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異世界タービン  作者: SD2
本編
3/17

第二話 邂逅、アーゼ村へ

 あれから、どのくらい歩いただろうか。

空腹はとうにピークを越え、お茶の残量も半分を切っていた。

がぶ飲みを避けてチビチビ飲んできたつもりだけど、そろそろ限界が近い。

空には、傾いた太陽が橙色の光を撒き散らしている。


 乾いた丘陵地帯を進んでいたそのとき――視界の端に、ふわりと立ち昇る煙を見つけた。


 藤野「……焚き火? いや、あれは人工的な煙だ」


 距離にして、ざっと1キロほどか。人がいる可能性が高い。

警戒しつつも、希望が胸をよぎる。だが、油断はできない。

余計な誤解を招かぬよう、風下に回って接近を試みる。


 近づくにつれ、焚き火の周囲に三つの人影が見えてきた。


 藤野「言葉……通じるだろうか?」


喉の奥で軽く咳払いをして、彼らを驚かせないよう少し距離を取って声をかける。


 藤野「おーい! すみませーん!」


 人影がこちらに反応したのが見て取れる。

それを確認してゆっくり近づく。

そして刺激しないよう、5メートルほどの距離で足を止めた。


 藤野「すみません、ちょっとお尋ねしたいことがあるのですが」


 簡素な服だが、手には弓や短槍――どうやら狩人のようだ。

そのうちの一人の若い男が短槍持って構えている。


狩人1「……誰だ、お前?」


 ……意外なことに、言葉が通じた。

発音にクセはあるが、耳に入ってくるのは限りなく日本語に近い言語。


 藤野(いや、違う。これは……環境か、それとも何か“補正”でもかかってるのか? 意識に直接響いてくるような、そんな感覚だ)


私は手にしていた粗末な槍をそっと地面に落とし、できるだけ穏やかに応える。


 藤野「道に迷ってしまって……この辺りの地理がまったく分からないんです。本当に、敵意はありません」


若い狩人の隣にいた中年の男が、ちらりと視線を交わしてから小さくうなずく。


 狩人2「怪しいっちゃ怪しいが……言葉は通じてるし、落ち着いてるな」


 狩人3「格好は妙だが、武器も捨てたし……敵意はなさそう、だな」


 じろじろと品定めされているが、明確な攻撃の意志は感じられない。

年長らしい狩人が一歩前に出て、口を開く。


 狩人3「ここは〈アーゼ村〉の狩猟区だ。お前が本当に迷ったってんなら、村まで連れてってやる。ただし、村に入るには村長の許可がいる」


 藤野「ありがとうございます。助かります」


 狩人たちに続いて、小道を歩き始める。橙色の空が、次第に群青へと染まりはじめていた。

やがて――遠くに、小さな家々の影が見えてくる。


 藤野(ようやく……人の暮らしがある場所に、たどり着いた)


 木製の柵で囲まれたその集落は、見た感じ人口150人前後といったところか。

規模は小さいが、生活の匂いがある。



 狩人2「村長と話してくる。お前はここで待て」


 村の入口に到着し、一人の狩人が村の中に入っていった。

私はその場に残った二人の狩人と入口に居た夜警の男に監視されながら狩人が戻るのを待った。


 村の中を軽く見渡すと、離れたところから年配の男や農夫風の人々がこちらを注視していたのが見えた。

ざわつきは少ないものの、好奇と警戒が入り混じった視線が刺さってくる。


 藤野(まあ、無理もないよな……全身グレーの作業着に紺のヘルメット、それに工具ベルト姿の謎の男なんて、怪しさ満点だし)



 15分ほど経っただろうか。報告へ向かっていた狩人が戻ってきた。


 狩人2「村長が話を聞いてくれるそうだ。今から連れて行くが、ヘンなこと言うなよ」


 藤野「心得てます。ありがとうございます」


 村の中心部に建つ、やや大きめの家へ案内される。

玄関先には初老の男性と、その隣に表情の硬い若い女性が立っていた。


初老の男――村長らしき人物が、柔らかい口調で話しかけてくる。


 エルド「私はこの村の村長、エルドと申します。こちらは娘のリアです」


 藤野「ご丁寧に恐れ入ります。藤野と申します」


 リア「お話は伺っております。あなたが“迷い人”だと」


 女性――リアが口を開く。

丁寧な言葉遣いだが、明らかに一線を引いたような喋り方だった。視線も、どこか警戒心を帯びている。


 藤野「ええ。突然のことで、ご迷惑をおかけします」


 エルド「どうぞ、中へ」


 靴を脱ぎ、簡素な造りの家へ上がる。

奥の部屋に通され、ゴザのような敷物の上に座ると、エルドも席についた。


 エルド「さて……藤野殿。まずは、あなたがどこから来たのか、聞かせてもらえますか?」


 私は小さくうなずいて、できる限り正直に話す。


 藤野「正確には、私にもよく分からないんです。作業中に突然、白い光に包まれて……気づけばこの地にいて。この世界のことは何一つ知らなくて」


エルドはしばらく黙っていたが、やがて深く頷いた。


 エルド「……異国の迷い人、か。あなたの言葉に偽りは感じられない。リア、食事と宿を手配してやりなさい。今夜だけでも、休ませてあげなさい」


 リア「……承知しました」


少し驚いたように返事をしたリアは、すぐに立ち上がった。


 藤野「ありがとうございます。とても助かります」


 深く頭を下げる私に、エルドは静かに微笑んだ。

リアに案内された宿で、出された食事を腹に収めた私は、寝室の敷き布の上に体を横たえた。

これからのことを考えようとしたのだが――満腹と疲労が、一気に襲ってくる。


 ……考えるより先に、眠気が勝った。


 そしてその夜、私はこの異世界で、初めての眠りについたのだった。

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