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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第2章 夏 ~飛躍の季節~
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第38話

 放たれる魔弾の群れに紛れて、一条の閃光が健輔を襲う。

 襲い来る攻撃をうまくさばきながら、射線をなんとか自分が望む方向へと誘導しようと、多少無茶な回避機動も混ぜてみせる。

 フェイント、強行突破と手段は散々に講じてきたのだが、疑り深い彼の先輩たちは簡単には騙されてはくれず、


「はーい、そこは私が追い込みたかったところですよー。没シュートでーす」


 こうしてまた1つ、彼の黒星が増えるのだった。


「うん、大分良い感じになってきたよー。取られるとうわーって感じになる動きが増えてきましたねん」

「そろそろ先輩のところまでは行けるかなって思ったんですけど、まだダメですか……」

「動きは悪くないけど、まだまだ素直ですなー。私の目を欺くにはちょっと足りませんよ、お客さん」


 捉えにくい人柄の真希ではあるが、なんとなくその機微を察することぐらいはもうできる。

 彼女なりに健輔の健闘を讃えているのだろう。

 葵のように、「すごい、良く頑張った」と真っ直ぐに褒めてくれる方がわかりやすいのにとつい、比較をしてしまう。

 練習を始めて既にかなりの時間は経っている、ほとんど今日1日を潰しての成果がなんとか少しだけ近づけるようになりました、では流石に情けないものがあった。

 普段の調子が上がっているタイプである健輔だからこそ、落ち込んでいるときは傍から見ても一発でわかる。

 ニヤニヤと健輔を観察していた真希は少しだけフォローを入れてくれるのだった。


「まあ、落ち込むのはわかるけどねー。私の選手としての強みはこの読みぐらいですので簡単に対応されたらそれこそ逆に私が大泣きしないといけなくなるから勘弁してくださいな」

「別に負けたのが悔しいんじゃないんですけど……」

「いやいや、君は負けたことが悔しいのさ。自分の今の実力とか理由はいろいろあるけど、そんなのどうでもよくて負けたのが悔しいんでしょ? 葵とは幼馴染よ、私。似たような負けず嫌いはよく知ってますよーだ」

「……これって励まされてるんですか?」

「さて、どっちかわかるかな?」


 口元に描かれたカーブに頭にくるものを感じながら、いつか必ずこの先輩を泣かせてやる、と心の閻魔帳にしっかりと記載する健輔であった。






「佐藤のやつ、必ず泣かせてやるって顔してたぞ。もうちょい、叩いても問題なさそうだな、あいつは」


 別行動を取っていた真希班と和哉班は合流後に夕食を食べるため移動を行った。

 1年生たちが集まるテーブルとは別の場所で、今日の成果について確認を行う中、和哉が真希に対して述べた言葉である。

 

「不屈だよね、いやになるくらい我が親友とそっくりです。実は血が繋がっているとかありそうで少し怖いかもしれない」

「だったら、楽しそうな顔を少しは隠すんだな、あれだけ反応がはっきりわかるとからかいたくなる気持ちもわかるが、宥める方は大変なんだろ?」


 1年のテーブルでは視線からビームを放ちそうなやつが、オーラを纏いながら食事をしていた。

 そんなにわかりやすく反応するから、こいつに手玉に取られるんだよと和哉は心の中でツッコミを入れる。

 その態度がさらにこの愉快犯を喜ばせるだけだと、葵と健輔は何故学習しないのだろうと彼はある疑念を更に深化させながら、話を進めるのだった。


「そっちの調子は大体わかった、だから明日からはもう混ぜてもかまわんな? 1人であの人数は俺もきつい」

「ん、オッケー。できればそのうちでいいから和哉も相手してあげてね。あんまり私相手に慣れちゃうのも問題だからさ」

「ああ、わかった。……さて、本題の方だが、九条のやつだがあいつは佐藤とやらした方がいいな。次点で葵のやつだ。前向きなやつ、というか良い感じのバカと噛み合わせた方が面白いことになる」


 この時、健輔と自室でシャワーを浴びていたある女性がでかいくしゃみをしていた。

 真希はさらっとバカ呼ばわりされた親友と、その子分をまるっとスルーして話の続きを促す。


「九条は外装が硬すぎる、冷静で頭が良い天然とか、どうやって相手をすればいいのかさっぱりわからん。あれで性根が捻じれてるならもうちょいやり易いが、逆に真っ直ぐ伸びすぎててやりづらいという凄い逸材だぞ」

