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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第1章 春 ~始まりの季節~
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第18話

 健輔が必死でテストの対策を行っている頃、3年生たちは公式戦に向けて作戦会議を行っていた。

 今までの模擬戦から判断したメンバーの適性や、敵チームの去年の情報から基本的な出場構成を決めるのだ。

 もっとも大凡はほとんど決まっているため、会議の内容は今日の模擬戦の感想が主なものとなっていた。


「妃里にしては今日は冷静にやっていたが、逆に爆発力を発揮しきれなかったな」

「そうだね。みんなの前ではちょっと濁したけど、基本的に妃里の試合運びは無難な感じだったと思うよ。実際、健ちゃんの博打がなかったら勝ったのは妃里たちだったしね」


 試合を見守っていた両者が似たような感想を述べる。

 隆志は妃里を揶揄するような発言が多い人物だったが、今回の感想にはそんな思いは微塵もなく感嘆が籠った響きだった。

 妃里は若干気味の悪そうな顔しながらも、まだ何もしていない相手に怒るわけにもいかず不満げな表情で反論する。


「先輩で、チームを率いる立場なのに冷静さを失う訳にもいかないでしょう? 優香ちゃんが予想よりずっと強かったってのもあるわよ。……健輔もいい仕事してたわ」

「今回の健輔は良い部分が多々見えた。チームのためにプライドを捨てれるのは大きいな」

「男同士の戦いでやれたのは、同じ男として称賛するよ。負けたくなかっただろうに」


 3年生の全員が健輔の行動を評価していた。

 いざという時にチームのために個の勝敗を捨てる事が出来る。

 言葉にすれば簡単だが、1年生の段階でここまで意識してやれるのはそうはいない。

 万能系の能力と合わせて考えれば、極めて高い将来性だと言える。

 妃里も自分を不意打ちした最後の1撃について、複雑な思いはあれど正当に評価していた。

 自分ではあの場面、あの年齢で同じ選択肢を選ぶ事は出来なかっただろう。


「健ちゃんの思考は割とわかりやすいよね。勝つ、そのためにならやれる事は試せる範囲で大体やってのける」


 ルールに反したり、倫理を破らない範囲で最善を尽くす。

 当たり前の事だが、実際に実行するのは難しい面がある。

 魔導競技は普通のスポーツとは違う面も多いため、尚更だったが健輔の系統はそれを可能にするものだった。


「ほいほい自爆するのも度胸があるというべきか。無計画なら怒るんだが、明確な目的がるとやめろとは言い難いな」

「そうだね。あんまり頼り切るような注意する形でいいんじゃないかな?」

「私もそれで良いと思う。言われずともその内、自分で気付くだろうさ」

「妙に評価が高いわね。……バックスとして試合を見たから?」

「まあ、それもあるな。1番の理由は使いやすさだ。万能系であれだけの機転があるなら、参謀としては便利に使えるからな」


 相性による優劣が強いのが魔導の戦闘である。

 遠距離系が強いのは戦いの常だが、早々に諦めるわけにはいかないのだから、どんな状況でも使える選手はいるだけで便利だった。

 方向性を与えればその範囲内で結果を出すところも早奈恵の評価を高くしている要因である。


「私もありがたい感じかな。相手の戦力調査とかにもちょうどいいし、実力不明な相手とかにも使いやすいよね。公式戦では基本メンバーで使ってみたいと思ってるし」

「……本気?」

「うん、何か変なところでもある?」


 真由美の発言に驚いた様子を見せたのは妃里だけだった。

 早奈恵は合理的だと呟き、隆志は当然だなと頷く。

 1人だけ蚊帳な外な感じだが、妃里は真意を確かめるため真由美に問いかける。


「1年は確か最初の予定だと交代メンツだったでしょう。普通に2年生を使えばいいじゃない。実力的な意味でもそうだけど、チームとしての総合力もそっちの方が高くなるわ」

「それは無難な選択肢だよね? 私としてはもう1歩踏み込んでおきたいかな。万能系の対応力は序盤投入が向いてるし、なにより経験を積んだ方が健ちゃんにとってプラスになるじゃない」

