番外・ひとめぼれしちゃったっ!(エバ)
裏設定の登場人物編書いたらちょっと膨らんできたので思わず書いてしまいました。
本編の続きではなく、第一話より前の話で、盗賊のエバ視点のお話となります。
時期的にお話自体がネタです。
ボクの名前はエヴァンジェル・サティス。そのままだと長くて呼びにくいし、ちょっとした事情もあって本名をぺらぺら名乗るわけにも行かないので、エバって名乗っている。
盗賊都市ロミスバダムに住んでる盗賊なんだけど、人様のモノを掠め取るどろぼうをやっているわけじゃない。ボクは遺跡発掘を生業とする、冒険者としての盗賊なんだ。
盗賊都市ロミスバダムのすぐ近くにはバダムと呼ばれる遺跡がある。バダムの遺跡はだいたい三千年くらい前、魔神襲来により放棄された都市の遺跡だ。魔神ダークストライダーが近くを通った時に、建物の半分は崩れ落ち、残りの半分はそのまま地面に陥没したと言われてる。この遺跡を発掘するために盗賊都市ロミスバダムは生まれたみたい。もっとも、見つかるモノがモノだけに、今となってはご禁制の品々を取り扱う非合法な闇市場としての意味合いの方が強いみたいだけど。
三千年も発掘され続けた遺跡だと、流石に今更新しいものというのはなかなか見つからないものだよね。何らかの事情で当時は持ち出されなかったゴミ扱いの遺物を漁ったり、あるいは昔の冒険者が捨てたゴミが今となっては逆に貴重な物になってしまっていて、そういう物を探して持ち帰るのが通常の探索作業となってるんだけれど。
ボクが数日前に見つけたその隙間は、どうやらまだ誰も探索していない場所につながっているみたいだった。
「よいしょ、よいしょ」
小柄なボクの体格でもぎりぎり通れるほどの瓦礫の隙間になんとか潜り込む。これだけ狭いとカンテラどころか何の荷物さえも持ってくることが出来なかった。それどころか、服があちこちに引っかかったりしないように身につけているのは下着一枚だけだ。
「……わお」
って。いってる間にぱんつがどこかに引っかかって脱げかける。破れないように気をつけながら引っ張り上げ、ぱんつも脱ぐべきだったかなぁ、とちょっとだけ考えてから今更この状態で脱ぐのも大変かなぁと思い直す。 ……今度脱げかけたら、そのまま脱いじゃおう。
全身の皮膚の上に特殊な薬品を塗りつけているので、黒くて薄いゴムのようなものがボクの全身を覆っている。瓦礫の隙間をごそごそ動き回っているとはいえ、けっこう丈夫なこの皮膜のおかげでボクの身体には擦り傷ひとつなく、だから本当は下着なんかつけなくてもよかったんだけど、誰も見ていないとはいえ流石にすっぽんぽんはちょっと恥ずかしかったのだ。
真っ暗闇の中、手探りで少しづつ奥に進んでいくと、不意に右手の先が宙をかいた。ちょっとづつ確かめてみるもの、何も手に触れない。どうやら少し大きな空間がこの先にあるようだ。手近の小石をつまんで、いくつか投げて見ると、わずかな時間でカツンと何かにぶつかる音がした。反響音でだいたいの空間の大きさを測る。
……見つけた、かな。
どうやらそれなりに広い空間のようだった。ここが目的の部屋なのかもしれない。さらにいくつか小石を投げて様子を探る。どうやらボクは五メートル四方ほどの空間のやや上よりの部分に出たようだった。下はたぶん三メートルくらい。転げ落ちても、たぶん痛いですむ高さだ。
……だいじょうぶ、かな。
