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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第4章 冬 ~終わりの季節~
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第236話

 大量の魔力を注いだ状態で覚醒した固有化はまだ不完全な面も多い。

 真由美やハンナ、桜香と比べると固有化特有の特殊な性質が発現していないのが最大の相違点だろうか。

 それでも溢れる魔力が齎す身体能力向上と、同じく大量の魔力で急激に上昇した変換系の変換精度――つまりは物質化によって、全能力が1段階は上昇している。

 ここで『ライトニング・フィールド』の強化分を合わせれば、十分本家の固有化まで近づける事が可能だった。


「はああああッ!」

「くっ! やはり、ここまで物質化していると上手くはいきませんか!」


 クラウディアの一閃に合わせて、雷光が駆ける。

 遠近同時攻撃。

 雷光はギリギリで防げたが、固有化による精度上昇により受けきれない。

 その状態で強力な斬撃を受ければどうなるのか。

 結果は明らかだった。

 クラウディアの渾身を込めた1撃にフィーネの身体が流れてしまう。

 体勢が崩れる。

 近接戦闘においては致命的な隙をクラウディアが見逃すはずがない。

 

「貰ったッ!」

「甘い、これぐらいの危地は経験済みです!」

 

 フィーネが手を翳すと何かが集まり出す。

 目に見えない力の集まり、しかし、クラウディアはその強化された瞳で正体を捉えていた。


「風っ!?」


 クラウディアとフィーネを遮る壁――風による防壁が両者の間を遮る。

 

「――突破する!」

「遅いですよ!」


 魔力を全開にして強行突破を図るが、数秒の遅れはフィーネが立て直すのに十分な時間だった。

 先ほどのお返しとばかりに鋭い突きがクラウディアに放たれる。

 風を纏った槍はそれまでよりも速度もパワーも桁が違う。


「つううう!」


 魔導機で受け止めてなんとか逸らすが、一瞬で攻守は交代してしまった。

 魔力固有化を用いて猶、埋まらぬ実力の差。

 クラウディアの勢いが完全に殺されてしまった。

 逆転の始まり、最初の1歩が万全ではない形になってしまう。

 多少の覚醒で倒せる程、欧州最強は甘くなかった。

 ここまでやって、それでも届かない高み。

 かつて彼女が憧れた女性は印象に違わぬ強さで存在していた。


「ここで終わりですか? それなら、早急に沈めてあげましょう!」

「やらせないッ!」

「威勢は褒めてあげましょう! しかし、実力が伴わなければ意味がない!」


 魔力を全開にしてクラウディアは再度の攻勢に出る。

 しかし、そこで彼女はかつてない違和感を感じた。

 突撃しての斬撃、今までと同じ行動にも関わらず妙に魔導機が重いのだ。


「これは……まさか」

「ふふっ、さて、なんでしょうか?」


 微笑むフィーネの態度に思いは確信となる。

 横合いから放つ斬撃、攻撃を行った瞬間だけ急に魔導機が重くなり速度を減じてしまう。

 そんな事があったかと思えば、急に剣が軽くなり、フィーネが生み出した風で流されそうになったりと妙な事象が頻発し始めた。

 パワーアップした力が効果的なダメージを与えられていない。

 そこに至る前に何かに妨害されている。

 

