表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
母をたずねて三千年  作者: 三毛猫
第三話「ソトの村殺人事件~犯人はあたしだっ?!~」
21/29

 七、やっちゃった!?

 微妙にグロい描写にご注意下さい。

 主人公ロナ視点に戻ります。

 最後の方、十行ほど加筆修正いたしました(2013/06/18 1:48)。

 ……んあ。

 目が覚めて、しばらく自分がどこにいるのかわからなかった。ここはどこだろう。

 薄暗い小さな部屋の中で、あたしはなぜか床に座り込んで椅子のような何かを抱きかかえるようにして……。

 ……って、ここトイレだ。何度か入ったので見覚えがある。宿屋のトイレだよねここ。

 うへ、なんであたし、便器なんか抱きしめてんの?

 木製の便座から顔を上げると、かすかに臭気が鼻についた。

 痛む頭を押さえながら起き上がると、なぜかあたしは自分が右手にティムから借りたアーティファクトの剣を握り締めているのに気がついた。鞘に収められているので別に何かと戦っていたわけじゃ無さそうだけれど。

 トイレに剣持って入るって……いったいどういう状況だっ?! だいたいあたし左利きなのに右手に持ってるのもなんか変だし……。

 はっきりしない記憶をたどる。

 えーっと、確か酒場のカウンターでお酒飲んでて……エバと何か話して……ああ、そうだ。

ロナルドの姿になるために二階に上がったんじゃなかったっけ?

 そこまでは思い出せたが、どうもその後がはっきりしない。飲みすぎたというのも有るのだろうけれど、記憶なくすほど飲んだ覚えはないし。

 どうもあたし、なんか時々、記憶なくなること多い気がする。

 ……エバの話じゃ、あたしが盗賊都市でなんか魔法ぶっぱなしたりとかしたらしいし?

 なんか、記憶のないうちにろくでもないことしてたりしないでしょうね。

 うぷ。

 急に吐き気を催したので、これ幸いと便器にげー、と吐く。

 久しぶりに食べたまともなご飯だったのに、もったいない……。

 自分の身体をぱたたと手で触って確かめてみる。特に着衣が乱れていたり、汚れていたりすることもなく、二階に上がる前、旅人としてのロナの格好のままのようだった。

 宿の中で剣をぶら下げてるのは物騒なので、とりあえず剣をポーチにしまう。トイレに入ったときに自分で持ち込んだらしい、隅に置いてあった消えかけのランプをつかんで個室を出て、近くの水がめから手桶に水を汲んで、吐いたモノを洗い流す。手動とはいえ水洗トイレなのはなかなかリッチなかんじだ。

 ついでに手と口もゆすいでトイレを出た。




 酒場はまだやっているようだったけれど、流石にもう大分遅い時間のようで二つほどしか燭台の灯りのついたテーブルはなく、ほとんど人はいなかった。フィアナさんも流石にこの時間はお手伝いしていないようだ。

「おかみさんごめん、ランプの油もらうねー」

 カウンターに銅貨を置いて、油壺から適当に油を手に持ったランプに注ぎ足す。明かりを増したランプを手にふらふらと階段を上って、ふと迷う。

 えーっと、あたしの部屋はどこだったっけ。あっちが大部屋だから、こっちか。

 寝る前にあいつらと明日のこと話しとこうと思ってたのに、あいつらももう寝ちゃってるかな~。

 ……って、あ。みぃちゃんのことも忘れてた。あたし帰って来るの待ってたりするかな。

 ん、あれ。あたし部屋のカギ、カギどうしたっけ。ううー。

 しょうがないので部屋の扉を軽く叩くと、幸いみぃちゃんはまだ起きていたようで、いやもしかしたら起こしちゃったのかもしれないけれど、扉を開けてくれた。

「んー、遅くなってごめんね、みぃちゃん。ちょっと飲みすぎちゃってさ……」

 ごまかすように笑ったら、みぃちゃんは燭台を片手に無言で冷たい眼差しで見つめてきた。

 ……あはは、だめなオトナを見るまなざしだー。ああ、やっぱり寝てたのかも。起こしてごめんねみぃちゃん。

 あたしも、もう眠いですー。

 自分のベッドに、うつ伏せに倒れこむ。ええと、ランプはちゃんと消したっけ。たぶん消した、と思う。あ、あと念の為に武器を……と。

 サークが夜這い仕掛けてきたら、ちょんぎってやらなきゃね!

 ……って何をだっ?









 ――頬に冷たい風を感じて、目を覚ました。


 部屋の中はまだ暗い。でも月明かりが部屋を照らしているようで、ぼんやりと部屋の中の様子は見て取れた。

 ……ああ、窓が開いてる。寒いわけだ。

 上体を起こそうとして、ついた手のひらに何かざらざらした砂のようなものを感じた。窓が開きっぱなしだから、砂埃でも入ってきたのかもしれない。

 ベッドから降りようとして。

 ……ん?

