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母をたずねて三千年  作者: 三毛猫
第一話「史上最高の賞金首」
2/29

 一、つかまっちゃった

「というわけで、これからあんたをロミスバダムに連れて行く」

 そいつはあたしの方を見もせずに言った。

「……あんたさっき、そこに行くよ~なやつにはろくなやつあぁいねぇ、みたいなこと言ってなかった?」

「一番近い賞金の支払い所がそこなんだ。王都まで行くのは面倒だろう?」

 そいつはこちらに背を向けたまま、ちいさく方を肩をすくめた。

 むむう、なぁ~んかあやしいなぁ。

 あれ? そ~いやあの街でなんかひどい目にあった気がする。……でも、なんだったか思い出せない。

「にしても、こんな大ボケ女がよくいままで捕まらなかったもんだ」

 ふとつぶやいたそいつの言葉に、あたしの中でぶちっ、と音がして何かが切れた。

「だから、あたしはただの旅人だって言ってるでしょ! いいかげんにしてよ! だいたいあんたは何者なのよ? 何様のつもりで人を拘束なんかしてんのっ!」

 あたしが怒鳴ると、そいつは顔だけちらりと振り返ってあっさり答えた。

「俺はティム。賞金稼ぎだ」

「……あの程度の腕で、よく賞金稼ぎだなんて名乗れたものねぇ?」

「その未熟者にしてやられたのは、どこの誰だろ~ねえ」

「うっ……」

 何も言えないあたし。ティムは勝った、とばかりにニヤリと笑う。

「……と、ところで聞きたいことあるんだけど」

 ごまかすために、あたしは話題を変えることにした。

「あたし、いつからお尋ね者なの? 街では誰にもいちゃもんつけられなかったんだけど?」

 あたしが尋ねると、ティムは一言。

「今朝だ」

「……ちょっと待って。何それ」

 あたしは一瞬、こいつの舌をナイフで三枚におろしてやったらすっきりするだろうなあと思った。

「賞金がかけられたのはもっと前だろうがな。手配書があの街に回ってきたのが今朝だったんだろう。お前以外にも賞金首なんてあの街にはごろごろしてるから、いちゃもんつけられなくても不思議は無いさ」

「……あんた、賞金稼ぎやってるっていったわよね? それなら、以前にあたしの名前とか、ウワサとかどこかで聞いたことある?」

 あたしはやや気を取り直し、ある種の疑いをこめて言った。

「……いや。あの盗賊都市で初めて聞いた」

 ティムがぼそりと答える。

「あんた、あそこの連中にからかわれたんじゃない? あの手配書に書かれてるようなことが事実なんだとしたら、そんな凶悪な犯罪者を知らないとかありえないでしょう?」

「俺がだまされたって言うのか?」

「そうじゃなかったら、知らずに詐欺か人攫いの手伝いをしているとか?」

「俺は賞金稼ぎだと言っただろう」

「どうやってそれを信じろって言うの? あたしにはまったく身に覚えがないわけだし。適当な手配書でっち上げて、こうこうだから大人しくしろ、とか言えば大抵の人は何かの間違いだろうと誤解を解こうとして大人しくなるものだし」

「ロミスバダムの市長直々の依頼だったんだぞ!」

 ティムが体ごと向き直って声を荒げた。

「市長が俺をだましたっていうのかっ!」

「……だからそこって盗賊都市なんでしょ? 名前の通り犯罪者の巣窟なんじゃないの? そこの親玉に頼まれたからって、なんで疑わない理由になるの? むしろ疑ってかかる方が当然なんじゃない?」

「都市国家とはいえ、ひとつの国の長が、この俺を騙す理由がないだろう?」

「だからあんた何様のつもり? 自分は勇者様とかどこぞの王子さまだとでも言いたいの? たかが賞金稼ぎの一人や二人、市長じゃなくたって適当に扱うでしょう? 騙さない理由の方がないわね」

