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母をたずねて三千年  作者: 三毛猫
第一話「史上最高の賞金首」
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えぴろーぐ

「ううう~。こーなったらロヴァーのところに殴りこみかけてやる!」

 麻袋から這い出したあたしは、太陽ソラに向かって吼えた。

 今いる場所がどこかはよくわからないが、ここは既に盗賊都市からだいぶ離れているようだ。まわりは荒野で、一本の木も見えない。森をすでに抜けているらしかかった。道らしい道が無い所を見ると、ザナール街道のほうではなくて古い街道の方なのかもしれない。

 追っ手がかかっていたとしても、このまま行けば追いつかれはしないだろうと思う。

「ロヴァーって、王様か? おいおい、穏やかじゃないな、国王に殴りこみとは。賞金かけられるだけじゃすまなくなるぞ」

 ティムが苦笑いしながら水筒を差し出してきたので、ありがたく奪い取ってから一気にごきゅごきゅ中身を飲み干す。

 ぷはーと息を吐いて水筒を投げ返すと、ティムがあきれたようにため息をついた。

 あたしは昨日の昼前にあんたに捕まってから、今まで飲まず喰わずだったんだからしかたないじゃないっ?

「んでさ、あんたらどこまであたしの事情、把握してるの?」

 近くにあったいい感じの岩に腰掛けて、休憩しようと二人に手招きすると、ティムとエバが互いに顔を見合わせた。

「あたし自身よくわかってないんだけどさ、あたしに賞金がかかってるのは事実みたい。ただしティムが見せてくれたあの手配書はニセモノなんだってさ」

「そのことなんだが……」

 ティムとエバが、それぞれ二枚の紙をあたしの前に突き出した。

 あたしのぷりちぃな姿が書かれているのは全部共通で、賞金額と詳細だけが全部違っていた。ティムが持っていた一枚は前に見せてもらった破壊神のやつで、もう一枚は尋ね人扱いで賞金の桁がだいぶ小さい。エバが持っている紙の方にはこそ泥扱いの賞金と、尋ね人扱いでとんでもない額の賞金が書かれていた。

「俺達も、何が本当なのかはよくわかってないんだ」

「ちなみ盗賊都市内ではあと八種類くらい別の手配書が出回ってるよ」

 ふむ。どういった理由でかはわからないけれど、あたしに賞金をかけられた理由を隠したい何者かがいてニセモノを大量にばら撒きでもしているのかもしれない。

「で、ロヴァー王に殴り込みって、まさかとは思うんだが」

 ティムがためらいがちに手配書を眺めながら言う。

「賞金をかけてるのは、ヘストアの王なのか?」

 あたしは、「たぶんね」とうなずいた。

「だからさ、王都に行ってロヴァーのやつぶん殴ろうかとおもうんだけど。あたしの手配をやめさせるには、それしかないでしょ? だいたいあたしは何も悪いことなんかしてないんだからっ!!」

