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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第1章 春 ~始まりの季節~
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第13話

 特訓が開始されて何日か経つと、天候的にも夏になってきた。

 座学の中で天祥学園の成り立ちなども習っていたが、こんな部分まで真似しなくて良いだろうと思う。


「あ、熱い」


 日本列島からいくらか離れた場所に天祥学園は作られている。

 本来島などもなかった場所にこれだけの施設を作り上げたのは、偏に魔導と言う名の奇跡だったが、余分な部分までは再現しなくて欲しかった。

 あまりの暑さに健輔は脳内で妖精と会話でもしてしまいそうである。


「おい、佐藤。お前頭が湯出ってるのか? 虚ろな目で笑い声なんぞ出された日には気持ち悪くて流石の私も引くぞ」


 妙に調子のおかしい健輔を見て、早奈恵が声を掛ける。


「いやー、すごく熱いと思いまして……。……武居先輩は熱くないんですか?」


 大げさに溜息を吐きながら、さも呆れたぞといった体で早奈恵は答えた。


「確かに今は連携訓練を行い運動した後だから熱いな」

「でしょう!? 反省会なら涼しい部室でやりましょうよ!」

 

 汗を流しながら、熱く力説する健輔に優香は遠慮がちに声をかける。


「あの、佐藤さん。すいません。その、お気づきでないんですか?」

「へ? お気づきって何が?」


 いつもなら率直にものを言うだろう優香が言いづらそうに健輔に問いかける。

 早奈恵は頭痛に耐えるかのように頭を押さえていた。


「私たちが汗をかいていないのがわかりませんか?」

「あ、え、お……ほんとだ、何故?」


 健輔は茫然とどうして、と呟く。

 優香はその様子を見て、言いづらそうに由について簡単に話してくれた。


「授業で説明されてませんでしたか? 周囲の温度を調節したりとかも魔導式で可能ですよ。最近流行りの生活に根付いた魔導です。笹山先生がHRとかでもおっしゃってましたから大山先生もそうではないでしょうか?」


 健輔は愕然とした様子を見せる。

 追い打ちを掛けるかごとく、早奈恵が付け足す。

 

「ちなみに私も言ったことがあるぞ。まったく、その様子だと通常科目のテスト勉強も普通にやってるな? 今日は其処らへんも教えてやろう。とりあえず、連携の基礎はわかってることは確認できた。明日からの真由美との模擬戦で残りの課題を詰めていくとしよう」


