第十二話 魔力は生まれた、あっけなく
村人「藤野! 無事だったか!」
村長の家に向かって歩いていると、村人の一人が私を見るなり駆け寄ってきた。
肩で息をしながら、私の前に立ちふさがるようにして言葉を続けた。
村人「昨晩、お前が誰かに連れ去られてるのを見たって奴がいてな! 村の中じゃ大騒ぎだったぞ!」
藤野「いや、連れ去られたというか……ちゃんと話があって行っただけなんですが……」
村人「そうだったのか? まったく、冷や冷やさせやがって……」
どうやら、遺跡へ同行したことを誰にも告げていなかったせいで、余計な騒ぎになってしまったようだ。
藤野「心配かけてすみません。ちゃんと無事だし、変なこともされてない。……たぶん」
そう言いながら、私は内心で苦笑した。いや、実際にはちょっと吸われたけど。
村人「まあ、お前が元気ならそれでいいさ。村長のところに行ってやんな。みんなお前のこと心配してたんだ」
私はうなずき、村長宅へと向かった。
村長宅の扉をノックすると、返事があった。
扉が開き、現れたのは――リアだった。
リア「……藤野さん!」
目を見開いて、リアが私に駆け寄ってきた。腕を取られ、そのままじっと顔を見つめられる。
リア「藤野さん……大丈夫なの……?」
藤野「ええ、何ともないです。サキュバスたちと話をしてきただけです」
リア「……サキュバスたちに、変なことされてない? 無理やりとか……その、いろいろ」
藤野「な、何もされてないですよ。ちゃんと話して、協力関係を作ってきただけです」
藤野(……精を吸われたことや、あの夢のことは黙っておこう)
リア「……ほんとに?」
藤野「本当ですって」
リアはしばらくじっと私を見つめていたが、やがてため息をついて手を離した。
リア「……もう。心配させないでよ」
そう言いながら、リアは頬を膨らませて背を向けた。
ちょっと可愛らしい反応に、つい思わず笑みがこぼれてしまう。
肝心の村長は外出中で留守だったので、リアとしばらく談笑していた。
私の過去……前職、学生時代、前の世界での暮らし……
リアは私の話を興味深く聞いてくれていた。
リアのこの村での出来事……幼少期の頃の思い出、村長の意外な一面……
私もリアの話に聞き入ってしまっていた。
やがて、玄関の扉が開き、人影が現れた。
エルド「やれやれ。無事で何よりじゃの、藤野殿」
藤野「村長、ご心配おかけしました」
村長とリアに、私はこれまでの経緯と、古代遺跡で見つけた魔道具について報告した。
藤野「電気に似た性質を持つ魔力を、発電機と同じ原理で発生させられるかもしれません。
魔石や鉱石の性質も分かってきました」
エルド「ふむふむ。では、あとは試してみるだけというわけか」
藤野「はい。そこでお願いなんですが、村に保管されている魔石――“ロロプロ鉱石”があれば、いくつか分けていただけないでしょうか? それと、山岳部の村にも協力を仰ぎたいんです」
エルド「よかろう。鉱石の件は確認しておく。あの村へは、わしから話を通してみよう」
藤野「ありがとうございます、村長」
村長と今後の方針を打ち合わせた後、作業小屋へ向かい、魔力発電機の試作に取りかかる。
そこへ、ひょこっと顔を出したのは、キースだった。
キース「先生! 僕も実験、手伝いたいです!」
藤野「……先生じゃないってば。でも、助かるよ。よろしく頼む」
私はさっそく、サキュバスに分けてもらった魔力伝達用の魔道具――マナラインを分解して、ベーズ鋼製のワイヤーを取り出し、それを巻いてコイルを作る。
そして、サキュバスに分けてもらったネグターン鉱石を磁石に見立て、
またしても小学校の理科の授業で出てくる簡単な発電機のような物を試作した。
材料も工程もシンプルだが、問題は果たして本当に魔力が発生するかどうか。
藤野「さて、あとはラザルム晶石につなげて――」
私は回転軸をゆっくりと手で回した。
次の瞬間――
キース「藤野! 石が光ったよ!」
藤野「ほんとだ……成功した、のか……?」
青白く発光するラザルム晶石を見つめながら、私は拍子抜けしてしまった。
藤野(あっさり過ぎる……あまりにもあっさり過ぎる……こんなに簡単に魔力が発生するとは……)
嬉しいはずなのに、どこか肩すかしを食らったような感覚が残る。
藤野(しかし、魔力が電気と同じ特性を持つなら、プラスマイナスは? 磁石のN極S極は?
直流と交流の概念はあるのか? そもそも、電線やバッテリーのようなものはあるのに、
なぜ今まで魔力発電機の開発までは至らなかったんだ?)
まだまだ分からないことは多い。
が、色々試しているうちに、直流発電機と同じ構造にすれば、運用可能である事が分かった。
藤野「よし! これなら行けそうだ!」
キース「でも、藤野……これって、どうやって動かすの?」
藤野「どうって、こうやって……回せばいいんだけど」
キース「いや、サキュバスたちがこれを動かすってなると、水とか風とか、燃やす物がないとダメなんじゃないの?」
藤野「……あっ…」
そういえば、動力の供給手段について、まったく考えていなかった。
手回しでやるには限度があるし、サキュバスたちに日がな一日回させるわけにもいかない。
藤野(どうしよう……どうやって動かす?)
思考が迷路に入りかけたところで、私は一旦手を止めた。
次の課題が、早くも顔を出してきたようだった。




