第99話
「1番不利なのは右翼、2年生たちの方ですかね?」
観客席から試合の流れを見守るクラウディアが両チームの戦力評価について述べる。
一見すれば、巨大ゴーレムに対抗手段がない2年が1番きつく見えるのはそれほど的はずれな意見ではない。
「どうかしら? 個人的には3年生の方が辛そうに見えるわ。流石に1対5は無理があるんじゃないかしら」
ほのかの意見もまた正しいだろう。
いくら真由美が規格外の魔導師とはいえ、相手もランク7位の星野勝を抱えているのだ。
確かに順位的には真由美が上であるし、相性も悪くはないが我慢比べは些か不利だろう。
向こうは負担が十五分の一、真由美は1人で全てを抱えなければならない。
単純な計算として不利なのは否めない。
また、前衛の壁になるべき妃里が活かせないのも痛かった。
戦闘というよりも戦争というべき大火力同士が正面から打ち合う中に普通の攻撃型前衛である妃里が混じったところで儚く散るだけである。
「ん、どっちもあってるけど、そこの2つは対策があると思う」
「対策ですか?」
「ん、2年生は互角だから後は経験の駆け引き、だから本命は後衛」
葵のわかりやすい突出に『魔導戦隊』側は彼女の印象が強くついてしまっている。
彼女がエースというデータも加えるとどうしても後衛よりも前衛の方に注目してしまうだろう。
目立たないが破壊系の剛志がいることも外せない。
「なるほど、じゃあ3年は?」
「ん、決まってる。近藤真由美が撃ち合いで負けるわけがない」
「……なるほどね」
同じ砲撃系の魔導師として香奈子は誰よりも真由美を高く評価している。
評価しているからこそ、初めに脱落させることを狙ったのだ。
魔導ロボの能力も評価しているが、その評価が真由美の砲撃能力を超えることはない。
遠距離戦で『終わりなき凶星』と張り合うことがそもそも間違いだと香奈子は言っているのだ。
かと言って、下手に近接戦に持ち込むことを考えたら、それはそれでこの状況が崩れることになる。
「では?」
「ん、1年生が1番危ない。というよりも他と違って完全に互角」
魔導ロボに対して有効な攻撃力を持っているのが優香と健輔しかいない。
さらには全員前衛と本来、魔導ロボの得意な近接戦という条件下での戦闘を強要されている。
健輔の生存性、優香の万能性があるため簡単には負けないが、逆に有利になる要素もそこまで多くはなかった。
「切り札の出し合いで負けた方が危ない、と。まあ、結局なんだかんだと考えても戦闘なんていつもこういう結果になりますよね」
「ん、王道だから」
「そんな当たり前の結論を出すために頑張ってるのよ、いつもね」
現時点での3人の評価は一致していた。
トータルで見れば『魔導戦隊』が不利だと。
残りの隠している札の質と試合の流れで勝負は決まるだろう。
観客席から見ているクラウディアたちがそう判断しているのだから、戦っている『魔導戦隊』側はより強くそれを実感しているのだった。
「こ、これは……。まずいッ!」
魔導ロボの内部で操作を受け持っている星野勝は自分たちの敗北を予期してしまった。
香奈子が断言したように真由美と撃ち合いに臨むこと自体がそもそも間違っている。
健輔が真由美と模擬選を行った際に、ただの1度も砲撃に付き合わなかったのは、そんなことをしたら確実に負けるとわかっていたからだ。
おそらく桜香でさえ、真由美と遠距離戦に限定した状態で競い合えば敗北する。
元々の狙いは真由美を引き付けて両翼を撃破、3対1で事に臨むつもりだったのだ。
それが両翼以前に中央から脱落しそうになっているのである。
「甘かったか……」
今はまだ内部のメンバーも元気だが、収束攻撃に神経を集中し続ければ疲労は蓄積されていく。
魔導砲撃は数ある魔導でも体に掛かる負荷が大きい。
魔力回路を全開するのが理由なのだが、これが慣れていないものにはきついのだ。
今は負担も分担されているから問題はない。
徐々に、小さくとも溜まっていく疲れと戦いながら真由美を撃破するのは難しいという判断は間違っていなかった。
