表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/11

第1章-第2話 厄介な使用人

 つい先ほど雑務があるからと部屋を後にしたバラムによると、魔王認定試験は、今から1か月後にこの魔王城の裏手にある森林にて行われるようだ。


 合格条件は1つ。現魔王のバラムがヴェラを次なる魔王にとして相応しいか認めること。


 その方法は試験中に行われる戦いにおいてバラムを倒すか、バラムに己の実力を認めさせればいいらしいのだが……。


(駄目だ。試験内容が大雑把すぎて対策を立てようにも立てられないじゃねぇか……)


 そもそもバラムがどれほどの強さを持っているのかすら分かっていないのだ。


 加えて、その戦いにおいて制限時間はあるのか、手段は何でもいいのか、審判は誰がするのかなど細かいところがまるで決まっていない。

 

 しっかりしていると思ったのが間違いだったのかもしれないな……。雑務があると言っていたからまた時間を空けて詳しい試験内容を本人の口から聞き出そう。

 

 そう心に留めていると、ファウストから声をかけられる。


「ヴェラ様、試験の準備以前にその格好ではここで生活するにも不自由でしょう。準備をするのは、一度身なりを整えてからでもよろしいかと」

「あー……言われてみればそうだな」


 改めて自分の格好を見てみると、とてもじゃないが清潔とは言えなかった。


 洞窟の中に長年いたからか、白い貫頭衣は泥まみれになっているし、髪も触った感じ長いこと手入れされていないようだ。

 

「というわけで、入って来て結構ですよ」

 

 ファウストが呼びかけると、階段から1人の若い女性が降りて来た。


 腰まで伸びた長い紫髪を首元で1つ括りにした彼女は、ファウストと同じく色白の肌に尖った耳をしており、黄緑の瞳と同じ色のループタイのついた燕尾服を纏っている。

 

(なんか似てる……?)

 

 男装姿で笑みをたたえている彼女を見て、背丈と骨格、顔つきは違えど隣のファウストとどうにも類似しているように感じる。


 と、男装の彼女が一歩前に出てヴェラへ近づいた。

 

「あら、この子がヴェラ様? 可愛いじゃありませんの! これは使用人としても磨きがいがありますわね」


 そう口を開いた途端、彼女から興味深い目で舐め回すように見られ、思わずヴェラは頬を引き攣らせる。


 てっきり、物静かで穏やかな印象があったがそうではないようだ。

 

「え、えーっと……あんたは?」

 

 ジロジロと自分の周りを行ったり来たりする彼女に戸惑いつつ、ヴェラは尋ねる。


 すると、彼女はその場でピタッと立ち止まり、綺麗な黄緑の双眸でヴェラを見た。

 

「申し遅れました。わたし、この魔王城の使用人兼護衛役のメフィス・フェレスと言います。ヴェラ様の事情は兄から伺っていますので、説明は不要ですわ。どうぞ、これからよろしくお願いたしますね」

「あぁ、よろしく頼む」


 そう言ってお辞儀をするメフィスにヴェラは笑みを浮かべながら応える。

 

 似ていると思っていたが、ファウストが兄ということなら納得がいく。


 それにしてもファウストはいつの間にメフィスに自分のことを伝えたのだろうか。部屋から出た素振りは一度もなかったように思えるのだが。


「それではまず、衛生塔の方にご案内いたしますね」

「分かった」

 

 メフィスが部屋の外に続く階段を上っていく。ヴェラも彼女について行こうと部屋から出ようとするが、寸前でファウストに呼び止められた。


 何か用かと声をかけると、ファウストが寄ってきて小声で耳打ちしてくる。

 

「ヴェラ様、くれぐれもお気を付けください。あれに目をつけられると厄介ですので」

「お、おう」


 仮にも妹だろうに、何だその言い草は。


 と、思いながら上から呼びかけてくるメフィスの元へと向かう。そうして部屋を出てからというもの衛生塔に繋がる長い回廊を歩く。

 

 窓の外から吹き付ける乾いた涼しい風に、日本の湿っぽい風とは段違いだと思う。

 

 メフィスによると今は夏らしいが、全くと言って良いほど夏特有のじめじめした暑さを感じない。これは快適な場所に来てしまったかもしれないと頬を綻ばせていたら、衛生塔に到着した。


 メフィスからまずは身体を綺麗にしようと言われ、そのまま浴室のある場所まで連れていかれる。中に足を踏み入れたヴェラは目の前の光景に目を見開く。

 

