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総合魔導学習指導要領マギノ・ゲーム  作者: 天川守
第3章 秋 ~戦いの季節~
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第105話

「桜香……!?」

「余所見をしない!」

「っ!」


 二宮亜希は九条桜香の親友である。

 幼馴染と言い換えても良いだろう。

 共に育ち、共に学んできた。

 妹という立場を持つ優香とはまた別に彼女は桜香を見つめてきた。

 1番近い他人を探すのならばそれは間違いなく彼女になる。


「ま、まだよ!」

「その震えを隠してから言いなさい!」


 だからこそ、魔導を習い始めて遠くに行く桜香を誰よりも強く感じていた。

 彼女が寂しくないように友人として近くにいたが、今度は結果として妹のような少女を傷つけてしまう。

 『アマテラス』分裂の際も亜希はずっと桜香に寄り添っていた。

 離れることなど考えもしなかったし、これからもそれは変わらないだろう。

 信頼、信用、言い方はなんでも良いが2人には絆があったし、それは誰にも否定できない事実であろう。

 

「桜香に甘えきって! そんなのだから、ここで奮い立つんじゃなくて怯えてるのよ!!」

「怯えてなんか、ない!!」


 亜希は気付くべきだったし、気付いていたのを無視してしたのかもしれない。

 桜香が無敵だ、などという幻想はさっさと捨てるべきだったのだ。

 桜香を支えたいという『アマテラス』の方針は悪くないが、心理的に下についてしまってはいけないだろう。

 亜希だけでなく桜香の同級生たる後衛の3人などは特にその傾向が強かった。

 おそらく仁だけが危険性を感じていたはずである。

 彼はその上で放置をすることを選択したのだが。


「変な事を言わないで下さい!」

「だったら、ここで奮起しなさいよ! 数の上では勝ってるでしょう!! どうして、もう試合は終わった、みたいな顔をしてるのよ!!」


 桜香に対する信頼を甘えと言い換えれば、『アマテラス』の歪みが良く見える。

 3対1にすんなり持ち込めたこそすらも、そもそもおかしいだろう。

 勝利を考えるならば王者の度量などと言っていないで我武者羅に阻止すべきだった。

 桜香がいるから勝てる、桜香本人はともかくとしてチームメイトがその思考だったのは間違いなく過ちだ。

 現に未だに『アマテラス』有利にも関わらず全体的な戦況は『クォークオブフェイト』に流れが来ている。

 これがわかっていたから桜香は折れることが出来なかったのだ。

 周りが支えると言っても信じられないのも無理はないだろう。

 

「あなたたちは優秀よ。平均以上の能力はあるし、私なんかよりも才能はあるわ。でも――」

「な、何ですか!」

「勝ちたい、という意思がないのよ!!」


 既に桜香という才能に屈しているのだ。

 彼女たちの口から出てくるのは虚しい響きしか残らない。

 立ち向かうべき壁を前に心が折れている。

 

「なっ、何を根拠に!」

「仲間でも結局1人の魔導師でしょうが! 超えたい、とそう思うのが普通でしょう! 身内にすごいのがいるのなら仲間全員が強くなるか、逆に1人だけに任せるのか、そのどちらかしかない!」

「……そ、それは」


 亜希が目を見開いて固まる。

 超えようと切磋琢磨しているのなら、どちらの実力も上がっているべきだ。

 たとえ、敗北続きでも平均的に強い、そんな無様な評価にはならない。

 

