第六話 異変
前回のあらすじ:岡山で発生した事態は、結局第13戦車中隊の出番は無く、独断で出撃した第15即応機動連隊の活躍により終息した。
だが、それだけでは終わらない。
1月27日… 07:21… 日本原駐屯地…
「あららー…」
「まぁ、仕方ないと言えば仕方ないですが…」
事件から2日立った27日。
第13旅団の豊岡少将と第14旅団の君津少将が降格処分になった。
前の岡山事件の時の独断行動が原因で降格になってる。
まぁ、そうだよね。こんなのが認められちゃったら、昔の陸軍みたいになっちゃうもんね。
「世間は独断行動に不安を覚えているみたいですね」
「うん」
「独断で武力行使が認められてしまえば、反乱を起こす事も容易になりますからね。世間の反応は妥当でしょう」
「うん」
「あ、昨日の国会やってますよ。きっとこの話題で持ちきりでしょうね」
「うん」
私は大尉の言う事に『うん』と返事するしか無かった。
だって私の思ってる事全部言っちゃうから…。
〈――では部隊は上層部の許可無く、勝手に出撃したと言う事ですか?〉
〈美延陸軍大臣〉
〈お答えします。勝手に出撃した訳ではありません。参謀本部の指示の元、第15即応機動連隊は出撃しました〉
〈馬場 久則君〉
〈では何故、部隊は『独断で行動した』と言っているのでしょうか〉
〈美延陸軍大臣〉
〈それは、中部方面総監の指示無く行動したからです〉
〈馬場 久則君〉
〈えー…中部方面総監の指示無く行動したとは?参謀本部からの指示は受けているのでは?〉
〈美延陸軍大臣〉
〈中部方面隊を通さず、直接参謀本部に指示を求めて来ました。それに対し、返答したまでです〉
〈馬場 久則君〉
〈何故中部方面隊を通さず、指示を求めたのですか?ご説明下さい〉
〈美延陸軍大臣〉
〈そ、それは…えー…〉
あ、詰まってる詰まってる。
そりゃ、言えないよね…あの人の信用が無いなんて。
「そう言えば、国会では同性婚の議論が為されてましたが、それ所じゃ無くなりましたね」
「そうだね。これを放置しちゃったら、千里内閣が倒れちゃうかもしれないしね」
世間は『陸軍暴走の危機』として、この前の岡山を捉えているみたい。
そのお陰で『銃で武装した集団が日本国内で暴れた』って言う所に目が行っていない。
うーん、陸軍の暴走に注目するのも良いけど、武装集団が暴れない様にする対策も議論して欲しいな。
「あ、少佐殿。動画の撮影依頼が来ています」
「え?広報?」
「はい。中部方面隊の広報課から来ています」
「うん。分かった。OK出しといて」
「はい。分かりました。後程連絡します」
「そう言えば大尉」
「はい、何でしょう?」
「大尉が失くしたって言ってた、ハンカチ。あったよ」
「!!本当ですか!ど、何処に落ちてました!?」
「PXの近くに落ちてたよ。はい、コレ」
私は大尉にハンカチを渡す。
大尉のハンカチは、性格に反して可愛かった。
白地にクマちゃんの柄。
誰も、このハンカチが大尉の物だと思わないだろう。
…タグに書かれている名前を見ない限り。
「あ、ありがとうございます!少佐殿」
「どういたしまして~」
タッタッタッタッ…
「中隊長!勝山大尉!」
「どうしたの?」「どうした?」
「と、とにかく来てください!」
切羽詰まった顔で駆け寄って来た府川上等兵。
どうしたんだろう?