 怒鳴るあたしに、エバが冷たく言った。

「王様が賞金かけた理由はわからないけどさ、悪いけど、少なくともロミスバダムを破壊したのだけは、確実にキミだよ?」

「なんでそんなこと言えるの? そーいやあんたをまだ殴ってなかったっけ」

 拳を振り上げてあたしはエバを睨んだ。

「だってボクは、キミが街をぶち壊した時、目の前にいたんだよ?」

 べきっ! あたしの左の拳がエバの顔面にめりこんだ。

 二メートルと五十センチきっかりエバはふっとんだが、なんだろうなんか妙に手ごたえが薄かった気がする。

「今のは寝ているあたしの部屋に忍び込んだ罰よ。ところで今何か言った?」

 もちろん答えはなかった。

「こいつの話によるとだな、夕方お前が街に入ってくるのを見かけてひとめぼれしたんだとさ」

「まぁ。それなら悪いことしちゃったな」

 あたしはほんの少しだけ後悔した。ほんとうに、ほんの少しだけだけど。

「それで、仕事帰りにあんたに会いに行ったんだと」

「仕事ってやっぱりどろぼう?」

「だろうな。そこからさきはあんたの方がわかってると思うが?」

 ティムがいつまですっとぼけてるんだ?みたいに言った。

「……部屋の中に人の気配を感じて、ぱちっ、て目を開いたのよ」

 ああ、思い出したくも無い。

「寝てたのか?」

 あたしはティムもふっとばしたくなった。

「あたしが真夜中まで起きているような不健康な娘に見える?」

「見える」

 ティムの体は、二メートルきっかりふっとんだ。

 もちろん魔法のロープで縛られた分のお返しも含まれている。

「……っとに! だいたいエバのやつも」

「夜中にお邪魔したことなら謝るよ」

 むくっとエバが復活する。

「その後があるでしょ!」

「キミに挨拶しようとしたこと?」

 エバが首をかしげる。

「寝ていたあたしに、キスしようとするのがあいさつか?」

 あたしは怒りをこめて拳を振り下ろした。

 エバはひょいとあたしの拳を避けると、立ち上がって言った。

「いいじゃないのそれくらい。どうせ未遂で終わってるんだし。それよりキミはいったい何者なのかな? 一言で街をぶっとばすなんて」

 エバの言葉にあたしは一瞬考え込んだ。

 言われてみるとエバに向かって何か叫んだような……。

「裁判でも言った気がするけどさ、あたしが何か叫んだ時に、たまたまなんかの原因で爆発がおこっただけじゃないの? あたし魔法には詳しくないんだけどさ、そんなたった一人の一言だけで街の三分の一をふっとばせるような魔法なんて、この世に存在するの?」

「ボクも魔法に関する知識は乏しいからよくわかんないけどさ、もしかしたら、古代語魔法、ってやつかも?」

古代語魔法ハイ・エンシェント?」

「ま、なんでもいいじゃないか」

 ティムが頬の青あざをさすりながら立ち上がった。

「ちょっと待ってよ、あたしがやったとしての話だけど、街を破壊したことと、ロヴァーがあたしに賞金かけたのは関係ないわけ?」

 あたしはふと思った疑問を口にした。

「関係ないよ? 街の破壊を訴えたのはボクだもん」

 エバ何変なこといってるのと首をかしげた。

 あたしは思わず頭をかかえて座りこんでしまった。

「うう……頭痛い……。訴えた奴と捕まえたやつがそろってあたしを逃がしたわけ?」

 あたしは気が遠くなった。

「別にいいじゃないか。俺は金が欲しかっただけで、あんたに直接恨みはない。それとも、きちんと仕事してほしい?」

 めっそうもない。

 あたしばぷるぷると首を横に振る。

「というわけだから、俺も王様のところへ一緒に行くぞ。面白そうだからな」

「ボクも行くよ! どうせもう街には戻れないからね」

 ティム、エバの二人がニタッと笑う。

「……もう、好きにして」

 あたしは半ば自暴自棄的に言った。

 そして気楽な一人旅だったあたしの旅は、にわかに騒々しいものになってしまったのだった。




「おお~い、そんなに急ぐと世界の端から転げおちるぞー」

 ティムがあたしの後方から叫ぶ。

「転げ落ちたらそらを泳いで戻ってくるわよっ!」

 あたしは後方のティムを振り返って怒鳴った。

 ああ、むかむかする。

「待ってよロナ」

 後ろからエバが追いかけてくる。

「馴れ馴れしいわね、あんた」

 あたしがわざと思いっきり冷たい眼差しをエバに向けると、たじたじとなってそろそろと後ずさる。

「ずいぶんと、ご機嫌ななめだね」

 エバがつぶやく。本人は聞こえていないつもりだったんだろうけど。

 あたしの耳は、特注のしかも高性能な地獄耳だったので、よぉ~く聞こえた。

「顔はかわいいのにな~。ちょっと冷たいんだよな。ああいう性格ってもてないんだよな~」

 あたしはあえてその言葉を無視した。今はそんなバカにかまっている暇はないのだ。

 ああロヴァーのやつ!

