表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界タービン  作者: SD2
本編
17/25

第十六話 電気会社を、異世界で

 アンドリューが去った後、村はまるで緊張の糸が張られたような空気に包まれていた。

村人たちは囁き合うようにして、王都の権力者に目をつけられたことを不安げに話していた。


 私は集会場にエルド、キース、そして村の職人たちと共に協議を行っていた。

皆の険しい表情が、問題の深刻さを物語っている。


 エルド「正面から対抗すれば潰される。王都の権力を敵に回してまで戦うのは無謀じゃ」


 キース「でも、黙って言う通りにしてたんじゃ、藤野が連れていかれちゃうよ」


 鍛冶職人1「もしそうなったら、誰が発電機の面倒を見るんだ?俺たちじゃまだ完璧にできないし……」


 鍛冶職人2「それに、サキュバスのタービンもあるだろ?」


 私は腕を組み、静かに考えていた。


 藤野(前の世界では、電力会社が電気を管理していた。そしてメーカーが機器を作り、販売していた。

これと同じ事が出来れば、この世界でも電気を普及させることが出来るのではないか?)


視線を少しずつ周囲に向け、静かに口を開いた。


 藤野「あいつよりも先に、電気を管理する組織を、こちらの方で作ってしまうというのはどうでしょう?

電気に関する技術の流通と使用を管理するための“組合”を作るんです」


その言葉に、一同は少しばかり驚きの表情を浮かべた。


 鍛冶職人1「でもどうやって?そんな組合をイチから作るのは難しいんじゃないのか?」


 藤野「それは……どうしましょう……」


エルドが腕を組んで唸ったあと、ぽつりと提案を口にした。


 エルド「王都にある商業ギルド、あるいは信頼できる商会に協力を求めるという手もありますな。

組織作りには人脈と後ろ盾が必要です。村だけでやるには荷が重い」


 キース「それなら、たまに行商の人が村に来てるじゃない?あの人に聞いてみるのはどうかな?」


 鍛冶職人2「たしかに。王都の商会と繋がりを持ってるはずだ、紹介してもらえるかもしれないな」


私はその提案に希望を見出しながら、ふとあることを思い出す。


 藤野「そういえば……サキュバスの一人が、王都の人間に知り合いがいるって言ってました。

そちらのルートでも聞き込みしてみましょう。王都に根を張る商会の情報が得られるかもしれません」


 一同は顔を見合わせ、互いの目にある種の覚悟と期待が灯るのを感じた。

行商人の力、サキュバスの人脈――複数の道が開けつつある。


その思いが頭を支配し、私は次の一手に進む決意を固めた。



 数日後の夕方ごろ、私はサキュバスタービンの定期メンテナンスのため、再び遺跡に足を運んでいた。


 集合場所に到着すると、ローレスが待っていた。

ローレスが幻惑魔法を解除し、目の前に遺跡が現れる。

私は遺跡に足を踏み入れ、サキュバスタービンの点検を開始した。


 点検が終わり、設備に異常がないことをローレスに伝えた後、私は彼女に相談を持ち掛けた。


 藤野「――実は、王都からアンドリューという貴族が来て、技術を奪おうとしていて困ってるんですよ。武力を盾に脅迫までしてきまして……」


 ローレス「あらあら、それは大変ね。私たちの方で、何か手伝えることはないかしら?」


 藤野「ありがとうございます。実は、王都に電気を管理する組合を作れないかと考えたんです。そこで、リージェンさんの知り合いが王都に居るとのことで、何かしら情報が集められないかと思ってるんです」


 ローレス「なるほどね!――――リージェン!ちょっと来て頂戴!」


 ローレスの呼び声でリージェンが合流し、詳しい話を詰める。


 リージェン「――私たちサキュバスは空を飛べるうえに、そこそこ魔力を消費しますが、長距離転移魔法も使えます。さほど時間はかからずに情報を持ち帰れるでしょう」


リージェンが王都の知り合い経由で情報を集め、後日、結果を教えてくれるという方針で話がまとまった。



 数日後。

 王都に情報収集に向かっていたリージェンが帰還し、村長宅にて報告の場が設けられた。


 リージェン「――いくつかの商会の様子を見てきました。やはり、アンドリューやほかの貴族の影響を受けている商会もありますが、中立的な立場を保っているところも存在します。その中でも、特に信頼できそうな名前を挙げておきますね」


