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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第4章 冬 ~終わりの季節~
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第281話

 1度、宿舎に戻り、2人は椅子に座って相対する。

 天祥学園に戻ることも考えたのだが、時差などを考慮すると流石に今の時間帯は早すぎるだろう。

 2人だけで落ち着ける場所であれば良いのである。

 圭吾は向こうに戻っているし、ここでなら邪魔は入らなかった。


「……ほれ」

「ありがとうございます」


 飲み物を出して、健輔も席につく。

 優香の表情は大分前に見た感情を見せないものになっている。

 それだけ、優香にとって先ほどの告白は重いものなのだろう。

 『桜香のようになりたい』。

 この願望で発現する空間展開など容易く想像が出来る。

 傾向としては、皇帝と同系統でたった1人に特化した形のものが誕生するはずだ。


「優香、1つ聞くが……」

「はい。なんでもどうぞ」


 ここで健輔は珍しく言い淀んだ。

 直球で言うべきか、それともオブラートに包むべきか。

 回りくどい手段を嫌う男が、その辺りに気を回していた。

 九条優香を傷つけるようなことは流石に避けたい。

 健輔はそう思うほどには、優香のことは大切に思っている。

 同時に、ここで直球を避けたところで意味があるのかという問題もあった。

 あれこれを僅かに悩み、そして答えを出す。


「ふぅ……。桜香さんになりたい。でも、なりたくない。お前の感情はそんなところか? 後は嫉妬する自分も嫌だ、とかだろ」

「え……嘘」


 優香の呆然とした顔、驚いたような顔に健輔は努めて感情を消して対応する。

 前々から美咲には相談を受けていたのだ。

 優香は真面目過ぎるから、気を付けて見て欲しい、と。

 同性で一緒に居る時間が最も長い美咲の言葉である。

 健輔は無条件で信じたし、少し観察すれば優香が抱えていることなど簡単に想像がついた。

 桜香に憧れる。

 あんな姉がいて、同じ道を進めばそれは至極当然の感情だろう。

 健輔は兄弟などはいない一人っ子だが、そういう感情と無縁だったことなどなかった。

 姉妹という最も近い場所にいれば、憧れるのも無理のないことである。

 問題は、優香があまりにも純真に過ぎることだろう。

 成長すれば、嫉妬なり何なりと綺麗な話だけでは済まない部分も出てくる。

 それが当たり前だし、ある程度はそれを飲み込んで人間とは生きるものなのだが、健輔の目の前にいる少女は疑うということを知らない少女だった。

 姉は素晴らしい、凄い。

 ――では、それを妬む自分はどうなのか。

 あまりにも純朴すぎる問いであろう。

 健輔ならば、それはそれ、これはこれであっさりと解決してしまうが、この不器用な少女にはそれが出来ないのだった。


「別に俺が読心術を使える、とかじゃないよ。まあ、思ってるよりも優香はわかりやすいってことだな」

「……そ、そんなことないですよ。それに健輔さんに言われたくないです」


 小声で拗ねたように言う優香に健輔は怯む。

 こんなところで反撃されるとは思わなかった。


「……水掛け論になるし、やめない?」

「そ、そうですね。ごめんなさい……」

 

