犯罪者たち
この話は実際の犯罪とは一切関係ありません。
薄汚れた倉庫の片隅で犯罪者予備群たちは、こそこそと話し合っていた。
「やっぱ、金といえば銀行強盗かなぁ」
「ばか言え。そういう目立つやつはな本当の泥棒のプロじぇねえと結局捕まって意味ねーんだよ」
話し合いの場所の選択センスといい、彼らはたしかに経験も無ければ知識も無い、ただなんとなくやってみたくてという集団のようだ。彼のさっきの発言を機に、誰もが黙りこくってしまった。
埃だらけの床に腰を下ろさないようにしゃがんでいたせいだろうか。足の痺れをとるように、皆がもぞもぞと動き始めたころだった。うつむいて話し合いに参加していなかった者がいきなりつぶやくように発言した。
「いっそ、目立つのを目的にしたら?」
ほかの二人はぎょっとしてふりむいた。そして同時にこう言った。「しゃべった」と。
いかにも地味でぱっとしないと評されるような者は、二人に構わずこう続けた。
「たしかに、銀行から大金を盗んだりすれば警察は本気でかかってくるだろうから捕まりやすくなる。でも、たかが少しの万引きでも見つかるときは見つかる。どうせ運なんだ。僕たちが中卒になっちまったのもそのせいだ」
彼らは互いにそうだそうだとうなづきあって、そのころの話を始めた。
「テスト週間に限ってさあ、新作のいいゲームが狙ったかのようにでてきて」
「今日は宿題やろっかな。なんて思ったときにオレの好きなバラエティが始まって」
「自分が志望した学校に限って、例年より合格ラインが高くなっていた」
運といえば運かもしないが、自分の力でどうにかできるものをしなかっただけのようにも思える。
「そこでだよ。どうせ捕まるぐらいなら、いっそのこと凄いことをしたほうがいいと思うんだ」
地味なやつは話をもとに戻した。
「じゃあ例えばどんな?」と周りはあおった。
「例えば、ただお金を盗むんじゃなくて、権力者を誘拐してお金をとるとか」
それを聞いたとたん、彼らは適当に「いいねー」と言う。
「でもただの権力者じゃなくって、僕たちに勉強なんて面倒くさいことさせるように決めた……文部科学省の人とかどう?」
適当な賛辞の言葉だけで調子に乗ったのか、地味なやつは高揚気味にそれを言い、周りはまた意味もなく「おおーっ」とうなる。
彼らはこのまま夜通しこの話を延々と続けた。意味を失った言葉を大量生産し、愚痴という言葉の世界に浸っている気分で、仮想大会へ逃げた。