「わ、私は――」

「――貰った!!」


 悩みを見せた亜希に妃里の一撃を回避する力はなく。

 あえなく彼女は落ちていく。

 目を背けていたものをようやく直視して――




「立夏さんはわかっていたから『アマテラス』を抜けたんですか?」

「ええ、だって残った子たちに桜香と戦うような気概があるような子はいなかったもの」


 桜香撃墜に飛び跳ねた立夏たちだったが既に落ち着きを取り戻していた。

 それでも興奮を隠せない喜色に富んだ顔を見せている。


「健輔君を見ればわかるでしょう? 大部分の『アマテラス』のメンバーって、そもそも勝てる勝てないじゃなくてやるか、やらないかレベルにもいないのよ」

「佐藤のやつはボコボコにされることに慣れてるからな。それでも、挑まないという発想がないのはすごいと思うよ」


 元信も立夏も僅かな間だが健輔にいくつか桜香対策を叩き込んだ。

 貪欲に動きを吸収して自分なりに丁寧に噛み砕く様子は見ていて気持ち良かったし応援したくなる。

 そういったものが『アマテラス』にはない。

 目の前に最上級の獲物が居るのに怯えてしまっているのだ。

 そして、群れに入ることで自尊心を満たす。

 勿論、全員がそうではないが多かれ少なかれ、彼らは桜香に依存している。

 賢い選択肢ではあるが、そんなものの何が楽しいのかが立夏にはわからない。


「お行儀が良すぎるんだよ、仁たちはな。立夏にとって桜香を負かしてやるのは責任で、目標だからな」

「趣味と実益を兼ねたものだものね。まあ、これで趣味しか残らないわけだけど」

「私としては気軽になったよ。私のエゴでぶつかるだけで済むしね」


 桜香は正統派に強くなってしまった。

 小手先の技が不要なぐらいに、仲間の助けがいらないほどに強くなってしまったのだ。

 魔導という競い高める技術でそれは間違いなく不幸だろう。

 桜香が打倒『皇帝』に熱心なのもそれしか目的がないからである。

 真面目で努力家、そして1つのものに囚われてそれ以外は見えなくなってしまう。

 どこぞの誰かにそっくりである。


「優香ちゃんと戦ってよくわかったよ。2人とも本当によく似ている。戦い方もそうだけど、あり方がね」

「妹の方が早期に察したのはチームメイトのおかげだろ。どいつもこいつも諦めの悪い目をしている。したたかなやつに裏を掛かれるってのいうを見てきたんだろうさ」


 ありきたりな話だが強さとは基本的に相対的な物だ。

 絶対的な強さというものは少なくとも現在の世界に存在しない。

 最終的に全てを捨てるくらいのつもりでやれば目的を達成できることは案外あるのだ。

 問題はその前に力尽きてしまったり、最終的なリターンが合わないと投げ出してしまうことであり、それは結果として達成出来なかったことになっているだけである。

 桜香は強い、それは間違いないが最強であることと彼女が敗北しないことはイコールの関係ではない。


「言葉遊びになるからあんまり言いたくはないけど、無敵とか、最強とかに大した意味はないからな。本当になんでもしていいんだったら、ルール上とかで勝つ方法は案外あるもんだ」


