第34話
健輔がパーフェクトな敗北を喫してから既に4日。
既に合宿は6日目に入ろうとしていた。
あの敗北を皮切りにしたのか、その後はペアを変えた模擬戦でも健輔が指揮を取り持った試合ではぼろ負けする日々が続いている。
葵と真希の2人からからかい混じりに突きつけられる脳筋の称号。
勝てないこともそうだが、自分の不甲斐なさに対してかなりの苛立ちを溜めこんでいた。
合宿に入ってから、というよりも魔導機を受け取ってからずっと絶好調の隣に座っている相棒(優香)とは差のある合宿スタートになってしまった。
「どうしたんですか? 食べないんですか? 健輔さん」
「いや、よくそれだけ朝から食べれるなって思って」
「そんなに食べてませんよ? まだパンは3枚目ですもの」
隣で朝から見た目と雰囲気を裏切ってかなりの量の食事をする優香を見ながら、微妙に羨ましく思っている自分に自己嫌悪を抱く健輔であった。
『健輔、遅くれてるぞー。優香ちゃんはもう先に行ってるよー』
葵からの念話が入る、そんなことは追い抜かされた本人が1番よくわかっているのだ。
わざわざ、焦らすようなことを言うな、と心の中で悪態を吐く。
前衛は機動、並びに瞬間的な判断が重要になる。
今やっている練習では、指定されたコースをどれだけ早く、途中で表れる標的を落とさずいけるのか、というものだ。
現在、ぶっちぎりで優秀なのが優香である。
高機動型の速度に合わせて、撃ち漏らしのない正確な攻撃と、非のつけどころのない成績となっていた。
時点が葵、続いてサラ、健輔、ヴィエラ、ヴィオラとなっていた。
『ほいほい、ゴールおめでとう。1週したからサラさんからね。妨害も入るから気をつけてくださいな』
「お疲れ様です、健輔さん」
ゴールについた健輔を優香が出迎える。
律義な彼女に笑顔を返しながら、またタイムを縮めたことを祝福する。
「ありがとさん、そっちもまた早くなってたな」
「ありがとうございます。健輔さんも動きが見違えてますよ」
前衛の練習を本格的にやるようになってからというもの、見た目よりずっと難しいそれは自分が前衛を舐めていたことをいまさらながらに認めることになっていた。
まず、後衛よりも考えることがずっと多い。
深く考えずともとりあえず、ぶっ放しておけばいい後衛と違って健輔のような生半な実力で脳筋プレイなんぞすると、直ぐに空からさよならすることになってしまっていた。
立ち位置、避ける場所など他にもいろいろあるが、最初は経験不足故か間違った選択をしてしまうことが多く、慣れるまで大変だったのである。
「なあ、優香、そう言ってもらえるのは嬉しいんだが、実際のところどれぐらいよくなったと思うよ? 実感が全然なくてさ」
「言葉にするんは難しいですけど、そうですね。高度の取り過ぎや、逃げる場所の選択や全体把握能力、後は体捌きもです。全体的に無駄が減って来たと思いますよ」
合宿は問題点の改善は当然行う場所である。
しかし、自覚させることと違って修正は言う程簡単にできるものではない。
ついこの間、問題を自覚したから大丈夫だ、と調子に乗ってボコボコにされた本人がそう言うのだから間違いない。
あれからは意識して、最後まで考えるようにしている。
試合などでは最後まで勝利へとの道筋を考え抜き、結果として全てを以って貢献してきたのだが、まさか自爆を封印させると、こうまで勝つことができないとは思ってもみなかった。
「こんなに自爆頼りだったとは、我ながら自分のことには興味なかったのかな」
「自爆ですか? 健輔さんのやり方は別に悪くないと私は思いますよ。ただ、それ頼りにしていると先がないから、今回は封印してるだけではないですか?」
