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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第4章 冬 ~終わりの季節~
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第218話

「砲撃が激しくなりました! 今度はアリスさんとハンナさんの2人掛かりです」

「優香ちゃん投入まで後2分ぐらいでーす」

「わかった。美咲はそのまま敵陣に対する観測を続行。香奈は交代を急いでくれ」

「了解です!」

「わかりましたー」


 たった3人しかいないバックス用の陣地で早奈恵は全体の統括を必死に行う。

 参謀も兼ねている彼女は必要な情報を集めて、真由美に決断を促すのが仕事だが、今の真由美は2対1の状況に身動きが取れない。

 ハンナだけでなく本領を発揮したアリスも抑えなくてはいけないのだから、当然といえば当然なのだが、頭脳が抑えられてしまっているのだ。

 代わりの仕事を誰かが行わないといけない。


「胃にくるな……。私は参謀だぞ。決断は得意ではないんだがな」


 前衛の指示は基本的に葵にでも任せておけば上手にやってくれるだろうが、彼女はリスキーな作戦を好む。

 後方で見守るだけしか出来ない身としては、正直なところ採用したくない作戦ばかりなのだ。

 健輔を放置した時も、密かに心臓が破裂しそうになるほどの衝撃を受けていた。

 上手く対処してくれたから良いものの、万が一にでも撃墜されていたら大変な事になっていただろう。

 綱渡りを見ている者にも強いてくるのだから、葵が後方の胃に優しくない事だけは確かだった。


「香奈。今の戦況をどう見る?」

「うーん、向こうもこっちの情報を取り終わった感じですから、堅守に入るんじゃないですかね。正直、先ほど前に出てきたのは意味わかんないですし」

「そこは同感だな……。さて、どうするか」


 前衛の攻撃力と機動力を上げるために優香の投入を急いでいるが、それが結果として後衛の不利を招いている。

 シューティングスターズの本来の持ち味はこの堅守なのだ。

 先ほどの正面からの殴り合いこそがおかしいと言える。

 2つの大砲を並べて、クォークオブフェイトの陣地を圧潰させようとしているのが本来の姿に近かった。

 しかし、ここで守りに入られると問題が出てくる。

 前衛陣の打撃力はよく知っているが、攻撃が届かなければ意味がないのだ。

 届かせるのが作戦であるが、ここまで砲撃がきついといろいろと対抗策を考える必要が出てくる。


「ふむ……。小細工が効く可能性は低い。だとすれば……」


 クォークオブフェイトの本領は攻撃。

 シューティングスターズの全力に応えるにはそれを示す必要があったが、問題は後衛の打撃力で負けていることだった、

 ハンナに比するレベルのアリスとハンナの2人掛かりの砲撃。

 おそらくこれを上回る後衛火力を持つチームは大会でも限られている。

 クォークオブフェイトは数少ない対抗手段を持つチームだが、如何せん物量という覆しづらい要素が原因で押し負けていた。

 これをどうにかするには原因を取り除くしかないのだが、手持ちで真面に砲撃を出来るのが健輔しかいない。


「やはり質でどうにかするか。真由美の様子は……」


 試合開始から撃ちまくっているため、いい感じに乗っているがまだまだ全力稼働には遠い。

 魔力固有化を発動させるには、時間が足りなかった。

 そんな事も早奈恵もわかっていたが、現在の状態を確認することが大事だったのである。

 クォークオブフェイトは約2ヶ月の間、自己強化を行ってきた。

 健輔の実力向上もそうだが、チーム全員が強くなっている。

 当然、真由美も例外ではない。

 もっとも、彼女の場合は自分が強くなるという類の強化ではなかった。

 クォークオブフェイトを支える重要な男がここで必要なのである。


「健輔、温まっているところ申し訳ないが、一仕事を頼む。シャドーモードを使うぞ。真由美の固有化で一気に抉る」

『えっ、今からですか……。了解です。優香の交代と同時ぐらいに、ですよね?』

「ああ、よくわかってるな。頼んだぞ」

『うーす、外付け頑張ります!』


 健輔の元気の良い返事に気が抜けていく。

 実際に戦っている者たちが、気楽な様子を見せるのだから、後方がへばる訳にはいかなかった。

 早奈恵は頬を叩いて気合を入れ直す。


「よし。美咲、香奈。試合を動かすぞ。こちらの札に応じて状況が動く。欠片も兆候を見逃すな」

「わかりました!」

「お任せ~」


 2人の返事を聞いて、早奈恵も集中力を高めていく。

 ここから先は国内大会の情報が当てにならないレベルの戦いになる。

 クォークオブフェイトに切り札があって、向こうにないなどというのはあり得ないのだ。

 何が起こっても対処できるようにしておくのが、参謀たる者の勤めである。

