残酷な奴ら
「酷いもんだなぁ。なんでみんなオレを残酷、残酷って言うんだ?」
水族館のサメはなげいた。
「そりゃそうさ。だって大きな魚を丸呑みにするし、君と同じ種類のサメは人食いサメとして有名じゃないか」
水槽掃除をしていた飼育員は彼をなだめた。しかしサメは納得いかないらしく、しっぽで岩の置物をたたく。
「それならシャチはもっと大きなアシカみたいなのを喰うぞ。だがあいつは残酷じゃないな。だってオレと同じで大きい餌をなるべく少ない数だけ喰うぜ。でもかわいいって言われるイルカは芸をするたびに小さくてかわいい魚をいくつも食べるじゃないか。命をとりまくってんのはあいつらだぜ」
飼育員は彼にはお手上げだった。サメは大きな獲物を狙う。小魚を何回も食べるのは面倒だからだ。そして彼にとって食べ物には見えないかわいい小魚を食べるイルカは残酷なのだ。
「人間見た目で決めやがって」
サメは水槽のより深い所へ潜っていった。
不良はほおづえをついてクラスを眺めた。ムカついたら、教師、校長関係なく殴り倒す一匹狼。だが、彼女は暴君ではない。授業中に生徒をいじめる先生に殴りかかったのだ。悪いことは悪いと、彼女が反乱した結果である。
「Aさんってマジ意味わかんない。いくらムカついたからって、殴るとかサイテー」
「残酷だよねー」
彼女を女子グループが遠巻きに眺める。彼女もグループをみつめる。
だが不良には、彼女らの方が残酷に見えていた。互いに恨みあったり、女子の権力を振りかざしたり。そして大人数で少人数を責めたてる。
「あんた、なんか用あんの?」
ほら来た、と不良は思った。こちらが見ていた、というだけでつっかかってくる。
「いや、君たちこそ残酷だなって。大人数で一人を集中して倒し、ぶくぶく膨れ上がる」
「何よ。あなたが一番残酷じゃない。あなたがF先生を殴って病院送りにしたでしょ。そして来たのが代理のE先生。あの先生、F先生と仲悪いじゃないの。何が言いたいかわかる? 成績下がっちゃうじゃない。あなたは一人の先生を殴っただけかもしれないけど、周りのみんなに大迷惑よ」
彼女らは去っていった。
「ゴマすり野郎め」
全ての生物は皆平等に、残酷なのかもしれない。