「こりゃ、立派な浴室だな」

 

 浴室は大浴場並みの広さで、白いタイルで構成された壁床に十数人も入れそうな広い浴槽があり、手前にはシャワーが着いていた。


 その傍にはカウンターと大きな長い鏡が備え付けられている。

 

 (シャワーまで完備されてるとか、普通に中世のレベル越えてるぞ……)


 記憶が正しければシャワーは18世紀にイギリスで発明されていたはずだ。


 異世界だから文化レベルが違うのは当たり前だが、それでも明らかに進み過ぎている。

 

「でしょう? きちんとお湯も出るんですよ。ほらこの通り」


 メフィスがカウンターに設置された蛇口を捻れば、シャワーから湯気が出た。ザーッと音を立てて流れる水へ触れてみると、確かに温かい。


 と、蛇口の表面に何やら角張った文字が刻まれているのを見つける。


「ところで、この文字はなんだ?」

「これは刻型文字(こっけいもじ)と言って主に魔動器(まどうき)に使われています。魔動器というのは己の内側にある魔力を通すことで扱える道具のことでして、このシャワーや浴槽部分にある蛇口もその一部になります」


 刻型文字(こっけいもじ)というのは恐らく、自分の世界で言うところのルーン文字みたいなものだろう。


 さっきのメフィスの発言から察するに、魔力は全身に流れている可能性が高い。自分に魔力があるかないか確認する意味でもやってみようと、ヴェラは魔動器となる蛇口に触れる。


 そして、内に潜むエネルギーを指先に通す意識で捻ってみる。蛇口に魔力がいくのが微かに伝わった直後、シャワーからお湯が出た。

 

 これで自分の中に魔力が流れていることが分かった。そうなればもしかしたら魔法なんかも扱えるようになるかもしれない。


 期待に胸を膨らませていると、この際だからメフィスに訊いておこうと彼女を見る。

 

「ちなみにこの浴室を造ったのって誰か知ってるか?」

「えぇ、もちろん。原初の魔王であるアヴァン様がお造りになられましたわ」


 原初の魔王ということはこの世界にはバラム以外にも魔王がいるようだ。


 そのアヴァンというのがどういうやつなのかは分からないが、シャワーを造る技術と知恵を持っているのはどうにも怪しい。

 

 しかし、今考えても仕方ないし、アヴァンに関する情報が足りなさすぎる。ここは一旦風呂に入ってゆっくりするとしよう。

 

「それじゃああたしは入ってるから、悪いけどメフィスは外で待っててくれ」

 

 メフィスに声をかけて出て行くのを待つ。


 が、一向に外に出ようとしない。はっきりと口にしたはずだが、聞こえていなかったのだろうか。


 万が一ということもあるので再度口を開こうとしたら、メフィスがきょとんと首を傾げた。

 

「何を仰られていますの? わたしもご一緒させていただくに決まっているではありませんか」

「ま、マジかよ……」


 さも当然かのように言ってきたメフィスにヴェラは顔を引き攣らせると同時に、ファウストが彼女に対して「目をつけられると厄介」と言った意味に気づくのだった。

 

 

 ◇◆◇◆


 ドレスルームから出てきたヴェラはどっと疲れ切った顔で盛大に溜息を吐いた。


 すると、ずっと出てくるのを待っていたのだろうか、扉の傍にいたファウストが歩いてきた。

 

「お疲れ様です。その様子ですと、やはりだいぶ振り回されたようですね」

「まぁな」


 入浴でこれでもかとメフィスに身体を綺麗にされたかと思えば、次はドレスルームに長時間監禁され、あれよあれよとドレスに着せ替えられていった。


 どうにもメフィスは可愛いものとオシャレには目がないようで、軽く20着は着替えさせられたような気がする。

 

 部屋に魔動器の時計が飾ってあるのが入った時点で見えたので、そんなものまであるのかと感心して注視していたのだが、着替え終わった時に再度確認してみたら少なくとも3時間は経過していた。

 

 結局、動きにくいのは嫌だというヴェラの要望を組んで、今はスリット入りの黒紫のロングドレスを着用している。


 袖が先に向かって広くなっており、腰部分には同系色のベルトが巻かれている。全体的にゆったりとした造りになっているので、かなり過ごしやすい。


(最初からこれにしておけば良かった……)


