第100話
先手を取ったのは『魔導戦隊』、正秀院龍輝だった。
「ふん!」
「なっ!」
高機動型に系統を切り替えた龍輝がまずは隆志に狙いを定める。
3対1の状況は彼にとっては厳しいものがある、減らせるところから減らそうとするのは理に適った行動だった。
無論、優香と健輔がそれを見過ごすはずもないのが。
「ちぃ、させるか!」
「貴様は後だ!」
『拘束術式起動』
「何!?」
突如展開された複数の魔導陣から縄状の魔力が現れて健輔の行動を阻害する。
バックス系技能と創造系を合わせた拘束用の術式を判断した健輔は系統を素早く破壊系に切り替えた。
同じように拘束されていた優香も力技で脱出しようと試みていたが、優香の魔力を吸って逆に拘束が強くなってしまっている。
隆志か、優香かの2択を迷うことなく決断し、健輔は拘束を断ち切った。
「すいません、隆志さん」
『構わん。九条は頼んだ』
結果的に龍輝が望んだ通りの展開になってしまうことに激しい怒りを感じるも、激情を飲み込み優香の救出を急ぐのだった。
「はッ!」
「これは……くッ」
時間にして数十秒とはいえ、1対1となった状況は隆志にとって死地に等しい。
全ての能力を十全に使いこなす万能系など悪夢以外の何物でもなかった。
どちらも高機動型を選択している状態で、1撃離脱を心掛けている戦闘は徐々に両者を消耗させる。
このままなら撃墜されてしまう、そんなタイミングで隆志が待っていて、龍輝が避けたかった状況は復活する。
そう、健輔たちの救援であった。
龍輝が隆志への攻撃を実行、離脱するタイミングで優香が斬りかかる。
「はああああ!」
「ち、『グレイス』」
『バースト』
「ほ、砲撃型!?」
流れるように系統を変化させ、その砲塔を優香に向ける。
健輔が事前のデータから予測した戦法は間違ってはいなかったが、同時に正しくもなかった。
龍輝はバックスを主体としているがこのスキル・ジョイントを用いる時だけは戦闘型になる。
健輔のように戦闘スタイルを切り替える領域にまでは届いていないが、攻撃をするだけならば十分なものがあった。
「させるかッ!」
「ここで踏み込んでくるのか! グレイス!」
『了解しました。障壁展開』
「おらああああ!」
『シルエットSY』
陽炎が健輔の意図を読み、素早く系統を変化させる。
武装部分の『陽炎』が手甲のようになり、健輔の拳を覆い隠す。
破壊の魔力を纏った拳は魔力で編まれた障壁を紙のように容易く粉砕するのだった。
「ちぃ! 煩わしいぞ!!」
「こっちのセリフだ!」
障壁が破壊された龍輝はチャージを破棄し、離脱する。
3対1という状況、有利なのは健輔たちだがまさか、ここまで龍輝が強いとは予想外もいいところである。
いや、正確には地力がついた万能系がこれほどまでに厄介だとは健輔も含めて思ってもみなかったことだった。
「大丈夫か?」
「はい、ですが」
仕切り直し、今の状況はそういうべきだろう。
健輔は自身と仲間たちの状況を把握することに努めた。
まずは優香だが、『蒼い閃光』の使用でスペックが落ちている。
今しばらくは回復を優先したいが、そんなことを言っていたら相手側の撃墜選手がフィールドに帰還してしまう可能性があった。
真由美の消耗も考えると早めにケリをつけたいのが本音である。
どうするべきか、と思索にふける健輔を白銀の魔弾が狙い撃つ。
「そりゃ、考える暇なんてくれないよな!」
龍輝は1人でここを受け持っているのだ。
受けに回れば不利だとわかっているのだから、攻めてくるのは当たり前である。
攻撃を回避しながら今度の展開を何通りか考えてみるがあまり良い手が浮かばない。
1番有効打に見えるのは優香を積極的に攻勢に使ってその後に即時復活させる手だが、結局『蒼い閃光』使用による消耗は残ったままであるため、無駄に使い捨てになりかねなかった。
手詰まり感に健輔が眉を顰めていると、同じように攻撃を避けていた隆志が提案を行ってくる。
