、あの人の砲撃はでか過ぎて全体に魔力を展開しないといけないからそう簡単にもいかないがな」


 破壊系は魔導にとって最重要な魔力を無効化する魔力を生み出す系統だ。

 そのため、有利な効果すらも打ち消す。

 障壁は展開できないし、スーツに掛けられた身体保護用の術式も無効化してしまう。

 今は進歩した技術を使ってスーツには魔力無効化の処置が施されているため外部環境に左右されずに触れた瞬間に防護が発動するようになっているため、参加できるようになったのだ。

 それでも障壁などの1部効果の恩恵は未だに受けることができないためマイナーな系統になっている。

 

 「そうだな、ついでだ。破壊系のあまり知られていないメリットを教えてやろう」

 「知られていない?」

 「破壊とか言うかっこいい名前が付いてるが実態攻撃力は最低の系統だ。しかし、使い方次第では化ける。藤田との相性は最悪だがな」

 「……どこでも出てきますね葵さん」

 「収束・身体系はそれだけ強いということだ、それを使いこなすやつはもっと、だな。いや、すまん話がずれたな。破壊系は防御において、真価を発揮する、ということだ。これが2年間使い込んだ俺の感想だよ」


 破壊系、その名に反して最大の効果を発揮するのは防御だと剛志は語る。

 理由は簡単だった、魔導の全ては魔力の産物である。

 それを無効化するという特性は防御でこそ発揮される。


 「チーム内で言うのなら真由美さん、伊藤、和哉、妃里さん、そして番外能力を発動した九条、これだけの攻撃をほとんど無力化できる」

 「後衛はわかりますけど、前衛もですか? 後は優香も?」

 「後衛は純魔力型の攻撃が多い、全身に魔力を纏うだけで攻撃は無効化できる。溢れる魔力を纏うタイプの前衛はその放出された魔力を潰せることから大幅な弱体化を望める。まあ、後衛と違って圧倒的とは言わないがな」


 魔力に対しては無敵に近い破壊系の弱点は純粋な物理攻撃である。

 葵の魔力で高めた身体能力で放つ拳などは最たるもので、剛志にとっては最悪の相手である。

 言うならばヘビー級のボクサーと素人が殴りあうような戦いになるらしい。


 「創造系で剣を作ったりしてるのにも強いが、まあ、そこら辺は対策してるやつも多い。ゴーレムも最近は自分の魔力で作るんじゃなくて、そこらへんにあるやつで作るやつが増えているからな。破壊系も新しい使い方があればいいんだが」

 「俺はトラップで使うのがいいかな、とか思ってますけどね」

 「ほう、いろいろ考えてはいたか、まあ、先達として楽しみにしているよ」


 話は終わりなのだろう、それっきり剛志は口を開くことはなかった。

 不器用な先輩なりに健輔に気を使ってくれたのだろう。

 健輔は自分の系統を選ぶことはなかった、だから剛志の苦悩の本当のところはわからない。

 必要な相手でなければ出場できない悔しさ、理想通りの組み合わせで活躍する同輩。

 ここにくるまでの剛志の思いは想像するしかなく、それもほとんど的を射ていないだろう。

 だから、健輔に出来るのは破壊系を使って勝利に貢献することである。

 全てを使える自分ではないとできないことがあるはずだ。

 何時の間にか自然に制御できるようになっていた魔力球を見ながら自分の目的にもう1つ追加を行う健輔だった。

 


最後まで読んでいただきありがとうございました。

次の更新は水曜日になります。

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