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母をたずねて三千年  作者: 三毛猫
第三話「ソトの村殺人事件~犯人はあたしだっ?!~」
19/29

 五、ナンパされちゃった!(みぃ)

 謎の少女みぃさん視点のお話です。

■みぃ視点


 物心ついた時には、既に私はひとりだった。ひとりきりだった。

 気がついたときには、崩れかけた建物の中に私と同じ服を着た首のない白骨が横たわっており、私はその側に何をするでもなくただ茫然と突っ立っていた。その白骨は私の親、あるいは兄弟であったのかもしれなかったが、それが私にとってどういった存在であったのかは今もって思い出せはしない。

 乳飲み子が一人で生きられるはずはないから、きっとそこに至る何がしかの事情があった上で私はひとりになったのだろう。だが今となってはもはやそれを知る術さえもないし、知った所で今更過去が変わるというわけでもない。


 ――いずれにせよ私は最初からひとりだったし、ひとりで生きてゆくしかなかったのだ。

 この世界には私と同じ存在など、在りはしないのだから。



 他に比較対象がない中で、自分を認識するのに数年を要したのは恥ずべきことではないと思いたい。自分が何であるのかを知らず、言葉を知らず、文字を知らず、ただ森を這いずり獣のように生きてきた私が自分という物を意識したのは、初めて書物に触れたのがきっかけだった。

 いつものようにエサを探そうと崩れかけたねぐらから出ようとして、あまりの天気のよさについうとうとと地面に丸くなったとき、壊れた棚からたまたま落ちてきた紙の束が頭に当たり、気分を害した私がそれをぐしゃぐしゃにしようとしたときのことだった。

 ――言葉が、意思が、想いが、私の中にたくさん落ちてきたのだ。

 混乱し、困惑し、一昼夜をのた打ち回って過ごし、そうして気がついたときには私は今の私になっていた。私には、物に残された心を読み取る力があった。普段は意識せずせいぜい曖昧な獣の心を知る程度のことしか行っていなかった私に、その書物に残された誰かの意思は、強烈な劇薬のように働いたのだ。

 自分を人であると認識し、人とはどういうものであるのかを知り、そして現在の自分の状態を認識した私は、自分が獣のようであったことを初めて恥じた。それから水を浴びて体の汚れを落とし、崩れかけたねぐらの隅に残っていた服を身にまとった。私は服を着ることすら忘れていたのだ。

 私の頭を打った紙の束は、かつてここに住んでいた誰かの綴った日記のようなものであるらしかった。そこに残された心を得て獣から人間となった私は、あるいはその日記を書いた人物に憑依されたようなものであったのかもしれない。今を持って私は私が何であるのかを正確には定義できていない。しかしこの日このときに今の私になったことだけは確かだった。

 今の自分になってすぐに、私はねぐら中の書物を漁った。あるだけの知識を、あるだけの心を、貪欲に自分のものにした。そうしていくつもの情報と知識とをつなぎ合わせた結果、私はおそらく件の日記を書いた人物の娘、ミィ・ミ・リュン・ディ・リュクスであろう、と推測するに至った。日記を書いたのは、あるいはあの首のない白骨であったのだろうか。乾いた骨に手を当ててみても何も知識を得ることは出来ず、ただ悲しみと願いを込めた心を得ることしかできなかった。




 ――ある日、初めて自分以外のニンゲンに出会った。


 知識と心を得て今の自分になってから、私は行動範囲を広げてこれまで気にもしていなかった他の建物の残骸を掘り起こし、そこに埋まっていた書物などからさらなる知識を得ることを日課にしていた。

 その日も地面を掘っていると、突然何者かに声をかけられたのだ。

「××××……っ!」

 振り返ると、ニンゲンがいた。自分と同様に二本の足で歩く動物を見たのは、これが初めてのことだった。そのニンゲンの発する音は私には理解不能だった。おそらく何らかの意思を込めた音であることは推測できたものの、その意味を理解することが出来なかった。