「健輔」
「隆志さん?」
「考えてる余裕もこちらにはない。2年組に念話を送れ。こっちよりもあちらの方が戦局を動かせる。後は」
「優香をあっちに、ですね?」
「その通りだ」
現状の3人で龍輝を撃破するのは厳しい。
根本的な問題はそこにあるのだから、方針を変えてしまえば良いのだ。
今は2年生がこちらの動きを待っている状態だが、こちらは難しいのなら向こうに動かしてもらえば良い。
健輔もその手は考えて、心情的に選びたくなかったからこそ、選べなかった手でもあった。
この手は事実上、健輔では勝てないということを認めることになるからだ。
その選択を前に――
「了解です。それでいきましょう」
「――すまんな。恨んでくれていい」
「いえ、当然だと思います」
健輔と龍輝、万能系の使い手がどちらが優秀なのかということなど戦局になんら関係しない。
ましてや今回の戦いはチームにとっても重要なものなのだ。
優先すべきがどちらかなど、考えるまでもないことだった。
「いくぞ」
「はい」
隆志は何も言わず、健輔の肩に手を置く。
冷静な表情だが握り締めた右の拳が今の健輔の心情を如実に現していた。
全てを理解していて隆志はサブリーダーとして後輩の願いを踏み潰すことを選んだ。
「……俺は良い先輩ではないな。後輩の意地よりも自分たちを優先するのだから」
自嘲の籠った響きを載せて、隆志は空を駆ける。
後輩にライバルへ対して頭を下げるに等しい選択肢を選ばせたのだから、なんとしても勝たなければならなかった。
いつもの余裕ある態度は鳴りを潜めて険しい表情で念話を送る。
『そういうことだ。和哉、頼んだぞ』
『……はぁぁ。了解、今度、昼食でも奢ってください』
『ああ、わかった』
念話を切って和哉は溜息を吐く。
1年側から動かせず、中央も不動。
ここしかないのはわかるが些か成功度が低かった。
健輔が転送陣で優香を飛ばすようだが、消耗具合から考えてそこまで役には立たないだろう。
『真希、予定変更だ。俺が無理矢理にでも相手の隙を作る。そこで1人、確実に仕留めろ』
『りょーかい。準備はOKだよ』
気楽な真希の声に息を吐く。
何事も予定通りにはいかないが、こういう時のアドリブ力が危急では試されるのだ。
何より、ここ最近は少し後輩に甘えすぎだった。
『天空の焔』『明星のかけら』『ツクヨミ』、これらの強豪相手で最後の詰めを毎度後輩に任せていた方が異常だったのだ。
今回のこれは正しい姿に戻っただけである。
「まあ、大したことがない見栄だがな」
創造するのは相手を貫く槍の魔力。
貫通効果は便利だが、決定打にならない。
特に今回は魔導ロボの装甲を抜くことが出来ないため、ある意味無駄だろう。
「仕掛ける」
そんな当たり前のことは和哉にもわかっているのだ。
今からやるのは当たり前ではないことである。
「いくぞ」
『何だ!?』
突如として槍の形態をした魔力が現れる。
四方を覆うように現れた槍は魔導ロボ目掛けて一気に動き出す。
和哉は魔力球を敵陣に出現させて攪乱目的で暴れさせる戦法をメインに行っているが本質は別の部分にある。
彼の系統は創造・遠距離系。
本来の目的は自分が想像したものを遠隔で生み出すことだ。
この系統の弱点は何かしらに創造するものを特化させないとまともに効果を発揮しないことだろう。
和哉が特化している創造内容は『魔力を生み出す』ことである。
これは魔力の状態で生成することで汎用性を維持しつつ、扱いやすくするためのものだ。
火力を失った代わりに誘導効果や貫通効果も付与出来る優れものとなった。
もっとも、数で押すのが基本戦法のためあまり援護には向いていないのだが。
「和哉が来たわね」
「いくか」
「はいはい、遅れないでよー」
今回は的が大きすぎて狙いには苦労しないため大したデメリットではなかった。
和哉の攻撃に合わせて葵と剛志が左右に分かれて攻撃を開始する。