「重力操作……、まさか本当に? でも」


 それ以外には該当する現象を起こせそうなものが存在しない。

 フィーネの隠された固有能力などの可能性も0ではないが、こちらの方がより現実的だろう。

 パワーをいなす技巧派――防御型魔導師としての本領をついに見せ始めたのだ。


「っ、それでも!」

「雷撃、ですか。それだけでは先ほどまでと同じですよ!」


 雷撃を放つも防がれる。

 クラウディアの格闘戦能力はフィーネに負けていないが、先ほどから取り入れられた細かい技が彼女のリズムを乱していた。

 風、他にも一瞬だが重力などもそうだろう。

 攻撃のインパクトのタイミングだけ僅かに風が生じて、クラウディアの感覚とずらす。

 武器の重量が攻撃の瞬間だけ変化する。

 疑似固有化を発動してから、そのような小さな違和感が戦闘中に続出していた。

 確実に犯人は目の前の人物なのだが、涼しい表情からは何も窺えない。


「これが、『女神』」


 クラウディアが憧れた魔導師は正しく強かった。

 このような小さな技は戦ってみないとわからない脅威だろう。

 映像からでは何も得られない。

 研究されているという自覚があるからこその技だった。


「でも、やりようはある」


 そういうものがあると理解した上で戦えば、違和感は最小限に出来る。

 フィーネの隠れていた強さを1つ解き明かしたのだ。

 無意味な事ではなかった。

 向こうもいつまでも余裕を保てるはずがない。


「私にも、まだ上はある」


 本当に短時間だが、真実の魔力固有化を発動する事も可能だろう。

 そこで勝利を得るために疑似状態の間に、なるべく本気を引き摺り出しておく必要があった。

 去年のものならばともかく、今年に入ってからのフィーネの本気は公式戦では発揮されていない。

 どれだけの強さを持っているのか未知のまま戦うのは危険だった。

 桜香を想定してはいるが超えてくる可能性もあるのだ。

 クラウディアは欧州の頂点を甘くみるつもりなど微塵もない。


「トール、スフィア展開。ここからはいつも通りいくよ」

『了解。術式を展開します』


 周囲にスフィアを展開して、魔導機をフィーネに向ける。

 若い魔導師から頂点への挑戦状だった。

 フィーネは僅かに苦笑をして同じように槍を向けてくる。

 掛かってきなさい、笑顔で宣言する頂点にクラウディアは笑みを向けて頷く。

 クラウディアはここから女神を移動させないのが役割である。

 方法は問われていない。

 実力で不可能ならば、心理的に逃げられない状況を作り出すだけだった。

 彼女を国内で破った男がそうしたように、状況を固定するのも実力を補う手段となる。

 格下からの挑戦を王者はプライドから避けられない。

 頂点だという意思と誇りがあるからこそ、悪手だとわかっていてもクラウディアと戦う事しか選択肢は残されていなかった。


「――来なさい!」

「参りますッ!」


 攻防は続く。

 フィーネの槍を上手く捌いて、クラウディアは幾度も彼女に迫った。

 しかし、その度に何かしらの手段で防がれる。

 心構えはしていても実際に前にすると、虚を突かれるのは事実だった。

 そこから隙を見せてしまう事もある。

 もっとも厄介なのが重力操作であろう。

 武装の重量を変化させるのは、前衛には対処が難しい。


「しまっ」

「はっ!!」

「っ、まだ!」

『マスター、ライフ80%です』

「了解!」


 必殺のタイミングに介入されて、クラウディアが反撃を受けてしまう。

 またフィーネの自然操作は防御のみに活かされる訳ではない。

 当たり前の話だが攻撃にも活用できる。

 相手の武器を重く出来るのだから、自分のものも重く出来るのだ。

 クラウディアと接した際に威力を高める。

 他にも払いなどの攻撃に風を乗せるなど、巧みな使い方により通常攻撃が強力になっていた。

 実力を引き出せば出すほど、その底知れ無さに敬意が湧いて出てくる。

 クラウディアが憧れた魔導師は本当に強い。

 攻撃、防御、速度、全てが高い水準で纏っていて隙が存在していないのだ。

 桜香も強かったが、別の方向性でフィーネもとんでもない魔導師だった。

 勝負が出来ているのも固有化があっての事である。

 無ければ、この時点で潰されている。


「これはどうですか!」

『術式展開――ライトニング・ネメシス』

「物質化した最大解放。なるほど、悪くないですけど――通じませんよ」

『障壁展開――ストームフィールド』


 フィーネを中心に起こった風が雷撃を止めてしまう。

 全属性をマスターしている女神に属性攻撃で勝つのは困難というレベルではない。

 魔力物質化は創造系の上位の技だが、それではまだ足りなかった。