 辛そうな顔をしていたのに、今は少しだけバツが悪そうな顔になっている。

 思わぬところで脱線したが、結果的には良かったと言えた。

 深刻な悩みだとは思うが、深刻に捉えられすぎても困るのだ。

 健輔の行いで、そこが僅かでも緩んだと言うのなら嬉しいことであった。

 悩みなど言うのは、振り返ればくだらない。

 そんな風に健輔に教えてくれたのは、葵だっただろうか。

 同感であるし、間違っていないとも思った。

 しかし、優香にそんなものだと素直に言ったところで納得は出来ないだろう。

 優香に必要なのは、彼女が描く桜香を受け止め、返り討ちにしてくれる存在だ。

 そんな存在はこの星にたった1人しか存在しない。


「優香、1つ提案があるんだが」

「はい? なんでしょうか」

「次の試合、お前は控えに回って欲しい」

「……え、それは、一体」


 驚く優香を健輔は真剣な瞳で見つめる。

 真由美たちにもまだ言っていないことがあった。

 次の試合、対パーマネンスにおいてクォークオブフェイトはまだその戦い方を決め切れていない。

 優香の本懐を果たすためには、最強の魔導師を撃破する必要がある。

 そのためには、健輔も一皮剥けた存在になる必要があった。

 相棒たる少女が己の内面を曝け出してまで、助けを求めたのだ。

 成就させてやりたいし、何よりも健輔は優香の力になりたかった。


「お前を決勝で桜香さんと戦わせる。……本物と想像の違いを教えて貰えば良いさ」

「そ、それは……でも、姉さんには知られたく……ないです」


 優香は悲しげに健輔に告げる。

 言いたいことはわかるが、どういう形になるにせよ、桜香との対決は避けられないだろう。

 いつまでも避けては通れないのだ。

 後ろめたい、という気持ちはわかる。

 優香が桜香を避けていた理由が先ほどのものだとすれば、桜香に非など存在しない。

 それなのに負担を掛けてしまったのは、優香の我儘なのだ。

 後ろめたく思うのは、正しい感性だった。

 それでも健輔はここで強く推す。

 この世でただ1人、優香だけは桜香に妙な遠慮はいらないのだ。

 桜香も全力で、そして正しくぶつかってきてくれることを望んでいるはずだった。

 そのために道を作って見せよう。

 世界最強は健輔が必ず打倒する。


「パーマネンスの戦いで、俺は皇帝に勝つ。だから、全部を出して桜香さんに挑むんだ」

「……健輔さん」

「俺があれこれ言って、慰めるとか、そういうのは出来るさ。でも、性分じゃないんだ。……悪いな」

「……いえ」


 もっと気が回る男ならスマートな解決策が出てくるのだろうが、健輔には優香を爆発させるくらいしか思い浮かばない。

 遠慮して、大人びているから姉に理不尽な不満をぶつけることが出来なかった。

 優香の心の根にはそれがある。

 だからこそ、全力でぶつけろ。

 それが健輔の結論だった。

 細かい理屈などは心底どうでも良かったし、これが正しいと確信している。

 間にある障害も健輔が取り除けば良いのだ。

 桜香と優香。

 2人分の約束、いや、フィーネやアリスなども合わせれば何人分になるかもわからない約束。

 果たすために超えるべきは、己であり、最強であった。

 女性の思いを背負って戦うのは男の本懐である。

 健輔は勝利だけではなく生き残るための戦いを誓う。


「……約束、ですよ」

「ああ、約束する」

「じゃあ――」


 白くて綺麗な指を差し出す優香に健輔は無骨な指を返す。

 絡む小指は誓約の証。

 笑顔で微笑む優香に、必ず勝つことを誓って、2人は別れるのだった。






「今日は九条とデートだったのではないか?」

「いや、まあ、それは終わった感じです」


 宿舎の1室。

 隆志の部屋を訪れた健輔は、若干赤い顔で部屋の主と会話していた。

 思い返せば、すごいことを言ったような自覚がある。

 勢いと流れ、後は酩酊に任せた感じだった。

 雰囲気に寄ってとんでもないことを言った自覚がある。


「部屋にやって来て悶えるな。男の後悔なんぞ見てもきもいだけだ」

「ぐっ、わ、わかってますよ。本題は別です」


 健輔の決意の表情を見て、隆志は大体何が起こったのか察する。


「ははん、何か約束でもしたか? 差し詰め、必ず決勝へ、とかそんな感じだろう? 青春だな」

「……す、進めてもいいですかね?」


 ツッコミを耐えて、隆志に笑顔で話を促す。

 心の内を読まれるのは心底恥ずかしかった。 

 おまけに優香に似たような事をやった後である。

 優香に対する罪悪感も含めて、己の外道な所業をリプレイされるのは勘弁して欲しかった。


「次の試合について、何ですが」

「……ほう、意外と真面目な話題だな。構わんぞ、言うのはタダだ」

「じゃあ、提案ですけど、次の試合のメンバーから優香を外してもらってもいいですかね」

「……ふむ、理由は?」


 隆志からすれば当然の問いかけだろう。

 健輔も質問されるのは覚悟していたため、自信を持って語り出した。

 自分ですらも信じられないような策を誰かが信じてくれることはない。

 まずは、自分こそが絶対にいけると信じる必要があった。

 本当はそこまでの自信はないのだ。

 最強に勝てる。

 そんな風に無邪気に信じられるほど、自分のことを高く評価はしていない。

 しかし、それでも守りたい約束はあったし、やるべきことだと理解もしていた。


「決勝です。クロックミラージュがくる可能性は否定しませんが、まずアマテラスがくるでしょう。俺は確信しています」

「言いたいことはわかるが……まあ、いいだろう。続きを」

「その場合、アマテラスと如何に戦うか、という問題があります。国内大会と同じ手段は通じないでしょう」

「否定はしない。実際にやってみないとわからんが、俺もそう思うよ」


 同じ方法で2度倒せると思えるほど、楽観的にはなれない。

 進化する太陽がどこまで伸びるのか、隆志にもさっぱりなのだ。

 予想も出来ないし、意味があるとは思えなかった。

 