間違いがあったとすれば些か敵を過小に評価していたことだろう。
真由美を警戒しすぎるあまり、他のメンツを低く見てしまったのだ。
希望的観測、つまりは願望も混じっていたことは否めない。
勝としても忸怩たる思いだった。
しかし、ここに至っては彼には諦めないことしかやれることがない。
こちらが落ちる前に仲間が勝利してくれるのを信じるしかなかった。
「まだだ。まだ、諦めるのは早い。凶星とて人間だ、必ず限界はある」
自身を鼓舞して仲間を信じる。
ヒーローに相応しい思いを持ってして彼は不利な状況に立ち向かっていた。
そして、星野は知らなかったがこの時、まったく同じ心境の女性が敵方にいたのだった。
「きついな……。これは、あれかな『最強』の後衛とか恥ずかしくて名乗れないかも」
真由美は白い首筋に玉のような汗を浮かべて独白する。
既に1度言い訳も出ないほど完璧な敗北を喫しているのだ、『最強』ではないと言えるだろう。
真由美を慕う者には悲しいことだが、彼女は香奈子が最強であると認めていた。
自身の構想のさらに上を行っている。
悔しくても認めるしかない。
もっとも、それを表に出すようなことはなかった。
「まあ、元がついても、私にもプライドがあるんだから!」
敵の狙いはわかっている真由美を抑えて、他で勝利する、そんなところであろう。
作戦自体は悪くないし、どんなものでも気にしないが裏に透ける思いが真由美を苛立たせていた。
まず第一に砲撃という分野を舐めてかかってきている。
初手で真由美に直接砲撃を仕掛けてきたのが良い例であった。
固有能力で水増しされた力に溺れている。
そんな敵には負けたくなかった。
もう一つある。
その固有能力『スキル・ジョイント』自体が真由美の心を苛立させる。
協力すれば懸命に積み重ねてきたものに勝るという考え方が気に入らないのだ。
協力云々は個々が全力を果たしてから言うことだ、というのが真由美の考えである。
勝の固有能力ありきな強さなど協力ではなく寄生ではないか、彼女はそんな思いが抑えられない。
真由美は他者にも厳しいがそれ以上に自身に厳しい。
相手に努力を強要する以上、それ以上を行うのがリーダーだと信じている。
「そんな1人の能力で積み重ねた強さには負けない」
誰かの強さに寄り掛かったチームなどに負けるわけにいかない。
『クォークオブフェイト』は彼女の思想、理想の結晶たるチームなのだ。
意地にしか過ぎないが負けるわけにはいかない。
「さあ、私はしぶといよ!!」
『あんまり気合を入れすぎないようにね。焦りは身を滅ぼすわよ』
『お前は稀にうっかりをするのが困る』
「もう、せっかく気合を入れてるんだから水を差さないでよ!」
友達甲斐のある友人たちで笑みが浮かぶ。
共に切磋琢磨してきた彼らこそが真由美の宝物だった。
「じゃん、じゃんいくよ! 『羅睺』!」
『チャージ開始』
「シュート!!」
どちらのリーダーも正しく思いを背負っている。
故に両チームのリーダーはお互いに一歩も引かずに事態に変化は訪れない。
鍵を握るのは次代を背負うものたちの戦いとなるのだった。
機敏な動作で巨人が蹴りを放つ。
通常のゴーレムにはありえない軽快な動き、相手側はこの巨人『魔導ロボ』に全能力を注ぎ込んでいる。
暴れまわる巨人を前に人間の抵抗など風前の灯だった。
他の魔導ロボよりもは小柄であり30メートル程度だが人間からすればそれでも十分に大きいものとなる。
「くっ!」
格闘寄りの特性を持つこの魔導ロボは巨人ならではの体躯を活かした戦法を見せていた。
パンチ、キックと基本的な動作に過ぎずともまずは格闘範囲が大きすぎるのが問題だ。
魔導ロボに肉薄していた葵と剛志はまともに近づくことすらできずに決死の覚悟で攻撃を避ける。
幸いなのは相手にあまり射撃系の能力がなかったことだろう。
大規模砲撃はあるようだが小技の類がなく、攻撃方法は肉弾に限られていた。
「もう、いやになる」
「珍しいな、見解が一致したぞ」
1度の攻撃を捌いたところで葵が溜息を吐く。
魔導ロボと言われている『魔導戦隊』の切り札だが、葵たちも実際にロボットを召喚しているとは思っていない。
