合宿3
松田 糸 1年3組で陽向とは幼馴染
相田 陽向 1年3組で糸とは幼馴染
佐野 瑛 1年3組で白雛とはクラスメイト
時が経つのは案外速く、いつの間にか合宿当日になっていた。学校に着いて、体育館に移動、走行式をしてクラス別でバスに乗る。1時間30分ほどゆられ到着し、昼食の時間が1時間設けられた。そして、レクリエーションの時間になった。
「おまえらよく聞けー。今から班で合宿場まで移動してもらう、体調が悪くなったり、迷子になったら電話するように以上。1組から移動してくれー!」
「水分補給も細めにするように。」
澤田と新山先生の説明が終わり、山を登る………のだが終わりのない道のりを前に私は軽く傷心する。その横で
「うっひょぉ〜、たっけぇ!今からこれ登るのかよ楽しみすぎる!」
「珍しく意気が合いますね。さすが私の隊の近衛兵!」
「花岡さんも糸もはしゃぎ過ぎて、これからの作業に支障が出ないようにね」
「らじゃー!」
「肝に命じておくぜ!」
そう言うと三人はさくさく進んで行った。一方私は付いて行くのに精一杯で楽しむ余裕などなかった。頭おかしいんじゃないのなんであの人達あんな元気なの、理解出来ない。
「遅いぞー白雛ー、相田ー!」
「お前らもう疲れたとか言わないよな?」
松田の野郎、後で一発ぶん殴ってやろうかな。北川は
「ん?どうしたの小町さん、もしかして疲れた?」
「ううん。何でもないよ」
……いつも通り。最近北川の纏う雰囲気が少し冷たくなった気がする。その理由は分からないけど班の空気が悪くならないので私も突っ込まないようにする、と決めたはいいが、気になって仕様がない。
「速過ぎなんだよ、お前達!……あいつら聞いてないな、小町さん僕たちは自分のペースでゆっくり行こう」
相田も速く登れるはずなのに、私に合わせてくれるなんて、胸がジーンとする。
「うん、そうだね。ゆっくり頑張ろう!!」
「やっと、着いたー!」
「おぉー、どこを見ても緑しかありません!白雛見てくださいとても綺麗……って大丈夫っすか?」
「う、うん大丈夫だよ」
嘘です、もう足動かないし、汗止まらないし……。でもみんなに迷惑かけないようにしなくちゃ……。
「どう考えても無理してるよね、着いた人たち影で休んでるみたいだし、そっち行くよ、ほら。」
手を差し伸ばされて戸惑う、私を無視して引っ張る。
「えっ、ちょっ北川?!」
彼も疲れてたのか、その時は少し強引に私を引っ張って行った。
暫く影で休んでいると、
「すいませんっ、気づいたらいなくって」
何かあったのかな。そんなことを思っていると
「白雛ぁー!」
舞が遠くから大声で私を呼びながら走ってくる。その後ろには、松田と相田もいた。
「大変…っ大変です」
「どうしたの?」
「小町さんと和田さんと連絡がつかないらして……」
それを聞いて考える前に体が動いた。
「先生っ、藤が……小町 藤と連絡が取れないって本当ですかっ?」
先生達の様子を見るとそれが事実だということが分かった。先生の隣で申し訳なさそうにしている人達が目に入った。
「違ったらごめんなさい。あなたたち藤と同じ班の人?」
「……は、はい。」
「どの辺りから姿が見えなくなったとか覚えてない?」
「すいません、何も覚えてなくて……本当に到着してから気づいて私たちも焦ってて、」
湧き上がる憤怒を我慢して、今の時間を確認する、15時だ、まだ探せる。そう思い、山に探しに行こうとしたが
「小町さん、心配なのは分かるけど今あなたが探しに行って、あなたも行方不明になるのは本末転倒よ。」
その通りだ。教師にも面子があり、これ以上問題を起こす訳にはいかない。でも、それでも
「分かっています。でもすぐ探さないと!」
その時、プルルルル、プルルルル……。携帯がなった。急いで発信者を確認して、すぐに出た。