「だからこそ、取るべき手段は少なくなります。……優香が適任かと」

「ほう、なるほどな。理屈は通っている」


 優香が1人で桜香を相手にする間に周りを潰す。

 ナイツオブラウンドが取った作戦と同じだが、悪くはないだろう。

 優香の意地などを全てぶつけた上で、桜香にチームの戦力を結集する。

 それぐらいやらないと、桜香には勝てない。


「続きの言い分はあれか? クロックミラージュが来ても、同じ作戦が使える。だから、隠すべきだ、とかだろうな」

「まあ、その通りですね。そこまでわかるなら、隆志さんはわかってくれますよね?」

「肝心のパーマネンス相手に主力を外す理由、だな」


 先ほどまでの理屈は全てが決勝戦向けの話である。

 隆志としても、決勝戦に対する備えがいらないとまでは思わないが、同時にパーマネンス相手に主力の1人である優香を出さない理由には勝てないとも思っていた。

 決勝に行く前に、パーマネンスを倒さないといけないのだ。

 比重としては、次の試合の方が圧倒的に重い。

 今のままだと、隆志は健輔の提案を断らざるをえないのだが、


「案があるようだな」


 自信ありげな表情に隆志も笑みを浮かべる。

 健輔がこのような表情をする時は何か面白いことをしてくれる時だった。

 隆志としても期待したくなってくる。


「はい、出場メンバーから大幅に入れ替えた作戦が1つ」

「勝率はどれくらいだ。計算だけではどうにもならないのが戦場だが、無視してよい要素でもない」

「50%ってとこですかね。俺の努力次第ではもっと伸びます」

「ほう、それはそれは」


 後輩の大言壮語に隆志は嬉しそうに笑う。

 何を決意したのかはわからないが、そこまで断言すると言うのならば話を聞く価値は十分にあった。

 元々、首脳陣の間でも明確な作戦はなかったのだ。

 健輔に策があるというのならば、一考の余地はあった。

 隆志の表情を見て、健輔も釣れたことを確信する。


「作戦は簡単ですよ。後衛をほぼ排除して、前衛で固めます。その上で、優香の代わりに圭吾を入れて欲しいです」

「何? ……前衛、だと何を考えている?」

「勝つことです。皇帝の無限の物量に質で競う。間違ってないですけど、王道じゃないでしょう?」

「俺は定番だと思うが、違うのか?」


 隆志の問いに健輔は自信を持って、否と答える。

 皇帝の力の規模が桁外れのため勘違いしているのだ。

 フィーネから貰ったデータは健輔に皇帝の穴を教えてくれた。

 相手を戦闘という単位で考えるから、勘違いしてしまう。

 相手と同じ物量など用意出来ない。

 その発想が異なっているのだ。

 創造系の一極特化で結果として、ほぼ万能に至った男は間違いなく偉大であり、健輔よりも才能に溢れている。

 しかし、万能である――その1点において、健輔は誰にも負けない自信があった。

 今までは自分の強化の副産物として、仲間の強化を行ってきた。

 そこから発想を変えるのだ。

 チームの力を大きく上昇させて、その上で敵の強みをある程度減退させる。

 似たような戦い方で皇帝と太陽、君臨する強者を倒そうした女性の意思。

 打倒した者として、後に続く者として、敗者のまま終わらせるつもりはなかった。


「物量には物量を。その上で、質でも優ればいいですよね?」

「――そうか。ふむ、なるほど、なるほどね……。いや、面白いぞ。詳しく聞かせてくれ」

「はい、まずは圭吾をシャドーモードで――」


 健輔は熱くパーマネンス戦の作戦について話し出す。

 語り合う両名は最強相手に仕掛ける壮大な悪戯に目を輝かした。

 そのまま夜まで語り明かした2人は笑顔で、それぞれ説得すべき相手の下へと向かう。

 賽は投げられた。

 穏やかな時間の中で、健輔は前へと進み始める。

 相棒のため、約束のため、何よりも自分自身のために勝利を誓って、行動するのであった。


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