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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第3章 秋 ~戦いの季節~
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第149話

「――だからだな、圭吾。このカースト制度染みた女子との触れ合いのなさはなんとかならないのか!? 健輔はわからんと言うし」

「悪いな、圭吾。うん、お前ならわかってくれると信じてるぞ」

「まあ、健輔の立場じゃね……。大輔の言いたいことも十分わかるけどさ」


 朝の一幕。

 担任が来るまで思いの思いの過ごし方をする中で大輔の熱弁を聞いた圭吾の感想はそんなものだった。

 

「なんかやる気がないというか、あれだな。気合が入ってないな」

「こんな平和的な話題で悩めるのが羨ましいだけだよ。こっちは割と尊厳に関わる問題を抱えてるからね」

「あー、その、なんだ。答えをくれないか」

「ああ、ごめんよ。結論から言うといろいろ難しいかな。特に健輔からの紹介は誰も得しないからやめた方がいいよ」

「な、何故だ!? 俺は美女たちと」

「知り合えて幸せ? 普通はそうだろうけど、あの人たちは最強クラスの魔導師でもあるからね。特に九条さんはやめた方がいいよ。同じクラスの男子は皆、心を圧し折られてるからね」

「え……」


 健輔も一体どういうことなのかわからず疑問符を浮かべる。

 1学期ならばともかく今の優香はそこまで残酷な仕打ちをするように思えなかった。

 基本的に善良という人格が服を着ているような女性なのだ。

 優香の気遣いに助けれたことは健輔も多い。

 

「九条さんのスペックは知ってるかい?」

「当たり前だろ! 流れる黒き絹のごとき長髪。肌は雪のように白く、シミの1つも存在しない! 頭脳明晰で運動も得意。しかもあれでいて結構なバストもお持ちではないかと言われている1年が誇る最高の美少女ッ!」