 早奈恵は敵の探査を妨害しつつ、相手の情報を逃さぬように意識を研ぎ澄ませるであった。






 早奈恵からの指示を受けて、健輔は真由美の元へ向かう。


「あんまり自信ないんだが、大丈夫か……」

『ご安心をマスター。真由美との同期はほぼ完璧に行えます。向こう側も合わせてくれるので、そこまで警戒する必要はないでしょう』

「だったら、良いけどさ」


 冬休みの間、健輔は地力を上げる以外にも様々な対策を用意しておいた。

 試合中に覚醒する。

 そんな甘い考えで勝ち抜けると思う程、健輔は自分を信じていない。

 少し不信があるぐらいがちょうど良い、健輔は心の底からそのように思っていた。

 信じている、というのは素晴らしい言葉だが世の中何事も裏の面がある。

 自分を信じているという言葉の裏はつまるところ思考停止と変わらないだろう。

 考える事は凡才にも許された最後の足掻きである。

 結果が報われるとは限らないが、何も考えずにいるよりは建設的だった。

 もっとも、考えるだけで満足しているのでは意味がない。

 何事も実行出来ないと意味がないのは、真理というものだろう。


「陽炎、そろそろ準備を頼む」

『わかりました。シャドーモード展開準備。魔力パターンの読み込みを開始します。対象は真由美』

「良し」


 自陣とはいえ、相手に動いている事を感づかれる可能性はあるため、健輔は細心の注意を払って真由美の傍へ近寄る。

 現状、戦っていると言えるのは真由美だけなのだから、相手もその周辺ぐらいには探査を集中させているだろう。

 早奈恵が妨害を行っているとはいえ、過信は禁物だった。


「っと……、うわ、凄いな」


 真紅の光が敵陣に向かって飛んでいくのを横目に見る。

 アリスとハンナの2人分の砲撃を前にして、僅かに押される程度で済んでいるのは真由美の攻撃があってこそだった。

 真紅の禍々しくも見える光が、そういう風に思うと味方を守る神聖な力に見えてくるのだから不思議なものである。

 拝むようなポーズをとって、とりあえず感謝を捧げておく。


『マスター、準備完了です。展開自体はいつでもいけます』

「おう。早奈恵さん、こっちの準備は完了です。真由美さんの気を散らすのはマズイと思いますので、そっちで連絡してもらっていいですか?」

『了解した。集中態勢に入っているが、私の念話は繋がっているから問題はない。健輔はそのまま合図があるまでは待機だ。タイミングを見る』

「りょーかい」


 念話が切れたのを確認した後、健輔は真由美の邪魔をしないように背後に回ってから地面に降りる。

 シャドーモードの発動準備を進めながら、別命があるのを待つ。

 細かい作戦は聞いていないが、大体の想像は出来る。

 言われる前に、次の準備も進めておくべきだろう。


「陽炎、転送陣の準備を頼む。ポイントは前線ギリギリのところでいい」

『わかりました。しかし、ご提示の場所は正面になりますが、大丈夫でしょうか?』

「ああ、前提条件に真由美さんの攻撃後って入れると結果が変わるだろう?」

『……なるほど。わかりました。設定しておきます』

「頼んだ」


 優秀すぎる相棒に雑事は任せて、今後の展開を考える。

 事実上、先に切り札を切るのはこちらになってしまう。

 相手側が直ぐに対応してくる事を考えると、立て直される前に1人は貰っておきたいところである。

 葵や早奈恵もそんな事はわかっているだろうから、対策は考えているはずだが問題はどこを狙うのかということだった。

 敵の防御は思ったよりもずっと固い。

 無理矢理な力押しだけでは消耗も激しかった。


『健ちゃん、こっちに来て』

「っと、陽炎行くぞ」

『わかりました』


 いろいろと考えてはいたが、真由美からの呼びかけに余分な思考はカットする。

 シャドーモードは繊細な制御が必要とされる術式であり、健輔は全霊を集中させないと扱えない。

 これが試合の趨勢を決める攻勢だと理解しているからこそ、失敗は許されないのだ。

 言葉少ない真由美の念話から、向こうにもあまり余裕がない事がわかっている。

 あまりサポートがないのならば、自分でどうにかするしかない。


「この一撃が試合を決める、か。そうなれば良いんだけどな」


 真紅の凶星が瞬く時、敵の流星を打ち砕く。

 そうなると信じて、健輔はシャドーモードを発動させるのだった。






「真由美たちはどうくるのかしら」


 サラはバックスから送られてきたMAP情報を見ながら、思考を巡らせる。

 向こう側の探知妨害もあり、選手たちの位置はわからないが大まかな動き程度は読む事が出来ていた。

 サラたちが自陣に罠を設置したりと、防御態勢に移行していることを向こう側も悟っているはずだと考えれば、攻勢に移る事は容易く読める。

 問題はどのようなタイミングで、どうやってくるのか、ということだった。


『サラさん、ちょっといいですか?』

「ん? 何か分かった事でも?」

