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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第4章 冬 ~終わりの季節~
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第249話『アルマダ対クロックミラージュ』

「健輔さん? 少し機嫌が悪そうですけど、どうかしましたか?」


 健輔と圭吾の部屋。

 2名が欠席のため、健輔と優香しかいない空間に不安そうな声が響く。

 部屋で2人きりなのに自分と一緒にいる男性の機嫌が悪ければ、優香でなくても不安にはなるだろう。

 彼女の場合は、純粋に健輔を心配しているだけなので少し意味合いが違うのだが、健輔には伝わっていない。

 優香の問いかけに少しばつが悪そうに返事を返す。

 

「……ああ、悪い。ちょっと、昼にいろいろあってさ」

「そう、ですか。……お役に立てそうな事があったら遠慮なく言ってくださいね」

「サンキュ。……ごめんな」

「いえ」


 穏やかに微笑む優香に申し訳なさそうに頭を下げて、心の中で女神を罵倒する。

 直接対面してよくわかった事だが、フィーネは健輔とタイプが似ていた。

 表情を隠して何かを考えるタイプの魔導師。

 一見力押しに見えるのも本当によく似ている。

 なんとなくだが、脅威に思っていた理由は晴れて気分は良かったのだ。

 最後にからかわれるまでは。


「……はぁ、俺もまだまだだな。子ども呼ばわりされて怒るとは」


 年下をあやすような態度。

 意図した行っただろう行動に怒気を見せてしまった。

 あれでなんとなくだが性格を掴まれただろう。

 隙を見せてよい相手ではなかったが、的確に見つけてくる辺りは年の功だった。

 一瞬、そう言って挑発しようかと思ったが自重したのだ。

 味方にまで飛び火しそうなことを言うのは流石にあれだった。

 女性を完全に敵に回す発言は避ける程度の分別は残っている。


「っと、いつまでも悩んでもな!」


 頬を叩いて気合を入れ直すと思考をバッサリと切り替える。

 フィーネは試合でボコボコにすれば良いのだ。

 今は目前の戦いに集中すべきである。


「優香」

「はい、何でしょうか?」

「この試合、どっちが勝つと思う?」


 同室にいる相棒に尋ねてみる。

 意見が同じなのか、少し興味があった。

 尋ねられた優香は僅かに思案顔を見せると、


「クロックミラージュでしょうか? 固有能力が強力ですので」

「ふむ……まあ、無難だな」


 皇太子の能力は流石に際立っている。

 魔導平準化能力――空間展開内に存在する魔導師の能力を集約、分配を可能にする能力。

 基本的に星野勝とよく似ているが、決定的な差異が1つ存在している。

 それは――展開範囲内なら敵も対象になる、ということだった。

 敵の能力を封印出来る訳ではないのだが、味方の能力を上昇させることが出来るのだ。

 そして、これこそが彼の2つ名が『皇太子』である由来でもあった。


「アレクシス・バーン。1年生のためランクはありませんが、今大会の結果如何によってはランク入りもあり得るでしょう。チームメイトも彼の恩恵を受けて非常に強いです」

「だろうな。ランク8位とか、そこら辺はあり得るんじゃないか。星野さんの後釜にはピッタリだしな」

「能力に対抗するには、空間内で干渉してくる魔力を無効化する浸透系。もしくは」

「同じ空間展開で対抗する創造系が必要になる。しかし、皇太子の展開範囲はおそらく今大会で第3位」

「公称では2位ですが」


 空間展開の能力を大会前に公表していたのは、他ならぬ皇帝などその他数名。

 能力の展開範囲なども使用された事があるのならば申告されている。

 ぶっちぎりは当然皇帝だが、第2位として皇太子も名を連ねていた。

 健輔からすると、上手くやりやがったという感想しかないある女性が抜けているのを除けば情報としては正しいのだろう。


「女神が抜けてる。あいつ、絶対に使えるし、範囲も大きいだろうさ」

「何か確信が?」

「勘、だよ。まあ、使えるのは確定。後は普通に考えて範囲が狭いとかあり得ない、ってだけさ」


 詳細がばれると不都合だから、そんな理由で確実に隠しているはずだ。

 人柄を確認した今だからこそ、断言出来るが流石に証拠などはなかった。

 それでも外れていない自信はある。