「……ぐ」

「だいたい、市長に頼まれたってど~いうこと? なにかつてでもあったの?」

「だから、俺は! ……くそ、なんでもない」

 何か言いかけて口ごもるティム。

 まぁアーティファクトを装備をしている、というだけでもそれなりの筋には顔が利くものだから、市長に頼みごとをされたところでそれほど不思議でもないんだけど……。口ごもるところをみると、アーティファクトの入手手段に後ろめたい所でもあるか、堕ちた騎士か元勇者の類であまり素性を口にしたくないのかもしれない。

「市長からは、どういう依頼を受けたの?」

「……自分の胸に聞いてみろ。もっとも無いに等しいけどな」

 ぐは。多少なりとも人が気にしていることを……。

「おい、何やってんだ?」

 ティムが耳を胸につけようと努力しているあたしを見ていった。

「……えっ? いや、だから、自分の胸に聞こうと思って」

「そのままの意味に取るな、馬鹿!」

「あんたが自分の胸に聞けっていったんじゃないっ!」

「……で、何かそのぺたんこの胸からは聞けたのか?」

 ティムが呆れたようにため息を吐いた。

「……あのさ、宿代踏み倒したら賞金かけられる?」

「……」

 ティムは無言だった。

「だって、あたし天下無敵の無一文だったんだもん!」

「ええい! もういいっ!」

 ティムが怒鳴った。

「そこまでしらを切るなら俺が教えてやる。お前があの街の三分の一を廃墟にしたんだ!」

「えっ? 今朝あたしが街をでたときにはそんなの気付かなかったけど?」

「お前の泊まっていた『金のなる木』亭から街の門までは全壊だったんだぞ」

「え、確かにあたしその宿にいたけど。宿代踏み倒すのに一生懸命で……」

 ティムがふぅ、とため息をついた。

「もしかしたら俺が市長に騙されたんじゃないかとか、勘違いしてるんじゃないかとか一瞬でも思った俺が馬鹿だった」

 ティムはあたしを縛っているロープを、さらにぎゅっと握り締めた。

「お前の言うことは、信用できない」

「……えー」

 ティムはもう何も言わずにあたしを引きずっていった。何度声をかけても返事は無く、あたしはただずるずると引きずられていくだけだった……。

 そして森を抜けた。ティムの背中越しに、広い草原の向こうの白い外壁が見える。

 盗賊都市ロミスバダムだ。




「おい、開けてくれ」

 ティムが外壁の上の門番に向かって声をかけた。

「おお、賞金稼ぎのあんちゃんかい。見たところ首尾よく魔女を捕まえたみたいじゃないか。待ってろ、すぐ門を開けてやっからな」

 外壁の上から声がして、大きな青銅の門が音も立てずにゆっくりと静かに開いた。

 門の中はがれきの山だった。たくさんの人々が瓦礫の下から使えそうな物を探している。

 ぱっと見たところ、門から見える範囲はぜんぶそんなかんじ。立っている建物などありはしない。ずぅ~っと向こうの方に、昨日あたしが泊まった『金のなる木』亭が見える。何であたしってば気がつかなかったんだろう、って思うくらい門から遠く離れている。

「ひどいな~。いったい何がどうしてこんなになっちゃったわけ?」

 あたしが驚きの声をあげると、ティムはぎろりとあたしをにらみつけた。

「まだシラをきる気か?」

「あたしじゃないったら。だいたい人間にこんなことできるわけないじゃん。ドラゴンでも暴れまわったんじゃないの、これって。剣の腕には少々自信あるけどさ、このあたしの細腕でこんだけ壊して回るってあんたこそ頭だいじょぶ?」

 あたしが問うと、ティムはぼそりと言った。

「魔法だ」

「魔法?」

 もしかして、年取ったお婆さんが鍋の中で何かを煮ながら、ケケケとか笑うやつのこと?