事前の調査とか通常のゴーレム生成にいくつかアレンジを加えたものだということは知っていた。
基本的な部分は共通のようだが、各学年のごとに相手側も違いあるらしく接敵するまでは判別できないことがあったのだ。
この2年生のものはハイブリットゴーレムとでも言えばいいのか、浸透系で集めた土の部分と純魔力で生み出した稼働部分を組み合わせている。
他の魔導ロボよりも関節などが柔軟に出来ている分、機敏な動きが可能になっているのだ。
これが俊敏な格闘戦を行える理由だった。
「ねえ、関節って狙えないの?」
「無理だな。相手も破壊系との戦闘など想定済みだろう。例外を除いてそこを突くことはできん」
相手が自分を大きく上回る体格を持っていたとしても移動し、格闘戦を仕掛けてきているのだ。
巨大な拳による格闘範囲を突破してピンポイントで関節部分を破壊するのは、破壊系との相殺でそこまで身体能力が高くない剛志には難しかった。
一切のダメージを受けずに懐に侵入し、相手の動きに合わせて純魔力部分を破壊する。
そこまでやって報酬は数十秒破壊したところが使えないだけなのだ。
メリットとデメリットがまったく釣り合っていない。
「あーあ、いやだな……。誰か頼みとか性に合わない」
「否定はせん。だが、仕方ないだろう」
「もうーかーずーやー。急いでよねー」
『わかっている。いいから逆転狙って戦っていろ』
追い詰められているはずなのに元気な前衛組を嗾ける。
和哉とてなんとかしたいが隙間を作って貰わなければ何もできないのだ。
能天気な声を上げる葵に青筋を浮かべるも冷静さは失わない。
「真希、チャージは?」
『順調だよ。下に降りたけど気付かれてないみたいだね』
「バックス抜きなんだ、魔力反応があれば気にしないだろう」
和也の傍には人型をした魔力が一緒に浮かんでいる。
偶に真希に見せかけて攻撃を放ったりしているため、向こう側は本物が地上から近づいているとは思わないだろう。
「必ず、気が来る。絶対にそれを逃すな」
『りょうーかい。荒れるのはあそこかな』
2年は焦らず待ちを選択する。
無理に取りに行くには相手の巨人は性能がよかった。
状況を動かす役目はちょうどよく相手側も傷ついているようだし、1年生に任せることにしたのである。
「香奈、そういうわけで伝言頼む」
『アイアイ、サー』
駆け抜ける蒼い一筋の光。
空に溶けるように描かれた軌跡が巨人を取り囲む。
『っ、早い!!』
「はッ!」
巨人が防御から攻撃へ態勢を変えた時には既に乙女の姿はそこになく、
『今度は後ろか!?』
「『雪風』!」
『フェイク起動します』
逃げ場なき蒼の牢獄、幻の乙女に巨人は幻惑されて本体を掴めない。
さらに――
「貰った!!」
『シルエットモードY』
「シュート!!」
味方の幻影ごと白色の光が全てを飲み込む。
健輔と優香、2人のコンビネーションが巨人を素直に行動させない。
健輔単体で見た場合、彼は残しておくとうっとしい程度の存在にすぎない。
しかし、それは単体で見たときのものだ。
健輔はジョーカー、1枚で力を発揮する札にあらず。
優香という最高クラスのエースと組むことでその本領は発揮される。
単体で高性能を持つ優香の真価を誰よりも理解しているのが健輔だ。
シルエットモードを極めるとは本人に近づくということなのだから、彼以上に優香のこと知っている人間など学園に存在しない。
「優香!」
「『雪風』!」
『術式起動――『蒼い閃光』』
「いきます!」
×の字状の光線が障壁を貫き、無防備な姿を晒す巨人に直撃する。
『ぐっ、クソッ!!』
巨人の胴体を消し飛ばした優香の切り札。
魔力を一気に放出するため、1度使うと充填に時間がかかる上に優香の戦闘能力が低下する。
その分効果は絶大だ。
火力が不足している健輔たちの陣営を補って余りある成果だった。
「圭吾、先輩!」
「もうやっている」
「任せて!」
圭吾の糸が巨人の防御力を失った選手に容赦なく襲いかかる。
完璧なコンビネーションだった。