『はい。転送されてるデータから見るに、敵が徐々に前に来ているのは間違いないです』


 サラは視線をマップに戻す。

 アズリーが言うように確かに何名かが前に出ている。

 個人名まではわからないため、何とも言えないが、おそらく葵が指揮を執って進攻準備をしているのだろう。


「そろそろ来ると?」

『敵チームは超攻撃特化です。全員が防御を考えない集団ですから……』

「それは……そうね。うん、わかったわ。真由美の方にも注意しておく。あなたはヴィオラたちをお願い」

『わかりました』


 アズリーの懸念はサラにもよくわかる。

 クォークオブフェイトはバランスが良いチームのように見えるが、それは擬態に近い。

 本質的には超攻撃力特化チームであると言う事をサラたちは良く知っていた。

 サラたちシューティングスターズがハンナの火力に物言わせているように見えて、持久戦を得意とする防御型チームなのとは対照的だと言えるだろう。

 リーダーである真由美を筆頭に防御を主体とした魔導師がほぼ存在しない。

 サラのように完全に防御特化は少ないのが普通だが、ヴィオラたちのような魔導師が普通は前衛にいるものだ。

 欧州などでは総合力に優れた前衛が好まれるが、アメリカでは少なくとも壁魔導師というのはスタンダードな存在だった。


「真由美で混乱させて、後は乱戦で仕留める。向こうの常だけど……。流石にまだ、ハンナとアリスなら抑えられる――」


 はず――と続けようとした時、サラの元へバックスの慌てたような声が届けられる。

 そして、ほぼ同じタイミングで信じられないものが視界に映ってしまうのだった。


「あれは……まさかっ」

『サラさん! 固有波形を確認! 魔力固有化現象が発現した模様!』

「そんなっ、早すぎる!?」


 誤報だと思いたかったが、天に立ち上る真紅の光がそれを許さない。

 暗黒の盟約戦でお披露目された真由美の切り札。

 試合に出てくる可能性は想定していたが、こんなタイミングではなかった。

 想定外――突然の事態は混乱を生む。

 無論、サラたちは優秀だ。

 このまま何も無ければ、直ぐにでも立て直しを図れただろうが、クォークオブフェイトに待ってやる理由などあるはずもなく。


『サラさん、マズイです! 妨害状態でも感知できる規模の圧縮を確認!』

「障壁全力展開!」


 バックスの警告よりも先にサラの身体が動く。

 巨大な障壁が真紅の光を受け止める。

 魔弾ではなくレーザーような一条の光は真紅の輝きを帯びていた。

 見るのと実際に受け止めるのでは、まったく違う。

 額に浮かぶを汗を拭う余裕もないまま、サラは防御に全力を傾ける。

 しばらくすると真紅の光は力を使い果たしのか、ゆっくりと消えていく。


「なんとか、止められた……?」


 障壁を再構成しながら、サラは呆然と呟く。

 いきなり急変した事態にまだ思考が追い付いていないのだ。

 何かをしないといけないのはわかっているが、どうすれば良いかわからない。

 当初の予定では、真由美の固有化にはハンナの固有化で対応するつもりだった。

 片方が使えるのならば、もう片方も使える。

 この原則はライバル関係である彼女たちにはピッタリと当て嵌まっていた。

 細かい違いはあるが、対抗手段として同じものを持ち出すのは発想として間違っていない。

 しかし、それは同じ弱点を抱えているという前提があって成立する話だった。

 片方だけが使い始めてしまうと前提が覆されてしまう。


『サラ! あなたは防御に集中して、護衛にアリスを向かわせるわ』

「ハンナ? でも――」

『葵たちが来るし、次の攻撃もある。急いで!!』

「わ、わかったわ!」

 

 ハンナの言葉を証明するかのように第2撃が放たれる。

 真紅の凶星による蹂躙を防ぐには彼女が守るしかない。

 

「あれは……」


 サラの位置から、こちらに向かってくる人影が見える。

 数は3名。

 強化した視力で見たところ、葵と剛志、そして優香だった。

 先ほどの交戦ではいなかったはずの優香を見て、サラは敵が本気で落としに来たことを悟る。


「総員に通達。こちらも本気でいきます。出し惜しみはなしです!」

『了解です。サラさんも頑張ってください』

「それよりも早く!」

『は、はい!』

 

 バックスに指示を送って、態勢を整える。

 予期せぬ事態のせいで、万全とは言い難いがサラはプラスの側面も見ていた。

 ここを凌げば決定的な優位を手に入れられる。

 真由美の攻撃には驚かされたが、シューティングスターズを崩すには至らなかったのだ。

 ならば、まだまだやりようは残っていた。

 見方によっては、葵たち前衛組を引き込んだとも言えるのだ。

 諦めるにはまだ早い。

 どちらのチームも満足できる形ではない状態で2度目の交戦に入る。

 試合は中盤へ、趨勢を決める大きな転換点に突入するのだった。


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