「おらああああ!」
「ふん!」
『っ、クソ!』
魔導ロボは強大だがあくまでも単体である。
個別に処理出来る限界点が存在する。
槍に貫通されてボロボロになった障壁で葵の攻撃を止めることなど出来るはずもなく。
『くっ、まだだ! 緊急回避!』
ロボの全身から大量の魔力が噴射される。
魔力放出による緊急防御、優香も使ったことのあるポピュラーな防御法の1つである。
しかし、魔力であるが故にこの男には痛手ならない。
「ふん!!」
『なっ』
破壊の拳は魔力を打消し、その部分だけだが無防備な姿を晒す。
左側の足の部分が和哉に集中狙いされたこともあり、術者の姿を僅かに覗かせていた。
そして、
「もーらい」
その隙をを見逃す真希ではない。
光の速度で駆け抜けた1撃は狙い違わず、ターゲットを射抜く。
『後藤田選手、撃墜判定! 2年生の魔導ロボが大勢を崩します!』
『あー倒れちゃう~』
『くっ、再構成を――』
「残念、ここで私の出番なんだよね」
『なッ! 『破星』!?』
「『餓狼』、術式選択」
『マテリアルブレイク』
今、転倒しようとする魔導ロボに拳をめり込ませた葵が術式を起動する。
葵が物理型が苦手な理由は壊しても再生することと、そもそも破壊するのに素手では適さないためだ。
再生はもはや何度も壊すしかないが、素手で壊しにくいことには関してはきちんと対策を用意していた。
藤田葵、彼女はただの脳筋ではない、自分が勝つために全力を尽くす脳筋である。
対ゴーレム用の術式『マテリアルブレイク』。
効果は単純だ。
収束系の魔力を活かして、拳をぶち込んだ部分から魔力を飽和させれば良い、と葵は考えたのである。
注ぎ込まれる大量の魔力、全身に広がっていくのに合わせて魔導ロボにドンドン罅が入っていく。
そして、ひび割れが全身に達したときにそれは起こった。
「あ、やばい」
『お、お前!』
激しく光を放つと魔導ロボが轟音を立てて爆発する。
爆発を見ていた和哉が呆れたように呟く。
「あのアホ、何をやった……」
『え、えーと、だ、大爆発です! お、おそらく藤田選手の術式だと思われますが魔力が内部から弾けた感じでしょうか?』
『『魔導戦隊』側の2年生、5名はライフ0で撃墜になります~。同じく佐竹選手、藤田選手も撃墜ですが、藤田選手は復活権が申請されたため、無事となります』
『和哉ー、葵から言い訳だよ。『ごめん、加減間違えた』だって』
「あいつは一回、マジで頭の検査とかしてもらった方がいいんじゃないか」
魔力を大規模解放すればそれは自爆するのも当然だろう。
まして魔導ロボの内部など逃げ場がないのだから大惨事である。
「ま、まあ、いい。優香も使わずに済んだし戦況はこっちが有利だ」
『葵は健輔のところに送るよ。あっち苦戦してるみたいだからね』
「ああ、俺と……いや、真希は健輔の方に頼む」
『ういうい、お任せあれー』
些か予定外の事態も混じったがこちらが有利になったのは間違いない。
健輔たち側の心配をするも、とりあえずは中央へ合流するのを優先することにした。
「さて、相手がどう出るか」
『星野さん!』
『わかっている。しかし……』
不利になる戦況をなんとかはしたいと思っているが打つ手がなかった。
真由美はここから星野を絶対に逃がさないし、また星野も引けない。
合流した1年生を龍輝のもとに戻すことも考えたが、問題は戻したところで意味がないことだった。
龍輝は3人相手に有利に立ち回っている。
器用貧乏である万能系が普通に万能になってしまえば、並みの術者でもかなりの脅威だ。
健輔レベルでさえ、居るだけで困るのだから基本レベルが隆志や妃里クラスまで上昇すれば危険としか言いようがないだろう。
龍輝はその潜在的能力を存分に発揮して暴れてくれていた。
だが、それは龍輝だからこそでもある。
あの状態の彼は単独での行動しか練習していないし、何よりこちらに合流してくれた1年生がいるからこそ今だに近藤真由美と戦えているのだ。