 だから私はそのニンゲンに差し出された手を握り締め、読み取ることにした。隅から隅まで、余す所なく全てを読み取った。

 そうして、そのレアという名の女性、彼女から言葉に関する知識と彼女の持つ常識とを得ることに成功した。私が書物から得た言語は既に使うものがほとんどおらず、今では古代語と呼ばれるような言語であり、彼女のいる世界では通じないということがわかった。

「その耳、君は獣族ディストだね? まさかこんな所に生き残りがいたとは」

 レアという名のニンゲンは、自分のことを学者だと言った。辺境に住む少数民族のことを調べている人類学者だと言った。全てを読み取った私はその言葉が事実ではないことを知っていたし、本当は何を目的としてここに来たのかもわかってはいたが、そのことにはあえて触れなかった。

 私はそのニンゲンを通して、いかに自分が”異なるもの”であるのかを知った。

 獣のような三角の耳を持つ人間というのはあまり存在しないこと、私のように物に残された心を知ることの出来る人間というものもあまり存在しないことを知った。


 ――そして私のような存在が、昔から迫害され続けていたということを知った。



 ここは、迫害を恐れて少数民族が隠れ住んだ里だったようだ。

 レアとういう名のニンゲンが探していたのは、涙族ティア飛頭族デュラと呼ばれる少数民族だった。人類学者を名乗ってはいたものの、彼女がティア族の体液より生み出される宝石や、デュラ族の体内にあるとされる希少な物質を求めていたのは明白であり、おそらくは墓、もしくは住居跡に残されたそれらを得るのが目的なのは間違いなかった。

 私は一見三角の獣の耳を有するディスト族の特徴を備えていたから、即座に彼女に害されるということはなかった。しかし私には彼女が追い求めていたその二つの種族を含む五つの種族の特性が備わっており、それを知られれば即座に彼女が冷徹な強奪者になることはわかっていた。


 だから、私は。


 彼女が私のねぐらに横たわる白骨の胸から紅い石を取り出そうとかがみこんだ時に。


 いつも森の中で獲物を狩る時のように。


 ――。



 彼女が何らかの資料や手がかりを元にこの遺跡のような隠れ里を訪ねてきたのは間違いなかったから、このままではまたいずれ誰かがこの地を訪れることになるのかもしれなかった。

 だから、私はねぐらに横たわっていた母かもしれない白骨を、胸の赤い石ごと土に埋めた。墓とわからないように何の目印も付けはしなかった。村の墓地であったらしい場所を、それとわからないように墓標を砕いて回った。あのニンゲンのような輩に、同胞の墓を暴かれるのは我慢ならなかったから。そうして、既に崩れかけていた建物をも埋めて回った。

 ここに何かがあった痕跡を残してはいけない。

 最後にわずかばかり荷物をまとめたあと、自分のねぐらをもつぶした。

 荷物をまとめる時に少しばかり気になったのが服だった。今の私よりもいくぶん大き目の服がいくつかあったのだ。あの日記にはそれらしきことは書かれていなかったし、子供の骨もそれらしき墓も見当たらなかったけれど、私には兄、あるいは姉がいたのかもしれないと思った。

 古代語の書物が貴重であることは知っていたし、それが失われてしまうのもいやだったけれど全てを持ってゆくことは不可能だったので、ただ私を私たらしめたあの日記だけを持っていくことにして残りの全てを灰にした。

 全てを無いようにした。何も無かったようにした。あとは私さえここから消えてしまえばここには何も無くなる。

 立ち去る前に、私は一度だけかつて自分のねぐらだった場所を振り返った。

 ばいばい。……じゃあ、ね。

 もうどこにあるのかわからない、かつて母であったかもしれない白骨に別れを告げて、私は当てのない旅に出た。




 深くフードを被って獣族の耳を隠し、闇夜にまぎれるように大陸のあちこちを旅しながらそれから十数年を過ごした。その間中感じていたのは強烈な寂しさだった。どれだけ求めても、探しても、自分がいかに異端であるかを思い知らされるだけだった。

