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異世界タービン  作者: SD2
本編
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第四話 襲撃の夜、電気の朝

 夜明け前の薄暗い空気の中、甲高い悲鳴が村の北の方から響いた。

目を覚ました私は、すぐに靴を履き、外へ飛び出した。


 村のあちこちで灯りが点り、人々が慌ただしく動き回っている。

叫び声の聞こえた方へ駆けつけると、家畜小屋の前で農夫たちが集まっていた。


 農夫1「家畜が……三頭やられてる! あとは全部逃げちまった!」


 農夫2「見張りはどうした!」


 農夫3「昨夜は雲が厚くて月が出なかったんだ。ゴブリンだよ、間違いねぇ!」


地面には小さな足跡と引きずられた痕跡、そしてかじられた家畜の死骸。

生臭い血の臭いが辺りに広がっている。


 藤野(“ゴブリン”…)


 ゴブリンと聞くと、私の知識では中世ファンタジーやゲームに頻出する雑魚モンスター。

ゲームでは序盤の敵だが、この世界では人の集落から食料や家畜を奪う存在。

この世界のゴブリンはというと、周期的に活発化して、周辺の村や定期的に来る行商人を襲う魔獣……。

単純だが厄介な問題らしい。



 しばらくして夜が明けて朝になった。

村人たちが日の出とともに被害の確認と事後処理をしている。

私は午前中に大工仕事の手伝いがあったので、そちらに回った。



 そしてその昼頃、午前の仕事を終えた私は、ゴブリンにどうにか対処できないかと村の中を歩き回っていた。

そこでふと気付いた。村を囲っている柵の高さが1メートル強ほどで、武器を使えば破壊できそうな強度に見えたのだ。


 私は村の防御の強化を提案したいと思い、村人数人に声を掛けた。


 藤野「皆さん、ちょっと提案があるのですが……ゴブリンの対策として、柵を高くするのはどうでしょうか? 高さを倍以上に引き上げ、さらに外周に堀を掘るのが良いかと」


 農夫1「堀か。どれくらいの深さがあればいい?」


 藤野「今の柵の高さと同じくらいの深さです。

転落すれば、ゴブリンの小柄な体格では脱出に苦労するでしょうし、ゴブリン以外の魔獣にも有効です。

加えて、村の外周に罠を仕掛けるのも対策になると思います」


 農夫2「罠? どんなのだ?」


 藤野「落とし穴、逆茂木、バネ仕掛けのトラップ。

簡単なものでも、配置と工夫次第で相当な抑止力になります」


村人たちは顔を見合わせた後、頷き始めた。


 農夫3「確かに……できるかもな。材料はありそうだし」


 農夫4「やろう。柵の補強と堀、罠の設置だ!」


 柵、堀、罠を作る――。

この話は当日中に村人たちに伝わり、協力者が集まって来た。



 ──翌朝。

私を含め30人ほどだろうか、作業のために集まってくれた村人を対象に打ち合わせを行う。


 村人たちはメートル法を知らなかったため、柵の高さと堀の深さに合わせた長さの棒をいくつか用意し、簡易的なスケールとして渡しておく。

また、木の板に簡単な罠の設計図を描き、作り方も説明した。


 藤野「……概要は以上です! 何か質問のある方? ……居ないようですね。では構えてください」


 作業員全員が事故なく安全に作業できるように、

打ち合わせ中に作業開始の掛け声を決めておいた。

私を含めた全員が右手で握り拳を作り、顔の高さに掲げる。


 藤野「今日も安全作業で頑張ろう!」


 全員「「「 おう! ご安全に! 」」」


 掛け声と同時に、構えた右手拳を上に突き上げる。

……この号令、元いた世界で現場作業をする時の掛け声なのだ。


 掛け声と同時に、各々が打ち合わせた通りの作業へと向かう。

私もスコップを持って村人たちと並び、外周に沿って土を掘り返す。

汗が滴り、土埃が舞う中、私は新たな構想を頭の中で巡らせていた。


 ――電気。


もし警報や照明を使えたなら、夜間の見張りはずっと楽になる。

誰かが危険を察知した時にアラームが鳴り響き、村人全体に即時伝わる仕組みが作れたら。

さらに、暗闇の中での戦いに備えて照明を灯せたら。


 藤野(……でも、この世界に電気は存在するんだろうか?)


 作業の合間、私は村の工房に出向き、道具や素材を調べながら考えた。

鉄、銀、磁石らしき素材は確認できる。

絶縁素材や電灯もある程度の代用品は見つかるかもしれない。



 ――翌日、私は村の一角に簡易的な作業小屋を借り、研究を開始した。


 まずは簡単な発電機を試作した。

鍛冶工房から分けてもらった針金を巻いてコイルのような部品を作り、その中に磁石を設置する。


 小中学校の理科の授業で出てくるような簡単な装置が完成した。

コイルの中にある磁石を回せば、コイルに電流が流れるはずだ。


工具ベルトに挿してあった小型テスターで電気の有無を調べると、テスターが反応した。

これは大きな一歩だ。電気が存在すると証明できたのだから。


 私は、より安定した電源の構築を目指し、代替手段の模索を始めた。

スイッチやモーターは作れるはず。

銅線は無いが銀で電線は作れる。しかし、電線を覆うための被覆がない。

電球のフィラメントやバッテリーもない。


 私は村長や古老、鍛冶師に聞き込みをしながら、素材を探した。

炭、樹液、毛皮、麻布、植物や果実……


 普段の仕事をこなしつつ、柵や堀作り、その合間に研究していたこともあり、

この世界での代替手段の模索は困難を極めていた。



 作業開始から1ヶ月弱ほどの頃、村の柵の強化や堀の掘削は順調に進んでいた。

とはいえ、まだ全体の三割程度の進捗。それに加え、罠の設置も完全とは言えない。


 藤野(このペースだと、あと2〜3ヶ月は掛かりそうだ)


 そんな折、再び夜の静寂が破られた。


 夜警「来たぞ!! またゴブリンだ!!」


私は寝間着のまま、武器になりそうな物を掴んで飛び出した。

まだ明けきらぬ夜。


 ――再び、ゴブリンの襲撃が起きたのだった。

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