「市長の話では、あんたが一言何か言っただけでこんなになったそうだ。幸いなことに死者もケガ人もほとんどいなかったそうだが」

「なんで?」

「泥棒なだけに仕事に出かけてて、夜だれも家にいなかったらしい」

「……それはまた、ミナサン無事デヨカッタデスネ」

 理由はしょうもないが、何にしても人的被害が出ていないのは良いことだ。

「でも、あたしは魔法なんか使えないし、それに魔法にしたってこんだけの破壊力をたったひとりの人間が起こすって、ちょっと信じられないな」

「口では何とでも言えるさ」

 ティムはそう言ってまたあたしを引きずり始めた。

 いいかげん、靴の踵が擦り切れそうなんですけど。

「だいたい、あたしが何か言っただけでそんなすごいことできるんだったら、あなたに大人しく捕まってたりするわけ無いでしょう?」

 とゆーか。あたしをそんな強力な魔法使いだと疑ってるくせに自由に喋れるようにしてるのはどういうことだ。

「……いや、大人しく捕まっていること自体、おまえがいつでも俺から逃げ出せる自信があると思っている証拠かもしれない」

「なんでそんな無駄なことあたしがしなきゃいけないの……?」

 つーか、うん、まあ、実際の所、大人しく捕まったのは確かにいつでも逃げ出せる自信があるからだったりするのだけれど。奥の手あるし。

「知るか……。いやまて、まさか俺が賞金を貰った後で……とか、考えてるんじゃねーだろうな?」

「あたしが逃げ出して、あんた殺して賞金を奪おうと考えてる、とでも?」

「むむ。やはり」

 ティムが警戒の眼差しをこちらに向けるが、馬鹿の妄想にはつきあってらんない。

「……どっちかっていうと、賞金の支払い所の人間がそゆことしそうなんだけど。盗賊都市なんでしょ、ここ?」

 っていうかそもそもなんで盗賊都市と呼ばれるよーなとこに賞金の支払い所なんかがあるんだ?

「この俺を騙すようなら、……そのときは、俺にも考えがあるさ」

「くっそーダマサレターで済めばいいわねー?」

「……」

「あの程度の腕のあんたが死ななかったら、ほめてあげるわよ?」

 いやまあ、実際の所あたしの方が上なだけで決してティムが一般的に弱いというわけではないのだけれど。あの賞金額ならどんだけの人数に襲われるかもわからないしー?

「今ならこのロープ解いて謝ったら許してあげる、けど。どうする?」

 天使の囁く声。とびきりの笑顔も忘れずに。

「……正直に答えろ」

 こちらを振り向かずに、小声でティムが言った。

「お前は、本当に身に覚えが無いんだな?」

「何度もそう言ってるでしょ」

「……もうひとつ聞く。お前は本当に魔法が使えないのか?」

「魔法は使えないわよ。……魔法はね?」

 似た様な別の攻撃手段は持っていたりしますが。

「最後にひとつ聞く。俺が騙されていた場合、手を貸す気はあるか?」

「んー。むしろ、やーいばーかばーか、やっぱり騙された~へへ~んだっ、てあざ笑っちゃうかも? っていうか一人で死ねば~、ってかんじ?」

 正直に言えということだったので、正直に答えたらティムの肩がぴくりと震えた。

「……そうか。なら方針は決まったな」

「解いてくれる気になった?」

「とっとと縛り首になれ」

「えー」

 あんまり正直に答えるのも良し悪しかー。




 がれき地帯をぬけてかろうじて立っている建物のひとつに到着すると、ティムはあたしを扉の奥へ投げ込んだ。

「いった~! 乱暴にしないでよ!」

 ティムは問答無用であたしを部屋にいた男の前に突き立て、後ろ手にドアに鍵をかけた。

「連れてきたぞ」

「おおっ! 流石だな。その装備は伊達ではないということだな」

 男はにやりと下品な笑いを浮かべ、金庫から袋を取り出した。

「ド・ペステロート様にもお知らせせねば」

 ティムは男から袋を受け取って中を見ると、不満げに唇の端を吊り上げた。

「ちょっと少なすぎないか」

「あんな大金をこんな換金所でそうそう用意できるか。今渡した分だけで満足しておけ。こいつを王都に突き出したらもう少しくらいは出してやれるが、そんな頃までこの街に大金もって居座ってると命の保障はできんぞ。安心しろ、賞金は街の復旧資金として有効に使ってやる」