 冥族ヴァラの血の影響かいつまで経っても私の身体は幼いままで、長く一箇所に留まることが出来なかった。誰にも見つからない森の中で獲物を狩るのならともかく、そんな幼い姿で人間の街で日々の糧を得る手段はなく、涙族ティアの血を生かして自らの血や涙を宝石と化して換金するしかなかった。しかし、やはり子供にしか見えない私が高価な宝石を売ろうとするのは奇異に映るらしく、間に人を立てる他になく何度も騙されかけた。そういうときには、私に角は生えていなかったけれど、有角族リーンの心を読む力は役に立った。

 行く先々で同胞の情報を集めるようになったのは、子供を産める身体になったのがきっかけだった。あるいは私が最後の一人かもしれない以上、この身に流れる獣族ディスト涙族ティア飛頭族デュラ有角族リーン冥族ヴァラの血を残さねばと思ったのだ。

 しかし私が得たそれらの情報において、私の種族のほとんどは伝説、あるいは昔話にでてくる想像の産物のようにしか扱われておらず、生きた存在のウワサのカケラさえ得ることが出来なかった。

 私自身、ニンゲンに正体を隠し続けているわけだから、仮に同胞がいたとしてもやはりそのことは隠しているのだろう事は容易に想像がついた。あるいは誰にも知られぬ場所で、人知れず閉じ込められているに違いなかった。


 ――それでも私は、求めずにはいられなかった。


 ただの人間の血など、繋ぎたくはなかったから。










 その村に立ち寄ったのは、ただの気まぐれだった。

 かつて世界が二度目の滅びを迎えたとき、最初に作られた外の村。それだけ古い場所ならばあるいは何か同胞の手がかりが残されていやしないかと、思ったのだ。

 大した期待はしていなかったし、実際うらびれた村では大した情報は得られなかった。ただ成り立ちが古いだけの村は、そこらにある普通の村とどこも変わるところがなかったのだ。

 しかし夕食をとろうとした宿の酒場で、突然かけられた声に私は驚愕を覚えた。

おや(Nnn…> )こんなところで(thyes Ne) めずらしい(mo pls;)

 声の主を探すと、灰色のフードをかぶった男が私をじっと見つめていた。

 指の先にいたるまで全てを覆い隠しており、わずかに口元が見えるばかり。いかにも怪しい風体ではあったものの、私に他人に知られてはいけない素性があるようにその男にも何か事情があるだけのことなのかもしれなかった。

 だがしかし、その言葉は。その奇妙な節のある独特の言葉は、古代語だった。私が書物から得た、私の里の言葉だったのだ。同胞かもしれない期待と、これまでの年月で鍛えられた危険に対する警戒が同時に働いて、私はしばらく、ただ男の方を見つめることしか出来なかった。

 フードに隠れてわからなかったが、おそらくは目が合ったことに気がついたのだろう。男は手にした杯を小さく掲げて、口元に笑みを浮かべて言った。

どうです、(WWth…>)一杯(CnDn)付き合い(pelest)ませんか(lles Mow)?」

「……もしかして、ナンパです?」

 私は言葉が通じないふりをしてごまかした。期待より、まずは警戒心の方が先にたった。

 数は少ないが、今でも古代語を使える魔法使いは存在する。慌てて自分の素性を相手に晒すのはよくない。

「私みたいな子供に、お酒飲ませてなにをする気です?」

 一度ひどい目にあった経験を思い出す。苦い水を飲まされて、朦朧としているうちに服を脱がされた。あの時の男は、私の耳を見て驚いて逃げ出したので特に害は受けていないが、それ以来、私はお酒の類は飲まないようにしている。

「……おや、何を警戒してるのやら」

 男はくっくっくと声を押し殺して笑い、前の席を指差した。

「ただの人間ならともかく、我々が齢五十を越えて子どもなわけがないでしょう? まぁお座りなさい」

「……あなたは何者です?」

「これはまた異なことを。あなたは、わたくしがわからないと? 同族なら気配でわかりそうなものですが。ふむ。おや……」

 男は何か小さくつぶやいた。

わたくしはサーク=ローディア、ヴァラ族のローディア家の一員です。あなたはどうやらずいぶんと血が薄いようですが、どちらの家の血を引いてらっしゃるので?」

冥族ヴァラ?!」

 時の賢者の一族。私が血を引いている五つの種族のうち、唯一迫害と呼ばれるほどの大きな排斥を受けていないものだった。無論、迷信や誤った伝承により人を襲って喰らう凶暴な怪物として忌み嫌われることがないわけではないが、むしろ冥族はその長命を生かして様々な知識を蓄え、その知識や技術を後世に伝えてゆく者として敬われるべき存在だった。