 そう思うように誘導されている可能性もあるが、そんな事まで心配していては何も出来ないだろう。

 健輔は敵として女神の能力に関しては全面的に信頼している。

 フィーネ・アルムスターはクラウディアも憧れていた魔導師なのだ。

 実力の全てが詐術のはずがない。

 むしろ健輔とは違い、詐術で隠した真実こそがもっとも強いはずだった。

 そこまで思い、健輔は頭を振る。

 また女神が脳裏に浮かんでいた。

 これはあまり良くない傾向である。

 健輔の強みは視点に囚われないことなのだ。

 女神だけに目を向けていたら、足元を掬われてしまうだろう。


「……くそっ、今日は厄日だな」

「健輔さん?」

「あっ、悪い。続きだが、確かに空間展開に対応するだけの手札はアルマダにはない。それは事実なんだが」

「覆すだけの何かがある、とそうおっしゃるのですか?」


 優香の疑問に自信を持って応える。

 あくまでも魔導平準化は能力値――数値を揃えるだけであって、経験などの要素は含まれない。

 完全な敵の複製などを生み出せるのならヤバイが少なくとも皇太子はそんなレベルにはいなかった。

 ならば、ハッキリとはわかり辛い力――連携の力を重視をするアルマダにも勝機は十二分にある。


「アルマダの強み、シューティングスターズすらも超える連携、見せてもらいたいものだな」

「それが勝機に繋がる、と。そう思っているのですか?」

「ああ、面白い試合になると思うけどな」


 健輔の言葉に頷き、優香が視線をモニターに移す。

 開戦の時は近づいている。

 両チームの戦意はここからでも感じ取れるほど、ピリピリとしたものを漂わせていた。

 その様子を見ながら、健輔は1つだけ言わなかった事を思い返す。

 確かにアルマダに弱くない。

 クロックミラージュに対しては経験も含めて6割ぐらいの勝率はあるだろう。

 問題は次である。

 彼らでは『無敵艦隊』では絶対に『不滅の太陽』に勝てない。

 対アマテラスに的を絞るのならクロックミラージュに勝利してもらった方が良いのだ。

 勝てはしなくても、面白い部分までは行くだろう。

 しかし、それは逆に言えばクロックミラージュ、つまりは『皇太子』が健輔の予想を超える力を見せることを意味する。

 健輔の精神衛生的にそれはあまりよろしくなかった。


「……アルマダを信じたいんだがな。クソ、外国のイケメンと美女は本当に厄介な奴ばかりだよ」

「健輔さん? 先ほどからどうしたんですか?」

「あっ、いや、悪い……」

「いえ、別に良いんですけど。ふふ、健輔さんも感情が乱れる時があるんですね。何だが、ちょっと新鮮です」

「えっ、いや……」


 健輔は優香へよくわからない言い訳を必死に行う。

 彼がそんなアホな事をしている間にも1回戦、最後の試合は始まろうとしていた。

 健輔はいろいろと予想していたが、どれほど予想をしたところで容易く覆るのが魔導師の戦いでもある。

 また戦い以外にも思い通りにならない事は多い。

 つい先刻、その事を思い知ったばかりでもあった。

 健輔の心の内は誰にも知られず、Bブロック最後の試合は動き出す。

 開幕の号砲は無敵艦隊から上げられて、新鋭に向かって落ちていく。

 第4試合アルマダ対クロックミラージュが始まったのだった。






 油断していた訳ではない。

 自分に言い聞かせるが、それでは今度は実力不足という事になってしまう。

 認めないといけないのに認められない。

 己の非を認めれるようになるには、経験が必要である。

 才覚だけでどうにもならない胸に滾る炎。

 それが彼を――クロックミラージュのリーダー・アレクシス・ハーンの胸を焦がしていた。


「クソッ!!」


 試合開始から既に20分。

 始まりからこの試合は彼の思い通りに運ばなかった。

 アルマダは現在主流と言われている大規模火力運用を突き詰めたチームである。

 対策としては、まず第1に撃たせない事が上げられるだろう。

 どれほどの火力だろうが、使わせなければ意味はない。

 しかし、この方法は難しかった。

 圧倒的な実力差があるのならばともかくとして、彼らにそこまでの差はない。

 実質的に力押しに近いこの戦法を行う事は実力の関係で不可能だった。


「読まれていたというのかッ!! 俺たちの作戦が!!」

「落ち着け! このままだと負けるぞ!」

「っ、わかっているッ!」


 最も優位に進めれる方法は取れない。

 代わりに彼らが選択したのは、回避すること、つまりは1発も当たらないようにするのを選んだのだ。