「おっ、繋がった、白雛聞こえるか?」
「あんた何処にいるのよ?!」
「あぁ今、ベンチに座っている。登って40分くらいのところだ。少し足を痛めてな……。同じ班のやつには伝えといたけど、お前にも伝えとこうと思って、」
「え?そんなん聞いてないし、あんた今、行方不明になってるよ」
「はぁーまじか。んー、まぁ今からそっち向かうって先生にも言っといてくれ」
「待って、和田さんは、大丈夫なの?」
「は?なんのことだ」
電話越しに今の状況を報告したら、藤は和田さんと一緒じゃないと言う。さらに藤が足を痛めて休む旨は和田さんに伝えたのだとか
「これは大変なことになりましたね。」
「取り敢えずここは私と澤田で持ちます。他の教員はプログラム通りに行動してください。あなたたちはこっちに来なさい。」
いつもより怖い口調の新山先生に藤の班員たちは怯えた様子で返事をする。
「小町、お前も来てくれねぇか?小町……兄弟の方と連絡取れるのお前だけだから。」
「はい。分かりました。ごめん、みんな」
深く頭を下げる。
「そんな頭下げなくていいよ、小町ちゃんのせいじゃないし、俺らめっちゃ美味いカレー作って待ってるから」
分かれてから藤の班員を見た。彼らのイメージは陽キャの一軍というものが当てはまる。大体何があったのか予想がついた。藤から連絡だ。内容を確認したら、先生に報告に行く。
「もう少しで着くそうです、登ってくる時にルートからはみ出てる足跡を見つけたそうです。」
「わかった、では私が行くので新山先生は待機していて下さい。」
落ち着いてゆっくりと、そう思い、めいいっぱいに息を吸い込んだ
「あの、新山先生、先生も行ってください。」
「小町さんそれは無理です。生徒の監督は私たち教師の義務です。そして、今この場に教師は二人しかいない、わかる?」
威圧感がヒシヒシと肌に伝わる、でも今じゃないと手遅れになるということは、もう知っている。私は先生の目を見て言った。
「和田さんがどういう状況に陥っているのか分からない状態で女性がいないのは問題です。だからと言って男手も必要でないわけないです。なので、先生も行った方が良いと思います。」
お願い伝わって!
「……15分、長くても30分後には戻ってきます。それまで問題を起こさないように待っていてください。」
伝わった、先生に。でも今はその喜びを噛み締める時ではない。
「どうしたの小町さん、話あるんでしょ?」
強くて自分が一番正しいといった態度。いつもなら怖くて足がすくむ、でも今は誰もいない。彼らと私しかいない。
「……なんで、和田さんを置いてったの?」
「ちょっと気づかなくてぇー」
「4人も居たのに誰一人として気づかなかったの?」
「私は何も知らないわよ!あんたたちもでしょ」
「う、うん」
「し、知るわけないじゃん」
「あなたは?」
私は隅の方でおどおどした様子をした男に話しかけた。
「えっぼ、僕ですか?」
「あなたしか居ないでしょ、でどうなの?」
「うっ………そ、それは…」
「そ、そいつは何も知らないわよ、そうよね」
「あなたに聞いてないんだけど」
クソみたいな女どもには一斉視線を送らず見つめる。静寂が続く中、彼の瞳を力強く……
「………押し倒したんだ、あいつら、わ、和田さんをっ……」
「あんた言うなっていったじゃん!」
「ひっ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「ふっ……まぁ良いわ。約束を破ったあんたにはそれ相応の罰が必要ってことよね」
ヒュッ………バチン。音が響いた
「痛っ、何すんのよ!」
ヒュッ……バチン。同じ動作を続ける。
「本当になんなんだよ、てめぇ!」
「何って石投げてるだけじゃん。」