「そうだね。でだよ、そんな美少女と釣り合う男っているのかい?」

「は……え……つ、釣り合う?」

「ここは魔導の学び舎だから魔導競技で強ければある程度は補えるよ? でも、それもない男子が告白しても惨めになるだけなんだよね」


 優香の場合は一緒にいることが辛くなるほどの優秀性である。

 高嶺の花過ぎて手を出すことを考えられなくなったのが彼女のクラスの男子たちだった。

 そういう意味で彼女は憧れではあっても手に入れたい対象には成り難い。

 運動自慢程度ではどうにもならないのだ。

 生身でその気になれば音速を出せるのが優香である。

 そんな傑物と運動神経を競うなど正気の沙汰ではなかった。


「似たような理由でクラウディアさんもダメかな。九条さんよりも男性として見てもらうのは楽だけどその分、採点はかなり辛いよ」


 男性の理想像が高すぎるクラウディアは大輔が求める対象としては適していない。

 自分にも厳しく他者にも厳しい、己を律することが出来る人間でないと会話も割と危険な領域である。

 まさしく現代に蘇った騎士と言ってもいい人物だ。

 現代ナイズされた柔な日本男児では話にならない。


「俗に言うチャラい系は完全に一刀両断だろうね。しつこく迫って弱い電流を流されて体がマヒしたナンパ男とかいたって噂もあったからね」

「こ、こええ……」

「そうか? あいつ、普通にいい奴だと思うけどな」

「そりゃ、健輔はクラウディアさんを倒せるからだよ。あの人、僕には結構当たりきつしね」

「え、マジで?」

「うん、まあ、僕の被害妄想の可能性もあるけどさ」


 好悪がはっきりしていて、かつ行動力に溢れるのがクラウディアだ。

 葵と傾向的には似ているがなんやかんやで社交性も高い葵に比べると些か不器用な面が目立つのが彼女だった。


「じゃ、じゃあ、丸山さんは?」

「美咲ちゃんかー……まあ、仮にその3人の中から選ぶなら1番の安牌ではあるけど」

「やっぱりそうなのか! 面倒見がいいって人気が高いんだぜ」

「ああ、うん、面倒見はいいよな」

「でも、美咲ちゃん、多分頭悪い人嫌いだよ? 直接言ったりはしないと思うけど、そういう関係になれるかはどうだろうねー」


 簡単に口に出すことでもなかったのであえて言っていないが美咲には夢があり、それに邁進することしか考えていない。

 色恋沙汰に引き込みたいのならまず彼女に興味を持ってもらう必要があったりと簡単な女ではなかった。

 そう言った諸々の条件を気付かずに達成している男もいるがあれは無欲の勝利だろう。

 戦闘に、正確には魔導に全力投入したからこその結果だとも言える。

 大輔には悪いがレベルの高い女子、つまりは美人な女の子は何かしらの目的意識があることが多い。

 それに力を入れているからこそ、その部分以外に目を向けさせるのは簡単なことではなかった。

 これが普通の女子高生とかならば、そっち方面への興味もあってある程度の社交性と容姿があれば大輔の願いは成就したはずだが、残念な事にここは天祥学園である。

 男子のコミュニティは体育会系のノリとそこまで逸脱してるわけではないが女子の方は結構な違いがあった。


「じゃ、じゃあ、先輩とかは? お前たちのチーム美人な先輩も多かったろう?」

「ああ、そっちは紹介だけなら余裕だな。そういう関係になれる可能性は限りなく0に近いけど」

「そうだね。僕も同意だよ」

「紹介は簡単なのに、そっちはダメなのか?」

「先輩たちは大人だからね。後輩の男のそういうのは生暖かい目で見てくれると思うよ」

「な、なるほど」


 実際、葵は健輔の友人を無碍にしたりはしないだろう。

 まさしく姉のように接してくれるのは疑いようがない。

 程度の差はあれ、先輩たちはそのように接してくれるだろう。


「まあ、男しては絶対に見られないがな」

「九条さんをさらに拡大させたような人たちばかりだからね」

「う、うぐぐ……」

「まあ、とりあえず肩の力を抜いた方がいいと思うよ。月並みなアドバイスで申し訳ないけど」

「それはどういう――」

 

 大輔が尋ねようとした時にチャイムの音が鳴り響く。

 時間を確認してみるともうすぐ朝のホームルームであった。

 

「続きは休み時間に」

「了解」

「や、約束だぞ!」


 里奈の姿を確認して、3人は解散するのであった。




「恋愛事情、ね」


 部室でクラスメイトとの話を和哉にすると興味深そうに言葉を切る。

 