「あーう、うん。優香ちんはなー、正直私でもきついかな。和哉の言う通り真っ直ぐな子をぶつけるのでいいと思う。ちょうどよく、健輔も空中での動きから見直すから、良い参考になるでしょ」

「セットで扱うヴィオラも似たようなタイプだから、纏めて健輔に処理をお願いしよう。……いや、こう言うのもなんだがあいつはモテモテで羨ましいな、うん」

 

 白々しい同輩の感想は無視して、真希は明日からの内容を詰める。

 2年生、1年と3年に挟まれた彼らはまさに中間管理職というべき仕事を淡々とこなしていくのだった。





 次の日、昨日と変わらない始まりを迎えたのだったが、健輔は避けたかった状況に陥ったことを嘆いていた。


「結局、こうなるのかよ……」


 健輔、ヴィオラ、優香、真希。

 見事に再び健輔は孤立することになっていた。

 流石の真希も幾分バツの悪い表情を見せる。

 なんせ健輔は女人地獄から解放されたばかりだったにも関わらずその平和は僅か2日で終わりを迎えたのだから文句の1つも言いたいのは当然だろう。


「いやー、ごめんよ。これは私たちの責任かな。まあ、今日1日だけだから我慢してよ」

「……いや、俺が気にしすぎてるだけですから大丈夫ですよ。それよりも今日は? 俺はてっきり昨日の続きだと思ってたんですけど、このメンツってことは違うんですよね?」

「ふふふ、うむ、良く聞いてくれました! 同じ訓練やっても慣れで対処しちゃうからね。健輔は今、頭を使う動きを覚えてるところだから、それじゃあダメなのよ。妹ちゃんと優香にもやることがあるからそれとの兼ね合わせもあるんだけどね」


 言い終わると真希はおもむろに背後に用意してあった袋の中から何かを取り出し、健輔たちに手渡してくる。

 外見はどこにでもあるリストバンドのようなものであり、何か特殊な機能がありそうな様子はない。

 三者三様の不思議そうな顔を見せている健輔たちに軽い雰囲気の笑みを返しながら真希は用途について教えてくれた。


「各々、どこでもいいからとりあえずは一か所はそれを付けるようにしてね。そのリストバンドは魔力をうまく流せないようにできてるものなんだ」

「魔力を流せないですか? 真希お姉さまそれは一体どういうことでしょうか? それでは魔導を使えないと思うんですが」

「お、流石だね妹ちゃんは。細かい説明がめんどくさいから流せないって言ってるんだけど、正確には魔力を希釈しちゃうって言うべきかな。早い話、障壁とかをうまく使えなくなる感じっていうかね。あー、説明が難しいなー」


 真希本人も混乱しているが、言われてる方はもっと意味がわからない。

 なんとなくのニュアンスはわかるのだが、流石に細かいことまでは把握できなかった。


「使うと効果は実感できるから、とりあえず後回しでもいいかな? 1回やってみた方がわかりやすからさ」

「いえ、不躾な疑問に丁寧に応えていただいてありがとうございました」

「じゃあ、本筋に戻すよ。これをどこかにつけてやることはキャッチボールです。ルールは簡単、空中機動した状態でボールを障壁で受け止めて次の人に回す。それだけだよ、注意点としては攻撃魔導は使用禁止ね? 魔導機の方で制限掛けておいてくださいな」

 

 キャッチボールなのにキャッチできないことをツッコむべきなのかと健輔がアホな事を一瞬思ったが、その思考をとりあえず脇に置く。

 

「いろいろ言いたいことがありそうな眼をしてますが、やれば楽しいし、ちゃんとわかるからさ! 今は準備をお願いしますよ」


 放り投げられたリストバンドを受け取って左腕に巻いてみる。

 周りを見てみると優香は右腕、ヴィオラは首、真希は右足に巻いているのが確認できた。

 後は魔導機に攻撃魔導を制限しておけば準備完了である。

 真希の方も用意はできたのか、一応個々の様子を確認していく。

 

「はーい、準備できたみた……え、首? い、妹ちゃんどうして首に巻いてるの?」

「え? どこでも良いとのことでしたので、もしかして首はダメだったのでしょうか?」

 

 確かに伸縮性のよいものだったが、首に巻く必要はないだろう。

 小首を傾げた可愛らしい様子のヴィオラに何かを感じたのか真希は微妙に引き攣った笑いを浮かべる。


「あー、う、うん。も、問題はないかな。……うん、ま、大丈夫でしょ。じゃあ、準備できたみたいだし、始めましょうか」

 