「他にもある。正直、2年の詳細なデータは夏の間は隠しておきたい。3貴子を筆頭に国内にも強力なチームは多いからな。わざわざ情報をくれてやる必要もないだろう」

「主力の情報が少ないというアドバンテージはうまく活かしたい。そういう意味で佐藤のやつは最適だ。あらゆる相手の弱点をつけるというのも魅力的だしな。何より本人の情報を取られても大した痛手にならん。他の系統なら戦い方が漏れるだけでも致命傷だが、万能系はもとより弱点が漏れている」

 

 早奈恵、隆志の順に健輔加入のメリットを真由美に続いて説く。

 妃里としても今日直接対決したことで万能系の厄介さというものは理解した。

 動けている限り場をひっくり返す力はなくても、かき乱すことは十分以上に可能な力を持っている存在だ。

 実力的な意味での加入はメリットが多いのは理解出来た。

 しかし、まだ問題は残っている。

 後輩に出番を奪われる先輩の心情的な問題について無視されていた。


「交代で出れてもやっぱり試合を長いことしたいって子もいるでしょに。葵とかはどうするのよ? 他の1年生、特に圭吾くんの心情とかは?」


 個人戦で勝利した相手が出場して、自分は控えなどと納得できる方が少数派だろう。

 妃里の懸念は根拠がないものではない。

 そんな当たり前の疑問に真由美は、


「我に秘策あり!」

「え……。ちょっ」


 声高に宣言する。

 真由美の様子に嫌な予感を覚えたため、逃げようとするが、あえなく捕獲されてしまう。

 捕獲された妃里は徹夜で真由美の秘策とやらを聞かされて、寝不足のままテストに挑む事になるのだった。

 

 

 



 素早く帰宅した健輔たちとは違い、何かを考えるようにノロノロと歩いて帰る2人の女性。

 彼女らも無言のまま試合を振り返っていた。

 九条優香にとって、今日の試合は課題が多く見えたものの、実り多いものであった。

 丸山美咲にとって、今日の試合は己のどこが未熟なのかを叩きつけてきた苦いものであった。

 勝者と敗者、双方の心の距離は離れている。

 しかし、思うところは同じだった。

 もっと、自分には何かが出来たのではないだろうか。

 勝者と敗者、関係なしに自分へと問いかけているのだ。

 

「……」

「……」

 

 静かな空気だった。

 会話1つもなくお互い無言の状態で意識を向けることもなくただ己の中に没入する。

 噛み合っていない雰囲気ではあったが2人の間に漂う空気は険悪なものではなく、むしろ穏やかなものではあった。

 彼女らはお互いを無視しているのではない。

 あの時、ああしていれば、こういうところを直せばと無言で己が内に語りかけながら、自省を行っているだけなのだ。

 外見からすれば、まるで違うタイプの2人なのに芯の部分がよく似ていた。

 帰り道の大半を特に話す事なく進んでいく。

 もうすぐ2人の行き先が分かれる。

 タイミング的にはそんなものだっただろうか。

 

