第4章3節:町への到着
エルウィンとの間に少し緊張感が漂う中、私たちは黙々と街道を歩き続けた。日が傾き、空が茜色に染まり始めた頃、ようやく前方に目的地の町が見えてきた。
木漏れ日の村ソーラよりもずっと大きく、石造りの建物が立ち並び、活気のある人々の声や物音が遠くまで聞こえてくる。町の周囲には簡素ながらも城壁のようなものが巡らされており、門には数人の衛兵らしき姿が見えた。
「おお! あれが町か! でっかいなあ!」
リアンが、疲れも忘れて歓声を上げた。初めて見る大きな町に、彼の目はきらきらと輝いている。
私も、その町の規模と活気に少し圧倒されていた。これだけの人が集まる場所ならば、様々な情報や、新たな言語との出会いが期待できるだろう。
町の門をくぐると、そこはまさに人々の往来で溢れていた。様々な服装の人々、荷物を運ぶ商人、威勢の良い声を張り上げる露天商、そして、時折見かける人間以外の種族の姿。空気には、食べ物の匂い、家畜の匂い、そして人々の汗の匂いが混じり合っている。共通語だけでなく、時折、私の知らない言葉の断片も耳に飛び込んでくる。
(素晴らしい…! これこそ、私が求めていた場所ですわ!)
言語学者としての血が騒ぐのを感じる。この町でなら、きっと多くの発見があるはずだ。
エルウィンも、町の様子を冷静に観察しながら、何かを探しているような素振りを見せている。彼にも、この町で得るべき情報があるのだろう。
「さて、まずは宿を探しましょうか。日が暮れる前に、落ち着ける場所を確保しませんと」
私が提案すると、エルウィンもリアンも頷いた。
私たちは、人混みをかき分けながら、宿屋を探して町の通りを歩き始めた。リアンは、物珍しそうにキョロキョロと周囲を見回している。
宿はすぐに見つかった。街道沿いの宿場町よりは少し値が張ったが、清潔で、それなりにしっかりした造りの宿屋だ。私たちは、二部屋を借りることにした。一部屋は私とリアン(彼はまだ子供なので、同室でも問題ないだろうと判断した)、もう一部屋はエルウィンが使う。
部屋に荷物を置き、少し休憩した後、私たちは情報収集も兼ねて、町の中心部にある広場へと向かった。広場には、大きな掲示板があり、様々な依頼や告知が張り出されているようだった。文字が読める私とエルウィンは、掲示板の内容を確認する。
内容は多岐にわたっていた。護衛の依頼、薬草採集の依頼、迷子のペット探し、そして…いくつかの学術的な依頼も混じっていた。
「ほう…『古代遺跡の碑文解読、協力者求む』?」
エルウィンが、一枚の羊皮紙に書かれた依頼に目を留めた。
私もその依頼文を読む。近くの別の遺跡で発見された、未解読の碑文があるらしい。解読に協力できる知識を持つ者を探している、という内容だった。依頼主は、町の知識人ギルドか、あるいは個人の学者だろうか。
「これは、興味深いかもしれませんわね」
「ああ。町の有力者か、あるいは我々のような旅の学者か…いずれにせよ、接触してみる価値はあるだろう」
エルウィンも同意見のようだった。
他にも、市場での珍しい交易品の情報や、旅芸人の一座が来ているという噂など、様々な情報が飛び交っている。この町は、まさに情報の交差点だ。
私の言語探求にとっても、エルウィンの目的達成にとっても、そしてリアンの冒険心を満たすためにも、この町は重要な拠点となりそうだった。
私たちは、新たな期待と、そして少しの緊張感を胸に、この町での最初の一歩を踏み出した。