『どうすれば……』
状況は切迫していた。
フリーになった2年には藤田葵も存在している。
いくら龍輝が強いとはいえ、その強さはあくまでもステータス的なゴリ押しの側面が強い。
現に3対1とはいえ不意をついて1番弱い圭吾しか撃墜出来ていない。
『何か……、ないか』
状況は誰よりも理解しているが打てる手が存在しなかった。
勝に出来ることは龍輝が敵を撃破してくれることを信じて、ただ耐え抜くしかない。
もしくはここで真由美を押し切るしかないのだ。
閉じた目を開いた時、魔導戦隊のリーダーにして『司令官』の2つ名を持つ魔導師は決断した。
『すまん。龍輝を信じよう。もしくはここで『凶星』に勝つしかない! やれるな!』
『任せて下さい!』
『必ず耐えきってみせますよ!』
力強く答えてくれるチームメイトに言葉もない。
1年生に任せることではないと本人も思っているが状況が全てを龍輝に託していた。
彼らも努力する、しかし、勝敗は確実に龍輝の肩に掛かってしまうだろう。
一言だけ念話を入れて、全てを任せる。
『……頼むぞ。こっちも『凶星』を打破してみせる』
『必ず』
言葉少なに、だが力強く言葉を返す。
正秀院龍輝にとって引けない戦いがここにあった。
「『グレイス』、いくぞ!!」
『お任せを主』
「参ります!」
攻撃を仕掛けた龍輝を迎え撃つのは空の乙女だった。
そんな状況でないのは理解しているが美しい水色の軌跡に目を奪われそうになる。
龍輝からしても、美しいと感じるその少女は戦い方まで華麗だった。
力強さ、スピード、テクニック、全てが高い領域で纏まっている万能の魔導師。
全てが借り物の龍輝とは違う、本物であった。
しかし、状況は3対1少女に見惚れてしまうのは隙以外の何物でもない。
「くっ、後ろか!」
『障壁を展開します』
「こちらを忘れてもらったら困るな」
背後からの斬撃。
データは龍輝の頭に入っている敵チームのナンバー2。
ド派手な戦果はないが堅実な魔導師である。
そして、最後の1人。
龍輝と同じ力を持つものが彼を静かに狙っていた。
隆志の斬撃によって生まれた一瞬の隙、そこを見逃さないハイエナが的確な系統で龍輝を貫く。
「くそ! あの男」
『正秀院選手、ライフ80%!』
龍輝と同じ系統たる万能系。
試合開始前、事前の予想では龍輝がひっぱり出される可能性は低いと見積もっていた。
しかし、どんな運命の悪戯なのか、激変する戦況は彼にチームの命運を託してしまっている。
消極的な時間稼ぎに終始し始めたため、もはや優劣を競うことはないと判断していたら最後はこの対決が勝負を決めることになっていた。
「神様というものは……」
3対1、不利な状況で龍輝は十分以上に奮闘している。
視線を交わす、初めて出会うライバル。
苦いものを見るように顔を歪めているのは自身では手が届かない錬度に対してだろうか。
同じ万能系だからこそ、わかることがある。
鍛えても鍛えても、置いて行かれる上に単独では大した力にならない。
龍輝も幾度嘆いたのかわからなかった。
自分で選んだのならまだ諦めもつくが、万能系だけは天与のものであり、人にはどうしようも出来ない部類のものだったのだ。
誰も恨めない彼らはただ只管に積み上げるしかなかった。
「お前は俺が羨ましいのかな。俺はお前が羨ましいよ」
同時に彼は健輔に嫉妬していた。
際立った戦闘センスが本来なら器用貧乏で終わる万能系に可能性を与えている。
相手に合わせて系統を切り替える。
そんなことは龍輝には出来ない。
理詰めで考えて、この局面ならばこれでと後出しで対処するのが精いっぱいだ。
「『グレイス』!」
『高機動タイプを選択』
高性能な自己判断型AIを用いて底上げしても、健輔と同じことはできない。
固有能力の手助けまで借りているにも関わらず、押し切れない。
それが龍輝を苛立たせる。