「悔しいな……」


 美咲が弱々しい声でぽつりと言葉を漏らす。

 口から出てしまったことに気付いたのだろう美咲は慌てて優香に謝罪する。


「あ、その、嫌味っぽい感じだった? そ、そんなつもりは全然なくてね……ご、ごめんなさい」

「いいえ、気にしないで下さい。……正しい感情だと思いますよ」


 嫌味ではなかったが、だからこそ掛け値なしに本音だった。

 続けて謝罪を口にしようとしたのか、僅かに口を開くも美咲はそれを飲み込む。

 何を言ったところで言い訳染みたもの以上にはならない。

 観念したように肩を落とすと、彼女はぽつりぽつりと悔しさを漏らす。


「すごく練習したつもりだったの。でも、いざ戦いってなると何も考えられなくなっちゃって。最後の攻撃だって本当は私が気付かないといけなかったのに……」

「……そうですか」


 先輩であり経験豊富な妃里が指揮を執るのは何も間違っていない。

 むしろ正着だろう。

 だがそれはバックスとしての役割に専念することを意味しない。

 美咲の後悔はそこだった。

 今回の試合でただ魔導を使っていただけなのが彼女である。

 4人の中でもっとも何もしなかった1年生。


「妃里さんも圭吾君も気にしないでいい、自分たちが悪い、だってさ。そんなことないよね? 2人共すごくよく戦っていたもの、それは――私が1番よく見てたから」

「そうですね」


 優香は美咲の弱音にただ相槌だけを返す。

 共に戦ったチームメイトには漏らせない本音を敵であった優香に叩きつけることで整理しているのだ。

 それをわかっているからこそ優香は聞き役に徹する。


「だから、悔しいなって。何がダメだったのかなと思って――」


 美咲は言葉を詰まらせる。

 バックスとして支援に徹していたからこそ、彼女には戦う2人の状態がわかっていた。

 妃里は優香とのギリギリの戦いに全力を投じていたのだ。

 指揮を執ってくれていたが、圭吾の方まで気を回す余裕はなかっただろう。

 圭吾もまた、全力を超えた状態で健輔と戦っていた。

 健輔は時間が圭吾の味方だと判断していたが、言うほど圭吾も余裕はなかったのだ。

 美咲にはそれら全てがわかっていた。


「香奈さんだったら、もっと的確な術式で負担を減らせたかもしれない。早奈恵さんだったら佐藤くんの狙いに気付いて、妃里さんに警告出来たかもしれない」


 必死に漏らさないように耐える瞳には大粒の涙があった。

 優香は変わらず暖かい笑顔で美咲を見守る。

 美咲のそれは役割以上のことができなかった自分に対する自責の言葉であった。

 自分で自分を責めているのだ。

 優香はそこまでわかっても何も言わない。

 自分を責める気持ちが優香には痛いほどよくわかる。

 今回試合で言うならば、優香も役割以上の事が出来ていない。

 そういう意味でなら、2人は仲間だった。

 実力を超えた力を発揮したチームメイトと比べると自分の未熟さが浮き彫りになる。


「丸山さん」

「えっ?」


 泣きそうな美咲を見据えながら優香は沈黙を破る。

 

「じゃあ、今度は勝てるように頑張りましょうよ。それともそのまま泣いて終わりにしますか?」

「え……優香ちゃん?」


 美咲も答えを期待して漏らしていた後悔ではない。

 言葉尻だけ捉えれば突き放したような言葉なのに響きには信頼するかのような暖かい思いが籠っていた。


「諦めるんですか?」

 

 再度確認するように優香が尋ねてくる。

 答えなど考えるまでもないだろう。


「あ、ありえない。だって悔しいじゃない!」

「……そうですね。よく、わかります」


 それは美咲にとっては意外な答えだった。

 敗者の嘆き、そんなものに優香が理解どころか共感を示すとは思えなかったからだ。

 美咲の中で九条優香とは人付き合いに不器用な面があっても、それ以外においては完全な天才だったからである。

 挫折など知らず溢れる才能と能力で輝かしい勝利を手に入れてきた人がどうしてこんな惨めな感情に深い理解を示すのか。

 慰めよりも奮起させて欲しいとわかっているかのも不思議だった。

 輝かしい勝者であるはずの優香はどこか疲れた笑みを見せているのだ。


「努力はしたはず、才能も優れているものがあるつもり。でも、勝てなかった。そんなの私もそうですよ? そんなに平気な風に見えてますか?」

「優香ちゃん……」


 敗北の衝撃もこれには負けるかもしれない。

 九条優香がきっとずっと隠してきたものをおそらく初めて誰かに明かしている。


「皆さんがどう思ってるかはわからないですけど。私だって世の中に理不尽なものを感じることぐらいありますよ。でも、届かないと感じても実際にやってみないと、本当かどうかはわからないじゃないですか」


 とてもそんなことを思っているとは考えられない朗らかな笑顔だった。

 まるで、そうすることで自分でも整理しようとしている。

 美咲はそんな風に感じていた。

 