「おい、ところで……」

 ティムが後ろから声をかけた。

「何よ?」

 あたしは立ち止まって振り向いた。

「おまえさ、いったい何やったんだ? 王に賞金かけられるなんて、そうそうあることじゃないぞ?」

「あたしは被害者なの!!」

 はあ、はあ、ぜい、ぜい。あー、大声で怒鳴るとすっきりする。

「どういうことだ?」

 首を傾げるティムに、あたしはふと理由を教えてやろうという気になった。

「あたしは、もうすこしであいつと無理やり結婚させられるところだったのよ!」

「もてない女の、肥大妄想せかいはわたしのためにある?」

 あたしは無言でエバを殴り倒した。

「んじゃなにか? あんたお妃様か? そういやロヴァー王って趣味が悪いって聞いたことあるが……」

「悪趣味って書いてろりこんって読むんだよね」

「っとに! いい年したおっちゃんがさ、こんな若くてかわいい女の子に真面目に結婚申し込んでくるとかふざけてない? だからあたしは、そういうセリフは少なくとも二十年前に言いなさいよね、って怒鳴りつけて、ロヴァー王をしばきたおして都を後にしたのよ。それにしたってそのくらいのことであたしに賞金かけるなんて心の狭い王様だこと。……あの国ももう、おわりね」

 あたしは一気に言い放って、ひとつ大きなため息をついた。

「……お、おい! どこが被害者だ。王様しばき倒したんじゃ、賞金かけられて当たり前だ! 見つかり次第、殺されたって文句は言えないぞ?! 自業自得じゃないか。な~にが知らない、あたしじゃない、だ」

「え……? そうかな? だだ、全治三ヶ月ほどの打撲傷と骨折をさせただけよ。半殺しってやつ? ほほほほほ……」

 あたしは笑ってごまかそうとしたが、すでに遅かった。

 うっ、何なのよその白い目は。ふたりして、何ひそひそ話してるのよ。

「まぁ、一度言った以上、俺はとことんあんたについて行くぞ」

 結局の所、そうティムは言った。エバも同意を示す。

「お尋ね者とは結婚できないからなあ。王様の手配書を取り消してもらわなきゃ」

 いったい誰と誰が結婚するっていうの? だいたい、あんたもお尋ね者なんじゃないのっ!?

「ま、すねに傷持つもの同士、一緒に王都見物と洒落込みますか」

 ティムが言った。

 あたしは、すねに傷なんかないよと、言いたかったが、世間様から見ればあたしは極悪人なんだろうかと思い、言うのをやめた。




 そして、あたしらは一路、王都ヘストアを目指した。

 身の潔白を、証明するために。

 ここまで読んでくださった方ありがとうございます。

 このお話は、わたしが高校のころに同好会誌に載せていた物を大幅に書き直したものです。

 FFA同好会というものがありまして。正式名称はファンタジーアンドファンタジーアート同好会、略してFFA同好会となります。

 年一回、文化祭のときに「ファンタジア」というわら半紙ホチキス止めの冊子を配布してたのです。

 今でもあるのかなー、高校卒業してからだいぶ経つから……ってぐぐってみたらFFA同好会、2011年4月現在で休部中ですって。はう。

 当時の関係者とかがここ見てることはないでしょうけれど、もし見てたら苦笑いして「まだ馬鹿やってるんだなー」とか思ってくださると幸いです。


 とりあえず第一話終了です。元が黒歴史なだけに改稿に非常に時間がかかってます。

 三年で三話分書いたのであと約二話分はありますが、ワープロ専用機の画面見ながら手でテキスト打ちなおして、それから改稿作業という流れなのでたぶんまた長いこと放置されると思いますが、多少なりとも気に入っていただけた方いましたら気長にお待ちくださいませ。

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