もぞもぞと芋虫のように身体をくねらせて、瓦礫の隙間から身体をそろそろと空間の方に押し出す。たぶん飛び降りてもケガをしない高さだと思うけれど、床に何があるのかわからないのでうかつに飛び降りるわけにはいかない。いったん上半身を押し出した後、壁に手を貼り付けて少しづつ足を隙間から引っ張り出す。
……あ。ぱんつ脱げちゃった。
後で拾わなきゃ、ってちょっと苦笑してから、ぴっとりと壁に貼り付いたまま足を下にして壁を少しづつ這い降りる。予想通り、数メートルで足の裏が硬い床の感触をとらえたので、ふうと息を吐く。
それからあーんと口を開け、口の中に含んでいた小さな光石で空間を照らす。
「……えへへ。思ったとおりだ~」
仄かな明かりに照らされて、ぼんやりと部屋の中の様子が浮かび上がる。
部屋の隅に大きなベッド。棚にはたくさんの本が詰め込まれている。驚いたことに、誰にもあらされた様子がない。
「わお、手付かずだなんて、ついてるね!」
バダムの遺跡はもう三千年以上も発掘され続けているのだから、誰にもあらされていない場所を見つけるだなんて、奇跡のようだった。冒険者の人たちって、体格のいいおっきい人たちが多いから、きっとボクのようにこんな隙間にまでもぐりこむことが出来なかったんだろう。
にしし、と笑って小さく深呼吸。埃とカビを吸い込んで、けほけほとちょっとだけむせる。
もう一度にしし、と笑って、ざっと部屋を見回す。部屋はボクがもぐりこんだ亀裂を除いてはほぼ完全に形を保っており、かつての住人が立ち去ったままの姿で残されていた。
文字通り、そのままの姿でだ。三千年以上経っているのに、つい何日か留守にした、そんな感じの雰囲気。
柔らかそうなベッドはそのまま使えそうだし、棚に並んだ本も崩れたりせずにそのままの形を保っている。
「……これは、当たりかなー。状態保存の魔法かかってるみたいだね」
調度品から、若い男性の部屋だったのだろうと推測する。棚に並んでいる本だけでも一財産にはなるけれど、あまりかさばる物はもっていけない。いずれは全部運び出すにしても、まずはかさばらなくて価値の高いものを持って行きたい。
そうすると……探すべきは。
「まずは定番だよねっ!」
すきっぷしながらベッドの下を覗きこむ。しかしそこには薄く埃が積もっているだけだった。
「……うーんはずれかー。そうするとー」
机の引き出しを下から順に開けていく。いろいろ面白そうな物は出てきたけれど、目的のものは見つからない。
「あとは。意外にこういうとこ、かな?」
ここの住人が一人暮らしであったなら、あるいは隠していないのかもしれない。
大型映像装置らしき箱型の機械の位置から、ふだんここの住人が座っていたであろう場所を推測する。
「……みーつけた♪」
かつての住人が座っていたであろう場所。そこに座って右手をちょっと伸ばすと、そこに小さな空間のゆがみがあった。
無造作にその空間に腕を突っ込んで中身をひっくり返す。
「おおー」
ばさばさと薄い本がなだれ落ち、床に小さな山を作った。
手近の一冊を拾ってぱらぱらとめくってみると、どうやら黒神ネラを題材としたもののようだった。
古代語の文字はボクには読めないけれど、綺麗に着色された絵は。
「……おおぅ」
しょくしゅー。うねうね。ぐにぐに。
「……いや、すごいね。こんなところに、こんなの突っ込んじゃうの?」
頬が熱くなる。ちょっとどきどき。こういうの、気持ちいいのかな?