「ん? ああ、いや別に方針がいやだとかじゃなくてさ。力押し、だと言われてたのに段々と納得がいく感じになっただけだよ。ヴィオラとかを見てると、賢い戦い方してると思ってね。負けてられないな、と」
今はまだヴィエラとヴィオラの2人にはそれぞれ単体なら勝てるが、慢心していいものではないだろう。
特にヴィオラは何度かペアを組んでいる分、段々と戦い方に変化を付けているがわかるのだ。
もう1度、正面から戦って勝てるか、と言われると正直なところ自信がなかった。
「お話中申し訳ありません、私たちが終わりましたので次は御2方の番になります」
「あ、ああ。ありがとう。行こう、優香」
「……はい、ヴィオラさん、ありがとうございます」
「いえ、お気をつけてください」
急に声を掛けられてそれが思い浮かべていた人物だったため、反応が遅れてしまった。
合宿の最中にも関わらず、我ながら腑抜けている。
両頬を強く叩き、気合を入れ直して、コースへと挑む。
想定タイムは10分で回ること、優香は8分、健輔が11分だ。
なんとか差を縮めたいと、思いながらスタート位置へと入るのだった
「健輔は真面目だねー。嫌いじゃないけど、もうちょっと肩の力を抜けばいいのに」
コースに入った後輩を見る葵はそんな感想を漏らす。
傍でそんな葵の呟きを耳にしたヴィエラとヴィオラの姉妹は、不思議そうに顔を傾げる。
「葵お姉さま? 力を抜くとはなんなのですか?」
「健輔様はよくやっていらっしゃると思うのですが、女性だらけの中でやりづらいでしょうに文句の1つもおっしゃいませんし」
双子の問いかけに葵は苦笑する。
そう言った部分は葵も素直に評価しているし、すごいと思う。
しかし、今回はまったく別の部分の話であった。
「あの訓練って前衛用のものだけど、よりしっかりと言うなら高機動型の訓練でしょう? 指定されたコースを推奨時間内にゴールするってやつだけどね」
基本はそういった形式になっていて、難易度を上げると進路上にターゲットが設定されてそれの撃破数なども得点対象になる。
今は、ターゲットを配置した上で、妨害の遠距離射撃がハンナと真希により加えられるようになった上級レベルの訓練を行っている。
あの手、この手で頑張っている健輔だがタイムも撃破数も、基準には届いていない。
2日程前からゴールはできるようになってきてはいるが、本当に必要最低限というレベルしかなかった。
「あの訓練は優香に有利すぎる、だから、そこまで思いつめなくていいのに、という葵の優しさですよ、ヴィエラ、ヴィオラ」
涼やかな声で割って入ったのは、淑やかな美人、サラ・キャンベルであった。
品のある雰囲気を彼女を3つほど年上の女性と思わせるほど包容力に溢れている。
ハンナが太陽のような明るさを持つなら、彼女は月のような暖かさを持っていた。
「さ、サラさん! ちょっと、いや、違わなくはないけど」
「まあ、ヴィオラ? 葵お姉さまお優しいわね!」
「そうですね、お姉さま。健輔様もきっと喜びますわ」
図星だったのか少し顔を赤くした葵に、サラはクスクスと品の良い笑みを作る。
双子も嬉しそうに葵を見ているためか、恥ずかしくなった彼女は顔を伏せる。
そんな様子が可愛かったのか、サラは笑みを深くして続けた。
「健輔さんは万能系、別に前衛として配置されたからと言って前衛のセオリーで戦う必要性はありません。もし、仮にそうしても単に実力不足な前衛になるだけです。彼の最大の長所は矢として放たれたものが、途中で爆弾になったりすることです。前衛の真っただ中にいきなり、移動砲台が現れたりしたら戦場は混乱するでしょう?」
「ね、ねえ? ヴィオラ、どういうことなのかしら? 私、難しい事は少し苦手なの」
「お姉さま、簡単なことですわ。なんでもできる健輔様はなんでも使えば良い、ということです」
