序章 発電所の光、異世界の空
かつて人類は、火を使い、蒸気を生み出し、それを動力に変えて文明を進めてきた。
そして電気の登場。白熱電球が夜を照らし、内燃機関が車を走らせ、発電所が都市を動かす心臓となった。
今じゃ、電気なしじゃ暮らせない。生活も産業も、何もかもが止まる。
そんな電気の最前線で働いているのが、この私。藤野 陸、28歳。関東近郊の発電設備設計会社に勤める、しがない電気技師だ。
仕事内容は、高圧変電設備や発電機の設計。それに、設備の点検や試運転の立ち会い。
日々、図面と格闘しながら機械と向き合ってる。
藤野「同僚A、メガー(絶縁抵抗)の再確認、頼む」
同僚A「了解」
同僚B「15時までには撤収したいね」
藤野「だねぇ…。たまには余裕もって帰りたいよ」
同僚A「メガー異常なし」
藤野「ありがとう、じゃあ始めようか」
この日は、大型発電所に導入予定のタービン発電設備の最終調整日だった。現場の空気は、いつにも増してピリピリしてる。
というのも、今日行うのは設備の試運転。もし不具合が出たら、工期遅れにつながる可能性だってある。
だから、慎重に、丁寧に、気を張って作業する――はずなんだけど。
どうにも胸の奥が落ち着かない。
たぶん……あの夢のせいだ。
ここ最近、やたらと奇妙な夢を見る。真っ赤な空、渦巻く風。どこか遠く、現代とはまるで違う、異様な世界。
目が覚めた後も、妙なざわつきが残る。夢にしては、やけにリアルだった。
でもまあ、ただの疲れかストレスのせいだと思って、あまり気にしてなかった。
やがて、試運転が始まる。大型発電機のタービンが、低速から少しずつ回転数を上げていく。
圧力、温度、電圧……それらの数値がメーターの針の動きに現れる。
同僚A「……異常なし。出力、安定してます」
藤野「電流も正常。温度上昇も許容範囲だな」
私は制御盤の前に立ち、メーターの数値を一つ一つ
このまま何事もなければ、今日で調整作業も完了するはずだった。
――そのときだった。
ゴゴゴッ……!
地面が揺れた。地響き。耳鳴り。空気が急に圧縮されるような、重たい圧力。
藤野「っ!?」
制御盤が、ぱっと白く光った。
爆発のように思える、ぞっとするような光。
まるで時間が止まったみたいだった。
同僚たちの声も聞こえない。周囲の音が、一切、消える。
そして――私は、消えた。
目が覚めると、そこには青空と風があった。
でも、いつもの構内じゃない。機械も、建物も、人の声もない。
私は、乾いた砂混じりの丘の上に、ひとり倒れていた。
藤野「……ここは……?」
見渡せば、人工物は一つもない。どこまでも続く、広大な荒野だけが広がっていた。
何がどうなってるのか、まるでわからない。
あの白い光、あの瞬間。そして今、自分が立っているこの現実。
私は立ち上がり、乾いた風に吹かれながら、ようやく気づく。
これは夢じゃない。ここは――現実だ。
そしてこの世界には、私ひとりしかいない。