第267話
葵がイリーネを撃墜することで、状況を動かす少しだけ前。
健輔が消耗の極致に達した状態での千載一遇のチャンスにおいて、フィーネは攻めあぐねるという事態に陥っていた。
「風よ!」
風の弾丸が健輔に向かって放たれる。
迂闊な接近戦は消耗したはずの健輔からダメージを受ける可能性が高くなるため、遠距離での戦い方にフィーネは攻め方を変えていた。
安全策ではあるが、長々と時間を掛けるつもりはなかったのだ。
予想と違ったのは、もうボロボロのはずの健輔がこちらの攻撃に完璧に対処してくることだった。
「また……! どうして、避けられる」
風の弾丸、水の魔弾、光の一閃。
此処までの戦闘でも使用していた技たちだが、仲間の力を借りたことで効果は大きく上昇したはずだった。
なのに、1発も当たらない。
健輔の疲労は極致。
攻撃をまともに防ぐどころか、飛行も精いっぱいの状況でフィーネの攻撃を完全に避けられるのは何故か。
「……基礎行動の反復。どんな状況でも戦えるように鍛えていると、いえ、こんな状況には慣れているというわけですか」
淀みのない回避は健輔が遠距離攻撃に慣れている証。
消耗した状態での緩急のついた動きは、疲労した状況での動きを知っていることを示している。
言ってしまえば、ないない尽くしの状況など健輔には日常茶飯事なのだ。
おまけに遠距離から延々と苛められるのは、それこそ春からずっとされてきたことだった。
フィーネは総合力で間違いなく真由美に勝利している。
しかし、遠距離攻撃では健輔が信じるリーダーを超える者などほぼ存在していない。
彼女を超える者でなければ、健輔を遠距離で仕留めるなど夢想に過ぎなかった。
極限まで消耗したはずの状況下で、フィーネの遠距離攻撃でも、ほとんどダメージを与えられないのだ。
改めて、目の前に立ち塞がる男の実力を思い知らされる。
ド派手なシャドーモードやその戦果に目が行きがちだが、根の部分はフィーネと同じように堅実な土台が存在していた。
リスクを許容しないで倒せる男ではない。
「……私の勇気が試されている、そういうことですか」
槍を構えて前に出る。
可能であれば、避けたかった選択肢。
未練がましい行動のせいで、貴重な時間を失ったのはフィーネのミスだったが信じたいという思いがあったのだ。
今の状態ならば、もう少しまともに戦えると思っていた。
術式『ヴァルキュリア』――チームの力を結集して届かないとはリーダーとして、何よりもチームの一員として認めたくない。
しかし、現実から目を逸らすわけにはいかないのも事実だった。
何より、フィーネから力が1つ失われるに至って、猶予は完全に失われてしまう。
全てが彼女に選択することを強いていた。
「これは……そう、ですか」
イリーネの力が失われたということは、そういうことだった。
残ったのは3つの力。
フィーネも頼りにしている3人だが、『掃滅の破星』と『終わりなき凶星』相手にどれだけ耐えられるかはわからなかった。
目を閉じて、改めて初心を思い出す。
「……負けられない。私は、もう負けたくない!」
フィーネは力を高めて、魔力が立ち上る健輔を睨みつける。
銀の輝きを背負い、女神は槍を影に突きつけた。
ここからは1つのミスが敗北に繋がる。
格上としてではなく挑戦者として健輔を撃墜しないといけない。
輝く銀の魔力が戦意に呼応して強く輝き始める。
敵が待ち受ける領域。
リスクを覚悟しての、接近戦が始まるのだった。
「参ります!」
「……やっと来たんですか。遅かったですね」
「殿方を待たせるのは、女性の特権ですよ!」
「違いない」
いつになくフィーネの気持ちが充実している。
繰り出される槍に余分な力はなく、一撃一撃が鋭く重い。
葵からの唐突なドーピングのおかげで多少は持ち直したが、それは回復したことを意味しない。
蝋燭にガソリンを掛けて、結果として燃え上がったようなものなのだ。
ここに来てドンドン力が伸びているフィーネに対抗するには中々に厳しいものがあった。
