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母をたずねて三千年  作者: 三毛猫
第三話「ソトの村殺人事件~犯人はあたしだっ?!~」
24/29

 十、手をつないじゃった

 大幅な修正を加えてしまい申し訳ありません。

 2013/06/30 4:47 ”えぴろーぐ”を大幅に加筆修正した結果、”十、手をつないじゃった”に変更いたしました。

 前半は旧”えぴろーぐ”とほぼ同じですが、後半が変わっています。

「では、そろそろ朝食の用意が出来ていると思いますので、お早めに下りて来て下さいね」

 フィアナさんはなにやら満足げな笑顔でそう言うと、一礼してそのまま部屋を出て行ってしまった。

「……えーっと? 結局、今の、なんだったわけ?」

 あたしは未だ混乱したままの頭で思わずつぶやいた。

 フィアナさんがなんだか妙な推理とやらを得意げに語って、それにみぃちゃんがうなずいた。

それがいったいどういうことなのかさっぱりわからない。

「……ただの茶番なのです」

 あたしのつぶやきに、みぃちゃんがつまらなそうに鼻を鳴らした。

「先ほども言ったです。もし私の首のない身体のことが騒ぎになって、事件になってしまっていたら。私は自分の身を護るために、最低でもこの宿の人間全て。場合によってはこの村全てを”なかったことにする”必要があったのです」

「……あー、あれ、本気だったの? 冗談だと思ってたんだけど」

 かわいい顔して、なんだか黒いよみぃちゃん。

「それくらいしなければ、私はこれまで生きてこられなかったのです。……ですが、どこまで本気であのヨタ話を信じているのかはわからないですけど、宿の娘さんのあのでたらめな推理のおかげで、首のない私の身体が目撃されてしまったにもかかわらず、殺人事件になるでもなく、首がなくても生きている人間がいるというデュラ族を思わせる騒ぎになるでもなく、ただの”失敗した偽装殺人”ということになってしまったのです。そういうことにしよう、と言われて、私が頷いた、ただそれだけのことなのです。騒ぎにならなかった以上、あとは口を封じる必要があるのはロナさん、あなただけなのです」

 じーっとみぃちゃんがあたしを見つめてくる。

「あー、なんか呪いかけるとかいってた、アレ?」

 ……うん、でも、まぁ。しょうがないか。

「痛くしないよね? それでみぃちゃんが安心できるなら、呪いかけていいよ」

 どこからでもどうぞ、とみいちゃんに向かって両手を広げると、みぃちゃんはなんだか微妙な表情で、むー、と唸った。

「……実はさっきから呪詛の魔法イヴァグかけてるです。魔法が発動前にかき消されるって、ロナさん何か耐性持ちです?」

「んー? なんか呪いとかに効くの持ってたかなー?」

 いつもの格好なら胸の真紅の宝石レディ・クリムゾンの護符とか、なんかご利益ありそうだけど、今は旅人の格好のままだから特に妙な物は装備してないんだけどなー。

「あるいは既に、私がかけようとしているよりも、もっと重い呪詛を既に受けてるのかもです……となると」

「あー、まさか、死人に口なしとか言わないよね?」

「……(こくこく)」

 にやぁ、ととてもよい笑顔でとみぃちゃんが頷いた。

「いや、それは流石にうなずけないんだけどっ!」

「今のは冗談なのですよ。……交渉次第では冗談じゃなくなるですけど」

 みぃちゃんがすうっとあたしのそばに寄ってきて、あたしの右手をそっと両手で握った。

「え、なに」

「今ロナさんの中の人とお話してるですから、少し静かにして欲しいです」

「え……? あたしの中の人って、なに?」

 みぃちゃんの言ってることがよくわからない。

 じっとあたしの手を握ったままみぃちゃんは目をつぶっていたけれど、今は特にさっきみたいに頭の中に声が響いてきたりもしない。いったい、何やってるんだろう??

 ……中の人、中の人ねぇ?

 いや、中の人なんかいないですよ?