 元信はそれを心掛けているし、そういうものだと思っている。

 そして『明星のかけら』というチームはそういう認識を共有していた。


「桜香ちゃんは強かったけど、まあ、本人も何も考えてない猛攻をされたら対処方法がわからないよね。いつも通りやってるのに通用しなかったし」

「一旦引いて、奴が作った舞台から降りれば問題が解決してたんだけどな。付き合うあたり真面目というか、流石に最強の名を背負っているよ」


 健輔だったら間違いなくあっさりと降りていただろう。

 性格と重んじるものが違っただけだが、これ以上ないぐらいに嵌ってしまった。


「かくして最強は再出発ですか。こんなところで『アマテラス』を完璧にしてあげるんだから物好きなチームばっかりですね」

「よく言うぜ。物好きじゃないのがこんな学校くるかよ」


 敗北した『アマテラス』は勝利でそれを塗り替えるためにハングリーさを身に着けるだろう。

 桜香に至っては今度こそ弱点がなくなる。

 気付かないところに存在した穴まで潰して今度こそ、真の最強に生まれ変わるのだ。

 国内大会の中途でこんな意味不明なプレゼントをする意味は普通はない。

 普通はないが、そこでプレゼントするからこその『クォークオブフェイト』でもあった。


「なんにしろ、今後が楽しみなったわ」

「今後の予定も大きく崩れますね。『アマテラス』がどれぐらいで立ち直るかでいろいろと変わりますね」

「あら、そんなの考えるまでもないわよ」

「どういうことですか? 立夏さん」

「今すぐに立ち直るもの。寝ぼけてたところに拳を叩きこまれて目覚めないようなアホがあのチームにいるわけないじゃない」


 立夏が古巣の『アマテラス』を辛辣に評価しているのは、信じているからに他ならない。

 今までの言葉は全て今の『アマテラス』に対してであり、これからの『アマテラス』のことでないのだ。

 最強が本当の最強へと生まれ変わる。


「それが見たかったの? 真由美。その上で超えれるのか、やってみたかったのかしら」


 たった1回の敗北、それでも王者に傷はついた。

 どれほど小さくても傷は傷だ。

 その痛みは王者を目覚めさせる。


「今年が最後だけど、面白い年になりそうでよかったわ」

「全力でやる価値があるな」

「そうですね。私はまだ来年もありますけど」


『古川選手、撃墜! 同じく北原選手も撃墜です! 残り2人、これはもう決まったかもしれません!』

『『アマテラス』対『クォークオブフェイト』ですが~、序盤は『アマテラス』が優勢でしたが――』

『近藤選手が、残りの2名立て続けに撃破しました! この試合『クォークオブフェイト』の勝利です!! 最強、敗れる! 国内大会優勝の筆頭候補が敗北しました!!』

『きゃ~、すごいー』


 『アマテラス』敗北。

 国内最強と目されていたチームはエースの敗北により支柱を失い、そのまま優勢さを活かせずに敗北することになった。

 桜香を支えていると同時に支えられていたチームの弱さが出てしまったのだ。

 仲間なのだから、彼らは本質的な部分で対等な立場であるべきだった。

 それを忘れてしまった。

 それこそが『アマテラス』最大の敗因だったのかもしれない。

 





 会場を後にした『アマテラス』の面々はまるで生気を感じさせなかった。

 誰も彼もが、試合に参加したメンバーだけでなく間の抜けた顔を晒している。

 そんなチームメイトの様子を見た北原仁は納得したように頷いて前に出てきた。

 全員の視線が集まる。

 中には何かを言いたげな視線も混じっていた。

 今回の敗北の一端に仁の方針が関係しているのは事実だ。

 しかし、そんなことよりも彼には言わなければならないことがあった。


「さて、僕たちは見事に敗北したわけだが――」

「会長?」

「――君たち、どうしてそんなに平気そうな顔をしているんだい?」


 言われた意味がわからない。

 彼らの表情を翻訳するならば、そんな顔だった。

 メンバーの不思議そうな表情に仁は笑みを浮かべる。

 ここにいる全員の心情が彼にはよくわかる。

 同類として言葉にしてやらないといけないだろう。


「思ったよりも悔しくないだろう?」

「……」


 誰も仁に返事を返さない。

 図星だったのだ。負けたがあまり悔しくないのである。

 とっくの昔に桜香によって心を折られているため、今回の敗北すらも特に何も感じ得ない。

 折れることに、負けることに慣れてしまっている。

 国内最強のチームが負けに慣れているなど笑い話にもならない。

 皮肉が利き過ぎであろう。

 桜香と戦おう、打倒しようなどという連中は既に出て行ってしまった後だったのだ。

 しかし、仁はそれを承知でここに残った。

 なぜならば、戦う理由は各々好きにあって構わないのだから。


「自分が負けたことではなく、桜香君が負けたことが悲しい。違うかい?」

「あっ……。そう、です」


 亜希だけでなく全員が顔を上げている。

 つまりこのチームは桜香が好き過ぎるファンの集まりなのだ。

 だから、距離感も掴めなかった。

 そのままでも最強に近かったため居心地の良い距離を保ってしまった。

 亜希も同じである、踏み込むよりもそちらを選んだ。

 悪いことではない、何より無理に変革させる必要もなかったのだから。

 絶えず自分を変化させようと努力を続けれる人間の方が珍しい。


「そうだ。悔しいのはそこだ。ならば、今度こそ僕たちは彼女のチームふさわしくなろう。傍をうろつくだけでなく今度こそ、しっかりと支えよう」

『はい!』

「ここからは挑戦者だ。アメリカなんて眼中にもない。僕らの太陽を地に落とした者たちを含めて、全てに逆襲だ。何、チャンスはまだあるさ。――そうだろう? 桜香君」

「桜香?」

 