 必要なのは空間展開、最上位の技でなければ女神の呪縛からは逃れられない。


「強い……」

「そうでもないですよ。所詮は小技、桜香には力技で突破されてしまいましたしね」

「それでも、あなたは強いです」


 クラウディアの純粋な賛辞に少し照れたような笑顔を見せる。

 戦場に不釣り合いな空気。

 両名はしっかりと見つめ合って、


「ありがとう。――では、そろそろ決めさせてもらいます」

「どうぞ――やれるものなら」


 高まる圧力を前に、クラウディアは澄んだ心で立ち向かう。

 1人での限界は感じている。

 それでもクラウディアは必死に食い下がっていく。

 彼女が突破されれば、僅かな勝機すらも失ってしまう。

 エースとして、それだけは許せない。

 香奈子の到着を信じて、今はただ耐え続けるのだった。






 人数差は2対4。

 圧倒的と言ってよいほど、有利な戦場で押されているのはヴァルキュリアだった。

 魔力還元化――俗に魔素化とも言われる破壊系の最上位技に対抗する手段を持ち得ない彼女たちでは有効打が与えられない。

 フィーネが指揮を執れない現状をなんとか抑えているレオナは流石に焦りを感じ始めていた。

 試合時間が少しずつ、終わりに向かっている。

 この状況で決着を迎えてしまえば、敗北するのは彼女たちなのだ。

 焦りの1つや2つは生まれるのが、当たり前と言えば当たり前だった。


「まさか、ここまでとは……」


 破壊系の極みについてはきちんと情報を得ていた。

 その上で対処可能と判断したのだが、その方法はそもそも発動させないというものだったのだ。

 香奈子のあの能力を封じるにはそれがベストだったし、事実上手くいっていた。

 『魔力転換陣』――やはり、あそこがターニングポイントだったと言ってよいだろう。

 向こうの作戦は博打も良いところだが、ここまで上手く運んでしまったのはヴァルキュリアの過失だった。

 フィーネはそこまで気にしていないだろうが、レオナとしては悔やむしかない。


「エル、どう思う?」

「そうね、個人的には見事じゃない? 総合力で劣るからエース2人を強化して正面から潰そう、とか作戦っていうよりは賭けみたいなものだし」

「成功させたのが、素晴らしい。そういうことね」

「そ、まあ、隠れてる3人もよく我慢してると思うよ」


 レオナの予想が正しければ残りの3名は隠れて自爆の機会を狙っているはずだ。

 魔力を絞り尽くした状態で活用できる方法はそれぐらいしか存在していない。

 転送陣を活用すれば、自陣での自爆はそこまで難易度は高くないのだ。

 一考の余地はある。


「……はっ、困ったものね」

 

 地の利を最大限に活用して戦力差を埋めている。

 事前の調査とのギャップに別のチームだと疑いたくなる程の変わりようだった。

 もう少し直情型だと判断したからこそ、あっさりと動きに乗ったのだが、計算違いも良いところである。

 レオナは焦りを感じながらも冷静に状況を整理していく。

 そんな彼女の心境を見抜いたのか、エルフリーデは軽い様子で今後の展開を話し出した。


「ま、そろそろ攻勢限界じゃないかな」

「そうね。魔力還元は怖いけど。カルラとリタを突破出来るかしら」

「向こうの前衛も中々だけどねー」

「怖いのは赤木香奈子だけ、か」


 レオナはこの瞬間も狙いを定めようとしている。

 相手の戦略は見事だが、強いのは香奈子とクラウディアだけなのは何も変わっていない。

 焦りはあるが、状況を見失うほどのものではなかった。

 

「じゃ、私もそろそろ攻めますか」

「坪内選手の方は私が、後はお願いします」

「任されたー」


 ヴァルキュリアのバックスは隠れているメンツの特定に力を費やしていた。

 天空の焔の方針は悪くないが、些かきっぱりと割り切り過ぎた面もある。

 彼女たちを数分であろうとも拘束しておくことには意義があった。

 それを放棄して余裕を与えた故に、このような事態を招く。

 引き寄せたはずの流れ、優勢なのは天空の焔だったが戦乙女たちは静かに動き始めている。

 どうしようもない実力差を見せつけるかのように、ゆっくりと、本当に静かに主導権はヴァルキュリアへと流れていくのだった。






 香奈子とほのかの連携は流石の一言に尽きるだろう。

 3年間を共にやってきた親友同士、即席に近いカルラとリタの2人を寄せ付けずジワジワと追い詰めていた。

 

「香奈子!」

「ん、そこ」


 実力的には劣るが、香奈子がその部分を上手くカバーすることで差を埋めている。

 これ以上ないほどの差配。

 実際に天空の焔が打てる手段としてこれ以上のものはなかっただろう。

 しかし、彼女たちにとっての予想外は作戦の全てが実質的に成功したからこそ生まれてしまう。


「え……」

「なっ……」

 

