第30話
「ねえ、真由美。あなた、なんていうか脳筋方向にいきすぎじゃない?」
「あのねえ? 反省会の第1声がそれってどういうことなの?」
先程までは戦っていた間柄の両チーム。
しかも、勝者と敗者と別れているのだ、当然ミーティングルームは妙に息苦しい沈黙に支配されていたのだが、そんなことは気にしないハンナは軽くそれを吹き飛ばす。
計算されたものなのか、それとも天然なのかわかりにくいものだったが場の空気がよくなったのは事実だった。
2面性があり、性格が読みづらい。
なるほど、ライバルで親友になるわけだと健輔は内心で妙な納得をしていた。
「前はもうちょっと慎重な性格だったと思ったんだけど……ま、いいわ。今のあなたも素敵だもの、今回の作戦はすごく楽しかったわよ」
「褒めて貰えて嬉しいけど、割と危ない橋を渡っているからもうやりたくないね。あれ、途中で気付かれてたらそれだけで崩れるもの。とても作戦と呼べたものじゃないよ」
「あら、それに負けた私たちはどうなるのよ? 真由美、謙虚なところはあなたの美徳だけれど過ぎれば毒よ。素直に称賛を受け取って欲しいわ」
「2人とも、じゃれあいは後で個人的にやれ。時間は有限なんだそ? サラ、すまないが話を進めて貰っても構わないか?」
「わかったわ、隆志は補佐をお願い」
仲良く喧嘩している2人では話が進まないと感じた隆志が、サラを促して反省会を進めようとする。
立ちあがったサラは1礼すると、進行始めるのだった。
「まずは皆様、お疲れ様でした。お互いのチームの力量というものがよくわかったと思います」
両チーム合わせて30名近い人数が存在する部屋でサラの涼やかな声が響く。
真剣な様子で耳を傾ける1年たち、何故かおもしろそうな2年、粛々と準備を進める3年と微妙に統一感がない環境でサラは続ける。
「合宿の結果を組み込んだうえで再度合宿の予定について連絡しますね。隆志」
「さて、合宿内容は簡単だ。期間は3週間、各チーム相手からいろいろ学べるように気合を入れていけ。合間に特殊ルールの模擬戦なども行う。今のうちじゃないとできないものがあるからな。次は模擬戦の反省会だ。真由美、ハンナ」
隆志の声に2人は立ち上がって、正面の方に移動する。
全員の視線が集まったことを確認すると、話し出す。
「まずは皆さん、お疲れ様でした。結果は私たちの勝利でしたがお互いに課題も多い試合だったと思います。今後の本戦のためにもお互いの長所を学習しあえる、実りの多い合宿になればと思っています」
「じゃあ、先に私たちから行くわね。まず、みんなに認識しておいて欲しいことは真由美のチームと私たちは相性が悪いということね」
快活に話すハンナは一切に虚飾なしに言い切った。
動揺をみせる1年たちと違い、上級生たちはわかっていたのか、当然のことを聞いたかのように何も反応がない。
「言いわけに聞こえるかもしれないけど事実よ。私たちの特色は私の弾幕とサラの防御力、この2つを補佐する形でチームができているわ。そう作ったし、それはうまくいっている。どんな局面でも安定して力を発揮できるチームと自負しているわ」
前衛はサラを補佐するメインが身体系、サブが創造系の高機動型が2人。
後衛はハンナを補佐する同系統の魔導砲台が2名。
相手はこの火力を前に突入すれば普通は幾分か消耗することは避けられない。
うまく突破できたとしても、サラとの持久戦が待っている状態では、撃墜の可能性は十分にあった。
「だから、私たちの課題は軸になっている2つ、私とサラに対処できるチームに対してどうするのか、ということが重要になるわ。真由美のチームはそれを両方満たしているチームよ、うまく対応できるようにならないといけないわ。特に1年には頑張ってもらうから、いいわね?」
『はい!』
言いたいことは言い終えたのか、ハンナは真由美に流し眼を送る。
妙に色っぽい親友に苦笑しながら、話を引き継ぐ。