 仁の言葉に全員が視線を入口に向ける。

 1人、どこかに行っていた桜香がそこにはいた。

 顔に残っている涙の跡が彼女の悔しさを示している。

 

「次は、次は負けません。だから、私に、協力してください」

「ええ、ええ! 勿論、私たちはチームじゃない!」

「君が望むのなら協力するのは当然だよ」

「今度はあの1年生を叩き潰さないと」


 必死にいつも通りを維持する桜香にみんなが応える。

 試合の勝ち負けなど桜香が落ちた時点でほとんど決まっていたのだ。

 このチームは少なくとも九条桜香と共にあるチームなのだから、大事な部分が欠けてしまえば勝てないのは当然だろう。

 

「では、いこうか。これからは各々もっと気合を入れてもらわないといけない。当然、桜香君もね」

「望む、ところです。……今度はあの子に挑まれても負けません。絶対に!」


 屈辱は倍にして返す。

 国内最強の相手にきっちりとロックオンされることになった健輔。

 勝利を喜ぶ祝勝会の途中で何故か彼の背筋に恐ろしい寒気が走るのだった。






「勝利を祝って!」

『お疲れ様です!』


 真由美が試合終了後に発表したサプライズにより、部室で祝勝会を開く。

 仮に負けていた場合は残念会に早変わりしていたらしいが準備が良いことである。

 用意されたピザなどを各々好きに摘まみながらのどんちゃん騒ぎ。

 今回の試合のMVPである健輔は当たり前のように先輩に絡まれる。

 桜香を落とせなかった場合、真由美たちは負けていたのだから。


「ま、私の尊い犠牲のおかげよね!」

「その通りですよ。というか、もう1回やっても勝てないですし」


 葵のみならず面々から祝福されるも健輔は冷静だった。

 嬉しいのは嬉しいが真実1対1で倒したわけではない。

 無邪気に喜べるほどではなかった。

 何より、最後は道連れにするしかなかったのだから、その点は大いに反省するところである。

 勝利への喜びよりも多くの課題を確認した試合だったのだ。


「もう、暗いわね! ここは思う存分喜ぶのが勝者の義務よ!」

「いたっ! 痛いです。背中を叩かないでください!」


 酒など入っていないのに空気に酔っているのか、普段の倍ぐらい葵は健輔に絡んでくる。

 こういう時の葵はやたらとテンションが高く扱いにくかった。


「ああ、健輔。そこの酔っ払いもどきは相手してやるから、外に行ってこい。さっき出ていったからな」

「和哉さん」

「目標がなくなって燃え尽きたんだろうさ。桜香に勝利した責任だ。男としてきちんと果たしてこいよ」

「はあ……。まあ、行ってきますけど」


 健輔が1番気になっていたのもそこだった。

 なんだかんだで試合が終わってから話していない。

 今、彼女がどういう心境なのかは確認しておきたかった。


「じゃあ」

「おう、いや青春だね」


 妙に年寄りくさい発言の和哉に首を傾げ、部室を後にするのだった。


「なんだ、そんなところにいたのか」

「健輔さん」

 

 優香がいたのは部室がある校舎から少し離れたところにあるところだった。

 噴水とベンチがあり、昼間は大学部の学生などが多くいる場所でもある。

 既に日が暮れているため、今は人の姿は見当たらない。

 月明かりに照らされたベンチで優香は1人で空を見上げていた。

 