優香の火力の回復を待たなければ同じことは出来ないとはいえ、これを繰り返せば決着はつく。
健輔の策は見事に当てはまり、敵の巨人を打倒して戦況を動かす。
そう、ここまでは完璧だったのだ。
「よし、け――」
圭吾に声を掛けようとしたときに視界に光が走る。
魔導砲撃、それも飛び切り強力な1撃だった。
圭吾がそれの直撃を受ける。
『高島選手、撃墜! また、『魔導戦隊』側の大沼選手が撃墜です! 1年生を主体とした両チームが激しくぶつかり合います!』
土埃が風で消えて圭吾を撃ち落とした犯人が姿を現す。
白銀の魔力光と同じ色に変色した髪の毛。
整った顔立ちは深い知性と自信を窺わせる。
正秀院龍輝、健輔と同じ万能系の魔導師が巨人を脱ぎ捨ててそこにいた。
「こんなに早く、戦うことになるとは思わなかった」
己以外の3人を中央に移動させて龍輝は1人で4人に相対する。
『魔導戦隊』の切り札を脱ぎ捨てて1人で魔導師としてそこにいる理由が健輔にはわからなかった。
まるで、魔導ロボ1体よりも自身の方が強いと言わんばかりである。
「隆志さん?」
「……健輔、来るぞ」
いつの間にか傍に来ていた隆志の警告と同時に空に夥しい数の魔弾が現れる。
和哉と同じ戦法、しかし一目でわかるほどに込められている魔力量の桁が違う。
同じ万能系とはいえ健輔がやれば威力は格段に落ちる。
和哉が手榴弾だとするならば、健輔は爆竹レベルになるはずだった。
龍輝も万能系の原則は外していないはずなのに、この威力の違い。
以前確認したバックスを主体とした戦い方とも違うあり方に一瞬だけ健輔は困惑した。
しかし、
「『陽炎』」
『問題ありません』
襲い来る魔弾を前に間抜けを晒す健輔ではない。
龍輝の急激なパワーアップの原因など今はどうでもよかった。
素早く和哉のシルエットを纏い、魔弾を迎撃する。
激しく爆発する周囲の空間、一面を覆い尽くす光に視界は奪われ、敵の確認ができない。
「次は俺の懐狙いか?」
「なっ」
誰もいないはずの空間に健輔が無造作に突き出した剣。
言葉と共に放たれた刺突は吸い込まれるように現れた龍輝へと襲い掛かる。
間一髪、杖型の魔導機が剣を防ぐことでダメージは避けたが動揺は隠せていなかった。
「お前の強さの理由はどうせ、スキル・ジョイントだろう? 魔導ロボに付与させていたのは普通の魔導師には扱えないという理由が大きいからな」
どうでも良いことだとそんな体を装いながら健輔は龍輝に語る。
スキル・ジョイント、この固有能力の可能性について解答を求めているのだ。
「だが、俺たち万能系にはそんなデメリットはない。元から全てを使える俺たちにはその固有能力はメリットだらけだ。お前が1人で出てきたのもそう判断したからか?」
「……その通りだ」
「はん。気に入らないな」
龍輝の肯定の言葉。
魔導ロボはロールプレイ的な意味も大きいがそれ以上に大きいのがスキル・ジョイントの有効活用のためだ。
魔導ロボに付与させていたのは普通の魔導師では自分と異なる系統を付与されても使いこなせないからだ。
当たり前だろう。
特化するからこその魔導師、自分に付与する形だと慣れていないと扱えない。
それらのデメリットを一挙に解決する方法が魔導ロボだったのだ。
しかし、龍輝、いや万能系にはそんなものはデメリットにならない。
「温存でもないな。……お前、自分で戦うのに慣れていないな」
『戦闘データを参照。参加試合中、直接戦闘を行ったのは今回を含めても5回ほどです』
「っ……それがどうかしたのか?」
「バックス主体の使い方を見た時思ったんだ。こいつ、実は戦闘に慣れていないんじゃないかってな」
系統の1つ分に絞っていたり、バックスをメインにしていたりとこれだけの能力があるのに妙に支援、サポート系の行動が多かった理由が健輔にもようやく理解出来た。
当たり前のことだった。
万能系はカリキュラムすらまともに整備されていない。
その中で少しでも自分に有利なように系統を使おうとした結果が今の龍輝なのだ。
これに関しては健輔の方が異常である。