龍輝は星野の固有がなければ戦場でもバックス技能が使える程度の魔導師に過ぎないのだ。
「何故、貴様は」
仲間とは彼もいろいろあった。
尊大な態度が原因で揉めたこともあれば、実力不足を笑われたこともある。
しかし、術式に関する才を見つけてからはお互いに協力し合ってきたのだ。
チーム全員の力で彼はそこにいる。
なのに――
「1人で戦える!!」
どうして己の技術だけで戦える。
怒りを胸に龍輝は全力を振るう。
「ああん?」
意味不明な問いを投げかけられた健輔も内心でキレていた。
龍輝の能力があればどれほどの事が出来るのか、健輔からすると羨ましくてたまらない。
そして同時に腹が立つ。
確かに3対1で拮抗出来ているが拮抗しているように見せているだけだ。
隆志か、健輔のどちらが撃墜覚悟で突貫した場合、馬鹿正直に防御系統を選んでくれるだろう。
そうなれば後は優香が止まったところをなんとかしてくれる。
術式の理解力を用いた流動系による術式解除などもある龍輝は才能の塊だった。
戦っているからこそわかる。
1系統の辺りの習熟も健輔より若干だが上だ。
固有能力の影響を受けているためかもしれないが明らかにスペックでは健輔を超えている。
そんな優秀なやつが今、自分程度のものと互角。
これほど腹が立つことがあるだろうか。
「その持ち腐れもいいところな才能を俺によこせ!!」
「何を! 貴様こそ、その戦闘センスをよこせ!!」
もはや子どもの意地の張り合いだった。
大局的には戦況が既に揺るがない。
健輔を落としたところで合流した葵と優香を前に彼が出来ることはほとんどない。
中央はよく耐えているが既に限界に近い。
この戦いはほぼ『クォークオブフェイト』の勝ちだった。
短期決戦と真由美が称したように既に決着がついてしまっている。
「おら!!」
「っおおお!!」
これほどまでにあっさりと決着が付いてしまった理由はいくつかあるが、もっとも大きいのは『魔導戦隊』側の作戦ミスが大きい。
魔導ロボは強力な能力であり、優秀な切り札だが、残念ながら『クォークオブフェイト』とは相性が悪すぎる。
半数の選手がゴーレムを崩す手段を持っているのだ、相性が悪いことなどわかり切っていただろう。
にも関わらず正面決戦をこの形で挑んだのは彼らの信条が原因である。
勝利のために形振り構わないのは『魔導戦隊』というチームがやって良いことではないのだ。
たとえ、その結果敗北するとしても。
「『陽炎』!!」
『マスター』
「『グレイス』!!」
『主』
よってこの意地の戦いが成立する。
目まぐるしく入れ替わる系統。
龍輝の術式構成力と解除力に支えられたトリッキーな防御とチームメイトの固有能力でかさ上げされた実力。
それに対抗する健輔の戦闘センス。
希少な才能は龍輝であるし、どちらが天才かと言われれば龍輝である。
しかし、戦場たるこのフィールドに生き残れるのは健輔だった。
「男だねー」
「葵さん?」
「いやいや、熱い1年生だなーと思ってさ」
少し嬉しそうに2人の戦いを見守る葵。
優香もパートナーが珍しく感情を剥きだして戦う様を見守っていた。
この試合の趨勢に関わらない重要な戦いはそのまま激突を加速させていき、
『正秀院選手、撃墜! 佐藤選手、撃墜! 万能系同士の戦闘は引き分けに終わりました!』
『男の子の戦いに拍手をお願いします~』
両者、一歩も譲らず相討ちで終わるのだった。
そのアナウンスで中央側の『魔導戦隊』が抗戦を断念し、降伏。
ここに1つの結末が刻まれた。
『勝者は『クォークオブフェイト』!! 皆様、どうか拍手のほどをお願いします!』
『ぱちぱち~』
この試合結果により、『クォークオブフェイト』は『アマテラス』に1番近いチームとなった。
相手は国内最強チーム。
1日のインターバルをおいて、両チームはぶつかる。
おそらく、国内戦でもっとも苛烈となる試合が目前に迫っていた。