そう、フィーネの力が――実力が伸びているのだ。
「マジかよ。そんなのありか」
疲労した状態でも、笑いがこみ上げてきた。
ここまでの才能だとは、健輔も思いもしなかった。
「はあッ!!」
「くっ!」
健輔に受け流される度に、動きが滑らかになる。
教え子が伸びる時の思いはこんなものなのかもしれない。
冬に瑞穂を鍛えたことを健輔は思い出していた。
健輔という教材を手本に、今、この瞬間にフィーネは成長している。
防御的な型はそのままに、攻撃を逆手にとる動きや、攻撃力の不足を補うやり方を明らかに学習していた。
「なるほど、欧州最強。――まだ、まだ限界じゃないんだな」
健輔は魔導機を握る手に力を込める。
侮っていたわけではなかった。
しかし、正しく評価も出来ていなかったのだ。
世界で3本の指に入る女性が、こんな格下の相手から何かを学び取るなど予想外も良いところである。
ドンドン押されていくが、健輔は笑みが抑えられなかった。
なんとも、愉快で――楽しい試合である。
「流石だ。それでこそ、俺が夢見た場所だよ!」
「――来なさい! 最強という名を背負った魔導師が、簡単に負けるわけにはいかない。私には、夢を背負った義務がある!!」
「ああ、そうだな! そうだよな!」
自分の前に立ち塞がるのが、この『女神』で良かった。
健輔は心底、そう思う。
疲労は限界。
体は悲鳴を上げるが、心だけはどこまでも飛んで行けそうだった。
あの日、あの時、ここに来たいと思っていたのは何も間違っていなかった。
「陽炎!」
『ランダムセレクト』
「転移、このタイミングで!? ――しかし、自爆などさせません!」
フィーネの言葉に健輔は笑みを零す。
少ない余力を用いての転移からの自爆。
健輔から出来る能動的な行動はそれしか残っていなかった。
それすらも、この女神は読んでいたのだ。
彼女の周囲に展開される様々な属性のスフィア。
自動迎撃術式により、破れかぶれの自爆を封じてくる。
万が一突破されても、スフィアを防御に用いることで被害を抑えるという意図も見えていた。
「ここに来て、まだしっかりと対策してるのか」
選択の余地がなく、仕方なしにだがフィーネの後ろに転移を行う。
直ぐに反応する様子を見て、健輔もハッキリと理解できた。
――生き残ってこそ、試合に勝利できる。
その徹底した態度は彼女が3年で掴んだものなのだろう。
健輔も納得するしかない結論に頭が下がる。
自爆はライフを変換して、相手に同量のダメージを与える術式だ。
直撃しないと、今のフィーネを倒すことは出来ない。
そして、フィーネは直撃さしてはくれないだろう。
ここに来ても根本は変わらない安全策に、健輔はつい苦笑してしまった。
自分をそこまで評価してくれることに喜びはあるが同時に苦悩もある。
ある意味で健輔の十八番と呼べるべきものが使えない。
本格的に詰んでしまったと言える。
「陽炎、どうだ」
『無理です。自爆の射程に捉えるのは不可能しょう。……もう、彼女の防御を突破する手段はありませんね』
「なるほど、道理だな。そこをなんとかしたいんだけど」
『……マスターがなんとかしてください。限界を超えるのは、人間の仕事だと思います』
「違いないな」
投げ遣り気味な、しかし、陽炎がもっとも勝率が高いと判断した可能性に笑う。
先ほどから笑えることばかりだった。
もはや理屈になっていない。
AIがなんとか、などと言い出すのだから、どうしようもない絶望的な状況だった。
それでも――健輔には楽しくて仕方がない。
力が抜けきった今、健輔は妙に冴えた感覚を感じていた。
魔力の動きを感じるような、魔力と触れ合っているような感覚。
次元違いの魔力レベルと接したからだろうか。
よくわからない万能感が健輔を満たしている。
「あれだな、蝋燭の最後の輝きか?」
『燃え尽きる寸前の輝きですね。――マスター、来ますよ』
「言うね。――わかってる」