 そうだよねぇ、中の人なんかいないよね、ってあれ? 今なんか思考がぶれたような。

 ……深く考えると何かろくでもないことになりそうな気がするから、止めといた方がいいかもしれない。

 握られた右手に左手を添えて、ちいさなみぃちゃんのすべすべした手の感触にただ集中する。

 みぃちゃんは、ちょっとだけ目を開けて一瞬あたしの顔を見上げてきたけれど、すぐにまた目を閉じてしまった。

 そのまましばらくして、みぃちゃんが目を開けた。

「……交渉成立したのです。呪詛で縛る代わりに、ロナさんが私の素性をばらさないように常にそばにいることにするです。ロナさんは私の素性がばれない様に護って欲しいのです」

「んー? それ、みぃちゃんがあたしの旅についてくるってこと?」

「そういうことです。そのくらいは妥協するのです。でも私にも目的が有るので、協力して欲しいです」

「みぃちゃんの目的って? あ、なんか親兄弟とかさがしてるんだったっけ?」

 女将さんに聞いたことを思い出して、別にいいかなとうなずこうとしたら、みぃちゃんがあたしの手を握る手にきゅっと力を込めた。

「……私の種族を、絶やさないこと、なのです」

「あー」

 ちょっぴり頬が赤くなった気がする。なるほど要するに旦那様候補を探してるわけだ。

 あれ、みぃちゃんっていったいくつなんだろう?

「えーっと……みぃちゃんって、もしかして見た目より年取ってたりする?」

「……(にこにこ)」

「ごめんなさい。あたしが悪うございました」

 無言の笑顔にあたしは屈服した。

 ……あたしだって、そのへんはあんまり人のこと言えないしねー?

「あ、そだ。サーク、さっきはフィアナさん来て説明途中になっちゃってたじゃない。いくつかちゃんと説明して欲しいことが有るんだけど」

 話題を変えようと、サークに話を振る。

「なんでしょう、マスター」

「まずは、みぃちゃんの種族のことなんだけど。デュラ族だっていうみぃちゃんが、ヴァラ族のあんたの親戚ってどゆこと?」

「それは私の目的にも関係するですから、私の方から説明するです」

 みぃちゃんが、両手であたしの右手を握ったまま言った。

「もちろん他言無用なのです。よいです?」

「え、うん。いいけど」

 うなずくと、みぃちゃんはあたしの右手を握るその手に力を込めた。

 そのみぃちゃんの手の表面が、ぞわぞわと獣のような毛に覆われてゆき。

「え」

 その爪が鋭く伸びてゆく。

「獣の耳を見られているので既にご存知とは思うですが、まず私は獣族ディストの血を引いているです。混血なので獣化は手や足の先くらしか出来ないのです。フードを深く被っているのは耳をごまかすためで、対外的には私は獣族ということにして欲しいのです。獣族は全身を獣化した際の毛皮を狙われるため、私のような容姿の幼い者は一般にまだ獣化できないと思われるため、ばれても比較的危険が少ないのです」

「……なるほど」

 ちょっとびっくりした。

 手のひらにはにくきぅが出来ているのか、ぷにぷにとちょっと気持ちいい。

「ただ成長させてから皮を剥ぐ、同族と繁殖させるために囲うなど、ろくでもないことを考える人間も結構いるので、獣族であるということもばれないようにして欲しいのです」

 みぃちゃんの言葉には特に感情はこもっていなかったけれど、これまでに何度もそのろくでもない出来事に巻き込まれてきたのであろうことは容易に想像がついた。

「うん……。了解」

 そっと左手でみぃちゃんの背中を抱きしめると、あたしの胸に顔を寄せたみぃちゃんが……かぷりと服の上からあたしの胸に噛み付いた。

「痛い、痛いってみぃちゃんっ!」

 なにすんのさっ!

「……安易な想像による同情など不要なのです」

 口を離して顔を上げたみぃちゃんが無表情に言った。

「首だけのときにも念話を使ってたですし、先ほどからずっと手を握っていたからもうお分かりと思うですけど。私は有角族リーンの血も引いてるので、他人の心を読むことが出来るです。純粋なリーン族と違って力の源である角が無いので、手で触れた相手の心を読むこと、こちらの意思を伝えることくらいしか出来ないですけど」

「そうなんだ?」

 リーン族ってのはちょっと聞いたこと有るかも。確か触れもせずに他人の考えを読み取る、サトリとか呼ばれる人たちじゃなかったっけ? さらにごく一部の力の強い者には未来を予知する力まで有るとか何とか。

「私には未来予知なんて出来ないです」

「おお、ほんとに心読めるんだ」

 いやさっきからみぃちゃんは妙に察しがいいなとは思っていたけれど。話題にも出ていないそんなことまで読み取ってしまうというのは本当に心を読む力が有るってことなのだろう。

「……嫌わないのです? 気持ち悪いとか思わないのです?」

「え、なんで?」

 むしろお手手つないで二人だけの内緒話とか、なんだかとってもいい感じ?

