1話*最悪の出逢い
俺は何者なんだ?
俺は何故ひとりなんだ?
そんなこと何度尋ねだって誰も答えてくれないよ。
ただ、唯一の肉親の妹を探すだけ
それだけを想って俺は生きているんだ。
何故人を斬る?
刀があって塞がる者がいる
それだけなんだよ。
まだ成人したばかりの時雨胤琉はいつの間にか刀を振るうだけの浪士になっていた。
そして今、新撰組に囲まれた胤琉は立つのもやっとなくらいに追い詰められていた。
新撰組一番組組長沖田総司ー…
やはり組長というだけあってかなり手強かった。
「ふふ、君はなんて無力なんだろうね?」
ふざけたような口調で沖田が胤琉に刃を突きつける。
「はぁ…はぁ…くっ…!」
胤琉は息を切らしながらも方もを構え直す。
そんな胤琉を見て、
「そんなに死にたいわけ?もう君は勝てないってわかるじゃない」
呆れたように沖田が言う。
「死にたいわけないだろっ!俺は死ぬまで戦うだけだ!」
吐き捨てるように言うと胤琉は沖田に向かって行った。
だが、胤琉の攻撃はするりとかわされ、沖田が刀を降り下ろす。
「ぐあっ…!」
悲痛な叫びをあげ、胤琉はその場に倒れる。
しかし、沖田は胤琉を殺したわけではなかった。
『死ぬまで戦うだけだ!』
胤琉が言ったことは沖田自身にも重なっていた。
新撰組は皆死ぬ覚悟で戦っているんだ、もちろん自分も。
それだけで殺せなかった、そんな自分に沖田は苛立っていた。
…いつもならすぐに殺しているのにー…何故僕はとどめをささないの?
沖田はとりあえずと胤琉を連れて帰ることにした。
土方さんには反対されたけど近藤さんは快く許してくれた。
沖田は気を失っている胤琉を布団へと寝かせるとぐいっと胤琉の頬をつねった。
「女の子みたい」
胤琉の反応はなかったが沖田は笑みをこぼし、部屋を後にした。
次の日、沖田は胤琉の様子を伺いに部屋へ向かった。
「胤琉くーん、起きてる?」
ひょっこりと顔を出すと上半身だけを起こしている胤琉と目が合った。
「……?」
彼はまだ意識がはっきりしていないのか目を細めて沖田をじっと見ている。
一つに縛っていた髪も解けており、元からの華奢な身体、幼い顔により彼の容姿は女そのものだった。
「……んぅ?…うわあああっ!?」
何かを思い出したように沖田を見据えたまま後ろへ勢い良く退いた。
「おはよう。良く眠れたみたいだね。」
沖田はにこにこしながら胤琉へ近づいた。
すると胤琉は沖田の横をするりと抜け、部屋を飛び出して行った。
「……………」
沖田は驚きながらもふっと微笑んだ。
その頃胤琉は連れて来られた此処が何処かもわからず頓所内をさ迷っていた。
沖田が追って来るのを恐れ、後ろを振り返りながら走っていた。
そして廊下の死角で誰かとぶつかった。
「うわあっ!?」
どすんと鈍い音がして、胤琉は誰かの下敷きになってしまった。
「いててて…」
胤琉が見上げると長い髪を一つに束ね、猫目の華奢な少年と目があった。
彼は胤琉を見据えると、
「わ、悪い…」
と慌てて胤琉から離れた。その頬は赤らんでいるように見えた。
彼は藤堂平助と名乗った。お前はと聞かれた胤琉は少し躊躇いながらも
「時雨胤琉です…」
と目を反らしながら言った。
「そ、そっか…見ない顔だけど誰かの妹か?」
「………は?」
胤琉は思わず間抜けた声をあげてしまった。
目の前にいる男は自分を女だと思っているようだった。
「いや、違っ…うわっ!?」
胤琉は否定しようとしたがふいに後ろから倒されるように抱きしめられた。
[続く]