陽炎の言葉に従って、健輔は剣を一閃する。
思ったよりも力強かった攻撃にフィーネは驚きの表情を隠せないようだった。
まさに足掻きに等しい攻撃だったのだが、中々に良い牽制にはなったようである。
見た限りもう1つの色、エルフリーデを失ったこともあるのだろう。
警戒心からか、攻撃が慎重になっている。
先ほどの勢いで攻撃していたら、既に健輔は落ちていたというのに、なんとも勿体ない話だった。
「……どうした? 驚いている暇があるのかよ」
「ここに至って、まだ力を残していますか!」
フィーネにしては珍しい失敗だろう。
さっきの攻撃などまぐれも良いところなのだ。
良い感じに最後の1撃だった自信がある。
「さあ、どうだろうな?」
仮にこの笑顔に騙されていると言うならば、無理をして浮かべていた甲斐があった。
この強い女性から1本取ったと思うと、妙に嬉しい気分になる。
笑みと言葉を挑発と捉えたのか、フィーネが再度の攻撃に移る。
「ほれ、それは見えてるぞ」
「なっ、探知の形跡は……!」
「勘だよ、勘」
「っ、戯言を!」
幻惑された攻撃をあっさりと躱す。
真実、勘だったのだが、普段の行いからかあっさりと斬り捨てられる。
一切の誇張なく、偶然なのは事実だった。
攻撃を紙一重で避けながら、今更に先輩たちの言葉を思い出す。
「最高に疲れた時こそ、全力以上の力が出せる、か」
そんなことを葵に言われたことがあった。
戦場における勝者は最後まで立っていたものだ。
どんな状況でも戦えるように、とそう言われて日々を鍛えてきたが、無駄ではなかったようである。
シャドーモードの恩恵すらもほとんど失って対峙出来ているのは1つの奇跡だった。
フィーネの攻撃が何故かゆっくりに見える光景に、疑問を覚えるも流しておく。
今はそんなこと、どうでもよかった。
まだ、戦える。
それだけわかっていれば良いのだ。
「次はこっちの剣に重力操作、後は光学欺瞞でも掛けるのか? ああ、魔力干渉も準備しているみたいだな」
8割はハッタリだが、2割は確信していた。
フィーネは必ず準備をしている。
短い付き合いだが、健輔にもわかる。
「……やはり、あなたは危険でしたね」
「そっくり、そのままお返しするよ」
健輔の言葉にフィーネは苦笑した。
こんな状況になっても、キッチリと健輔に干渉してから戦闘を行おうとしていたのだ。
会話していても、攻撃はまったく緩くならない。
むしろ、苛烈になる一方だった。
「……つれない殿方ですね。こちらの誘いを断りますか!」
「女性には紳士でありたいが、敵には苛烈で良いとも思ってるよ」
興奮して高鳴る心臓。
健輔の頭の中に鳴り響く鼓動は燃え尽きる瞬間を知らせてくれる。
終わりを感じる自分と、まだ諦めない自分が平行していた。
なんとも奇妙な感覚だろう。
別の方向性の思考のはずなのに、狙う部分は同じなのだから。
フィーネに油断はない。
自爆は必ず上手くいかないだろう。
国内大会における桜香との戦いでもそうだったが、最後の最後に健輔に助けてくれたのはいつも自爆だった。
この世界大会に出場しているメンツの中でも、最多の自爆回数を誇るだろう男は瀬戸際で思考を続ける。
伝家の宝刀が予想されていて、力を発揮できない。
それならば、どうすれば良いのか。
「これは……いよいよ、やばいかな」
なんとか誤魔化していたが、体力は限界に近い。
そして、誤魔化しももう効かないだろう。
フィーネが意を決したように瞳を閉じると次の瞬間には体当たりをするような速度でこちらに向かって来ていた。
――これが、最後だと健輔もわかった。
「レオナたちも限界に近い、ここで決めます!」
「……あっ」
ボロボロの影に銀の輝きが最大の輝きを以って迫る。
使う術式は彼女の基本にして、究極の技。
自然操作による他者への干渉だった。
健輔の魔力に干渉が行われて、健輔は外部に対する対抗手段が失われる。
これを以って、健輔は自爆でもフィーネにダメージを与えられなくなった。