「そ、それなら、私もわかるわ。真希お姉さまも言ってたもの、もっと自由にやればいいのに、と」
双子の微妙にずれた会話にサラは微笑みを返す。
恥ずかしくて顔を伏せていた葵にも、そんな会話は聞こえていた。
根が真面目だからなのか、それとも真由美との訓練によるものなのか、意外と型を気にする健輔は徐々に柔軟性を失ってきている。
前衛・後衛の訓練を重ねるほどにそのセオリーに捉われてしまっているのだ。
「健輔さんはセオリーを知った上で逆手に取る、ぐらいの気持ちでかまわないのです。まあ、今のあの我武者羅な感じならそれほど心配しなくていいと思いますよ、葵」
「心配、というか割とストレス溜まってるみたいだから大丈夫かな、と思っただけですよ」
その場にいる誰もがそれは心配というのでは、とこの不器用な先輩に微笑ましいものを感じたが、各々心の中に言葉をしまい込んだ。
指摘しても必死に否定の言葉を吐き出すのが目に見えているからである。
「ふふふ、いえ、そうですね。まあ、あれは男の意地というやつでしょう。非合理的かつ、非論理的ですけど女はそれを見守ってあげるものですから、葵もそれぐらいでいいと思いますよ。健輔さんは精神の自立性なら優香よりも余程、完成されています」
「サラさん……」
「問題がはっきりとわかりやすい子の方がまだ、良いですよ。真由美も悩んでるでしょうね。本当は自分が付いておきたいのでしょうけど、彼女はやることが多いですから、次善の選択だと言うわけです」
いつも余裕を失わないサラが少しだけ影のある表情で呟く。
ヴィエラは珍しい様子のサラを見詰め、ヴィオラは華麗に空を舞っている戦乙女を憂いのある表情で追いかける。
「本当に、みんなが健輔さんのようにわかりやすい方なら遣り易いものですよ。あの子のように多分、自分でもよくわかっていない子の方がずっと大変です」
3セット遣り終えた2人がこちらに戻ってくるのを見たサラはそう言って、話題を終えるのだった。
「健輔もボコボコなんだ? 僕も真由美さんに毎日のように叩きのめされてるよ。僕の立ち位置は中途半端だからね。いろいろやれるようにならないといけないからさ」
夕食の時、他のチームのメンバーもそれぞれ仲が良いメンツと自由に食事を取っている。
ほぼ、1日女に囲まれている健輔はこうやって同性と語り合える時間でストレスを解消していた。
もっとも、話題は必然といっていいのか合宿に関することばかりであったが。
基本的に魔導オタクといってもいいやつしか存在しない、天祥学園のメンツならば何も問題はなかった。
「どうしても、自爆とか考えてしまうんだよな。早く試合でもやって矯正したいところだわ」
「健輔らしいというか、よく頑張れるね。まあ、安心してよ明日の模擬戦終わったら、メンツ入れ替えるというか、僕は合流するからさ」
「頼むわ、別にいやじゃないんだけど、流石に男1人は気後れするよ」
健輔も立派な思春期の青年である。
標準以上の美人ばかりに囲まれて何も思わないわけがない。
シールドで防御されてるのと、制服を再構築すれば元に戻るため滅多になかったが海水で服が張り付いた様などを見ると鼻血を吹きそうになってしまったことが何度かあった。
流石外人というべきか、相手チームは皆、意外に良いプロポーションを持ってそうであり、そんな目で見てしまうことを自己嫌悪したりと魔導以外にも彼を悩ませるものがあった。
「本当に、しんどいんだよ……。向こうの人スキンシップ多いし……心が折れそうだわ」
「疲れてるね、まあ、愚痴は聞きますよ」
その夜、健輔と圭吾だけでなく合宿に参加している男性メンバー全員が集まり、好みの女性暴露大会などで盛り上がるのだった。
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