「……ロナさん、変態なのです」

 飽きれた様に、みぃちゃんがあたしの手を離して微妙に距離をとった。

「んー、あたし思ったら即行動に出ちゃう方だから。心を読まれるとかそういうのあんまり気にしないだけなんだけど」

 心読まれるのを気にしないからって変態呼ばわりされるのは、なんか心外な感じ。

「……私が心読めること忘れてないです? 私が変態と言ったのは、ロナさんの心の声に対してなのです」

 はぁ、とため息を吐いて、みぃちゃんがまたあたしの右手をそっと握った。

「話を戻すです。今見せたように、私はいくつかの種族の特性を受け継いでいて、その中に冥族ヴァラも含まれているです。私のご先祖様が、時の賢者様のお兄様らしいのです。なので親戚、ということになるのです」

「え」

 それって。

「もしかして、みぃちゃんも契約だーとか掟だーとか、あたしのことマスターとか言い出したりする?」

「私はヴァラ族の血は薄いですから、他人の精気を奪ったり出来ないです。掟とかも知らないのです」

 ちらり、とみぃちゃんがサークの方を見る。

「むしろ私は時の賢者様のマスターになりたいのです。ロナさん、契約解除し(死んでくれ)ないです?」

「んー。みぃちゃん、口にした言葉と伝わってきた意思に微妙に違いがあったみたいなんだけど?」

 契約解除するにはあたしが死ななきゃダメってことらしいから意味は違わないんだけど、今みぃちゃんから”死んでくれないです?”っていう意思がはっきり伝わって来たよっ?!

「何のためにお手手つないだと思ってるデス?」

 にゃーっ。みぃちゃんなんか語尾がデスになってるっ?

「……まぁ、冗談はおいとくです。先ほど私の目的が種族を絶やさないことだと言ったです。ロナさんには機会があれば、私の同族の情報を集めて欲しいのです」

「うん……了解。素敵な旦那さんみつかるといいねー」

「別に配偶者はいらないですよ? 子種だけで十分なのです」

 あれ、なんかみぃちゃんの視線がサークの方に。

 みぃちゃん、もしかして。

 ……深く考えるのは止めとこう。なんかみぃちゃん、怖い笑顔だから。

 よし、話題を変えよう。

「話変わるけど、飛頭族デュラの体の中にある石?から出来るっていう転移の門の話なんだけど……あれってそんなに貴重な物だっけ? 王都ヘストアとか至る所に転移装置ポーターあるでしょ。詳しくないけど魔法でだって転移の魔法とかあったりするんじゃないの? 魔法の道具とかでもありそうだし。どの辺が天文学的価値になっちゃうわけ?」

 転移の門という言葉から遠方と遠方をつなぐ門のようなものだと思うのだけれど。どこがそんなに貴重だって言うのだろう。

 みいちゃんをきゅうと抱きしめて、頭をなでなでしながら首を斜めにしてサークに問いかけると、なぜかサークは何度も瞬きをして「おや」とつぶやいた。

「……ゲートに関してはむしろマスターの方がお詳しいと思っていましたが」

「えー?」

 どゆことだ。あたしは知らないぞー。

「マスターはノーザリア出身で、冥府の門ゲートの前に住んでいた、と以前おっしゃられていましたが……」

「うん、あたしは冥府の門ゲートの前に住んでたけど。それがどうかした? ……って」

 あれ。あれあれあれ?

