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母をたずねて三千年  作者: 三毛猫
第二話「ロナとゆかいな仲間たち」
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 三、○×しちゃった

「……んで、サークっていったっけ。あんた何者なの? なんでこんなとこで野たれ死んでたわけ? 不死とか言ってたけど、どうみたって死に掛けてたよね?」

 あたしはずりずりと地面をはいずさって、ティムの隣に転がって岩に背を預けた。二日歩き通した上でエナジードレインは流石にちょっときつかった。まだ日は容赦なく照り付けているものの、岩陰に入ると少しは楽になって、ふぅとひとつ息を吐く。

「先ほど申し上げたとおり、わたくしはヴァラ族です。数が少ないのであまり知られてはいませんが、とある筋では重宝されているのですよ、私達一族は」

「聞いたこと無いから、何者だってきいてんでしょーが」

 仕えるとかいいつつ、こいつはさっきからどうにもえらそうな態度を崩さない。

 いったい何様のつもりなんだろうね……。

「手短に申し上げますと我ら一族は、寿命で死ぬことがないのです。他者の精気を分けていただくことで、悠久の時を生きながらえております。しかし、他人を襲って精気を奪うのであればそれはモンスターと同じです。このため、我々一族は契約と言う形で他者の精気を分けていただきます。その代わりに主人と仰ぎ仕える訳ですな」

「寄生虫みたいね」

「なっ。い、いえいえ、私、お役に立てますぞ? 伊達に永い時を生きているわけではありませんから、様々な知識を蓄えております。一族の者の中には何代にもわたってどこぞの王家の相談役のようなことをされている方もいるのですよ」

「ほー。そんな知識のある人が、なんでこんなところで野たれ死んでたのかなーっ?」

 だんだんイラついてきたので口調にトゲがまざる。

 百歩譲って自分自身がいかにすごいかを語るならまだ許せなくはないが、一族は~とか誰それがどうだとか、他人を引き合いにして自身を偉そうに吹聴するところが気に食わない。

「……実は、前の主人マスターと死に別れまして」

 その一言だけは、やや沈痛な面持ちだった。

「新たな主人を見つけるべく旅をしている途中で、うっかり路銀がつきまして。正直に金がないと言ったら乗合馬車から放り出されたのですな。いや私の知識を乗車賃代わりにしようと思ったのですが、学のない御者が聞く耳を持ちませんでして……」

 あはは、と力なく笑うサークのすねを軽く蹴飛ばしてやる。

「要するに旅費にも足りない程度の知識なわけでしょう?」

「ぐはっ」

 痛いところを突かれたのか、あたしの言葉にサークが胸を押さえる。

「契約とかどーでもいいからあたしの前から消えてくれる? あたしから奪った精気があれば、近くの町か村くらいまでは歩いて行けるでしょ? 代金寄こせなんていわないから今すぐ消えてちょうだい」

「いえ一応一族の掟ですので、私の一存で契約を破棄するわけには……」

 はじめて尊大な態度を崩して、サークが狼狽する。

 ここはきっぱりと断っておかなくてはなるまい。

「押し売りはお断りっ! だいたい握手を求めてそれを了承したら契約成立だなんて詐欺にもほどがあるわよ!」

「はあ、しかしもう契約は成立してしまっていますので……。ロナ様が死なない限りは、私、他の方から精気をいただくわけにはいかないのですよ」

 ……うん? なんだか不穏な空気が。

 サークの瞳が、なんだか紅く輝いている、ような?

「……契約破棄を望むということでしたら、私もまだ消滅したくはありませんのでロナ様に死んでいただく必要がある、ということになるのですが。よろしいでしょうか?」

 うっわー、性質たちわるい。

「押し売りどころか押し込み強盗みたいね……」

 あたしは、深くため息をはいた。

「あー、もう。……ついてくるなら勝手にしなさい。でも、後悔しないでよね?」

 あたしにだっていろんな事情があるんだから。

 言えない言葉を飲み込む。

「いえいえ、決して後悔はさせませんよ」

 やっぱり人の話をあんまり聞いてないらしく、ずれた答えを返しながらサークの瞳の色が漆黒に戻った。けれど、たぶん、きっと、いや絶対、こいつはあたしにだまし討ちのように契約を無理強いした日を後悔する時がやってくると思う。

 だってあたしは……。

 言葉を飲み込んで、もう一度深くため息を吐く。

 それからふと思いだして回りを見回す。

「ねえ、ティム、エバは……?」

 隣に座るティムは、口からだらりと舌を垂らしてぐったりしていた。

 静かだと思ってたら、またあんた倒れてたんかいっ!

 エバはどこに置いたっけ?

 ぐるりと見回すと。

 ……エバは炎天下のもとで虫の息になっていた。

 あたしのせい?




「こんなところで野たれ死んでたあなたが持っているとは思えないけれど、サーク、あなた水をもってない?」

 なんとか立ち上がって、エバを岩陰に引きずってくる。

 かなりまずい状態だ。日射病か、熱中症かもしれない。

「水……ですか? 必要ならお作りしますが、何か器はありませんか?」

 作る? よくわからないけれど、手に入るあてがあるのであれば虫の好かない相手ではあるが頼らざるを得ない。

「皮袋じゃ器にならない?」

 腰のポーチから空っぽの皮袋を取り出すと、サークは首を横に振った。

「いえそれはちょっと難しいです。底の深い皿か、最悪、兜のようなものでいいのですが」

 言われてティムの荷物を漁る。あいつが兜を被ってるところを見たことは無いが、持っていてもおかしくは無いと……あった。これもアーティファクトっぽい。くそう、生意気な。

「これでいい?」

 ぐいっと、そのままサークに突き出すと。

「ふむ……。まあ、いいでしょう」

 サークは、ちいさく頷いて兜を胸の前に置いた。

 そして、ゆっくりと息を吸う。

「ヱ・ネ・ペ・ク・ト」

 サークの口から、重々しい、不可思議な言葉が吐き出された。

 へ? い、今の何?

