可能性の始まり
お母さんの性格は個人的にギャルみたいな認識してます。
遥か昔、この世界には精霊がいた。
精霊は世界を作りし神の目であり、さまざまな生き物の友でもあった。
ある精霊は炎を操り、寒さに凍える者のためにその身を捧げた。人々や動物の生活を支えている森が燃えてしまわないようにと、酷く真面目でありながらお人好しの精霊だと同じ時期に誕生した精霊達に言われていた。
ある精霊は世界に散らばる水を操って、親を亡くした者の代わりに雨を降らせて泣いた。一番神に近い存在でありながらも、最初から友だったかのように寄り添う姿は虚しいものだ、と同じ時期に誕生した精霊達に言われていた。
ある精霊は世界を安定させるために根を張り、今も穏やかに世界を見守っている。一番代替わりが激しく…短命であったが、誰よりも自らを犠牲にしている精霊だと同じ時期に誕生した精霊達に言われていた。
ある精霊は誰よりも長生きでありながら、人間を愛せないと悩んで苦しみ、大地を揺らした。その義理堅い性格が誰よりもその精霊を苦しめ、狂わせてしまったと同じ時期に誕生した精霊達に言われた。
ある精霊は世界を照らす光として空を駆け回っていた。どの精霊よりも自由でありながら、自らと正反対の存在を愛してしまったことで悲しみに暮れ、もう誰も彼の姿を見ることは出来ない。
ある精霊は世界に影を齎す存在として、忌み嫌われていた。どの精霊よりも不自由でありながら、自らと正反対の存在を愛してしまったことでその身を滅ぼす代わりに、世界に新たな可能性を産み落とした…_
「…そうして生まれたのが魔物や魔族なのよ」
居るかも分からない皆さんこんばんは、私はティファニーと言う名前らしいです。愛称はティアなのかな。
おそらく見た目は日本だったら七五三を終える年齢の子供ですが、これでも中身の年齢は二十歳を超えています。…これが合法ロリというものか。
「お母さんも…ティアも魔族だけれどね、人間と仲良くなれないわけじゃないの」
私としてはいつものように自宅に帰ってアニメでも見る予定だったのですが、ふと寝落ちしてしまったと顔を上げたら茶髪紫眼の美人に抱えられていました。
個人的な心の整理がつくまでに日が落ちてしまうなど、一応成人している大人で転生モノとかを読んでいた身としては不覚としか言いようがない。
「きっとあなたが………あなたが世界中を繋いでくれるって、アタシは信じてるから……」
もしもーし、お母さーん。
そんなこと七歳なりたての子供に言ってもフツー通じませんよー。
「予言通りであればきっと、あなたにはたくさん大変なことがやってくるの」
あのー…お母さーん?
「…いつかティアのお父さんに会ったら、またねって伝えてくれると嬉しいわ」
トントンと程良い力加減で寝かしつけられ、眠気がゆっくりと意識を蝕む。時間が経つにつれて外が騒がしくなって、意識は起きていないといけないと分かっているのに瞼は重力に従っていく。
無意識に母親の衣服を小さな手で掴み、母親の名前らしき言葉を口が紡いでいる。けれどその言葉は、家らしき家屋の扉が蹴破られて聞こえなかった。
「見つけたぞ!!あの茶髪の女がサキュバスで、抱えている子供が災いの子だ!!!」
「どんなことをしても殺せ!!災いを俺達の手で追い払うんだ!!!」
扉の向こうは溢れかえる敵意と殺意を激らせている男達。
手に持っているのは農具などでありながらも、狂気に染まっているのではないかという勢いと圧を纏って母親へ手を伸ばした。母親は我が子を抱えている腕とは反対の腕で伸ばされた男の手を荒々しく払い除ける。
「……何、アタシがサキュバスじゃあ悪いのかしら?」
「サキュバスの戯言に耳を貸すなよ!!」
「アタシだって…!!…こんなアタシだって、人間の女みたいに好きなヤツ作って、母親になりたいって思うわ。それの何が悪いのよ…!!!サキュバスだからって知りもしないで罵倒してくるお馬鹿には、きっとアタシの気持ちなんて一生理解出来るわけない!!!!」
母親は我が子を抱えながら裏口から家を出て、目と鼻の先である森へ駆けていく。風を切るように走り続ける母親目掛けて矢が放たれ、即席らしき木の槍が投げられては母親の脇腹や背中を掠める。
「森にサキュバスを逃すな!!」
「母親ごと子供も殺せ!!!」
母親も男達からの殺意や敵意が恐ろしいのか、森との距離が縮む度に子供の名前を掠れ震える声で呼んだ。
躓いて転けてしまいそうになり、「死にたくない」と呟いて下を向いて、それで自らで抱える我が子の顔を見て涙ぐみながら裸足で地を蹴った。
あと少しという所で母親は片足を捻ってしまい、あまり走れなくなった。
母親はこんな時でありながらも穏やかな寝息を立てる我が子を、目一杯抱き締めた。それはまるで別れを惜しんでいるようにも、後を頼んでいるようにも見えた。
何も言葉にせずに、自らが目指していた森との境界線を引いている海といえない程に水位が下がった川のような場所を子供を濡らさないように渡る。
抱いていた子供を置いて対岸の森には乗り上げないまま、先ほど駆け抜けてきたばかりの家屋へ戻っていく。足を捻っている状態ではきっともう長く逃げられない、それを理解していたからこその行動だった。
「…あら、もしかしてアタシを見失ってたりしてたのかしら?あれだけ言っておいて、大したことないのね」
つい先ほど足を捻り、サキュバスと呼ばれる姿とはかけ離れていながらも必死に地を蹴り、自らを見失いかけていた男達の注意を引いて森から離れていく。
もう母親だった女すら見えなくなり、騒がしい声も遠のいて行った時だろうか。ガサガサと音を立てて、森の奥から一人の男が現れた。
その男は無造作に伸ばされた薄い金色の長髪を揺らし、その瞳は蛇のように瞳孔が細いながらも見惚れるような金色をしていた。
「……フン、人間とサキュバスの混じりものかと思ったが…黒龍のヤツのか。我の領域に珍妙なものを捨て置くなど、礼儀知らずな女だ」
男は見て取れるようなほどに不機嫌で、そのまま子供の首根っこを掴んで殺してしまおうとその手を力んだ途端だった。バチバチッ、と音を立てて光の輪が男自身の首が子供の首と同じように締まっていた。
そのことに気付いた男は舌打ちをし、首根っこを掴んでいた子供を女が置いて行った辺りに乱雑に放り投げた。それでこそ、子供が勝手に野垂れ死ぬことを望んているかのようであった。
かなり突発的に初めてしまいましたが、生暖かい目で見てくださるとありがたいです。
【カサンドラ】
ティファニーと血縁関係のある母親。身分は庶民。本来の容姿は艶のある黒髪に妖美な紫眼で、髪の毛をワザと短くしていた。魔法で髪色を茶髪に偽装していたサキュバス。