「サークの言ってる転移の門ゲートって、冥府の門ゲートと同じものなのっ?!」

「ええ、冥府の門は現存する唯一の転移の門ゲートですな」

「……あー、それはヤバイわね。うん確かにマズイわ」

 冥府の門。

 あたしの実家のまん前に有るその巨大な門は、世界をつなぐ門・・・・・・・なのだ。






 唐突だけど――少し、昔話をしようと思う。

 神話の時代。かつてこの世界は大きなひとつの珠のようであったとされる。誰でも知っている御伽噺の類だ。

 あったとされる、ということは、今はそうではない、ということなのだけれど。

 神話に言う”黒神の反乱グラッド・アーズ”により、世界は・・・砕け散って・・・・・しまっている・・・・・・のだ。

 誰だって知っている。少し高い山にでも登れば世界の・・・・は簡単に目にすることが出来るし、あたしが今居るエルトリアム大陸の東の果てなど大地が直接欠けている。切り立ったガケから眼下を眺めれば、昼間でも夜空の星が見えるのだ。

 世界が砕けてしまった理由は、神話によると神様の姉妹ゲンカが原因だという。

 生命と光を司るとされる白神リラと死と闇を司るとされる黒神ネラが壮絶な争いを争いを繰り広げた結果、かつて珠の様であった世界は大きく三つに砕けてしまったのだとか。

 何で三つか言うとこの神様達って三姉妹で、もう一人、時と黄昏を司る灰神イラがいるかららしいのだけれど、神話ではあまりこの神様については詳しく語られていない。

 ずいぶんはた迷惑な姉妹ゲンカだとは思うけれど、困ったことに今現在をもってまだそのケンカ、終わっていないらしいのだ。

 神様なんだから、仲直りしちゃえば世界を元に戻すことなんて簡単。

 つまり今でもその姉妹ゲンカは続いていて……世界は砕け散ったままなのだ。

 そして、”世界が砕ける”というのは物理的に大地が割れてしまっていることだけを意味しない。大きく三つに分かれた、白神リラの治める”暁のカケラ”、黒神ネラの治める”常闇のカケラ”、そして今あたしたちの居る灰神イラの”黄昏のカケラ”は、仮に割れた大地から飛び出したとしても互いに行き来することが出来ないのだ。

 ――ただ唯一、冥府の門ゲートを除いては。

 一般には冥府の門というのは”死者の魂が死後の世界に行くため”にくぐる門であるといわれている。そして、いわゆる死後の世界というのは黒神ネラが治めている”常闇のカケラ”に存在する場所のことである。

 つまり冥府の門は、”常闇のカケラ”につながっているのだ。

 流石に黒神ネラも死者を管理するという自分の仕事を放り出すほど無責任ではなかったということなのだろう。

 サークのいう転移の門が、この冥府の門と同じものであるとするならば。

 砕け散った世界をつなぐ門を。

 あるいは、もしかしたら。

 ”砕け散った世界”のさらに外側の世界とさえ、つなぐことができる?





「……黒魔法って、異世界の存在の力を借りる魔法っていってたよね?」

「ええ。そうですな」

 あたしの問いにサークがうなずいた。

「……ねぇ、異世界って、どこのことを意味してるの? どうやってその異世界のことを知ったの?」

 あたしの問いに、みぃちゃんがあたしの右手を握る手に力を込めた。

「ロナさんの想像通りなのです」

「……」

 ということは。

「現在黒魔法と呼ばれている技術の多くは、小規模な転移の門により生み出されたものですな」

 つまり。

「……黒魔法の数だけ、飛頭族の犠牲がいるってこと?」

「黒魔法に限った話ではないですし、必ずしも犠牲を必要としたわけではないでしょうが。今のような技術が確立するまでに多くの犠牲があったことは否定できないでしょうな」

「そっか」

 あたしは無言でみぃちゃんを抱きしめた。

 大丈夫、絶対に。

「だから安易な同情は……」

 またみぃちゃんにかぷりと噛み付かれたけれど、あたしはきゅうと抱きしめたままみぃちゃんを離さなかった。

 きゅ、とあたしの手を握るその手に、少しだけ暖かいものが感じられた。

 修正に思った以上に時間がかかってしまいました。6/20の初回投稿版を読まれた方には申し訳ありません。次が「えぴろーぐ」になり、6/20初回投稿版の後半部分の修正版になる予定です。その次が「もうひとつのえぴろーぐ(フィアナ)」になります。

 こちらの都合で大幅に内容を修正してしまいすみません。

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