全てを縛って、それでも女神は油断しない。
ここで出せる最大の出力を以って、健輔を封じるのだった。
「彼さえ落とせば、終わる!」
長かったこの試合も健輔を落とせば終わる。
フィーネも疲労がピークに来ていて、早く楽になりたい気分だったが、それでも攻める手を緩めるつもりはなかった。
最後にして、最大のチャンスだからこそ万全を尽くすのだ。
「貰いますッ!」
最高の速度と威力を以って、フィーネは銀の流星となって健輔に一気に肉薄する。
相手も疲労困憊のようで空中機動にキレがない。
フィーネ以上に全力で暴れ回っていたのだから当然なのだが、目がまだ力を失っていなかった。
先ほど最後の輝きとも言える極限集中を見せていたが、それも既に限界なのだろう。
蝋燭は燃え尽き、フィーネにより絞りカスも動きを封じられている。
常のポテンシャルなど望むべくもなかった。
「手は抜きません! ここで確実に仕留めます!」
槍を回転させて、魔力を纏い健輔に先端を向ける。
回避も防御させないよう、フィーネは周囲への魔力の干渉だけでなく本人への干渉を行った。
スフィアだけでなく、光の防壁も身体に沿うように展開しておく。
仮に自爆をされても被害を減らすだけの準備は出来ている。
対策は完璧、健輔に体力はない。
――そう、万全にしてしまったのが、フィーネにとって致命的なミスと知らずに彼女は階段を駆け上がる。
深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている。
フィーネから送れるということは、健輔からも送れるということなのだ。
通常ならば、フィーネの魔力の流れに逆らって逆干渉するなど不可能な所業だが、仮に本人も耐えられないほどの魔力を爆発させる場合はどうだろうか。
さらに、浸透系を使って、いざと言う時に通りがよくなるような細工を気付かれないように行っていたとしたら、効果がより高くなるのは疑いようもない。
最後の一撃を決めようと接近した時に、健輔が満面の笑みを浮かべたのを見て、フィーネは――悟ってしまった。
「流石、女神だな。期待した通り、完璧だったよ」
「一体、何を――」
健輔が答えるよりも先に激しく光り出す白い輝きがフィーネに起こっていることを教えてくれる。
フィーネの脳内にその単語が過り、障壁を展開し、同時に逆流しようとする流れに抵抗を行う。
しかし、事態はフィーネの想像よりも遥かに悪かった。
健輔は『自爆』は『自爆』でも普通ではない『自爆』をする気だったのだ。
「っ、何、これは……きゃああああッ!! わ、私の中に、急に……」
『魔力の流入、危険域。暴発します』
テンペストの言葉にフィーネは言葉を失った。
「私のラインを辿っているなら、しゃ、遮断を……!」
逆流するならば、押し流せば良い。
当然の発想だったが、そんな対抗手段を健輔は許さない。
「――無駄だよ。これは自爆じゃない。俺の最後の『攻撃』だ」
「なっ……!?」
不敵な笑み、やり遂げた男の表情にフィーネは言葉を失う。
手を天に捧げて、健輔は高らかに宣言する。
「発動『オーバーバースト』!」
『万能系自爆術式『オーバーバースト』発動します』
「じ、自爆術式――まさか!」
「まさかだよ。自爆するための、それだけの術式だ」
「ば、バカじゃないですか!」
あまりにもなネタ晴らしにフィーネが叫ぶ。
健輔は心底愉快そうに笑った。
この状況を、事態を試合の始まる遥か前から健輔は予期していたのだ。
だからこその自爆術式。
フィーネのラインに干渉した際にこっそりとマーキングを行い、そこを固定しておき、魔力を流し易くして、最後は魔力を完全に暴走させて相手に流し込む。
浸透、固定、流動と破壊、収束からの身体、遠距離に――創造と万能。
無駄に全ての系統を活用した究極の自爆術式『オーバーバースト』。
使ったが最後、必ず誰かを道連れにする。
健輔の最終、最後にして最大の切り札だった。
真由美と葵からもどうせ吹っ飛ぶのだからと存分に力を吸い上げている特大の爆弾である。