 ここで防御を選ばなかったのはそれなりに理由が存在している。

 シューティングスターズのサラのような防御に特化した魔導師と言うのは数が少ない。

 全員が障壁などのある程度の防御方法を持っているため、需要がさほど存在しないのだ。

 見栄えが悪く、地味というのも大きな理由であろう。

 そして、当然の如くアレクシス率いるクロックミラージュにもそのような魔導師は存在していなかった。

 世界戦に出場している魔導師で明確な防御型魔導師の少なさを考えればいないのも当然だろう。

 育てようとしないと得る事は出来ないタイプの魔導師なのだ。

 アレクシスは自信家だが、火力型チームの攻撃をいくら数値上は優秀であるといえ中途半端な錬度で耐えられるとは微塵も思わなかった。

 だからこそ、彼らは能力を活かした回避を選択したのである。

 ――その選択が今の苦境を招いた。


「まだ、まだ20分だぞッ! どうして、2人も落ちた!」

「アレク、落ち着け! 相手の方が上手だ。冷静さを失えば勝てる試合も勝てなくなるッ!」

「わかっていると言っただろうがッ!」

「それのどこが落ち着いた態度だ! 負けてもいいのか!」

「なっ……!」


 友人の指摘にアレクシスは唇を噛み締める。

 非があるのは間違いなく自分。

 頭を下げる事が出来ないのは彼の高いプライド故だろう。

 それがここまでチームを引っ張ってきた原動力でもあったが、同時にこのチームの欠点だった。

 ここで普通の選手ならば、認めることが出来ずに敗北しただろう。

 しかし、彼はクロックミラージュを背負うリーダーだった。

 素直な返事は出せずとも認めるだけの度量はある。


「す、すまない。頭は冷えた」

「それでいいんだよ! お前は打開策を考えろッ! それが仕事だろう?」

「ああ、本当に悪い」

「謝んなよ。わかってる」

「……ありがとう」


 防御に加わる友人に礼を言う。

 なんとか冷えた頭で現在の戦況を整理する。

 既に撃墜が2名。

 対するアルマダは無傷である。

 まともに組み合う前に火力を以って殲滅していく。

 火力型が主流になった一因をクロックミラージュは己の身で体験していた。

 国内大会ではシューティングスターズに手も足も出なかったため、防御ではなく回避を選択したのだが、そもそもそこが間違っていたのだ。

 難易度的には防御よりも回避の方が高いのである。

 求められる技量から考えれば当たり前の話なのだが、混乱していたのか経験不足だったからか誰1人としてそこに思い至らなかった。


「無様な……。俺はまだ世界で戦える程の器ではないという事か」


 どんな理由であれ、最終的に作戦を許可したのはアレクシスである。

 この苦境の責任は全て彼に帰するものだった。

 それを受けとめた上で打開策を考えなくてはいけない。


「このまま受け続けるのは相手の思惑通りだ。最終的にはシューティングスターズのように砕かれるのが目に見えている」


 如何にして状況を逆転させるのか。

 アレクシスは必死に考える。

 彼の固有能力の力もあって身の丈を遥かに超えた力があるのだ。

 これを活かすように作戦を考えないといけない。

 相手の土俵でどのように立ち回るのかなどという考えが既に負け犬の思考だった、

 そこを捨てる必要がある。


「……俺たちの強みはメンバー全員が同じ能力を持てる事。いや、能力の組み換えが出来ることだ。役割に合わせて……」


 皇太子。

 己の2つ名に対する怒りの気持ちはある。

 しかし、今は憤怒を内に秘めて只管に思考を続けた。

 欧州最高峰の砲撃型チーム。

 今のクロックミラージュにアルマダに優るところなど存在していない。

 悔しいがそこを冷静に受け止める。

 そして、勝つための行動を移さないといけないのだ。

 そうでないとアレクシスを庇って落ちた2名に申し訳なかった。


「舐めるなよ、アルマダ。俺たちの力、見せてやる」


 人数が減れば減るほど、力が下がるのが彼の欠点だが補うための手段はある。

 大事なのは接近すること、そのための手段は自分たちよりも前の試合で披露されていた。

 敵から学ぶ。

 戦場における最高の教科書はそれだろう。

 若き俊英は欧州の古豪に挑む。

 新たな才能が勝利するのか、古き経験が優るのか。

 激突の先に答えが待っているのであった。


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