「こちらのチームはハンナのところとは逆。チームとしての動きを生み出すために改めて自分の長所と短所を再確認し直します。今は個々のタレントに頼った力押しになっています。……別に誰のせいでもないけど、ポンポン自爆する思考に私も最近汚染されてるようだから、以後はなるべく自重しようと思ってるから、心当たりのある人は同じようにして下さい」
該当する人物たちは素知らぬ顔で一体どんなやつなんだという雰囲気を出していたが、該当者の片方である男子は隣に座っていた相棒に笑顔で「自爆以外の技で頑張りましょうね」、と言われて撃沈されていた。
無邪気に1人の男を沈めた後輩に末恐ろしいもの感じながら、真由美は続きを語る。
「少し話が逸れたけど、チームとしてのパターン確立が目的の1つになるわ。爆発力に優れるが安定性に欠ける、いい加減そんな風に言われるのも飽きてきたし、なんか舐められてるようでいやだから、しっかりと記憶しておくように」
言い終わった真由美は隆志に視線を向けるとハンナを伴い、自身の席に戻る。
「では、今回の模擬戦の振り返りを行うぞ、映像を見ながらになるから電気を落としてくれるか? ……、ありがとう。では初めていこう。まずは――」
隆志の進行で問題点のピックアップと互いの感想を言い合う形で反省会は進む。
途中、真由美の自爆ブラフ作戦が多大な突っ込みを受けながらも終始和やかな感じで進んでいき、全体での反省会は滞りなく終わり、一時解散となるのだった。
別れた後はチームごとの反省会である。
大凡は既に話し終えた後であるため、どちらかというと個人ごとの練習についての通達と言えるだろう。
「はい、お疲れ様です。既に耳にタコができるくらい聞いたと思うけど合宿ではチームとしての軸を作っていくことになるかな。弱点を埋めれるペアでの連携の強化を行い、安定性を引き上げるよ」
「前もって通達していた形に追加でいく。九条、葵、佐藤のペアに真希を加える。九条が自爆症候群にでも罹患でもしたら事だからな」
早奈恵の冗談なのか本気なのかもわかりづらい言葉に対象とされた2名は微妙な顔で抗議の視線を向ける。
真顔で冗談を言う早奈恵は其処ら辺が大変わかりづらいのである。
「早奈恵、いい加減にいじるのもやめてあげなさい。そこの2人はともかく真由美はそろそろ泣くわよ」
「泣かないよ……。まあ、健ちゃんには真っ直ぐ伸びてもらわないと困るからしつこく言っておくけどね。試合ではいいけど練習では自爆に頼らないようにしてね」
「あ、了解です! 練習では封印しますよ」
実際、健輔も練習でも自爆するのはやめた方がいいと最近は思っていたので、この提案は渡りに船であった。
強力であり決め手になる技だからこそ、安易に頼りすぎると成長が阻害される。
これは健輔だけでなく、チームの上級生が思っていることだ。
「4人組にしたのは向こうからお願いがあったからなんだ。向こうはハンナ、サラに1年生の子を2人加えたメンバーで組んでるんですって、そこと合同だから人数合わせる形にしました」
「他のメンバーは前もって連絡した通りだ、バックスは私、引率で向こうと研究合宿、真由美側の細かいことは本人に直接聞いてくれ」
「葵ちゃんはしっかりと引率をお願いね。あなたはそれを含めての合宿だからね?」
「わかりました! 藤田葵、ご期待を裏切らないように頑張ります!」
ハキハキした物言いだったのが逆に不安を掻き立てる感じになっている。
何より、健輔はある1つの懸念を抱いていた。
葵も不安だが、彼女の親友である伊藤真希も同じぐらい苦手な相手なのだ。
それに加えて訓練相手は『女帝』と『鉄壁』だ。おそらく、残りの1年も向こうのホープと言うか期待されている存在であるはずだ。
その環境でやれるのか、というのが1点。
そして、もう1つ、生理的に勘弁して欲しいことがあった。
「すいません、ちょっといいですか?」
「うん、健ちゃん? 何か、疑問でもあるの? 別にいいよ」