 2人が揃って一瞬呆けてしまうほどの出来事。

 空に昇る3つの光、それは撃墜の際に生じる転移の光。

 誰が撃墜されたのかなど、考えるまでもなかった。

 隠れていた3名の突然の撃墜。

 先ほどまで優位だったはずの戦局が一気に覆る。


「呆けてる余裕があるの!!」

「いつの間にっ!?」

「させない」


 香奈子がカルラほのかの間に割り込む。

 カルラの攻撃も純魔力、香奈子には通用しない。

 この選択は間違いではなかっただろう。

 対カルラ・リタの連合のみに視点を絞るならば悪くはなかった。

 彼女を――レオナ・ブックの事を考えなければという条件が無ければであるが。

 香奈子がほのかの前に出たことで、ほのかの背後ががら空きとなる。

 そこに展開されたレンズのようなもの――変換系は創造系の派生系統。

 属性に関するものならば、創造が可能なのだ。

 クラウディアが欧州を離れた後に判明した事実であるため、彼女も深くは知らなかった。

 レオナの属性は『光』。

 光で出来たレンズのようなものを生成して軌道を変えて相手に命中させる。

 増幅される光は必殺の輝きを以って、坪内ほのかを試合から追い出す事になった。


「ほのか?」


 カルラの攻撃を防いだ後に、振り返ると転移の光が現れる。

 香奈子が一瞬であれ、正面から意識を逸らすのは仕方がないことだろう。 

 先ほどまで押していたのに、一瞬で逆転されてしまったのだ。

 そして、その隙を見逃すカルラではない。


「余所見ばかりだよ!」


 魔力を高めて炎を纏う。

 魔力還元化は無敵に近いが弱点も存在する。

 破壊のオーラと同じく還元される以上の魔力を注ぎ込めば、突破は不可能ではないのだ。

 ましてカルラの攻撃は拳によるもの、接近さえすればダメージを与えられる。

 大量の魔力を消し飛ばされながらも、カルラの拳は香奈子にこの試合で初めて直撃することになった。


「っ」

『ライフ90%』

「もう1発!」

『バカ、下がりなさい!』

「えっ、リタさ――」


 追撃に入ろうとするカルラ。

 勢いに乗っての攻撃は悪くはなかったが、相手の事を考えていなかった。

 先輩からの警告が入るが――既に遅い。

 接近し過ぎた状態で香奈子の砲撃を避けれるはずもなく。

 ヴァルキュリアからの2人目の撃墜者になってしまう。


「マズイっ、ああもう! 止まらないのは基本でしょうに!」


 黒い光を間一髪で避けるが、リタはマズイ事になったと内心で焦りまくっていた。

 正面の壁が融けてしまい、彼女は無防備な姿を破壊の黒き王に晒している。

 機動力に関しては並みでしかない上に、もはや被害を気にしないであろう香奈子を相手にするには些か力不足だった。


「っ~~、レオナ、あんたはフィーネさんに合流! この人は無理!」

『了解です。後はお願いしますね』

「早くしなさい!」


 リタも前衛に味方がいると力が発揮しにくいタイプなので、この状況は悪くないのだが相手はそれ以上だ。

 元々の相性の悪さもあり、このまま勝てると思うほど彼女は自分を信じていなかった。


「時間稼ぎ、ね。このフィーネさん頼りになるのが、あれなのよね。まあ、引き締めにはちょうどいいかな」


 土煙の先から見える黒い光に戦慄を感じるも、軽口で誤魔化す。

 戦局は有利になり、主導権は握った。

 それでもまだ勝った気がしないのはエースが2人とも残っているからだろうか。

 勝ちへの執念。

 味方が消えてからが本番となる魔王を前にして、リタも久しぶりに緊張していた。


「さて、ここから先へは私を倒さないといかさないわよ?」

「そう、なら倒すだけ」


 1分は稼ぎたいというリタの思い。

 覚悟も能力あったがある事が抜けていた。


「なっ、アビス!」

『障壁展開』

「遅い」


 一瞬のやり取り、その間に香奈子は近づいてしまい黒い光が向けられる。

 単独の時こそがもっとも恐ろしい。

 香奈子の事前の評価を思い出して、リタは己の迂闊さを笑った。

 光に飲まれてまた1人、戦乙女が落ちる。

 黒き魔王が雷光の元へ急ぐ。

 女神の元へ集結する乙女たちとどちらが強いのか。

 衆目に晒される時が来たのだった。


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