精一杯の見栄を溢す
予約投稿をしたつもりだったのですが、失敗していたようなので今回は2話分です。
前回のあらすじ
森で一人置いてかれて泣いてたら、隈のひどーい不審者が話しかけてきたよー。
ティアと”私”はどうやら別の存在みたいだねー。
森の不審者は何だかちょろいよー。
「…おい、小娘。緑のがいるここなら覚えているか」
森で最初に遭遇した金髪のイケメンの性格がツンデレに入るのか入らないのか悩んでいる内に、目の前のイケメンが立ち止まって少し先に聳え立っている大樹を顎で指し示す。今の仕草、凄くカッコよかったな。
面食いの特有の余計な考えを振り払いつつも、指し示された大樹を根から見上げられるだけ見上げるが、全くもって見覚えも心当たりもない。なんなら日本人であれば一度は聞いたことがあるかもしれない大きな木の歌ぐらいしか浮かんでこない。
「いえ、まったく」
「…だそうだ緑の」
「ソーみたいだねェ」
カタカナのように発音される言葉で、聞き覚えのない独特なエコー混じりの声に振り向くと、そこに立っていたのは一人の性別の区別が付けられない程の中性的な子供で。
…けれどその足元を見て、私は内心で絶句してしまう。大体小学生前の子供であれば、性別の区別が分かりにくいのは分かるけど、それ以上の異質さを見ただけで理解できてしまった。
「コんにちわ、ワタシは……あー…説明ガ難しいネ。とりアえず、ココまで連れてきたその男の同類のヨウなものだと思ってヨ」
「あ、いや、どうる…いにしては…」
「ソッカ、君は以前の記憶がナイんだったヨね。じゃア、怖がらセちゃったかナ…?」
そう、その少年と少女の合間の姿をした子供は、私をここまで連れてきたイケメンとは違った意味で異質だった。
確かに金髪イケメンも、爬虫類のような縦長の細い瞳孔をしていて異質だったし、私が知っている限りの人類が持つ瞳の色からかけ離れた金色の虹彩をしていた。しかし、目の前の子供の異質さはそれとは別なものだ。
「…いくラ以前の君にワタシたちが裏切らレたとはいえ、顔見知リだった君に怖がられルのは本意じゃなイんだ」
そう喋る、少ししょんぼりとしているその子供の両足は完全に背後の背景に透けていて、よくよく見ると全身がほんのり透けている。
まるでその場に未練があって死してなお、居座ってしまう呪縛霊のようだった。けれど、彼…彼女?自身からは私に危害を与えるような意思を感じ取れない。
「そ、そうじゃなくて……いえ、少し見なれないじょうたいだったのでおどろいてしまいました」
「うーン、ほんトにー?」
長い間手入れされずいたであろう長く伸びているその子供の前髪から、チラチラとこちらを伺うように見つめる両目は、私が森に踏み込んで初めて会話した相手と同じで、爬虫類のように細長い瞳孔が薄緑色の虹彩に囲まれていた。
「というか!…わたしとしては、先ほどから二人が言っていること…いぜんのわたしがうら切ったことの方が気になって仕方ないです」
「…それを気にしている時点で、以前のお前とは大違いだな」
「う……。だって、わたし、森から出たら多分、ころされちゃうんです。で、でも森から出なかったら、ころされないけど、そこの人はわたしが森にいるの、イヤみたいだし、なかよくなりたいけど、前のわたしが何かしたみたいだし、おかあさんもいないし……」
心の奥底に仕舞い込んでいた不安、ただその事実のみを伝えるつもりだったけれど、少し口に出しただけで隠していた不安も増して冷静さを保っていられない。
私は大人で、成人してて、一人で何とか出来なければならないんだから、落ち着かなきゃ、いけないのに。ダメだダメだと押し殺そうとする心の声は、押さえきれずに飛び出して。
「ひとりはこわいけど、村の人はいつもしんようできないし、まだ子供だからごはんの作り方も分からないし…」
「あァ…ごめんネ、ほンとは不安定なノ見せなイように、隠シてただけナんだね」
「わわ、わたし…あの、前のわたしみたいに、ななならないよ、に」
「大丈夫、ココは誰も君を傷付けルものはイないよ」
そう言って少し透けた手で頭を撫でられた途端に、先ほど理由も分からずに留めていた涙が年相応の声と共に外部へ流れていった。本当は…心底不安でしかなかった。
それを転生したらしいことを口実にどうにか誤魔化してきただけ。実際この世界での母親を失った上に、命を狙われていることは現実だったとしてもかなりの恐怖だから。
見るもの触れるものが未知でしかなく、頼れるものはこの身一つに残った記憶だけ。前世の記憶でどうにかなるものだったら、最初から悩んでない。
私の持っている知識だって通用するか怪しいのに、不安にならないわけがない。そんな言い訳のようなものを脳裏で連ねて、幼い身体に引っ張られた不安を涙に変えていた。
【世界樹】
この世界の中心と呼ばれる禁忌の森に自生する特殊な樹木。不可思議な力によって守られていて、枝木でさえも人為的に干渉できない。水や日光がなくても勝手に育ち、季節を無視して様々な四季を作り出す。
よく見るとほんのり光っており、枝だけでも足元を照らせるだけの灯りになる。葉っぱや実など、余す所なく貴重な素材で構成されている。
噂では、世界中の植物と直結しているという説もある。