「剛志、そっちはどうだよ?」

「お前の知っていることと変わらんだろうさ」

「隆志さんは?」

「大体予想通りだな」

「ふーん、そんなものか」


 何かに納得したように和哉が頷く。

 健輔にとっては何のことかさっぱりにわからないため、微妙に苛立ちを感じる。

 後輩の様子に気付いた訳ではないだろうが和哉がネタばらしをしてくれた。


「まずはあれだな。1年生でその辺りは早いと言うか」

「早い?」

「この学校、いろいろと特殊だろ? 慣れるのにも時間が掛かるし、お前みたいに伸び始めるとこっちが楽しくなるのも男女問わず多いんだよ」

「へえ、そんなもんなんですか」


 大輔ががっつき過ぎたのも事実だろうが実際のところは余裕がないか、考える暇がないの2択である。

 2年生になれば高校生相応にカップルは増えるとのことだった。


「まあ、目が肥えてるのは間違いないがな」


 隆志が笑いながら補足を加える。


「3年生では大体2極化するんだよ。魔導に打ち込むか、普通の高校生活をするかって具合でな。基本的に前者の方が多いが後者もそこそこいるぞ」

「……なんか大変ですね」

「交際なんぞ基本的に男がめんどくさいだけだ。余程男を立てるような女がいるならいいが、そんなものは絶滅危惧種だな」

「古き良き大和撫子ってやつだ」

「あー……なるほど」


 なんとなくだが圭吾が初恋の女性に執着する理由がわかった。

 あれだけ完璧に理想と合致するのならば躍起になるのも理解できる。

 そういう意味ではこの学園は両極端な人物が多いとも言えた。


「お前の学年だと1番は優香か?」

「みたいです。なんか他にも放送部とかの方でいるみたいですけど」

「いつになっても変わらないですね。隆志さんの代は誰なんですか?」

「こちらは慶子のやつだったかな。立夏との接戦だったが」

「実力と美貌が一致してるのは九条姉妹ってことですか」


 2年は誰に問いかけるまでもなく答えが丸わかりなためスルーである。

 ついこの間の覚醒はいろいろな意味で衝撃を与えてくれたが彼女はそれ以外でも相当に有名なのだ。

 男たちの女性談義は続く。

 時代と世代が変わっても繰り返される不変の光景。

 異性とはいつの時代も気になるものだった。


「好きな男性のタイプ、ですか?」

「そうそう、優香ちゃんは人気者みたいだからねー。私は先輩として気になっていたのさ」


 部室で男性軍団が屯している時、女性陣が何をしていたかと言えばケーキバイキングにやってきていた。

 常に気を張っていたら逆に肝心な時に力を発揮することが出来ない。

 真由美はそういう考えを持っており、これまでも実践してきた。

 チームメイトの親睦を深めるためと食事会を企画したりと精力的に動いている。

 今日は所謂1つの女子会であった。

 男子の不満などは兄である隆志が聞いていて後でこっそりと真由美に話を回している。

 目立たないがこういった細かい気遣いが常にチームを最高の状態で機能させるコツでもあるのだ。


「そ、そう言ったことは特別考えたことがありません」


 赤い顔でムキになって否定する様は同性から見ても可愛らしかった。

 天は二物を与えずと言うが優香や桜香には当てはまらないだろう。

 神に依怙贔屓されたとしか思えない程に数々の才を持っている。

 もっとも、彼女たちに嫉妬出来ない程度には真由美も多くの授かりものがあるため特に気にしていなかった。

 良くも悪くも『クォークオブフェイト』の女性陣はスペックが高い。

 何かしらの一芸に秀でていれば嫉妬の度合いも減少するものである。


「真由美さんって案外、好きですよね。恋愛話」

「女の子なら当然だと思うんだけど……。むしろ、こんなにそっち方面に行く子がいないとは思ってもみなかったよ」

「あはー、2年生は期待に沿えてないですよねー。私は魔導研究好きで葵は求道者。真希は夢見がちと」

「香奈、夢見がちってどういう意味かな?」

「そういう意味かな?」


 真由美自身が魔導に全力過ぎて男性への興味が薄かったため何も言えないがここまでストイックな魔導集団になってしまったのは完全に予想外である。

 当初の予定ではチーム内での恋愛などに対してどのように対処するのかなどを真剣に悩んでいたのだがまったく意味がなかった。

 恋愛絡みはめんどくさいので良かったといえば良かったのだろうが釈然としないものも、また感じるのである。


「どうしてこうなったんだろう」

「……それって本気で言ってる?」

「何よー、妃里には原因がわかるの? わからないでしょうに」

「……残念ながらわかるんですけど」

「え、ホント?」

「妃里、はっきり言ってやれ。お前に男っ気がないのが原因だ、とな」


 早奈恵の直球めいた物言いに一瞬だが真由美の体が固まる。

 類は友を呼ぶ。

 チームリーダーたる真由美が魔導に全力を注ぎ、さらには世界で優勝を目指すとか言っていたのだ。

 当たり前のように女傑しか集まらなかった。

 とはいえ、彼女たちは美人だがモテないのも仕方ないだろう。

 男子をボコボコにするほど強い女子を恋人にしたいと思うような傑物は中々いない。

 ましてや、彼女たちよりも強いという条件を入れたらさらに減るだろう。

 そこに性格が良いという付帯条件を設定するとどんな男子も壊滅だった。

 『皇帝』はいわずもがな。

 星野はまだマシな部類だが彼は売却済みである。


「わ、私は釣り合う男の子がいなかっただけだもんね! も、モテモテだよ? ホントだよ」

「ああ、ドМには、だろう?」


 早奈恵のニヤリとした笑いで真由美の額に青筋が浮かぶ。

 密かに気にしていた部分をここぞとばかりについてきたのだ。

 流石親友であった。

 良く真由美のことがわかっている。

 しかし、それは諸刃の剣でもあった。

 当たり前だが真由美も早奈恵のことはよく知っているのである。


「そういうそっちはロリコン御用達じゃない! 知ってるよ、初めての告白に胸を躍らせたらランドセルを押し付けてくる変態だったってね」

「貴様っ、い、言うてはならんことを」

「何よ! 事実でしょう!」

「お前だって、試合で落とした男子に顔を見るなり「殺さないでッ!」などと怯えられてたじゃないか!」


 相次ぐ自爆合戦に妃里が額を押さえる。

 2年生は関係ないとばかりに完全にスルー、1人であわあわした様子を見せている優香が唯一の良心と言えた。


「はぁぁ、美咲、こっちはお願いね」

「……えーと、はい。その、頑張ってください」

「ありがと。――真由美、早奈恵、いい加減にしなさい。お店にも迷惑よ」


 優れた能力を持っていても彼女らも一皮むけば年頃の少女たちである。

 女3人寄れば姦しいとは言うがエネルギーが男子たちの比ではなかった。

 次にどんな戦いが待っていても常に自然体である彼女たち、もしかしたらそれが『クォークオブフェイト』の強さの秘訣なのかもしれなかった。

 妃里の必死に仲裁もあって、落ち着いた真由美たちを再度迎えて女子会は和やかに終わる。

 後日、ここのケーキと共に恋愛話を優香に聞かれて健輔が困ったことになるとはまだ誰も知らないことだった。


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