 2人から言葉が脳に到達するのに少しの時間を要した。

 その間に早奈恵は優香を連れ立ち更衣室に向かう。

 再起動を果たした健輔も慌てて、着替えにいくのだった。






「へー、健ちゃん知らなかったんだ。ここの目的は、魔導を一般化することだよ? そりゃ地味に便利な生活魔導とかも作られるよ。だって、研究者も人間だしね」


 優香の衝撃発言について部室で真由美に聞いてみた感想がこれだった。

 隆志や妃里は笑いに耐えられないといった感じで腹を押さえている。


「高島や丸山は普通に使っていたぞ? なんでピンポイントでお前は知らないんだ」


 隆志がそう問いかけてくるがそんなことは健輔が知りたかった。

 魔導に関する授業はちゃんと起きていたし、きちんと聞いてもいたのにまったく知らなかったのだ。

 健輔が憮然とした感じで拗ねていると妃里が笑いながら、答えを言う。


「想像できないの? 確か、あなたのクラスは里奈ちゃんが担任でしょ? HRではなくて通常授業で言ったんじゃないの?」

「あ、あり得そう……」


 妃里の言葉から里奈ならばありえそうだと思ってしまった。

 圭吾が知っていて健輔が知らないということは、むしろそれしかあり得ないだろう。

 面白がって黙っていただろう圭吾に健輔は怒りを抱く。

 俗をそれを八つ当たりと言うのが、八つ当たりをする人物がそんな事に思い至るはずもなかった。


「高島あたりは面白がって言わなかったんだろうな」


 隆志の予想は健輔のものとも合致している。

 いつか泣かすと心のメモ帳にしっかりと書き込んでおく。


「解決したかな? それじゃあ、さなえんお願いしてもいいかな?」

「ああ、わかったよ。隆志と妃里はこれから、外か?」

「ええ、交代であっちに行くことになったの。お互いに順調そうでよかったわ」


 真由美の合図に従い隆志と妃里は部室を出ていく。

 休憩も終わりということだった。

 初めての勉強会を以外と楽しんでいる健輔はノートを取り出して準備を始めるのだった。


「魔素が発見されたのは以外と古い。公式記録としては1970年代のものが初めてだが第2次大戦中の各国でも研究はされていた形跡があるらしい」


 優香が悠々と綺麗な姿勢でノートを取るのとは対照的に健輔は苦心しながら話を聞いていた。

 優等生と劣等生。

 この構図がそのまま小さくなったかのような光景の中、1人だけ輪に入っていない人物がいる。

 近藤真由美。

 チームのリーダーである彼女が珍しくも憂い顔で何事かを考え込んでいる姿はとても印象深かった。


「佐藤、私の話はそんなに詰らんか? 真剣に話してる身としてはとても悲しいんだがな」

「あ、すいません。ちょっと気になって。ごめんなさい」


 早奈恵は真由美の方に視線を送り、


「真由美、佐藤がお前さんのことが気になってるらしいぞ」

 

 と冗談のような言葉を言いだした。

 話題を振られた真由美は目をパチパチさせると笑みを浮かべる。

 

「そうなんだ? 健ちゃん私のことが気になってるのかー、後輩に好かれるってのは嬉しいね」

「男と言うのは年上の女性に憧れる時期があるらしいからな。いつもと違うお前の様子にドキドキしてるんだろうよ。黙っていれば、ただの美人だからな」


 話題の当人はどうしてそうなったと頭を抱えていた。

 優香も何故そんな方向に話題がいったのかわからないといった顔をしている。


「部長と先輩もからかうのは勘弁してください、なんか難しい顔してるのが珍しいなと思っただけなんですから」

「わかってるよー、もうちょっと余裕ないとダメだよ? さなえんの教え方がつまらないのかな? 長いことやってるし、ちょっと休憩したいだけ?」

「そういうのじゃなくて、なんか難しい顔して研究機関のまとめを見ていたからどうしてかなって思ったんです」


 真由美が先程まで見ていたのは健輔が里奈から渡されたものである。

 わかりやすく纏めてあったが結局どこがいいのか健輔では判断できなくて真由美に判断をお願いしたものだった。

 自分が頼んだと言う事もあり、健輔は真由美の事が気になっていたのである。


「なんていうか、難しくてね。勉強ついでにさなえん、専用装備について話そうか」

「そうだな、早ければ夏。遅くても秋に佐藤は専用を持つ可能性があるからな。真由美が悩んでたのは、どういう方向性がいいのかということだろうよ」


 研究機関は研究機関だが健輔のものは企業からのものが多い。

 魔導機は実態として、商業的な要素が強いため有力機関のほとんどが企業関連である。

 そして母体となった企業に合わせて得手不得手が決まるのだ。

 真由美が悩んでいたのはその中でどこを重視するのかといった点であった。


「高くて新技術をたくさん積み込んだやつが強いとかそんなに単純ならいいんだけどね」


 真由美は憂い顔で資料を見せる。

 早奈恵は些か不思議そうに問いかけた。

 彼女からするとそこまで悩む話題には思えないからだ。


「真由美、何をそんなに悩んでいるのだ? 有名どころのやつで特に問題はないと思うんだが違うのか?」

「前衛や後衛で求めるものも違うし、バトルスタイルでも変わるからさ。バックスはとりあえず処理能力が高ければ良いって出来るけど、健ちゃんはどうなるのかさっぱりで……」

「ふむ、少し見せてもらってもいいか? ……なるほど、大山先生はもう少し待った方が良いと結論を出しているがそういうことなのか」

「難しいところなんだけどねー、健ちゃんもまだ希望とかないだろうしね」

「希望ですか? かっこいいやつが欲しいとかならありますけど」

「佐藤さん、そういう希望ではないと思いますよ」


 まさかの優香からのツッコミに健輔が一瞬フリーズする。

 冗談だったのに真剣にツッコまれてしまうと何も言えない。


「今のやつで物足りなくなったときが選ぶのにいい基準になるんだよね。系統向きでいいところとかもあるからさー、難しいものだね。ごめんよー、あんまり役に立たない先輩で」