 男はそう言って、何がおかしいのか下品にゲハハハと声を上げて笑った。

「……まぁいい」

 何か含みのある物言いだったが、ティムは大人しく金貨の袋を懐に収め、あたしを縛っているロープの端を男に渡した。

「さぁ、さっそくお前は牢獄行きだ」

 男がそう言いながらあたしの肩を掴もうとする。

「汚い手で触らないで!」

 あたしはその手を避けた。

「そういうことを言える立場か!」

 男がロープを引っ張り、あたしはバランスを崩して彼に思い切りぶつかるはめになった。

 脂ぎった顔をした、中年とは言わないまでもそう若くも無いおじさんと抱き合う趣味は無い。

 あたしは両足を揃えて男の顔に蹴り付けると、下半身のバネだけでよいしょと起き上がった。

「うわぁ、ぺっぺ、気持ち悪いよう」

「逃げるか貴様!」

 男があたしを追う。もちろんあたしは逃げる。当然部屋の中をぐるぐる回ることになる。入り口は鍵がかかっているし、奥のほうは男の口ぶりだと牢屋っぽいし、窓には鉄格子がはまっている。あたしは上半身がロープでぐるぐる巻きだし、部屋の中の追いかけっこなんて負けることがわかりきっていた。

「ふえ~ん、おじさんキモイよ~。お~か~さ~れ~る~!」

「ええ~い、待たんか!」

「待てといわれて待つ馬鹿がどこにいるのよ!」

 そういってちらりと男の方を見たあたしの足元に、ティムがすっと足を。

 ……って、それだめ!

「あひゃあ!」

 どんがらがっしゃあーんと、あたしは何の罪も無い机ふたつと椅子三脚、花瓶をひとつと活けてあったしおれかけた花、そしてあたしを転ばせた張本人を道連れにしてものの見事に壁に激突した。

「……捕まえたぞ」

 意識がもーろーとしたまま、あたしは足をひきずられて牢に投げ込まれた。

 ちくちょう、ティムとおじさん、今度会ったら絶対、泣かしちゃる!




「うう~。イテテテ。っとに、あいつ、今度会ったら絶対しかえししてやるから」

 あたしは冷たい石の床の上にごろりと横になって呪いの言葉をつぶやいた。

 いや気がついたら足の方までロープでぐるぐる巻きになってて、動けないだけなんだけど。

 ……あれ、そういえば、魔法のロープとか言ってたような。離れたら首が絞まるとかなんとか……。え、ちょっとちょっと。もしかしてなんだか、足の方だけじゃなくて首のまわりにもロープからまってきてないっ?

 なんとかしないと、いのちのぴんち!

 魔法のロープって言ったって自分で動いて締まるだけで素材自体は普通のロープっぽいし、ちょっと力入れれば、なんとかなるんじゃないかなって、数分もがいて。

 ……ロープはあたしの頭の先から足の先まで完全にぐるぐる巻きになっていた。幸いにも首だけがぎゅうと絞まっているわけじゃないので、息苦しいもののなんとかまだ息は出来る。

「ぐ、ぐ、ぐ。もがもが」

 どうやら力でぶち切ろうというのがまちがいだったらしい。それとも単にティムが離れすぎたせいなのか。

 こうなったら剣で、……って手が動かないのに剣なんか抜けるわけが無い。

 奥の手というか、実はあたしの剣は右の肩当に折りたたんで収納されているので武器自体は取り上げられていない。とはいえ、使えなかったら意味が無い。

 ん? 肩当? そうか、その手があった。あたしの肩当はそこらに転がってる安物とはちょっと違う。いわゆる魔法装備とはまたちょっと違うのだけれど、とあるダンジョンで見つけた古代文明の超科学で作られているのだ。