「ここ好きなのか?」

「はい、自然が多いところは落ち着きますから」


 夜に映える黒髪が優香を幻想的に彩る。

 静かに佇む優香が美しくて掛けるべき言葉を健輔は失う。

 この状況をぶち壊して、姉に対して今はどう思うのかと聞ける程空気が読めないわけはなかった。

 目を閉じて何事かを考えている優香の傍で、微妙に居心地悪く佇む。

 また今度聞こう、と引き返そうと思った時、


「健輔さん……そ、その少しいいですか?」


 という恥ずかしげな声に引き止められるのだった。


「お、おう」


 促されるまま優香の隣に座る。

 場の雰囲気なのか大人びて見える優香に健輔の胸が高鳴る。

 動揺が外に出ないように全ての集中力と魔導の力まで借りて必死に顔を維持する。

 隣で相棒がそんなアホな努力をしているとは知らない優香はゆっくりと静かに語り始めた。


「まずは、お疲れ様でした。今日の試合、とても素晴らしい成果だったと思います」

「あ、ああ、ありがとう。でも、お前さんがいないと無理だったぜ」

「ふふ、ありがとうございます。でも、健輔さんはいないならいないで何とかしようとする人ですから」

「……そうか? 買い被りすぎだよ」

「そういうことにしておきます」

 

 茶目っ気たっぷりに笑う。

 新たな優香の一面なのか、健輔は謎の奇襲攻撃に晒されている気分だった。

 

「結局、姉さんも人間だったとよくわかりました。こんなに単純なことだったんですね。……もしかしたら、悔しかったのかもしれません。私も負けてないのにって」

「悔しい?」

「皆が皆、私の影に姉を見てました。この学校に入ったのを最初は後悔したんですよ? 勉強とか、後は運動とかなら負けてなかったのに、魔導だけは勝てなかった」

「お前……」


 誰もが持っている見たくない自分、自覚したくない部分。

 あれほど無自覚だったのに、全部わかっているかのように優香は静かに語る。


「でも、姉さんは優しくて……嫉妬してる方が惨めになるなんて酷いですよね」


 くすくすと笑っているが、それを割り切るのがどれだけ大変だったのか。

 そして、何故割り切れたのかわからない。

 優香はそんな兆候をまったく見せていなかったのに。


「健輔さん、すごい顔になってますよ。顔に出さないように必死に頑張ってるでしょう?」

「……わ、わかる?」

「ばっちりと。この学園で一番お相手したのは私ですよ。わからないことはないです」


 えへん、と少し胸を張る仕草を見せる。

 可愛らしいが微妙に困る反応だった。

 全てを知られてしまっては困るしかない。

 言葉に出さないが健輔は優香の前では相当に見栄を張っているつもりなのだ。


「健輔さんのおかげでいろいろわかりました」

「そっか。……だったらいいんだけど。俺でも役に立ったのなら嬉しいよ」

「姉さんには、姉さんの事情があった。それだけでもう十分です。今度は1人でも倒せるように頑張ります」

「それはこっちが先だな。今度こそ、1人でも勝ってみせる」

「じゃあ、競争しましょう! 先に達成した方が勝者です」

「お前が桜香さんに勝つか」

「健輔さんが姉さんに勝てるか」


 他愛もない賭け事、実際の試合では2人どころか、3人で当たる可能性が高いのだから意味はないだろう。

 何より、何故だがわからないが桜香に勝てても健輔は優香に勝てる気がしない。

 練習では何度か勝ちを拾えるようになっているのに、戦えば戦う程に勝てる気がしなくなるのだ。

 どうしてそのように思うのかはわからないが笑顔の優香を見ているとどうでもよくなる。

 自分の内心を笑い飛ばして健輔は些細な約束を提案した。


「勝った方が」

「敗者に1つ言うことを聞かせるか。常識の範囲内でな」

「はい。……負けませんよ?」

「抜かせ、俺のセリフだ」


 月明かりの元、1つの些細な約束を結び彼らの中で今日の試合は過去のものとなった。

 その日、1つの伝説が落ちて最強は再出発を決める。

 これを持って『クォークオブフェイト』の中盤戦は終わりを迎えた。

 21戦21勝、彼らを止めるチームは国内に存在するのだろうか。

 徐々に文化祭ムードへと変わる学園の中で各チーム休息しながら牙を研ぐのであった。


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