10分後… 戦車駐車場…
急いで戦車を止めているへ向かうと、中隊員が1両の戦車に群がっていた。
「どうしたの?皆して群がって」
「道開けて、道開けて」
中隊員をかき分けて進むと、そこには想像を絶する光景があった。
「だ、誰がやったの?」
「一体誰がやったのでしょう…?1人じゃ到底出来ませんよ…」
「「戦車の分解何て…!」」
何と、74式が分解されていた。
ただ、全部分解されてる訳じゃなくて、キャタピラと砲身。
それと、対空機銃とライトと手すり。
それ以外にも発煙弾発射機とかが分解されていた。
「この事、大佐殿は知ってるの?」
「はい。3回位聞き返されました」
大尉が『大佐殿』と言う時は大抵神谷大佐の方。
杉山大佐を指すことは滅多にない。
「どうしよっか…コレ」
「…さぁ?どうしましょうか。コレ」
「どうしましょうか…って、落ち着きすぎじゃない?」
「えっ?そうでしょうか…?も、もう少し焦った方が良いですかね…?」
「い、いや…そ、そのままでいいよ」
大尉、これでも焦ってるんだ。
「オイオイ、マジで分解されてるんだけど…」
神谷大佐が来た。
苦笑いしながら来た。
「え?誰がやったの?」
中隊員全員が大佐の質問に、首を横に振る。
当然、私も大尉も首を横に振る。
「やっぱ名乗り出てくる奴は居ないよなぁ…。警務隊呼ぶk――」
大佐が警務隊を呼ぼうとしたその瞬間…!
「黙って!!!!」
大尉が叫んだ。
大尉が叫ぶ所初めて見た…。
「ちょ、急にどうしt――」
「黙れ!!!」
「ムグググググ」
大尉がまた叫ぶと同時に私の口を手で塞いできた。
…大尉の人差し指が私の口の中に入ってるんだけど…。
「っ…!」
大尉が焦った様子で戦車に飛び乗る。
そして、車内を覗く。
「爆弾!!!」
「「「「うぇっ!?」」」」
大尉以外全員驚く。
当然、私も驚いてる。
「ば、爆弾があるのか!?」
「ありますよ!嘘だと思うなら見ますか!?」
「い、いや…俺は大丈夫…」
「タイマーが無い…これじゃいつ爆発するか分からない…」
そう言いながら戦車から降りて離れる大尉。
「不発弾処理隊!」
中隊員の1人が叫ぶ。
確かに、不発弾処理隊に任せれば爆発せずに終わると思うけど…。
タイマーが無いから、いつ爆発するか分からない。
もしかしたら、向かってる途中に爆発するかも…。
「と、取りあえず離れた方が良いんじゃないですか…?他の戦車にも被害が及ばない様にしないと…」
坂出伍長の言う通り。
「そうだね、戦車を他の所に移動させよう」
20分後…
戦車を一応運動場に避難させた。
そして、当該戦車の周辺には立ち入り制限がかけられた。
未だ爆弾は爆発しない。
「いつ爆発するんでしょうね、少佐殿」
「うーん…ねぇねぇ、ホントに爆弾だった?ソレ」
「はい。明らかに爆弾の見た目をしていましたよ」
「そっか…ねぇ、大尉」
「はい?」
「何で爆弾があるって気づいたの?」
「音ですよ、音」
「音?」
「ピッ…ピッ…って音がかすかに聞こえたんですよ」
「やっぱり大尉、耳良いんだ」
「い、いえ…それほどでも…」
顔を赤らめながら言う大尉。可愛いね。
「爆発範囲ってどれ位だと思う?」
「そうですね…見た感じ、広範囲を爆破する程の火薬はありませんでしたね。爆発は車内で収まるでしょう」
「そっか」
爆発は車内で収まる…。
大尉の言う事を疑う訳じゃないけど、ちょっとだけ心配。
「今の所、他の場所で見つかったという報告はありません。この1ヶ所だけです」
「皆、血眼になって探してるよね」
「えぇ、そうですね。基地内に爆弾が仕掛けられていただけでも大事件。その上複数個所で爆弾が見つかれば…陸軍の名に傷がつきます」
「はぁ…今日は岡山の時以上に大変そう…」
「…頑張りましょう」
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