「あ、いえ真剣に考えてくれて嬉しいです。このチームに入ってよかったと思えます」

「そう言ってくれると嬉しいかな。っと、勉強のお邪魔してごめんね、ある程度方針は考えたから健ちゃんも後で話を聞いてくれる?」

「はい、こっちからお願いしたことですから」


 健輔の物言いが可笑しかったのか。

 どこかツボに嵌ったものがあったのだろう。

 真由美は軽く笑いながら、


「部長だし、後輩のお願いだよ? きちんとやるのが普通だと思うな。だから、気にしなで、これからもどんどん頼って欲しいな」

「話半分に聞いておけよ。こいつを調子に乗らせると痛い目にあうぞ。いや、もう合っていたか」

「ええー、さなえん、ひどーい」


 先程まで頼れる感じだったのにそれが一瞬で消滅する。

 健輔はふつ思った。

 このチームは真由美が2年の時に作ったと聞いていたが、結成理由を聞いたことがない。

 桜香と出会った時にチラッと出てきた以前所属していたチームとやらも詳しく知らなかった。

 今これほど頼れる感じの先輩たちだが、1年の時はどんな感じだったのだろう。

 自分が3年になるころには、この人たちに追いつくことができているのだろうか。

 健輔が魔導と出会い学園にやってきたのと同じ期間、2年後には3年生になっている。

 その時、自身の周りにはどんな人がいて、自分はどのような人間に慣れているのか。

 健輔は少しの不安と大きな期待を感じた。

 機会があれば、チームの事について聞いてみたい。

 仲良くじゃれあっている2人を見ながら、健輔はそんなことを思うのだった。






 場の空気が完全に勉強という形でなくなったこともあって本日は解散となった。

 日もすっかり落ちてしまいあたりは真っ暗である。

 夜間の飛行は危険なこともあり禁止されているため優香と2人で寮に帰る。


『夜遅いから、優香ちゃんをちゃんと送ってあげてね? 勉強会が入るとやっぱり遅くなっちゃうなー。手間掛けるけどお願いね』


 真由美からはそんな感じで頼まれた。

 別に真由美に言われずとも、健輔も夜道を女性1人で歩かせるつもりは微塵もない。

 相手が自分よりも強いとしても、これは男の役割だと古臭い観念を持っていた。

 ボディガードのような気分で健輔は優香と共に帰る。

 共通する話題が魔導以外に存在しない2人は静かに夜の街を歩いていた。

 このまま何事もなく今日は終わる。

 健輔はそんな風に思っていた。

 それがあっさりと崩されるとは夢にも思わずに。

 

「その、佐藤さん少しよろしいですか?」

「え、ああ、よろしいですよ?」


 健輔はまさか話しかけられるとは思っていなかったため、変な返事を返してしまう。

 動揺している健輔に優香は上品な笑いを浮かべる。


「すいません、何か考え事を?」

「ああ、いやすまんね。大したこと考えてたんじゃないから大丈夫だよ。それで、何か用事でも?」

「いえ、そ、その少しお聞きしたいことがあって」

「お、おう。相談に乗れることは、答えるぞ」


 優香は僅かに言葉につまりながら緊張している様子だった。

 深呼吸するかのよう大きく息を吸うとその様子とは裏腹に小さな声で、しかし夜に響く綺麗な声で予想もしないことを聞いてくる。


「そ、その! ど、どうやったら真由美さんたちとあんなに仲良く話せるんですか?」

「はい?」


 優香は見たことがないような赤い顔でこちらを見上げている。

 答えを期待するかのように微妙に潤んだ瞳で見詰めてくる美女にいろいろな意味で健輔は追い詰められていた。

 ――どうしよう、これ

 健輔は降って湧いた唐突な難題に頭を悩ませるのだった。


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[一言] 主人公:○○って何、、? 周り:さては授業聞いてなかったろ〜これは○○でな、...... 主人公:(愕然) のくだりが多すぎてくどい。サムい。主人公がめちゃアホアピールして何が面白いのか
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