 軽く念じると、肩当から伸びている三本のロッドが光の刃を形成した。素材自体はやはり普通であったらしく、ロープはあっさりと切断されてあたしは自由を取り戻した。

「ん~!」

 大きく伸びをして、すぅはぁと深呼吸する。

 うむ、持つべきものは奥の手ですなー。

 自由になったことだし、武器もあるし、そろそろこんなとこから逃げようかなぁ。

 ついでに軽く体操を始めようとしたら、視界の端でなんか動いた。

 にょろろー、にょろろー、と切り刻まれたはずのロープが蛇のように動いて一箇所に寄り集まって。

「な、何よ?」

『合・体! グランドフォーメーション!』

 集まったロープが叫んだ。いや、ロープが叫ぶってなんだいったい。

 あたしはあっけに取られてぽか~んと口をあけたまま固まった。

 細切れのロープは、ぐにぐにと寄り集まって、より太く、より硬い一本のロープとなって笑った。

『ヘイ、ねえちゃん。俺から逃れようなんてできっこないぜ』

 ロープはそう言ってまたあたしを縛ろうと、とびかかる気配を見せた。

「は……はは……冗談きついわー」

 あたしは肩当から柄だけの剣を抜いてすばやく炎の剣型フレイムソードタイプに変形させた。同時に腰のポーチから素早くカートリッジを取り出して剣の柄にセットする。力をこめると炎が噴出し、刃を形成する。実はこの剣も肩当と同様の古代文明の遺産で、柄の形状とカートリッジを替えることにより色々なタイプにすることが出来るのだ。

「とっさに本気で身構えちゃったけど……ひもが相手とか、なんだかばからしいなぁ」

『そういうことは俺を倒してからいいな!』

 単純にまた絡みつくのは剣を持った相手には難しいと判断したのだろう。魔法のロープは、うにょうにょと一筆書きの要領で剣を持った戦士のような姿になった。

「いや、見た目だけ整えたって、ロープに何が切れるっていうの」

 思わず笑ったあたしの剣がいきなり弾き飛ばされた。触れたような感じはなかったのに、頬から血が伝った。

『たかがロープと思ってなめてると、死ぬぞ? 大人しく縛られるのなら命まで取る気はないがな』

 口なんか無いくせに、ロープで描かれた戦士の人型がにやりと笑ったように見えた。

「ティムのばかあ!」

 あたしはこんな変な物であたしを縛ったティムを呪った。このロープ、ティムよりよっぽど腕が立つじゃないっ!

 こーなりゃ、こんなの相手にちょっと情けないけれど少しばかり本気を出すしかない!

「ていっ!」

 あたしの肩当のロッドの一本がしゅるしゅると伸びて、飛ばされた剣を拾う。

「切ってだめなら、こっちはどう?」

 ロッドでつかんだ剣を、そのままロープ戦士に向かって振り下ろす。

 炎の剣の先から真っ赤な火の玉がほとばしり、爆音を上げてロープ戦士にぶち当たった。

「どうかしら? って、え~っ?」

 ロープ戦士はふらりと起き上がった。まったくの無傷である。

『いてえじゃねえか!』

 ……あたしはこういう非常識なの嫌いだ。

 火が効かないとなると、水と雷のコンボを試してみる? それとも属性系は一切効かないタイプなんだろうか? それなら、光の剣で?

 手元に引き寄せた剣をつかみ、カートリッジを抜いて剣をノーマル形状に戻す。

 ちょっと時間かかるかな……。

 光の剣を発生させるために集中しようとしたそのとき、男が駆け込んできた。

「何事だ?」

「……ひもと遊んでるっていったら笑います?」

 あたしの冗談は男に通じなかった。

 牢屋の中をチラッと見て、彼はすぐに鉄格子に魔法封じの札らしきものを貼り付けた。

「ロープを使い魔にでもしようとしたんだろうが、残念だったな。今度は逃がさんぞ」

 どうやら男はあたしが魔法を使って逃げ出そうとしたが、見つかったので口からでまかせを言ってごまかしたと思ったらしい。

 しかしそれが逆にあたしの助けになった。札の力が魔法のロープより強かったのだろう。ロープはたちまちへなへなと崩れ落ちてしまったのである。

 あたしのこと魔法使いと疑ってるなら最初っからお札貼っときなさいよ。そしたらこんな面倒なことにならずにこっそりと逃げ出せてたのに……。

「ふん」

 男はあたしの脱獄を阻止したと思い込み、満足げに去っていった。

 幸いにも光の刃を発生させる前だったので、あたしの剣は武器とはみなされなかったようだった。

 あたしは剣を肩当に収め、冷たい石の床にごろりと横になった。

 なんだかすごく疲れた。朝も早かったし……。

 そしてそのまま、あたしは夜になるまでぐっすりと眠っていたのだった。

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