 あたしのベッドから、身体半分ずり落ちている何か気がついた。

 エバ……まさか?

 あわてて自分の身体を確かめてみるが、特に妙なことをされた形跡はないようだった。流石に服の上から触られてたとしてもわからないけれど。

 変な意味じゃないけれど、ベッドで寝かせてあげるって約束しちゃったしなぁ……。今から大部屋に持っていくのも骨が折れるし。このまま寝かせとくか。

 起こさないようにそっとベッドを抜け出し、窓辺に立つ。

 窓は細く切った木材を横に重ねた木窓だった。コップやグラス程度のガラス製品はあっても、窓ガラスみたいな大きい平坦な板ガラスはこのあたりでは一般的じゃないのだろう。板ガラスとかああいうの、今は遺跡に潜って切り取ってくるしかないからなぁ。

 木窓を閉めようとして、一度、夜空を見上げる。白い月が、静かに夜を照らしていた。

 特に何も思うことはない。けれど、じっと見上げているとなぜか寂しい気持ちになった。

 はあ、とひとつ息を吐いて、その息が白く曇ることにちょっと驚きながら鎧戸を落とした。木窓を閉めて自分のベッドに戻ろうとして、部屋が真っ暗なのに気がついた。

 ああ、天窓ないんだここ。ランプもどこだかわからないし。

 寝る時も腰に巻いたままのポーチから、ペンライトを取り出して部屋を照らす。

 おっと、みぃちゃん起こしちゃまずいね。

 足元だけを照らすようにして、自分のベッドに潜り込む。

 ふわぁ、とあくびをしてからペンライトをポーチにしまい、それからベッドからだらんと垂れ下がっているエバを手探りで引っ張りあげ、抱き枕のようにぎゅうと抱きしめた。

 ……うん、思ったとおりあったかいや。

 エバを抱きしめたままシーツに包まって、あたしはもういちど大きなあくびをした。

 なんか忘れてる気がするけど……思い出せないならたいしたことじゃないよね。






 目覚めはすっきり。なんだかすべすべする触り心地のよい何かに頬ずりしながら大きく伸びをする。部屋の中は暗いが、小鳥のさえずりが聞こえてくるし、体内時計(腹時計ともいう)の感じでも朝だ。

 ああ、そか。昨日の夜、鎧戸おとしちゃったんだっけ。暗いわけだ。

 ランプも燭台も、マッチもどこに有るのかわからなかったから、手探りでポーチからペンライトを取り出して、部屋の中を照らす。

 昨日あんだけ飲んだのに、気分はすっきり爽快だ。すべすべ抱き枕のおかげかもしれない。

 ……暗いし、まずは窓を開けなきゃね。

 ベッドからおりようとして、ふと何か違和感があるのに気がついた。

 ……。

 ……あれ?

 寝息がひとつ、だけ?

 昨日一緒に寝たエバはまだあたしのベッドで静かな寝息を立てている。

 その隣、みぃちゃんが寝ているはずのベッドから。何も音がしない。

 シーツは小柄なみぃちゃんひとり分ちゃんと盛り上がっていて、確かにそこに横たわっている。

 でも、あれ、なんで?

 じゃあ、なんで、寝息が聞こえないんだろう?

 ペンライトをみぃちゃんのベッドの方に向ける。

 そのまま、足元から順に照らしていって。

「……いっ!」

 みぃちゃんの小さな身体には、有るべきところに有るべきはずのものがなかった。

「ちょ、ちょっと!」

 駆け寄って肩をゆすろうとしたものの。

 すっぱりと。鋭い刃物で切り落としたようなその断面は赤く。白い骨と。虚ろな空洞がぽっかりと開いていて。

 ――みぃちゃんの、首から上が、無くなっていた。

 すぐに周りをペンライトで照らす。見える範囲に、彼女の首は転がってはいなかった。

 みつかったからって、元に戻るわけでもないのに。あたしはベッドの下、テーブルの下とみぃちゃんの首を捜した。しかし、どこにも見当たらなかった。

 ……どうしよう。みぃちゃんが死んでる。

 人が死ぬことなんて珍しくもないし、あたし自身盗賊どもを返り討ちにしたことがないわけでもない。でも、だからといって、つい数時間前まで普通に生きて笑っていた小さな女の子が、もう動かないなんて。

 それは、きっと、なにか、どこか、間違っている。

 そのときトントンと扉を叩く音がして我に帰った。

「……お客様、どうかなさいましたか?」

 フィアナさんの、声?

