第4章4節:新たな道へ
町に到着して数日が経った。私たちは、宿屋を拠点に、それぞれ情報収集や調査を進めていた。
私は、町の図書館(小規模ながら存在した)に通い、この地域の言語や歴史に関する文献を読み漁った。また、市場を歩き回り、様々な地方から来た商人たちに話を聞き、共通語の方言や、彼らの母語について記録を重ねた。
リアンは、最初は町の物珍しさに興奮していたが、すぐに退屈し始め、私の調査の手伝い(荷物持ちや聞き込みの際の護衛役)をするようになった。彼の持ち前の人懐っこさが、意外なところで情報収集に役立つこともあった。
エルウィンは、独自に行動していることが多かった。例の「碑文解読」の依頼主に接触したのか、あるいは別の目的で動いているのか、詳しくは語らなかったが、時折、意味深な表情で宿に戻ってくることがあった。
彼が得た情報を、どこまで私たちに共有してくれるのかは、まだわからない。
ある日の夕食時、宿屋の食堂で、私たちは今後の行動について話し合った。
「コハル、君はこの町で、何か得るものはあったか?」
エルウィンが尋ねてきた。
「ええ、たくさんの収穫がありましたわ。共通語の多様性、いくつかの少数言語の存在、そして、この地域の歴史や伝承…。私のノートも、かなり充実しました」
私は満足げに答えた。
「それは良かった。私も、いくつか興味深い情報を得ることができた。例の碑文についても、少しばかり進展があった」
エルウィンはそう言ったが、具体的な内容には触れなかった。
「それで、これからどうするんだ? ずっとこの町にいるのか?」
リアンが尋ねる。彼にとっては、早く次の冒険に出たいのだろう。
私は少し考えてから答えた。
「この町で得られる情報は、ある程度収集できたように思います。そろそろ、次の目的地へ向かうべきかもしれませんわね」
私の次の目標は、より深く異種族の言語、特に非音声言語に触れることだった。第2章で出会った獣人の「咆哮語」のような、音声以外の要素を含む言語を、もっと体系的に調査したい。そのためには、彼らが暮らす集落へ直接赴く必要があるだろう。
「私は、西…ソーラの村があった方向とは逆の、南西方面に広がる森林地帯に興味がありますの。そこには、独自の言語文化を持つ獣人の部族がいくつか暮らしているという話を聞きました」
「獣人の里か…。確かに、彼らの言語体系は、我々の常識とは異なる部分が多い。興味深い選択だ」
エルウィンも頷いた。彼にとっても、未知の言語体系は研究対象として魅力的なのだろう。あるいは、獣人の伝承の中に、彼の求める「鍵」があると考えているのかもしれない。
「よし! 獣人の里、面白そうだな! 行こうぜ、コハル!」
リアンは、新たな目的地が決まったことに単純に喜んでいる。
こうして、私たちの次なる道が決まった。この町で得た知識の断片を胸に、私たちは再び旅立つ準備を始めることになった。
エルウィンとの間には、まだ見えない壁がある。リアンの特殊な能力も、その全貌は明らかになっていない。そして、響き石や古代言語の謎は、まだ入り口に立ったばかりだ。
それでも、私の探求心は尽きることがない。未知の言葉が、未知の世界が、私を待っている。
私は、言語ノートの新しいページを開き、次なる目的地である「南西の森」と書き込んだ。そこに、どのような発見が待っているのだろうか。期待に胸を膨らませながら、私は窓の外に広がる、異世界の夜空を見上げていた。




