すれ違い2
「それで弟子にしたいってどういうこと?」
「はい。それは話せば長くなるのですが……自分は強い人間じゃないんです……肉体的にも精神的にも。臆病で陰気で、周りと趣味が合わないことも多くあって、そのせいで同学年の人たちからは遠巻きに嫌われていたというか、変な目で見られてたというか、まぁ今までずっとそんな感じで学校を過ごしてきたんです。でも、ある程度平和でした。仲良くしてくれる人も少なからず居ましたし……。だから、脅されたりすることがこんなに恐ろしいことだと知りませんでした。上から圧をかけられるように怒鳴られて、笑い物にされて言うこと聞かないともっと酷いことする、とか言われて……もう怖くて怖くて彼女たちの操り人形になるしかなかった……。でも、あの日、あの合宿の日、周りの目を気にせず己の正義に従い、拳を振るった!その姿は御伽噺に出てくる勇者や王子様のようで、ぼくの憧れの存在の様で……。それに、その強さは僕にはないものだけど、僕も手に入れられるものな気がして、そんなことばかり考えてるから、この憧れに近い恋心にもすぐに気づきました。でも、あなたの横に立つに相応しい人になるために恋人よりも先に弟子になろうという考えに至ったって感じです!……っとご静聴ありがとうございました。」
………待って待って待って待って待って待って待って待って
「おい、白雛大丈夫か?!目が死んでるぞ!」
「仕様がないよ小町くん、第三者の私ですら脳の処理が追いつくのに時間掛かったのに、当事者はどれだけ大変か」
あーー頭が混乱してる。取り敢えず、私の強さに憧れて、それが恋心に変わって、私の隣に立つために私の弟子になろうってこと……だよね。
「……あの、小町さん返事を頂けますか?」
「あ……えっと弟子になるって具体的にはどうすればいいのか教えて欲しいんだけど…」
「あー!確かにそうですね。手っ取り早いのは、小町さんの側で生活するか僕の趣味に付き合ってもらうことなんですけど……」
それって弟子って言うのか?あれ、でも趣味って
「すいません。趣味ってなんなんですか?」
「さっき勇者とか王子様とか言ってたから、ファンタジーな昔話とか」
「はっ!もしかして薔薇?!」
「あー花の鑑賞か、そっち方面の趣味もありそうだな」
我が双子よ、多分透子が言ってるのはそっちの意味じゃあないと思う。
「で、答えはなんなんだ?」
「ここにいる皆さんはきっと大丈夫だと思いますが、絶対に笑わないことと、言いふらさないことを約束して欲しいです。」
「うん。」
「おう。」
「わかったわ。」
「……ではこれを、」
緊張の空気が走る中、影野が出してきたものはどこの家にもありそうな一般的なアルバムだった。藤が表紙をめくるのを私と透子は恐る恐る見ていた。そこには何が写っているのかとドキドキして、開かれたページを目を細めて見る。そこには、ロリータ服を着た可愛い女の子たちご映った写真からが貼ってあった。沈黙が続く中、透子が口を開く
「これは、そのー男子高校生が持つにはなんというか大人な写真集ですね、そう思いませんか小町くん」
「んーまぁ、珍しい趣味ではありますね。でも、アイドルの写真集なら持ってる奴たくさんいると思いますし、そんな遠巻きにされる様な趣味ではないと思いますけど……」
「私もそう思う。写真集なんて誰だって集めると思うし、恥ずかしがることじゃあないと思うけど」
「……ぼ……………な……す。」
「え?」
「そ、その写真に映ってるの………全部僕なんですぅぅぅ!!!!」
・ ・ ・
「「「えぇーーーーーーー!!」」」
「なるほどこれはこれは、確かに個性的な趣味ですね。いつからやってるんですか。」
「………幼稚園」
「は、早いですね。」
「う、うん。お、お父さんが服のデザイナーで、御伽噺に出てくる、王子様かっこいい!僕もお姫様になりたいって言ってたから、お姫様っぽい洋服を作ってくれて、嬉しくて、楽しくて、気づいた時にはもう……」
そう言われれば影野くんは前髪が長くて分かりにくいがよく見ると、目が大きく、肌も白い、男と見れば低い身長も女性に当てはまればとても可愛らしい。彼が女子で、私が男なら、その気弱な性格含めて惚れていた可能性はありそうなくらい影野は可愛らしい見た目をしていると理解した。
「話を戻そう、白雛がこの趣味に付き合うってことは」
「あー!僕と、この格好して写真撮って、街に出かける、みたいな?」
「絶対嫌だ」
その後も話は進み、学校で私と過ごすという結果に落ち着き、解散した。影野の髪をセットして、自信をつけるという案も出たが、「それだと自信は持てると思うけど、僕自身が強くなるっていう目標とはかけ離れてるきがする」という、影野の一言でその案は没となった。濃い数時間を過ごしたせいか、なんかドッと疲れた一日になった。