 何か言おうとして、それから急に自分が困った状態であることに気がついた。

 窓は閉まっている。そして、入り口の扉も閉まっている。

 この状態で人が死んでいる。となると、殺したのは一緒にいる人物しかありえない。つまりあたしかエバが犯人。

 エバはあたしが抱きしめたまま寝てたから、抜け出せばあたし起きたはずだし。

 となると、……そうか、犯人はあたしかっ!

 ついうっかり、寝ぼけて首きっちゃったのかっ?

 いやまって、夜中窓が開いていたし、まさかそのときには既にみぃちゃんが殺されていた可能性も?

 ……犯人探しなんてしてる場合じゃなかった。今の状況で身柄を拘束されるのはまずい。あたしが賞金首だなんてばれたら。……ああ、もう、あたしってば。人が死んだのに、自分のことしか考えてない、最悪だ。最低だ。この場を逃げることしか考えてない。

 扉の前から、フィアナさんが離れた気配。駆け足で階段を下りていく足音。

 考えている時間はない。フィアナさんが戻ってくるまでになんとかしないと。

「……んー、どしたの、ロナ?」

 振り返ると、目をこすりながらエバが起き上がっていた。

「一応聞くけど、エバはこの子、殺したりしてないよね?」

「……んー? 誰のこと? ……おー、首がないね」

 なむなむとエバが手を合わせた。

 不意に、恐ろしい想像が思い浮かんだ。

 みぃちゃんに、誰かに殺されるような何が理由があっただなんて思えない。そうであるならば、むしろ狙われる可能性が有るのは。殺した誰かが首を持っていく必要があるってことは。

 ……みぃちゃん、もしかしてあたしと間違えられて賞金稼ぎに?

 何にしても、一度この場を離れた方がいい。

「エバ、ここから出るよ」

「んー、大部屋に合流する?」

「……そうね、何にしても一度話をする必要が」

「りょーかーい」

 するり、と音もなく静かにベッドから飛び降りたエバが、そのまま床に沈み込んだ。

 ……って、あれ? 床に?

「近道するね。宿の娘さん、もう戻ってきそうだし。鉢合わせるのまずいでしょ」

 床からエバの声がして、小さな手がすーっと伸びてきた。その手があたしの足をつかんで。

「……え?」

 あたしの身体はそのまま床に引きずりこまれた。




 ……気がついたら大部屋にいた。

「契約したから、今後はいつでも影移動できるよー」

 エバがにこにこ笑いながら、あたしの影からすうっと立ち上がった。

 エバって……ナニモノ?

「おやマスター、お帰りなさい。昨晩はお楽しみでしたね?」

 窓辺に腰掛けて本を広げていたサークが、あたしの姿を見てくっくと笑う。

「くだらない冗談はいいわよっ! それより大変なの、あたしの相部屋になったみぃちゃんが……」

「ああ、みぃ殿なら先ほどからずっとこの部屋であなたを待っていますよ。どうやらマスターに部屋から閉め出されたようでしてな。なんともひどいことをなさるお方だ」

「……は?」

 サークが膝に抱いたシーツに包まれた何か丸いものをこちらに差し出してきた。

 ころんとベッドの上に転がったのは、小さな女の子の首だった。

「……サーク、まさかあんたがみぃちゃんを殺したのっ?!」

「いえいえ」

 立てた人差し指を小さく左右に振ってサークが笑う。

「みぃ殿は、ちゃんと生きてらっしゃいますよ」

「首だけで、生きてるわけないじゃないっ……?」

 怒鳴り返したあたしの声にびっくりしたように、転がった少女の首の頭から生えた三角の獣のような耳がぴくんと動いたのが見えた。

「……え?」

 驚いて見つめる。

 すると三角の獣のような耳をぱたぱたと動かして、みぃちゃんの首が、ベッドの上に転がった状態であたしを見つめてきた。

「……え?」

 それから、んー、んー、と小さな獣の耳をはばたかせて、みぃちゃんの首がふわりと宙に浮かぶ。そうして、口をちょっととがらせた状態でひよひよとあたしのそばまでやってくると。

 ――かぷり、とあたしの手に噛み付いた。

「え、ちょと? は? 痛いんだけど……」

”ひどいです。ひどいのです。ロナさん、私、夜中に窓開いてても閉めないで下さいってちゃんとお願いしたです! なんで閉めちゃったんですかっ!!”

 頭の中に直接響いてくるみぃちゃんの声を聞きながら。

 あたしはいったい何がどうなってるのか、さっぱりわからなかった。

 ……推理小説じゃないって言ったもん。密室殺人っていったけど、人が死んだなんていってないもん。

 しょうもないネタでごめんなさいっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