たとえ、万能系であろうとも戦闘スタイルを切り替えながら戦うなどということは普通にやれるはずがない。
健輔の戦闘センスとあくなき向上心が組み合わさった故の奇跡である。
「仲間の力を集めて羽ばたく、か。かっこいいな、ヒーロー」
「……そちらこそ、1人で戦おうとする姿勢は素晴らしい」
お互いに静かに対峙する。
答え合わせは終わり。
ここから本格的な戦闘に移っていく。
龍輝が『魔導戦隊』特有のヒーロー的な外装を展開するのに合わせて健輔も武装も双剣に変更する。
「いくぞ」
「はあああ!」
剣と杖がぶつかり合う。
細かい変更は無理でも大雑把な再現程度なら龍輝も行えることは確認済である。
何より、健輔にシルエットモードがあるように龍輝にも彼にしかない特技があった。
「俺たちもいるのを忘れないで欲しいな」
「忘れてなどいない! 『グレイス』!」
『術式読み取り、再構成。『フェイク』起動』
「それは、私の!?」
一瞬で数を増やした幻影は強襲してきた隆志と優香を惑わす。
しかし、本体が健輔と鍔迫り合いをしているのがわかっているのだから、無視して強行突破を図ればよい。
「九条! そいつらに触れるな!」
「え、は、はい!」
隆志の叫びに咄嗟に幻影を回避する優香。
そんな優香に目もくれず隆志が幻影を切り裂く。
すると、
「爆発!」
激しい爆発が周囲へ広がる。
「トラップ……」
「なるほど万能系だな」
星野勝のスキル・ジョイントと万能系の能力が恐ろしいほどに噛み合っている。
高い錬度と発想力が合わされば事実上万能系がやれないことなど数えれる程度しかないのだ。
健輔程の戦闘センスがなくても脅威になるのは当然だった。
「これが……」
銀色のスーツを纏う龍輝を見ながら健輔は再度、彼の戦力を評価し直す。
健輔には系統を用いれるスロットが5つある。
そろそろ6つ目に手が届きそうな気がするが、相手もおそらくそのあたりだろう。
固有能力『スキル・ジョイント』これは魔力でリンクした能力をシェアするものであり、通常は先ほどまでの魔導ロボのように扱う。
つまりは、必要な能力を持った巨人をラジコン操作しているのだ。
だが、今の龍輝は違う。
能力を自分に集中させて、本来自分が選択するスロットに他者のメイン系統を入れている。
錬度が他の魔導師と変わらない万能系、それが正秀院龍輝だった。
「『陽炎』!」
『バレル展開、チャージ開始します』
「シュート!!」
龍輝の『特技』を正確に見極めるために攻撃を敢行する。
健輔の狙いを知ってあえて見せるのか、龍輝は両手を前に突き出して構えを取った。
「受け止める」
『キャッチャー展開と同時に解体術式を発動』
「見事だ、グレイス」
障壁で砲撃を受け止めた後に、特殊な陣が出現し、健輔の攻撃は嘘のように掻き消えてしまった。
龍輝の『特技』とはこのように術式に干渉して魔力を霧散させたり吸収することである。
彼のバックスとしての卓越した技能と味方の戦闘系系統を組み合わせ、初めて出来ることであり、真の万能を体現していると言えるだろう。
「同じ系統だが使い方は少し違うな。正秀院」
「龍輝で良い。……こちらこそ、自分の力でだけで戦えるお前を尊敬しているよ」
「それはどうも、嬉しい、かな。」
「そちらから見れば仲間がいなければ何も出来ないように見えるだろうが、勘弁してもらいたい」
「そこは人それぞれだ。あまり好みではないのは間違いないけどな」
全系統を他の魔導師と同じレベルで扱える魔導師。
『アマテラス』と、九条桜香にあたる前の前哨戦として最適の相手だろう。
自分とは近くて遠い道を歩む魔導師を見つめる。
確かに強さの大半が借り物であるのは事実だろう、しかし、相手もそれを承知で勝つために向かってきているのだ。
それを攻めるのはお門違いであるし、健輔に攻めるつもりもない。
だが――
「俺のやり方が1番だ。それだけは譲らない」
故に負けられない。
そして――
「こちらも同じだ。仲間の力と共に戦うことを恥じたりなどはしていない」
「じゃあ」
「始めよう」
睨みあう2人の万能系。
戦いを大きく動かす激突が今、始まる。