 空中から突然水が現れて、ティムの兜に溜まったように見えたけれど。

「おや、マスター、驚いてますね」

「な、何? 今の」

「魔法ですよ、魔法。今の世では古代語魔法と呼ばれるような古い魔法なので、ご存知ないかもしれませんが」

「……それより、それはやくちょうだい」

 プルプルと首を横に振る。驚く前に、やるべきことがある。サークの手から兜を奪い、溜まった水をすくってエバの口元にたらす。

 ……しかし、反応が無い。

「さっき、旅費にも足りない知識って言ったことは謝るわ。そっちのティムの方をお願い」

 水を両手ですくって、口に含む。

 迷わずにエバに口移しでのどの奥に流し込む。

 ついでにまたいくらか水をすくって彼の全身にぶっ掛ける。少しでも体温を下げてやらなければ。

「そっちはどう?」

 ティムの方はと振り返ると、サークがぶつぶつと呪文を唱え続け、ティムの頭の上から滝のように水浴びさせていた。

「おう、ちょっとはいきかえったぞ」

 びしょぬれのティムがぐっと拳を突き出したのをみて、ちょっと安堵する。

 成り行きで同道することになっただけの間柄だが、流石に死なれては寝覚めが悪い。

「そちらの方には、これを」

 サークが呪文を中断して、何か奇妙な図形の描かれた小さな紙片をこちらに差し出してきた。

「胸の上に乗せておいてください。自然治癒力を高める札です」

 お札を乗せてしばらくたつと、エバの呼吸が落ち着いてきた。また水を作ってもらい口元にすくって差し出すと、今度は自分で飲み込んだ。

「今日はここで野宿かな……」

 息を吐いて、「ありがとう」とサークに礼を言った。




「ところで、ロナ様。私まだご主人様について何も聞いていないのですが。どうしてこんなところを徒歩で歩いてらっしゃたのですか? まさか私のように乗合馬車から放り出されたわけではないのでしょう?」

 一息ついたところでサークが言った。

「聞いたらたぶん、後悔すると思うけど?」

 にやりと微笑んで、膝の上のエバの頭をなでる。だいぶ落ち着いたようだ。早くにどこかしっかり休めるところに連れて行ってやりたいが、今はあたしの膝枕で我慢してもらおう。

「……なるほど、マスターにも事情がおありのようで」

 聞く気はないのかあっさり引き下がる。代わりに何か思いついたようで、「マスターはどこの生まれなんです?」と聞かれた。

「あたし? あたしはノーザリアだけど」

「の、ノーザリア!?」

 そばに寝転がっていたテイムが、起き上がって仰天したかのように叫んだ。

「あ、あの冥府の門ゲートがあるっていう、北の島国か?」

「うん、そうだよ。冥府の門ならあたしん家の前にあったけど……」

 あたしはエバの口に水を含ませながら言った。ティムはあたしの言葉を聞いて驚きの表情のまま凍りついた。

「なるほど、北の方は魔法があまり知られていないそうですからねぇ」

 あたしが魔法に驚いたのが、そんなにおかしかったのだろうか。

 満足そうにうなずいて、サークは鞄からいくつかの薬草らしきものを取り出して、混ぜ合わせた。

「そちらの方に、これを飲ませてあげてください」

 言われるままに、エバの口に薬草の絞り汁を含ませる。

「サーク、けっこう役に立つのね」

 押し売りでもたまにはお買い得品の場合があるらしい。

「お役に立てるといったはずですよ」

 ちいさくサークが笑う。

「……言っておくことがあるけど、聞く?」

 ちいさく微笑んで、サークを見つめる。

「それはマスターの事情ですか? やめておきましょう、聞いたら後悔するのでしょう?」

「そう、じゃ、言っておくわね。あたし、賞金首なの」

「聞かないと言ったのに自分から言うとは、困った方ですな。それで?」

 サークが苦笑しながら先をうながした。どうやら賞金首ときいても何も動じていないらしい。

「それだけ。ただ、悪いことはしてないのよ。だから、取り消してもらいにね、王都にいくとこ」

「なるほど」

 どうやら、後悔はしていないらしかった。

 サークの性格なのか、それとも一族の掟とやらなのか。仕える人物が賞金首であっても問題ないらしい。

 ……もうひとつの事情については、ほんとうに言わないほうがよさそうね。

「ところでさ、いつまで固まってんの? ティム」

 あたしは、まだ固まったままのティムの方を見た。つんつんと指でつつくと、ようやくティムは呪縛が解けたように動き出した。

「げ、冥府の門ゲートのまん前に住んでたってぇ?!」

「それがどうかしたの?」

「死んだやつがくぐって、あの世に行くって門だぞ! よくそんな不気味な所に住んでいられたな、おまえ」

 行き倒れの死体のそばに平気で転がれる神経の持ち主のくせに、妙な所で神経が細いやつ。

「あら、夜には流れ星みたいに魂が門に吸い込まれて、とっても綺麗だったわよ。真っ黒な空を、蒼く輝く、人の魂がすうっと横切ってね、おっきなおっきな、天を突くような門に、ふわっと吸い込まれて消えていくのよ」

 あたしが思い出に浸りきっていた時だった。

 変な物が、ものすごいスピードでこっちに向かってくるのに気がついたのは。

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