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ロバートは若いころからモテた。見目もよろしいし、人当たりもよかった。成績もそこそこよかったから、パブリックスクールに通っていた時も、すり寄ってくる女の子は大勢いた。
思春期の男子が集まると、だいたいよろしくないことを考える。
ロバートをだしに、女の子たちと仲良くなろうと級友たちは思いついたのである。
女の子と遊ぶことは、ロバートもやぶさかではない。楽しかったし。
すると噂になる。ロバートとヘンリーを含めた男子生徒のグループが、いつも女の子たちとつるんでいる。
やっかみも多かった。
噂が噂を呼んで、ロバートのグループは誘ったらデートしてくれる。そう言われるようになった。誰かが悪意を持ってそう広めた。
いちおう自分では選んでいたつもりだったのだが、台無しである。
そうなったら、破れかぶれだ。遊びまくった。来る者拒まず、去る者追わず。
男子が隠れてタバコを吸ったり酒を飲んだりするのと同じ感覚だった。
卒業して社交界に出るようになってもその噂はついてきた。
まあ、いいか。寄ってくる女の子たちは気楽だったし、なかにはしつこくて困る子もいたけれど、そのへんは遊び仲間が結託して追い払った。
類は友を呼ぶというのか、ロバートはそんなふうに、お気楽で爛れた生活を送っていた。
転機が訪れたのは21の時だ。
「いつまでも遊んでいないで身を固めろ」
そう言われて見合いをさせられた。
いつまでも遊んでいられないのは承知している。もう隠居したいから家督を継いでくれ。そうも言われていた。
しょうがないな。潮時か。
正直、もう少しお気楽でいたかったが。
見合いの席にやって来たのがメアリだった。
かわいい。
一目でそう思った。今までのお気楽で爛れた生活の中にはいないタイプだった。
じっと見つめたら、ぽんっと赤くなった。話しかけると、あせあせしながら一生懸命答えようとする。
勝手に纏わりついてくるお気楽な女の子とは、ぜんぜんちがった。
メアリといると、自分が爛れた人間であることを忘れられた。
この子しかいない。
そう思った。
メアリの両親からは、きっちり身辺整理をしろと言われた。結婚の条件である。当然だ。
ロバートは破竹の勢いでお気楽で爛れた生活を清算した。お気楽で爛れた仲間からは「まあ、あのロバートがねぇ」とびっくりされたが。
そうやって手に入れた結婚生活は、とてもおだやかで安心できて、幸せなものだった。
ああ、世の中にはこんな生活があるのか。2人の子どもに恵まれて、それでもメアリはずっとかわいくて。
ただちょっと、たまーに、昔なじみの女の子に会うことがある。なにかの会で偶然会うのだ。
そのときに、ちょっとだけ、ほんとうにちょっとだけ羽目を外す。
その時だけだ。おたがい気心が知れているから深入りはしない。
今までに何回か。
思春期の男子が隠れてタバコを吸うようなものだ。
エミリーのことがあって、それは人を裏切る悪いことなのだと、カーソンにこんこんと説教された。
「ぼっちゃま」
呼び方が変わった。
カーソンは父の代から仕える優秀な家令である。ロバートも幼いころからいろいろと面倒を見てもらった。
ロバートのなにからなにまで知り尽くしているのである。頭が上がらない。
「まずは、ご令嬢はタバコではありません」
「はい、そのとおりです」
「わかっていてこの所業ですか」
「ごめんなさい」
「あやまるのは奥様とご令嬢です」
「うん、わかった。でも金をもらって納得した関係だったんだから、エミリー、じゃなくてあの娘にはあやまらなくていいんじゃないか?」
「あやまるのはタバコ扱いしたことについてです」
「ああ、そうか」
「しっかりしてください」
「愛しているのはメアリだけなのに」
「では、奥様がそう言ってよその殿方と懇意にしてもよろしいのですか。だんなさまの理屈だとそうなりますが」
……まさか。そんなことゆるせるわけがない。メアリがそんな爛れたことをするわけがない。
「そのゆるせないことをだんなさまはしたのですよ。なぜ自分はよくて、奥様はダメなのです?」
があーーーん。
ものすごい衝撃を受けた。そうか、そうだったのか。自分は爛れた生活が染みついてしまっていたのだな。
「わかったら、改めなさい」
カーソンに叱られた。
はい、反省しました。もう二度としません。
ロバートは誓った。