「努力してるのに報われない。でも、そんな風に思う自分がもっと嫌い」

「そう、だね」


 努力は十分にしたはずだった。

 時間換算で言うなら1日のほぼ全てを勉強に費やしていたし、実践も十分以上にこなしていたはずだ。

 美咲は物覚えも良く、バックスの才能で言うならば平均ラインは超えていると断言できる。

 それでも実践ではほぼ機械のごとく術式を展開していただけだった。

 見返りを求めてやっていた訳ではなかったが、敗北した時にわかってしまったのだ。

 勝利という果実を、努力が認められる瞬間を求めていた。


「これって、自分でもどうしようもないんですよね。もやもやしてて解決のしようがなくて、今だってわかってたことなのにすごい焦ってますもん」

「焦る?」


 一体、優香ほどの人物が何に焦るのだ。

 思い当たるものがない美咲は不思議そうな顔をしている。

 優香は美咲の様子ににっこりと笑って指をさす。


「私?」

「丸山さんだけじゃなくて、佐藤さんも高島さんも含めたみなさんです」


 溜めこんでいたものを言葉と共に吐き出すよう優香は語る

 

「皆さんすごく成長してます、自分の資質にまっすぐで見ていて眩しいくらいです」

「……ありがとう」

「だから余計に自分がいやになります。焦るなって言われてますから理解もしてますし納得もしてるんです。でも、きちんと自分を表現出来ないことがいやになる」

 

 美咲にも何もわからない領域で優香はまた別の悩みを抱えている。

 完璧に同じ悩みなどこの世に存在しない。

 似たような思いはあってもそれを他人が他人を完全に理解することなど不可能である。

 美咲には優香の本当のところはわからない。

 でも、1つだけわかったことあった。

 優香も普通の人間だから悩みを抱えているのだ。

 きっと、真由美や妃里もそういったものを乗り越えてあそこいる。


「だから、私はきっと――」

「もう、いいよ。もう、大丈夫」

「あ、ま、丸山さん?」

「大丈夫だよ、うん、もういいんだ」


 優香にとってすごくどろどろした胸の中に潜んでいるものが出てこようとした時、美咲は話題を断ち切った。

 ここから先はまだまだ早い、美咲は理由などないがそう思ったのだ。

 優香はこちらを励まそうとずっと目を背けていたものに向き合ってまで言葉を尽くしてくれた。

 これ以上甘えるのは何かが違うだろう。


「ありがとう。でも、そこから先は私に言わなくていいよ。きっと、優香ちゃんが言いたい人は別にいると思うんだ」


 美咲は感謝の気持ちを込めて精いっぱい伝える。


「そうだよね……。みんな悔しい思いをしてるんだもんね。自分だけじゃなくて、周りのみんな。佐藤君だって圭吾君に負けて悔しいはずだよね。それにここから部長たちと一緒に戦っていったら、こういう思いをする人はいっぱい出てくる」