『ご無礼をお許し下さい時の賢者様。私はミィ・ミ・リュン・ディ・リュクスと申します』

 その場に立ったまま深く頭を下げ、はじまりのことばを用いる。

『冥族の血を引いているのは確かなれど、この身にはいくつもの血が混ざっております。もはやその尊き家の名すらわからぬことをお許しいただきたい』

『……ふむ、ミィ殿ですか。とりあえず、そちらへお座りなさい』

 賢者様の言葉に従い、恐る恐る前の席につく。

『こんなところで同族を見かけるなど珍しいと思って声をかけただけのことです。他意はありませんから、そう身を強張らせることもないですよ』

 賢者様はそう言って微笑み、いくつかの料理と酒を追加で注文した。

『我々の一族は、非常に数が少ないのでなかなか同族と出会う機会がありません。ナンパではないかといわれましたが、まぁ多少はそういう気がなかったわけでもないですがね。ただ久々に同族と話がしたかっただけのことですよ』

 くっくと笑う賢者様の口元は、言葉の割りには下心を感じさせなかった。むしろこちらを心配するような、気にかけるような様子に少し緊張が柔らぐ。

『……賢者様は我が身を御所望ですか?』

『いえ。血の薄さ故かあるいは未だ成人していないためかミィ殿は御自覚がないようですが、我々は他者の精気を得て命を永らえる存在です。わたくしと肌を重ねるようなことをすれば、おそらく血の薄いあなたでは耐えられず命を失うでしょう。一時の快楽に命を差し出せなどと言いはしませんよ』

 杯を傾けて飲み干すと、賢者様は深く息を吐いた。

『ですからあなたのように混血という存在は非常に珍しくはありますな。肌を重ねずに精だけを母体に入れたか、あるいは死を覚悟でヴァラ族の女性と肌を重ねたのか。いずれにせよ興味深いことです』

『……それは、賢者様の精をいただければ、私でもお子を授かることができるということでしょうか』

 意を決して尋ねた私に、賢者様は困ったような笑みを浮かべた。

『ふむ……? 何か事情がおありのようですな。ミィ殿、素性を詮索する無礼を許していただけますかな』




 私は生い立ちを時の賢者様に語った。全てを黙って聞いていた賢者様は、私が語り終わるとただ「ふむ……」とだけつぶやいて、そのまましばらく何か考えるようにしていた。

 そのまましばらく賢者様はただ杯を傾け、徳利が空になったことに気がついてようやく私の方へと目を向けた。

『どうやらミィ殿は、我がローディア家に連なる者のようですな。わたくしの兄が二百五十年ほど前に、請われて子を成した記録が残っています』

『……っ! ではっ、賢者様は私の縁者なのですか?』

『そういうことになるでしょう。いやはや、世間は広いようでいて意外と狭いものですな』

 ひとつ息を吐いて、賢者様は懐から何か小さな石のついた耳飾を取り出した。

『これを身につけておきなさい。何かの役に立つでしょう』

 テーブルの上に差し出されたそれに触れると、知識が。

 荒れ狂うように、恐ろしいまでの知識が。

『……ああ、直接手で触れないほうがよいですよ』

 言いながら、賢者様は皮の手袋をした手でそっと私の左耳に耳飾を付けてくれた。

『とある方から頂いたものですが、私がここ千年ばかりの間ずっと肌身離さず持ち歩いていたものです。リーン族の血も引くミィ殿であれば、そこから得られる知識も有るでしょう』

『……有難う御座います。ここまでしていただいてさらに要求するのは無作法と思われるでしょうが、賢者様は既に主をお持ちでしょうか。私に冥族としての特徴が薄くただびとと変わらぬのであれば、私と契約してはいただけないでしょうか』

 かの賢者の助力があれば同胞を探す旅に何らかの光明が得られるに違いなく、どうやら賢者様は幼いこの身にあまり興味はないようだったが、身近にいれば精を得る機会はなくもないはずだと思った。