 悔やみながらも顔を上げてファウストを見れば、ふとさっきから気になっていたことが脳裏に浮かぶ。

 

「ところで、どうしてファウストはあたしが転生者――星の者って分かったんだ?」

「そういえばまだ話しておりませんでしたね」


 ファウストは思い出したかのように呟くと、一拍置いてから言葉を続けた。


「具体的に申し上げると理由は大きく3つあります。まずそもそもの話、星の者というのは、この世界ではない別の世界からやってきた者のことを指しまして、現在、ヴェラ様を含めて7名存在するとされております」

 

 そこまで話し終えると、ファウストは城の壁に嵌めこまれた窓へと目を向ける。

 

「外に青く光る星が7つ見えるのが分かりますか?」

「えーっと、あれか」


 ファウストの指差す方向を凝視してみる。雲の浮いた青空に煌々と輝く7つの青い星があった。


 気のせいだろうか。並びが北斗七星と似ているような気がする。

 

「あれは星の者がこの世界に現れると白から青に光るとされています。ヴェラ様が召喚された後、最後の白星が青に変わるのをこの目で捉えました。これが1つ目の理由となります」


 だからあの時、ファウストはヴェラが星の者か確認するために窓の方を見ていたのか。

 

 疑問が1つ解消され、ヴェラは納得したように頷く。だが、自分以外に既に6人もの転生者がいるのは驚いた。


 会えるものならどこかのタイミングで会ってみたいものだ。

 

「そしてヴェラ様が星の者だと分かった2つ目の理由としてこれがございます」

 

 そう言ってファウストは懐から羊皮紙を取り出してヴェラに見せて来た。確かこれは自分の称号が書かれたものだったか。

 

 (笑いの魔王とか本当にふざけた名前の称号だな……)


 今からでもエルディアに言って名称を変えてもらえないか考えていると、ファウストがその横の部分を指差した。

 

「この紙に虹と書かれていますよね?」

「あぁ。それに何か意味があるのか?」

 

 ヴェラが同意ついでに問うと、ファウストは首を尚も語り始める。

 

「この世界において称号というのは、主に2種類ございます。1つが国や都市の代表者から与えられるもの、そしてもう1つが神から与えられるものになります。今言った2種類の中で色付きの称号は特別なものとされているのですが、神から与えられる称号において虹色というのは更に希少で、今のところ全て星の者に授与されていると言われています」

 

 ファウストは言い終えると、称号の書かれた羊皮紙を渡してきた。これは絶対に無くしてはいけないもので、本来他人に預けてはいけないらしく、しっかりと大事に保管するよう忠告される。


 ヴェラは羊皮紙を受け取ると、半分に折り畳んでメフィスから渡されたポーチへと仕舞う。

 

「これが最後になりますが、3つ目の理由はヴェラ様の本来の名前です。私は前に星の者となる6名のうちの1人にお会いしたことがございまして。その方の名前と似たような雰囲気を感じ、ヴェラ様もそうではないかと思った次第です」


 川島真緒の名前に似た雰囲気というと、ファウストが会ったことのある星の者は元日本人なのだろうか。


 これはますます会ってみたくなってきた。

 

「それにしましても、試験までの1か月間はどうなさるおつもりです?」

「あー、そうだな……」


 目指すはもちろん打倒バラムなのだが、まだ具体的にどんな手段で戦うかは考えていなかった。


 現状、魔力があることは確認済みであり、魔動器が存在していることもと考えると、魔法がある可能性は高い。それに近接戦となれば武器も必要になるだろう。


 ここは1つ訊いてみることにする。

 

「なあ、この世界に剣とか魔法ってあったりするのか?」

「えぇ。もちろんございますとも」

 

 魔法が存在すると確定した途端、ヴェラの目がこれでもかと輝く。


(夢にまで見た魔法がこの手で扱えるようになるだと!?)

 

 正直、今すぐにでも大はしゃぎしたいところだが、ファウストに不審な目で見られかねない。


 流石に美形に蔑んだ目を向けられたら心が痛む。ここは我を抑えて穏便に行くべきだろう。

 

「だったら、まずは魔法を扱えるようにしたいな」


 ヴェラは高ぶる感情を抑えるようにして言うが、どうにも嬉しさがその表情から滲み出ている。

 

「それでしたら城内に修練場がございますので、そちらまで案内いたしますね」

「お、マジか。ありがとな」

 

 お礼を言ったヴェラは軽快な足取りで先を行くファウストに着いていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