カラスと戦争
科学や技術が進んだ時代のこと。人々の家はとても頑丈で、美しいものとなりました。しかし、人が生き物であるからには、ゴミを出します。家が美しくても、周りはゴミだらけなのです。
家だけで見れば、それはとても素晴らしいものかもしれません。でも周りはゴミだらけで、みずほらしい景色です。
ある家の主婦が、ゴミ出しにいきます。すると、カラスたちがその収集場所に集まって来ました。ゴミをあさって食べるからです。
「なあ黒どん。今日は何が入ってると思う?」
「いやあ黒すけ。それ以上にあのおばさんは脅威だぞ。おれらのくちばしを少しも怖がらずに、やーやーわめいて石を投げてくれるんだから」
カラスたちは頭がよかったので、おばさんが帰るまで、ゴミあさりをお預けにすることにしました。近くにとまって、様子をみているのです。
「まったく、最近の人間はキイキイうるさくなったものだ。おれらはなにも悪いことをしてないのに、いきなり怒ってくるしな」
「そのとおりだ黒どん。人間の叫び声はもちろん、キカイというものもなかなか耳障りだ」
「そうよな黒すけ。みてみろあの馬鹿でかいテレビとやら。ビルに貼りつけてなにかいいことでもあるのかね」
その時「カラスだ。カラスよ」と悲鳴のような声がした。カラスが振り向くと、そこにはおばさんの親友がゴミ出しに来ていました。
「しまったばれたか」
二羽は急いで飛び立ちました。
「また、あんたたちかい」
「急げ、あのおばさんだけは用心するにこしたことはないぞ」
カラスたちの間を、石がかすめていきます。
二羽は、もう逃げるほかありませんでした。
騒ぎを聞きつけた主婦たちが駆けつけて、おばさんをたたえています。
「まったく、Aさんはここを綺麗にしてくださる正義のかたですわ」
「ほんとに。カラスの食べ散らかしは汚くて、もう」
一方、主婦との戦いに負けたカラスは、馬鹿でかいテレビをみていました。
「次のニュースをお伝えします。M国とS国で戦争が起こっています。この戦争は両国の宗教問題にかかわるのですよね。Bさん」
「はいそうです。M国では正しいと思われていることが、S国では悪いことであったのが対立の始まりです」
「ほんとうに些細なことが始まりですよね。もうこんな愚かな争いなどやめれば……」
カラスたちはため息をついた。
「あきれるよなぁ黒どん。人間はゴミを減らしたいって、言うのにおれたちが食べてあげたら怒るんだぜ。おかしな連中だよな」
「そうだ黒すけ。おれたちも簡単に餌が手に入ってありがたいのに。お互いの利益になるじゃないか。なのに人間は自分たちが正しいって思い込んでやがる。カラスはやっつけて当然だってな」
「そうだそうだ。あのテレビの中に入っている人間だって、戦争してるだろ。だって、人間みんなおれたちを悪役にして攻撃してくるんだからな」