『残念ながら私には既に主がいるのですよ』

 賢者様の視線をたどると、カウンターでグラスを片手にひとりで飲んでいる女性の姿が見えた。

 あれは……無理を言って相部屋にさせてもらった、確かロナという名の旅人。

 握手を求められて、手に触れた時の恐怖が思い起こされて我知らず背筋が凍る。

 あれは、とても人とは思えなかった。どこまでも深く、どこまでも暗く。それでいて、表面は人当たりのよい笑顔を浮かべているのだ。

 自分が何者であるのかも知らずに!

 他人に害意を持っていないことだけは確かだったが、正直あまり近付きたくない類の人間だった。

『……冥族の血を引く私は、おそらくただの人間よりは長く生きるでしょう。あの人を失った後でかまいません。私との契約を考えていただけないでしょうか』

 暗い感情を心に秘めたまま、再度こいねがう。

『同族との契約は掟に反しますが、ミィ殿ほど血が薄ければあるいは。約束は出来かねますが……』

『かまいません』

 私の言葉に言外の何かを感じ取ったのか、賢者様は訝しげな顔でしばらく私を見つめていた。

『……では、改めて乾杯と行きますか。この出会いに』

『出会いに』

 既にお互いの杯は空になっていたが、ただ軽く杯をぶつけ、飲み干すふりをした。






 宿の部屋で休んでいると、夜更け過ぎに部屋の戸を叩く音がして同室のロナが帰って来た。

「んー、遅くなってごめんね、みぃちゃん。ちょっと飲みすぎちゃってさ」

 ロナは赤い顔で酒精まじりの息を吐いて笑った。それからふらふらと自分のベッドに倒れこみ、すぐに軽い鼾を立て始めた。

 ……この女がいなくなれば、賢者様は私と契約してくださる。

 暗い感情が大きくなるのを感じつつも、私はそっとシーツをロナの肩に掛けた。

 そのままじっと、ベッドの脇に立ったまま無防備に横たわる女を見下ろす。

 どれほど恐ろしい存在であろうとも、酔って眠っているときには無力であるに違いなかった。

 そうであるならば……獣族の爪なら、一息に狩れるだろうか。

 考えた瞬間、ちゃきり、と何か金属のこすれる音がした。

 うつ伏せに寝ているロナの左手が、枕の下に潜り込んでいた。思わず一歩下がると、嫌な気配が薄れる。どうやらナイフか短剣か、何か武器を枕の下に隠して有るようだった。

 寝たふり、なのだろうか……。

 そのまましばらく、動けなかった。数分たってロナが動かないことを確認してから、ようやく自分のベッドに戻った。

 あれは寝ていながら、わずかな私の殺気に反応したものだったのだろう。

 こちらが妙なことを考えなければ、おそらく彼女にこちらを害する気はない。どれだけ恐ろしい存在ではあっても、なぜかその一点においてだけは信じることが出来た。



 私は部屋の窓を開けた。それから荷物から眠りの砂を取り出し、そっと部屋に撒く。

 あるいは彼女の口に直接含ませでもすれば、永遠に眠ることになるだろうか。

 そんな馬鹿なこと考えた瞬間、ロナのベッドからごとり、と何かが落ちる音がした。見るとベッドの端から、見知らぬ少年……いや少女が、ずるりと転げ落ちるように上半身を垂らしていた。使い魔、あるいは召喚獣の類か。眠りの砂で意識を失い、隠れていられなくなったのだろうと思われた。

 ……不確定な要素が多い。今夜は止めた方がいいのだろうか。

 何度か迷ったものの、種族的な欲求はなかなか抑えられるものでもなかった。

 きっと大丈夫だろうと根拠のない考えで、窓から白く輝く丸い月を見上げた。


 そうして。

 ――私は、内からおこる欲求に身を任せた。

 無駄にだらだら書いちゃった気がしないでもないみぃさんのお話。

 みぃさんは彼女単品でお話書けそうなほどろくでもない設定が詰まってるので思わず暴走してしまいました。

 たぶんつぎあたりでようやく事件が起こるかも?

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