そっと手を伸ばして、自分のそこに触れてみる。
……ちょっと想像がつかない。
くにくにと窪みの回りを自分でいじってみるものの、よくわからなかった。
……おへそに、だなんて、ねぇ? 昔の人って変なの。
ボクが見つけたのは、どうじんし、と俗に言われる絵本の類だ。
絵本、といっても子供向けというわけじゃない。ボクが今見つけたもののように、むしろよろしくない表現でいっぱいの、だいぶえっちぃ絵がわんさかと描かれているものが多い。
白神リラや、黒神ネラなどの神さまや、勇者と呼ばれる人たちを題材とした物語が多くて、その多くは教会により所持や売買を禁じられている。自分のところの神さまのあられのない姿の描かれた本なんて、当然教会の人にとってはとんでもないシロモノということになるんだろうけれど、やっぱりそういう需要があるわけで。
どうやらバダムの遺跡というのはこういったえっちい品物を扱っていた都市だったようで、盗賊都市はそこから見つかるこういったご禁制の品物を扱ううちに発展した都市なのだった。
「昔の人はすごいよねー」
上質の紙の入手が難しくなり、また印刷する技術もだいぶ廃れてしまっている今ではこういった薄い本を個人で作ることなどできないけれど、当時はこういったものを個人や数人のグループで何千、何万と発行していたらしい。
ボクは特定の神さまを信仰しているわけじゃないけれど、それでも神さまと呼ばれる人達にはそれなりに敬意をもっているし、その意味でこういった書物は罰当たりかな~と思わないでもないけれど。
「でもまぁ、……これも愛だよね」
ぱらぱらと薄い本をめくりながら、内容を確認する。
……うわぁ、すごい。
……おおー。
……え。こんなの、うわー。
こっちはネラ様×リラ様本だー。
あまりの素晴らしさに、思わず両手を合わせて拝んでしまう。ほんと神だね、うん。
しばらく読みふけってしまった。
「ん、あれ。まだ何か入ってる?」
空間の歪みの奥に手を突っ込んでさぐってみると、何が置物のようなものが手に触れた。
ひっぱりだしてみると、それは黒神ネラを題材としたものらしい神像だった。
「……いや服着てないし」
その方面の用語で、魔改造といいます。
ほんとにもー、罰当たりだなー。
驚いたことにやわらかい素材で出来ていて、一部がふにふにと実にいい感触を返してくれる素晴らしい神像だった。
こんなの持って帰ったら、教会の人ににらまれちゃいそう。
「えへへ。でも、こういうのって教会の人が一番お金出してくれるんだよね……!」
いくらで売れるかなと、頭の中で計算しつつ、かさばるから今はまだ持って帰れないかーとちょっと残念に思う。
しばらくは、ここから少しづつ荷物を運び出せばいいかな。とりあえず今日は、薄い本を何冊かだけ持って帰ろうっと。
少し長居しすぎたせいか光石がその効力を失いかけていたので、慌てて薄い本を何冊か自分の影に押し込み、入りきらなかった残りを元のように空間の歪みに押し込んだ。
影族であるボクは、影を使った特殊な能力をいくつか持っている。影の中に荷物をしまえるのもそのひとつなんだけど、今のボクには大した量の荷物をしまうことは出来なかった。
「……ちゃんとした契約者が見つかると、もっとたくさん荷物持ち運べるんだけどな~」
ため息を吐きつつ、途中でぱんつを回収しながらボクは壁の亀裂に身体を押し込んだ。
街に帰り着いたときには、もう日が沈みかけていた。
「おっちゃん、これ買ってくれる?」
「おう坊主、なんかいいもの見つけたのか?」
「えへへー。掘り出し物だよー?」
「ほう……これはなかなか。いいもんじゃねーか」
「おっちゃん、よだれよだれ。汚さないでよ?」
「よし、一冊金貨五枚で預かろう。どうだ?」
「いいよ~」
なじみの仲買人に薄い本を渡し、思ったより高値で売れたことに内心うきうきしながら、早く身体に塗った薬品落とそうと、おっちゃんの店を出たところで。
――ボクは、運命に出会った。
なんだろう、ドキドキする。
さっき薄い本を読んだときより、もっと頬が熱くなる。
これは、なんなんだろう。
その人を見た瞬間、もう、何も考えられなくなった。
えへへ、きーめた。
ぜったい、あのひとに、ボクのご主人様になってもらうんだ。
目の前を通り過ぎる彼女を目で追いながら、ボクは胸の高鳴りを押さえるように、両手を重ねてそっと胸をおさえた。
この日の夜にボクはとんでもないことに巻き込まれるんだけど、そのときはまだそんなこと知る由もなく、ボクはただその心地よいどきどきに身を任せ想いを馳せていた。
……いやわたし自身はコミケとかワンフェスとか行ったことないんですけどね? 人ごみ苦手なので。
時期的に思いついちゃって話が膨らんじゃったのと、この世界の冒険者がどういうことしてるのか書いてみたかったので思わず書いてしまいました。ティム・サーク・セナの番外も書いちゃうかどうかは今の所未定です。