「訓練に関することは特にないんですけど、1つ確認したいです。……もしかして、俺たちのグループ俺以外全員女性とかだったりしないですよね?」
微妙な沈黙が部屋を満たす、あっ、やばいといった感じの表情を真由美がしたことを健輔は見逃さなかった。
……これは間違いないだろう。
南の島、常夏の国で美少女たちと戯れる。字面に起こせばまさしく男ならば誰もが望むシチュエーションだ。容姿的には一級品揃いである仮にこれが水着とかなら完璧だ。
さらに遊泳にきたとかなら倍プッシュである。
しかし、現実は残酷だ。
百歩譲って友人関係と言える人たちが3人で残りは初対面という女性の群れに男が1人、しかも長時間の訓練で放りこまれて楽しいはずがない。
何せ、健輔は訓練でボコボコにされにいくのだ。
男のプライドなどと言うものはとっくの昔に砕け散っているが追い打ちをかけるのはどういう量見なのか。
「ちょ、勘弁してくださいよ……。流石に1人はやりづらいですよ」
「あーうん、そうだよね。後で誰か合流させるからしばらくは耐えてもらってもいいかな? ハンナの練習厳しいから、そんなに余裕ないとは思うけどやりづらいのはわかるからね。こっちの配慮が足りなかったよ、ごめんね」
意図してそうなった訳ではないのがわかるため、健輔としてもこれ以上はどうしようもない。
ニヤニヤしている葵と真希の上級生コンビと、健輔が何に困ってるのかわからないがとりあえず笑顔を浮かべている優香というどうみても自分がツッコミ続けることになるだろう明日を思って肩を落とす健輔だった。
「そういう訳なんで、後で1人男の子を追加するね。ちょっと配慮してもらえるとありがたいかな」
「わかったわ、こっちもそれは考えてなかったわ。健輔くんには後で私からも謝っておくわね」
反省会は終わり解散した後、夕食の準備のため1部を除いてメンバーが去った部屋で両チームの首脳は話し合いを続けていた。
健輔の話題も含めて今後についての最終調整を行う。
手元には自分たちを含めたチームメイトの能力を『国際魔導検定』の基準で評価したものがあった。
「それにしても万能系というのは怖いものね。全系統の能力がオール3だなんてね。総合評価もこの時期に5って大したものじゃない」
現実的なスキルであり、未だ未知の部分多い魔導であるが社会的な役割がある以上客観的な能力を証明するものは必要になる。
もっとも、そこまで社会に浸透していない現状だと彼女ら魔導師がチーム内の戦力を数値換算する際に使用するのがメインになっていた。
「その分大変なんだよ? 学習方法も手さぐりの系統だからこれで大丈夫なのか不安になるし、いろんなところに相談する分、労力も大きいんだから」
「そういう真面目なところは変わらないわね? わかったわ、ちょっと問い合わせてみるわね。そっちとは別の視点で研究してるだろうからお役に立つのか、わからないけど」
「アメリカはスポーツ利用よりも軍事利用したい企業が多いもんね、クリアするべき課題が多すぎて、正直割に合わないと思うんだけどな、個人的にはね。それにしても、私たちも1学生なのにやること多すぎじゃないかな?」
真由美とハンナ、この年代では飛び抜けた能力を持つ2人だが彼女らも学生であることは違いないのだ。
自主・自律・自立を進める魔導学園では学生に与えられる権限が大きい、当然その分責任も重くなる。
「やりがいはあるんだからいいじゃない。私は楽しいわよ」
「それは私もだよ。……話を戻すよ、健ちゃんの練習なんだけど、とりあえず満遍なくやる感じでお願いね? 魔導戦隊の方は1つを突きつめる形でやってるらしいから」
「差別化しろというわけね? 本人もそれを希望している、と。なんというか都合がいいわね。わかったわ、明日はそんな感じで叩いておく」
この時、友人や先輩と共に明日のことを話していた健輔は強烈な悪寒に襲われたことを後に親友に語るのだった。
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