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一人相撲

作者: 枯れ葉

ある晴れた日、俺は図書館で読書をしていた。窓際にあったその席は他の利用者の姿はなく、まるでこの図書館は自分のものであるかのように感じられた。別にこの図書館が特別人気がなく人が少ないということではなく、ただ平日の夕方しかも新学期であったからであろう。俺がこのような空間で1人読書をしていると「ガサッ」っと隣で音がした。もちろん真横の意味の隣ではなく、4つほど空席を通じての隣だ。隣に座ってきたのは自分と同じぐらいの年の女子だった。この時は特段気に留めることなく、俺は読書をしていた。状況が変わったのは彼女が隣に座ってきて読書をしはじめて1時間ほどたった時だった。俺が別の本を探しに近くの本棚に近づいた時に、チラッと彼女の顔が目に入った。その瞬間に俺はハッとした。

彼女は小中の時同じ学年にいた人だと分かった。

俺の小中学校はいわゆるエスカレーター式の学校で公立の学校では無い。それに、俺の家の近くには同級生は、あまりおらず、彼女がある程度近くに分類されるのかなと思うものだった。小中の時は、たまに本の話をしていたが、高校に上がってからは別の学校になったこともあって繋がりは一切ない。

俺はここで悩んだ。もちろん、話しかけるものかどうかだ。幸い今日の図書館は人が少ないし、窓際の端っこの席ということも相まって、あまり他の人の邪魔になることはないだろう。しかし、俺はここですぐに声をかけることできるほどの強心臓を残念ながら持ち合わせてはいない。

心の中では、話しかけたいが、自分の中にある弱い心がそれを強引にも引き止める。

本を読んでいるのだから邪魔しては行けない、だったり、そもそもお前の事なんか覚えてないぞ、とか、お前のことを実は嫌ってるんじゃないか、とか、図書館で話しかけるのはマナー違反だ、とかをこの弱い心が俺のどの心よりも強く言ってくる。

強心臓の持ち主ならばこんなことは経験したことはないだろうが、俺は実はこんなことはしょっちゅうだ。

しかし、こんなことをしょっちゅうしているからこそ、俺はやらぬ後悔よりやる後悔の方が良いことを知っている。そして、俺は高鳴る鼓動を抑えて深呼吸し、1歩を踏み出した。かのように思えたが、これもまた経験した人はいるのではなかろうか。そう、近くに歩み寄ったのはいいものの、直前で直角に2回曲がりUターンしてしまったのだ。自己嫌悪に陥る。こんなことも出来ない自分がめっぽう嫌になる。そうこうしているうちに30分が経過した。自分の中では5分程度しか立っていないのに、現実は残酷だ。心にも焦りが増してくる。彼女が読書を終えてしまいそうだからだ。ここで俺は、決心した。

「もうどにでもなれ」

と、心の中で叫び、確実な1歩踏み出した。

そして、彼女の方を少し叩き、彼女の名前を呼んだ。

30分もシュミレーションしたのに、実際は5秒でも思いつきそうなやり方だった。

すると、彼女は振り向き驚いた顔で俺の名前を呼んだ。

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