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災いの子と言われ、捨てられた私と四つの国の龍  作者: メガネ族
第一章 Living things cannot live without contact with society.
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いえない傷

前回のあらすじ


十二歳になった冬を節目に森を出たよー。

道中で地震があったりしたねー。

しばらく歩いてたら馬車とおじさんがいたよー。

 ガタンガタン、と全身が一定の間隔(かんかく)で揺れる。その振動で意識がはっきりとしてきて、同時に昨日の出来事を思い出した。


そう、昨日は初めて森から出て会った第一村人的なおじさんと色々な話をして、せっかくだからって言っておじさんがくれた夕食を食べた。…そこから先が思い出せない。


まあ、一応精神年齢は成人しているので現在の展開も何となくわかる。









「…誘拐、されたってことでいいのかなあ」



十中八九異世界モノで一回か二回は見る、誘拐イベント的なものに現在進行形で巻き込まれていた。しかもご丁寧に手足が縄で縛られていて、乗っている馬車の揺れで身体が跳ねる度に背中や太腿が床に打ちつけられて痛い。


馬車の中を照らす灯りがないから見えずらいが、どうやら馬車の中には私以外に数人子供が乗っているようだ。あと気になるところとしては、一人だけ縄ではなく重そうな手錠で拘束されていることかな。


いいのか悪いのか分からないが、馬車に乗っている子供達のほとんどが安らかに眠っている中、その手錠を付けられている少年は寝ているが酷く魘されていた。


気になって、揺れる馬車の壁を伝ってその少年の側に座る。



「…?床暖、なわけないか。にしては暖か過ぎるけど」



座って分かったことだが、この少年の側の床が暖かい。まるで現代で言うところの床暖のように暖かい。


そして少年自身は手錠が熱く感じる程に熱を出していて、本来であれば医者にでも見せた方がいいくらいだ。


けれどここには医者などいないし、そもそも誘拐真っ最中に子供の体調が崩れたからって医者に見せてくれる犯人はいるのだろうか。…いや、あのおじさんならしそうだけどさ。


苦肉の策として、将来的に末端冷え性になるであろう私の手を額に当てて我慢してもらうことにした。ごめんよ少年。


アトラスが土産に持ってきたバックは私しか開けられない上、手が縛られてるから開けられない。まず今バック持ってないし。



「…っ、うぅ。ごめ、なさ」


「おっと」



 ゲームやアニメならヒロインが過去のトラウマとかで魘されてるところで、隣に座ってるヒーロー役が肩を貸してる場面とかあるんだろう。


だけど、如何(いかん)せん魘されてるのは私じゃなくて少年の方。…仕方ないね。私の女子力がないとかじゃないからね。


そんなことを思っているとガタンガタンと揺れていた馬車が止まって、暗くてよく見えないが出入り口らしき場所が音を立てて開く。


その扉の向こうには当然私に夕食をくれたおじさんの姿。でもやっぱり、おじさん自身はさほど悪い人間に見えなかった。



「…嬢ちゃんは、やっぱ起きてるか」



おじさんは何処か悲しそうな目で、私より遠い何処かを見ていた。何かこう、私越しに誰かを見ているような感じだ。懐かしむように瞬いてから、私をしっかりと見て一言。



「嬢ちゃんはよ、サキュバスだろ」


「!」



 やべ、気付かれた。

一瞬、サキュバスと会った時の対処法みたいなのがあって、それで判断されたのかと思った。


しかし、おじさんと昨日話していた感じは至って真面目だったし、むしろ騎士道みたいに芯がある考え方をしていた。ある意味親戚のおっちゃんみたいな親しさを持ってるのに、そんな曖昧な判断をしていることはない…よね?



「俺ぁお前の母ちゃんと会ったことがあってな、嬢ちゃんの姿はアイツにそっくりだ。一目で気付いたさ」



その言葉に私は目を見開く。初めてカサンドラを、ティアの母親を知っている人物と出会ったのだ。


アトラスは知ってはいるみたいだったけど、あくまで表面的なものらしくあまり話したがらなかった。ヒュアはそもそも私が聞くまで知らなかったそうだ。



「じゃあ、なんで…」



ティアの母親であるカサンドラを知っている人物を見つけたという喜びと、知っているのならどうしてカサンドラを助けられなかったのか、という批難(ひなん)がごちゃ混ぜになって…結局何も言えない。微かに絞り出した声も震えていた。



「俺にも事情があってな。知人のよしみだ、逃げるなら逃げろ」



 言いたいことをグッと飲み込んで、熱が酷い少年を、私よりまだ一回り小柄な身体を背負って馬車から降りる。


おじさんは少年の手錠の鍵が付いた首飾りを私の首にかけて、もう一度馬車に乗るときに振り向かずに話した。



「ここは魔の森。嬢ちゃんが立ってるところから、真っ直ぐ進んだ先に昔カサンドラが使ってた家がある。分かんなくなったらあのでっけぇ世界樹の森に向かえば、家の近くだ」


「また、会える?」



互いに目を合わせることはなかった。何となく、目を合わせたら泣いてしまいそうだったから。



「あぁ。帝国で会うときは、もっといい女にお前もなってるさ」



 おじさんはそう言って馬車に乗り込んだ。馬車を引いている馬が(いなな)くとガタンガタン、と馬車が揺れる音が遠のいて行く。


私は早朝で未だ薄暗い森の地面を踏んで、……カサンドラが昔使っていたという家を目指した。少し涙が溢れたけれど、高熱を出している少年の荒い呼吸と熱を背中から落とさないように、拭うことはしなかった。

少しリアルが忙しいので、更新が遅れるかもしれません。


【異世界での名前事情】

庶民はファーストネームのみ、貴族はファーストネームとファミリーネーム。王族等はファーストネームとセカンドネーム、最後にファミリーネームと続く。一番面倒なのは王女や皇女がその国の貴族に嫁入りした際、何かあった時に血筋上での臨時王位継承権を得ている期間中は嫁いだ家のみが、ファミリーネームの次にセカンドネームを追加しなくてはいけない。嫁入りや婿入りした王族が曽祖母そうそぼ曽祖父そうそふかそれ以上になってしまったら、臨時王位継承権は血が薄まったとして認められなくなる。

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