 勝敗を競う限り、報われない存在は必ず出てくる。

 そんな簡単で当たり前のことをどうして重く考えてしまったのか。

 健輔がよく言っている言葉の意味がよくわかる。

 次は負けない。

 終わってしまったことをいつまでも嘆いている暇なんてないのだ。

 誰も彼もどこかで必ず負けているのだから立ち止まる必要はない。


「ありがとう、優香ちゃん」


 突然の独白に目を点にしながらも優香は満面の笑顔で応じる。


「どういたしまして」


 重苦しいものはどこかへと消えていき、そこにはごく普通の女子高生が2人残る。

 敗北に苦悩した少女が一時消えていく。

 いつかまだ出てくるだろうが、似たような友人がいるのだから、次も乗り越えられるだろう。


「ごめんね? なんか空気を重くしちゃってさ。優香ちゃんにも言いたくないことを言わせちゃったかもしれない」

「気にしないでください。丸山さんのお役に立ったのなら嬉しいです」

「あ、それ。丸山じゃなくて美咲でいいよ。男の子みたいだし、私は直接戦ってないけど拳を交えたら友達になるって言うじゃない。だから、名前で呼んでほしいな」

「え、あ、はい。ま、美咲さん。これからもよろしくお願いします」

「うん、よろしくね! あ、今度一緒にお買い物行こうよ。妃里さんからいいお店教えてもらったんだ」

「お、お買い物ですか? ぜ、是非ご一緒させて――」


 静かな空気はどこへやら。

 姦しさを増した友人たちは寮に向かって去っていく。

 よちよち歩きのような関係性でも彼女らは歩みだしたのだった。

 関係は変わっていく、良かれ悪しかれ必ず変化が訪れるのだ。

 そして、それは彼女らだけでない。

 学園全体が準備を整えて行く。

 まだ見ぬライバルたちも着々と動き始めているのだった。






 学園のある一室、生徒会室と書かれた部屋で部屋の主たちが会議を行う。


「そうか、君の妹さんがいるのはあそこのチームか」


 生徒会の面々の前で生徒会長、北原(きたはら) (じん)は穏やかな声で情報を語る女性――九条桜香の報告を聞く。


「スサノオ、ツクヨミ、魔導戦隊、賢者連合、天空の焔、明星のかけら、暗黒の盟約と今でもこれだけやっかいなチームがいるのに、また1つダークホースが加わるわけか」


 若干、憂鬱そうな会長の言葉に桜香は微笑を浮かべ相槌をうった。


「はい、総合力並びに危険度、どちらも最高に設定していいと思います。私が今回警戒すべきだと思うのは『クォークオブフェイト』『暗黒の盟約』『魔導戦隊』の3チームです」

「こちらとしては『天空の焔』も加えたいね。あそこには変換系の留学生が入ったらしい。加えて、欧州のチーム『ヴァルキュリア』の一員だったとのことだ。中等部上がりのためランクはまだないが、確実にランカークラスだろう」

 

 2人の会話を聞いていた書記の二宮亜希(にのみやあき)は2人の様子を見計らって議論を次へと進める。


「大体出揃った感じですかね? だったら、後は初戦の出来を見て行く感じですか」

「ああ、新興チームはある程度情報を隠してくるだろうけどね」


 桜香はクスクス笑いながら会長を窘める。


「左程、脅威に思ってるように聞こえないのですけど、会長」


 図星を突かれたのか、一瞬黙った後に降参といったように両手を上げる。


「事実として、こちらが負けそうなチームはない。何より、国内で君に勝てる者はいないだろう。だったら、こちらの勝利は確実だ。アメリカの『皇帝』、欧州の『女神』などに対する対策を立てた方がいいだろう?」


 自信か、それとも油断か。

 過信とも取れる自信だが、それに見合った実力があるのは事実だった。

 桜香は少しだけ芝居がかった言い方のリーダーに苦笑する。

 

「その認識ならば、アマテラスは惨めに敗退するかと」

「……そうまで断言する理由は?」

「各チーム1年のダークホースが多いです。特に真由美さんのところと魔導戦隊には万能系がいます」

「あの器用貧乏を警戒しろと? 君にとってはそこまで特別なことではないと思うが」


 桜香の言いたい事はわかっているだろうに仁は笑いながら問い返す

 彼女が自身のチームが敗北すると言った理由はそれだけではない。

 

「万能系に限らず、系統の使い方には注意すべきです。人の数だけ戦い方が存在しているのですから、油断は禁物かと。アマテラスはよくも悪くも綺麗に纏まったチームです。尖ったチームとの戦いには慎重になるべきです」

「なるほど、真理だね」


 仁は桜香の忠告を受け取る。

 アマテラス――総合力において頂点に立ち、国内では6年連続で優勝しているチームだ。

 前回の世界大会では総合2位、世界で2番目に強いチームになっている。

 日本の魔導業界として、これは紛れもない偉業だった。


「現時点での評価は君の言う通りでよいだろう。しかし、大会は3ヶ月ある。釈迦に説法だろうが、油断だけはないようにな」

「勿論です。どこが相手でも私は負けません」

「桜香、あなたも無理をしないでね?」

「ありがとう、亜希。大丈夫よ。それに私が必ず、今度こそ世界大会優勝にチームを導くわ」

「ええ……、頑張りましょう」


 輝ける太陽に率いられた最強のチームは王者として挑戦者を待つ。

 状況は動き出す。

 全てのチームが始まりの戦いに挑む時は直ぐ傍にまで近づいていた。


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