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第2話「ここがそなたらの宿舎じゃ」

 アルデ村の中央広場を抜けると、石畳は土道に変わり、やがて畑と林が広がる。

 老人Aは、ぎしぎしと杖を鳴らしながら、二人を村はずれへ導いた。


「ここがそなたらの宿舎じゃ」


 そう言って指し示したのは、古びた木造の家だった。

 壁板は日に焼けて灰色にひび割れ、屋根の藁は一部抜け落ちて空が透けている。

 窓枠は歪み、代わりに板が釘で打ちつけられていた。

 遠目からでもボロボロでずっと人が住んでいないことは一目瞭然だった。


 怜奈は金髪をかきあげ、思わず声を荒らげる。


「は? 廃屋じゃん」


 愛は長い黒髪を揺らし、前髪の隙間から冷たい目を覗かせる。


 中に足を踏み入れると、埃っぽいにおいが鼻を突いた。

 床板は踏むたびにぎしぎし鳴り、壁の隙間から風が吹き込む。


「……うわきったな。埃まみれ。あんたの部屋みたい」

「はあ?お前の部屋だって変わんねえだろ」

「あたし最近イソスタ投稿用に部屋おしゃれにしてるから。あんたとは違いますー」


 家具はほとんどなく、奥の部屋に置かれているのはベッドが一つだけ。


 薄いマットレスは沈み、シーツは黄ばんでいた。


 二人は顔を見合わせたあと、同時に叫んだ。 


「「はああああ!?」」


 怜奈はベッドを指差して、老人Aに詰め寄る。


「ジジイ! なんでベッド一つなんだよ!」

「つかなんで当たり前のように部屋も一緒なんだよ。部屋も分けろ!」

 

 愛も無表情のまま、低い声で続ける。


「最悪。こいつと同じ空気吸いたくない」

「こっちのセリフだわ。なんなら家も分けろ!コイツと同じトイレ使いたくない」


 老人は肩をすくめ、苦笑した。


「予算の問題で無理じゃ…」


「なんだよ予算って。無駄にそこだけリアルにすんな」


「…はー。もう最悪なんだけど」


 怜奈はベッドに座り、白目で天井を仰いだ。


「なんでよりによってお前と異世界転生なんだよ」

「……こっちのセリフ」


 愛は腕を組んで玲奈を睨む。


「サッカー部の伊藤先輩とがよかった」

 

 怜奈の目が鋭くなる。


「は!? お前、伊藤先輩狙ってたの?」

「うん……何なの、またあんたも?」

「……また被ってんじゃん。くっそー。先週、先に告っとけばよかった」


 怜奈が頭を抱えると、愛は鼻で笑った。


「告っても、今こんな状態じゃ意味なくね」


「……たしかに」


 沈黙。二人は同時に溜め息をついた。


 その場にいた老人Aは気まずそうに咳払いをした。


「……コホン、話を進めるぞ」


「次は衣装と装備じゃ」


 古びたタンスを開くと、埃が舞った。

 その中から二つの衣装が差し出された。


 一つは鉄の鎧。肩パッドは異様に大きく、胸当ては分厚く光沢がある。腰に吊るされた片手剣は、振り下ろすだけで床板ごと叩き割りそうな重厚さだった。


 もう一つは、ピンクのドレス。リボンとフリルが何重にも重なり、胸元には大きなハートの宝石が縫い込まれている。セットのステッキは先端が星型に光り、完全に幼児向けアニメの小道具のようだった。


 怜奈は鎧を受け取った瞬間、顔をしかめて老人Aの胸ぐらを掴み叫んだ。


「おい、ジジイ! てめぇの趣味入ってんだろ!」

「な、なんじゃ?」


「なんであーしだけこんなイカついの!? いかにも戦闘民族じゃん!イケメン勇者来たら、そっちのメンヘラ女の方が絶対有利になるじゃん!」

 

 玲奈が指を指した先の愛は、ドレスを指先でつまみ上げ、無表情でぽつり。


「……いや、あたしも嫌なんだけど。こんな幼女が着そうなやつ」

「いや、二択だったら絶対そっちがましだろ!贅沢言うなやクソ女!」

「……ふっ、まあそれもそうだね」


 愛は鼻でふっと笑った。


「…クッソ…まじでむかつく…」


 二人は服を持ったまま互いを睨み合った。


 沈黙。 


「……詰んだな」

「詰んだ」

 

 床板がぎしぎしと鳴る中、長老だけがにやけ顔で頷いた。


「よい、よいのぅ。ユリガミ様を思い出す、見目麗しい組み合わせじゃ」


 怜奈と愛は同時に振り返り、怒鳴った。


「「うるせえ!ジジイ」」


 一寸の狂いもなく合わさった声が宿舎に響いた。


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