 

 

 空に飛びあがって直ぐに異変は起こった。

 リストバンドを付けてる場所を中心とした範囲の術式の稼働が鈍い。


「なんだこれ? 身体が重い」

「健輔様もですか? 私もすごく飛びづらいです。まるで、下から引っ張られているみたいで」

「……魔力を希釈。なるほど、2人ともバランスを取るようにしてください。リストバンドを付けてる方の魔力の流れが弱くなってます。そのせいで片側だけ重くなったような感じになっています」


 パチパチを響く拍手音、発生源は見るまでもなくわかるが視線を向けると大分愉快なことになっている真希が見えた。

 何故か、逆さの状態で空に昇って来た真希を無言で見詰める3人。

 真希は特に気にした様子も見せずに拍手を続ける。


「流石優香ちんだねー、一発で気付いて、さらには対応までしてのけるとは思わなかったよ」

「……真希さん、何故に逆さまなんですか?」

「ん? ああ、なんか空気が変だと思ったらそんなの気にしてたんだ? 優香ちんみたいに体内の魔力量を調節するのが正解なんだけど、それ高等技能なんで難しいんだよね。だから、最初からそれを前提に飛び方を考えた方が楽なんだ。だから、こんな感じになっております」


 顔が下にある状態で先輩と話すという奇妙な状態に健輔は遠い目をする。

 ヴィオラと優香は真希の解説に納得がいったのか既に気にしないといった雰囲気を見せていた。

 どうしてそこで納得できるんだ、というツッコミを飲み込み真希に続きを促す。

 ここで話を止めてしまっても、健輔が疲れるだけで何の益もない。


「……すいません、進めてもらってもいいっすか?」

「はいはい、ふふ、ご苦労様だねー」

「わかってるんだったら、遊ばないでくださいよ……」


 ふふ、と何やら意味ありげな笑みだけを返答にして、真希はボールを構えた。

 バレーなどに使うごく普通のボールがそこにはあり、障壁の上にボールを乗せている状態で真希は静止していた。


「さて、微妙にバランスが悪い状態だけど、これでやるよん。さっきもいったようにルールは攻撃魔導が禁止ってだけだから。障壁で受けるって言い方したけど、別に受けずにそのまま回してもいいから。パスする相手は誰でもいいよ。初めは止まりながら、何回かしたら動きながらやりますよー。質問はある?」

「障壁で受け止めるとは? 攻撃を止める以外に使用方法がわからないのですが」

「ぬ? ああ、このボール魔力にくっつくようにできてるから純魔力の障壁には張り付くってだけだよー」

「なるほど、ありがとうございます」


 ヴィオラは真希に対して頭を下げる。

 健輔と優香からは質問がないことを確認した真希は開始を宣言するのだった。


「では、百聞は一見に如かず。やってみようか」

 

 宣言後、障壁を健輔の方向に構えた真希は笑顔で、銃を模した魔導機を構えるとボールごと障壁を打ち抜くのだった。


「どこがキャッチボールだぁ!!!!」

 

 物凄い勢いで自分に向かってきているボールに健輔は叫びながら障壁を展開する。

 しかし、今は空中での姿勢制御が普段より難しいということが抜けていた。


「ぬあ!?」


 障壁を展開した途端、リストバンドをした方の制御が乱れる。

 慌てて障壁を解除して制御を取り返すが、そうなると今度はボールが素通しになってしまい、

 

「ぐはぁ!?」


 健輔の腹にクリティカルヒットすることになるのだった。

 

「はい、みんなはわかったかな? 服を展開してるから顔以外に当たった場合は悶絶するぐらいで済むから安心してね。ボールを保持できるのは5秒までだから素早く回すのも忘れないように」


 転送で再度ボールを呼び戻した真希は、先程と同じ構えをとる。

 

「ほら、健輔もいつまでも痛がらない。魔力を流せば痛みくらいは直ぐ消せるでしょう! 術式制御、空中制動、後は小技を鍛えるのにもってこいの練習なんだから、みんなしっかり考えて行動してね」

『はい!』

「ちょ、少し待っ――」

「1番取りこぼしが多かった子は罰ゲームだからね~。今日はこれに慣れてもらう予定だから、全力で取り組んでよー。ではでは、スタートです!」


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