「万能系の魔力に……変換してる!?」
「流石だな。あなたには、ばれると思っていたよ」
「なら、これをどこかに流せば……! まさか、あなたは!」
そして、フィーネだからこそ気付けた最後の要素。
万能系の魔力は敵の魔力に化けるため、防御が出来ない。
しかし、他者の魔力を『変換』するには健輔の努力だけでは足りなかったのだ。
創造系の一要素たる『変換系』――クラウディアから学んだ力が無ければ、『オーバーバースト』は完成しなかった。
翻って言えば、フィーネはある意味で自分の力に負けようとしていたのだ。
「ま、諦めてくれ。これは発動したが最後、必ず誰かを連れていくからな」
「た、性質の悪い……! それに、これは」
「あ、やっぱり気付くか。そうだよ。いくつか欠陥があるんだよな」
一見すれば、相当に強力な術式だが『オーバーバースト』にも弱点は存在している。
まず、敵から直接魔力回路に干渉するという行動が必要になる点。
自爆なのに能動的な発動が出来ないのだ。
桜香のような自分にしか力を使わないタイプにはまったく意味がない。
そして、ここではもう1つの弱点が重要となる。
それは――
「ほら、選べばいいさ。自分か、仲間か」
「っ――それは……」
――誰かに受け流してしまえば、フィーネは無事で済むということだった。
無論、誰かに魔力を流してもフィーネもただでは済まない。
相応のダメージは負うのは間違いない。
つまるところ、2択が突きつけられているのだ。
どちらを選んでも、十分に抵抗は可能だろう。
重要なのは、心の問題だった。
自分で勝利も敗北も受け止めるのか。
もしくは――、
「仲間に後を託すのか。ま、俺は後者だな。1人じゃ何も出来ないしな。誰かは連れていくのが、最後の奉公だよ」
「――私は……」
迫るタイムリミット、体から溢れ出ようとする白い光を気にもせずにフィーネは悩む。
――仮に、ここに居たのが皇帝ならばあっさりと仲間を生贄に捧げただろう。
――桜香でも同様だ。
葛藤はあっても、結末は変わらない。
しかし、彼女は――
「……レオナ、後はお願いね」
『フィーネさん!? ……か、必ず、絶対に、絶対に!!』
叫ぶ声にフィーネは穏やかに微笑む。
正面には厄介な選択肢を突きつけてきた憎たらしい男性の姿があった。
「……女の意地を利用するなんて、ひどい人です」
「……自覚はあるさ。あなたは、絶対にそうすると思った」
味方に被害がいかないように、身を張って守る。
健輔はフィーネがそうすると確信していた。
戦い方を見ればわかる。
宿敵に勝つための術式が、味方と共にあるものだったこと。
いつだって、生存に主眼をおいていたのも結局はチームを守るためなのだ。
他の2人と決定的に違う部分、それは彼女がチームの中の魔導師であること。
自分だけでは届かないと知っているからこその選択だったのだろう。
健輔は、目の前の女神に敬意しか感じない。
「あなたは本当に強かった。完敗だよ。だが、負けても仕事はしていくよ」
「……性質の悪い男に引っ掛かりましたけど、そうですね。うん、これでいいです。私が育てたチームが、きっと――」
晴れやかな笑みで、とても美しくフィーネは微笑む。
その笑みに鼓動が今までとは違う意味で高鳴るのを感じて、健輔はもう叶わない選択肢を口にした。
「……あなたの下で戦ってみたかったよ」
「あら、それは楽しそうですね」
フィーネの言葉を最後に暴発する2つの輝き。
白と銀はまるでお互いを高め合うように、共に空に昇っていく。
――『元素の女神』フィーネ・アムルスター撃墜。
――そして、佐藤健輔の撃墜。
最後まで油断なく、敵を潰すからこその敗北。
気高き女神は残る乙女たちに後を託して天に還る。
双方共に、満身創痍。
先輩から想いを託された後輩たちと後輩から勝利を託された先輩たちが雌雄を決する。
残された意味と託された想いのためにどちらも負けられないのだった。