彼女は持ち帰った羊皮紙のメモを見ながら、口を開いた。


 リージェン「まず『ミレス商会』。ここは日用品や布の取引で有名です。次に『アランス貿易組』。

ここは外国とのつながりがあり、政治色は薄いです。

そして――『ヘイルーツ商会』。希少鉱物の扱いにも詳しく、技術系の取引に対して理解があります。

ここが、今回の件に最も適しているかもしれません」


 エルド「それは良い情報じゃな……王都にも、そういう商会が残っていたとは」


 藤野「ありがとうございます、リージェンさん。これは助かりましたね。

次は、行商人の方にも話を聞いて、地道なところから信頼できる商会を探っていきましょう」


 リージェン「しかし藤野氏、王都では魔力機の話はしないほうがいいです。

無限に近い魔力を生み出せる装置があると知られると、必ず目ざとい人間や、特に悪意を持った魔族がいの一番に狙ってくるでしょう。

目を付けられれば、あなたの身やこの村、我々サキュバスまでもが危険にさらされる可能性があります。」


 藤野「……なるほど、分かりました。魔力機については話さないようにします」


 エルド「……しかし、王都は人も多ければ陰も深い。藤野殿はこの世界の情勢をまだよく知らんじゃろう、そんなお主を王都へ行かせるのは不安じゃ。

そこで、王都に行ったことのある村人をひとり、護衛兼案内役として同行させようと思う」


その提案に、リージェンも軽く頷く。


 リージェン「賛成です。藤野氏が余計な危険に巻き込まれないためにも、道や街に詳しい人が一緒のほうがいいですね」


 その後もしばらく話は続いたが、必要な情報と方針が固まったところで、村長宅での打ち合わせはひとまずお開きとなった。

 そして、私たちはそれぞれ準備や手配のために席を立ち、王都行きの段取りを進めることになった。


 さらに数日後。

 行商人が村に訪れたタイミングで、王都の商会について聞き込みを行った。

行商人はいくつかの商会とつながりがあり、その中で信頼できる商会をいくつか紹介してくれた。


 藤野「ーーそれで、どの商会が最も良さそうですかね?」


定期的にアーゼ村に訪れる行商人―――サンチキは少し考えてから答えた。


 サンチキ「『ヘイルーツ商会』が良いでしょうな。あそこは利益より顧客満足をモットーとしておりやす。政治的に中立でして、貴族とも一線を画しとりますぜ」


 藤野「分かりました、ありがとうございます。ーーサンチキさん、不躾なお願いで申し訳ないのですが、私を王都まで連れてっていただけませんか?」


サンチキは少し驚いたように目を見開いたが、すぐににっこりと口元を緩めた。


 サンチキ「へい、承知いたしやした。運賃はしっかりいただきやすが、それでよけりゃ王都までお連れしやすよ。ただ、これから西の村に寄る予定がございましてな。

四日後にはまたアーゼ村に戻ってきやすんで、そんときにあっしの荷車に乗ってくだせぇ」


 藤野「ありがとうございます。それまでに準備を整えておきます」


 それから私は、電力会社設立に向けて、技術の一部を公開する準備を始めた。

魔力機については触れず、電気に関する資料を用意していく。


発電装置やモーターの基本的な構造や、ゴロッタ石を使った照明、電熱を利用した暖房法、さらには感電の危険性や絶縁処理、メンテナンス指針などを盛り込んだ技術文書を編纂した。


この書類が商会との交渉材料になり、王都で通用するための基盤となる。


 電気が、村の外の世界でどう受け止められるのか――期待と不安が入り混じる。

しかし、私が王都へ行くことで、私にとってもこの世界にとっても、新たな一歩が始まるはずだ。


そう考えながら、王都へ行く準備を黙々と進めていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